疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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新事業と暗躍と

 桃隠れの危機はひとまず去った。

 岩隠れは相変わらず領土的野心が大きいが、手強い木の葉連合から他の小国や隣の雲隠れへ狙いを変えた。砂隠れは内戦中だが、戦力を要求されるほどではない。木の葉隠れは霧隠れと雲隠れとの戦争に入ったが、三代目火影が甘いので後方支援だけで許してくれる。

 とは言え、木の葉には助けられた部分もあるので、少しだけ前線で戦った。ミサイルを利用した安全な戦いのみだが。また、戦争難民から美少女を選りすぐるために分身を遣わしているのも相変わらずだ。分身も自衛のための戦闘はしているから、木の葉に役立っていると思われる。木の葉の忍びに襲われたら反撃することもあるがな。

 

 平和になったので、半蔵との約束通り学校を作った。桃園アカデミーという、いかにもハレンチそうな名前をつけてしまった。どうせだから、忍者コース、技術者コース、学者コース、メイドコース、と一度に作ってしまった。メイドコースは特別枠で各コースと併用可。料理、洗濯、育児、介護、簿記、マッサージ、エッチ、とどこに出しても恥ずかしくない万能メイドになるためのスキルを余すところ無く学ぶことができる。俺の親衛隊希望者はメイドコースが激しく推奨される。

 しかし、メイドコースでは世間体が悪いと綱手が言うので、サービス業コースと名称を変えておいた。

 

 ちなみに、川の国にも雨隠れにも既にふつうの学校はある。あえて技術者コースや学者コースを作ったのは、忍者の能力の底上げに彼等の知識も役立つと思ったからだ。新忍術の開発や弾道計算だけでなく、ミサイル攻撃のような新戦略の発想まで。戦闘だけでなく、土木工事や医療行為にも忍術は役立つだろう。

 もっとも、俺が欲しているのは専門レベルであって、大学未満は現状の教育機関に任せるが。

 

 ただ、俺には1つ懸念があった。前世の学校は、学校が一番の目的になって社会で活躍するという意識がおろそかになっていた、と。よって仕事と生活が一番であり、学校は二の次という扱いを明確にした。授業は週三日で、一月ごとに大型連休がある。その代わりに授業は超スパルタだ。基本的に二泊三日で朝から夜までガンガン詰め込む。メイドコースは夜中にウフフもある。

 毎回宿泊するのは、生徒同士を緊密にする狙いがある。前世でも、同じ授業を受けたからと言って親しくなるわけではなかった。が、部活などで合宿をすると仲間という感じがした。共に食事をし、共に風呂に入り、共に寝るという行為がいいのだと思う。

 イメージとしては学校というより修行場だろうか。実際、忍者コースの内容は基本的に今までの修行と変わらない。雨隠れ側の意見も取り入れなければならないから、毒、殺し、脅し、騙し、等に関するものが増えるが。

 

 

 アカデミーが始まって1年が経った頃、不意に岩隠れから親書が届いた。

 

『雨隠れの暁が戦場の各地で暴れ回り、扇動によって若者を引き抜こうとしている。我々は木の葉連合との和解に費やした努力、その後の両国の関係を考え、大きな行動は起こさなかった。しかし、これ以上の被害に目を瞑ることはできない。このまま何も手を打たないのであれば、木の葉に侵略の意志ありとして、自衛のために再び戦火を交えることになるだろう』

 

 警告だった。とても怒っていることが伝わってきた。

 雨隠れの暁と書いているが、木の葉に侵略の意志ありと書いている辺り、暁がどちらかと言うと俺に近いことは岩隠れも知っているようだ。

 まあ、任務を依頼したり物資を届けたりしているのはうちだけだから、丸分かりか。

 しかし、今回ばっかりは暁の味方をしたい。明らかに岩隠れが小国を攻めているのが悪い。どころか、小国を奪い終わったらまたこっちに攻めてくるだろうから、暁がそれを妨害してくれるのはありがたい。戦争被害者を救ってくれるのも、俺の方針に合っている。

 桃隠れも、民間人の警備や復興の手伝いと称して、小国に格安でサソリ等優秀な忍びを傭兵として送っている。暁などへの後方支援も積極的にやっている。俺自身も、空海の名で戦地を歩いている。

 だが、このままではまた戦争になるかもしれない。どうしたものか。もし戦争をするなら同盟国にも説明をしなくてはならない。

 

 親書が届いてすぐ後に、中忍試験の本戦があった。そこで火影や半蔵に会うので、暁の処遇について語り合ってみることにした。

 本試験には、クシナ、アラレ、半蔵の長男正就、三代目火影の息子猿飛アスマ、等注目選手が出場していた。クシナとアラレは木の葉の要求を飲んで出場させた。半蔵の長男もそうだ。まあクシナは本人にも中忍になりたい気持ちがあったが。

 また、ミナトの弟子であるうちはオビトが4回連続で出場していた。前々回クシナと、前回月と当たって、かわいそうに見せ場無く惨敗していたから、今度こそはという感じだった。

 

 一回戦、オビトの相手はアラレの姉のミゾレだった。彼女の実力はギリギリ中忍程度だが、アラレのお守りのために参加させた。チーム戦ではアラレのとんでもない実力を借りられたので、当然のように本戦まで残ったわけだ。

 聞くところによると、既にオビトは十分中忍で通用するレベルにある。ミゾレに勝ち目は薄い。しかし彼女には武器があった。雪一族に共通する美貌である。

 

「試験開始!」

「よろしくね、オビトくん」

「え、ええ」

 

 ミゾレは挨拶をしながら胸元をチラッと見せた。オビトはアホ面でそれを覗き込んだ。

 オビトがポケッとしているうちに、ミゾレの印が完成する。

 

 氷遁、刺しツララの術。

 

 俺の挿し木の術の氷遁版だった。チャクラ量もチャクラコントロールもまだまだなのでしょっぱい攻撃だが、刺されば人は死ぬ。

 

「えっ、うおうっ」

 

 オビトはボケッとしていたが、ギリギリで腰を逸らして避けた。よかった。こんな場面で人殺ししなくって。

 体勢の悪いオビトにミゾレは突っ込んでいく。両手を氷の刃に変え、振り回す。俺の木遁のように刃を伸ばしたり分裂させたり、形を変えながら。やはりレベルは低いが。

 

「よっ、ほっ、はっ」

 

 オビトは服や肌の表面を切り裂かれつつも、致命的な攻撃は確実に避けていく。動きは軽やかだ。この変は確かに中忍か。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 対して、様々な術を使い、重い氷を振り回していたミゾレはもう息が切れてきている。勝負あったか。

 ふと、ミゾレが氷の刃を落とした。

 

「はあ、はあ」

「どうしました? もう諦めましたか? 気落ちする必要はありませんよ。僕が強すぎるんです」

 

 オビトはにやけ面で得意げに言った。完全に図に乗っている。

 

「オビト何やってんの! さっさとやっちゃいなさい!」

 

 ミナトの弟子の少女が叫ぶ。オビトはビクッと驚いたような反応をし、真面目な顔になった。

 

「そういうことです。終わらさせてもらいます」

 

 オビトはクナイを手に持ち、一転して攻勢に出る。

 

「ぐっ」

 

 今度はミゾレが防戦一方となった。クナイを避け、腕を弾き、致命傷は避けていく。徐々に傷が増えていく。

 だが、意外にも試合は終わらない。オビトが攻め切れていない。逆にカウンターが決まったりする。

 現在ミゾレが使っているのは柔拳。彼女は白眼を持っているわけではないので、単に体術として使っている。しかし、オビトがそれに対応できていない。ミゾレは非力だがスピードはある。綱手直伝の一点集中チャクラによる一瞬の爆発力もある。オビトのような広範囲攻撃の無い忍びには意外と辛い相手かもしれない。まあ、オビトが女相手に手加減するのを止めたら、ある程度簡単に勝てるかもしれないが。

 一回戦からしょっぱい試合になった。観客もそんな感想を抱いていることだろう。

 

「うおっ」

「えいっ」

 

 ふと、試合が動いた。ミゾレがオビトに突進し、押し倒した。そして片手印を結んでいく。

 これはまさか、逆転勝利か?

 ミゾレの体が冷気を纏い、全身に氷の粒が集まっていく。手のひらには氷の爪。それをオビトの背中に突き刺し、抜けないようにする。

 このまま冷やして戦闘不能にしようというのだろう。

 対して、オビトは行動が遅い。美人のお姉さんに抱きつかれたことで鼻の下を伸ばし、クナイによる攻撃を躊躇していた。

 

「降伏してください! 僕の勝ちですよね!」

 

 オビトはクナイをミゾレの背中に当てて言った。ちょうど心臓あたりの位置だ。

 

「やってみなさい。氷を砕くことができればね」

「えっ」

 

 ミゾレに言われてオビトは軽くクナイをミゾレに刺そうとした。キーン、と金属音がして弾かれた。ミゾレの体は既に氷のように硬くなっていたからだ。

 しかし、微妙な試合だ。このまま行けばミゾレが勝つが、ミゾレが氷化する前にオビトが攻撃すればオビトが勝っていた。今回それをしなかったのは、これが試合であり、ミゾレを傷つけたくなかったからだ。実戦ならオビトが勝っていた。すっきりしない。

 

「残念な結果になりました。私としては、うちはオビトに勝ちをあげたいところです」

「ほう? 川影殿からそう言われるとは」

「火影様はミゾレの勝ちで問題ないとお考えですか?」

「もちろんじゃ。忍びならばルールの中でも裏の裏をかいて、逆にルールを利用してやるくらいの気概で勝たねばならぬ」

「なるほど」

 

 確かに火影の言葉にも一理ある。諸大名に里の力を見せ付けるという目的とは合致しないが。

 

「オビトーーー! 何やってんのよーーー!」

「アホ」

 

 ミナトの弟子の応援空しく、オビトは情けないアヘ顔のまま動けなかった。結局、氷付けになる前に審判が試合終了を宣言し、ミゾレの勝ちとなった。

 試合は次々と進んでいく。順当にクシナ、正就、アラレ、アスマが勝ち上がり、4人による準決勝となった。

 先にクシナ対正就があり、次にアラレ対アスマがある。影の息子同士というやっかみがありそうな戦いを避けつつ、負けても仕方が無い実力を持つクシナとアラレに負けさせる。とは言えアラレはいろいろと幼いので、どちらかと言うと腰の低い火影側に負けさせる。かと言って両者とも準決勝までには進ませる。

 誰かがクジの操作をしているとしか思えないくらいでき過ぎていた。

 

「半蔵殿、そちらの息子は毒霧が使えないでしょうから、クシナにも九尾の能力なしのハンデをつけましょう」

「いえ、お気になさらず。この場で戦うための術を持っていない我が息子が未熟だっただけのこと」

「なるほど。半蔵殿は謙虚ですな」

 

 示し合わせたような会話だった。半蔵と雨隠れに恥を欠かせないための配慮だろう。

 

 試合が始まった。正就は体術で頑張ったが、中忍程度の実力だった。既に上忍上位レベルにあるクシナの相手にはならず、一方的にボコボコにされて負けた。

 試合中半蔵は何も言わなかったが、眉間がピキっと鳴った。チャクラも刺々しかったし、不満だったろうと思う。

 

 次のアラレ対アスマはさらに悲惨だった。うちはミグシが「アラレちゃん! 汚いもの出しちゃダメよ!」と言ってしまったのだ。それはつまり、押すなよ押すなよ、を意味する。

 

「ほよー!」

 

 試合早々、アラレは巨大うんこを口寄せした。アスマがそれに潰されてしまい、試合終了。さらに言えば、会場が臭くなって大名が怒ってしまい、本戦終了。俺たちは後から大名をなだめなければならなかった。

 

 大名に散々謝った後、ギリギリでここへ来た本当の理由を思い出した。

 俺は火影と半蔵を呼び、暁の名前を出した。

 

「私としては、この件については放っておくべきだと考えています。やはり今回は暁が正しい。放置した場合、岩隠れが連合に攻め込んでくるかもしれませんが、放置せずとも小国を支配した後に攻めてくるでしょう。ですから、遅いか早いかの問題ではないかと」

「遅いか早いか、か。しかし、それは今の木の葉にとって問題じゃぞ。霧隠れ、雲隠れとの二方面の戦いでギリギリ持っておるが、ここに岩隠れが加われば崩れる。なんとか岩隠れとの衝突を先延ばしにできんかの?」

 

 火影は崩れると言ったが、表情はそこまで暗くない。先の戦いの結果もあり、雨隠れと桃隠れだけで十分岩隠れと戦えると思っているからだろう。

 しかし、一応火影に従っておく。俺たちだけで岩隠れと戦うより、木の葉がいた方が被害が少ない。何より、もう少し待てば砂隠れが応援に来れるようになる。

 

「なるほど。そういうことでしたら、頑張ってみましょう」

「よろしく頼む」

「半蔵殿もそれでよろしいですか?」

「……ああ、まあいいだろう」

 

 少し言葉に含みがあった。しかしいちいち気にしてもしょうがない。こいつが胡散臭いのいつものことだ。

 

 桃隠れに帰った俺は、その足で暁の基地に向かった。弥彦と小南は戦場に出張っていておらず、よりによって長門だけいた。

 

「用件が無いなら帰れ」

「俺は小南に話がある」

 

 小南が帰ってくるまで暁の基地で待たせてもらった。ただ待つのではなく、畑仕事をしたり、前線に必要な支援を調べたり、岩隠れに対する時間稼ぎの方法を考えたりした。

 多くの住民は俺に対し、好きではないが丁重にもてなさなければならない相手、という感じだった。弥彦と長戸の教育が行き届いているらしい。小南に近い人間は俺に好意的だったが。

 また、驚いたのが、村の規模が急激に大きくなっていたことだ。ダムができた頃の集落程度の土地と人口がある。見知らぬ若い戦闘員も多い。岩隠れが周囲の小国に侵攻を初めてから、暁が果たした役割は大きい。戦闘や避難誘導に留まらず、小国同士の連携の仲介役も担っている。演説に乗せられずとも、各国の若者が暁に希望や憧れを抱くのは自然と言えた。

 3日後、小南、弥彦、サソリ等が疲れ果てた顔で帰ってきた。怪我もところどころあった。長門がいなかったから戦場で無傷とはいかなかったのだろう。長門が2人と出かけずにここに残った理由は、中忍試験で俺達が里を空けて、その間に雨隠れを攻められた時に守るためだったらしい。

 

「木の葉でパーティか。余裕だな。川影様は」

 

 弥彦は皮肉げにいった。

 

「お前達も一旦休憩してもらいたい。砂隠れが動けるようになるまでな」

「はあ? 何言ってやがる。この瞬間にも人が死んでるんだぞ! 俺達は一瞬一秒も無駄にできないんだ!」

「弥彦、こいつと話してもそれこそ時間の無駄だ。こいつは既に体制側の犬になったのだから」

「ああ、そうだったな」

「ちょっ、2人とも。それは言い過ぎでしょ」

 

 対話による変革を望んでいるはずのこいつらが、俺との対話を時間の無駄と言う。しかも、こんな分かりやすい矛盾に気付いているのが、小南だけ。ストレスで大変なのは分かるが、末期だな。

 俺は小南とサソリを呼んだ。俺が要求を伝えるときはいつも小南相手なので、特に怪しまれることはない。

 

「岩隠れから警告が来た。今までとは違ってキツいやつだ」

「ふん。今さらか。やつらにしては時間がかかったな。余裕が無いんだろう」

「どうするの?」

 

 小南は不安げになったが、サソリはむしろ笑った。表面的な言葉を見ず、相手の実情を探る彼ならではの反応だ。

 

「少し、時間を稼ごうと思う。サソリが言ったように岩隠れは焦っている。もう少しで風の国が安定し始める。そうなると、木の葉連合は完全に手が出せない相手になるからな」

「時間を稼ぐと言っても、相手もこの状況を理解しているだろう。どうやるつもりだ?」

「交渉カードが2つある。1つは、実はこの1年で捕虜にした岩隠れの忍びが約20人いる。そいつらの取引だ」

「あなた、また……」

 

 小南が呆れたような顔になった。だが、1年前に俺の女癖は和平交渉に生きると判明したのだから、ある程度認めてくれてもいいのではなかろうか。

 

「ほとんどは密入国者だ。桃隠れの血系限界を持つ子どもを攫おうとしたり、破壊活動をしようとしたりな。前線で死にかけの娘や民間人を襲っていた娘を確保したのは6人だけだ」

「6人も……」

 

 別にいいじゃないか。死にかけや悪女だったんだから。

 

「もう一つはなんだ?」

「こっちから他の小国を奪取にかかるんだ。そうして領土を拡張しても、岩隠れは俺たちを責められない。が、俺たちが強大化することで追い込まれることになる」

「ほう」

「な、なによそれは! ありえないわ!」

 

 サソリは満足げだが、小南はやはり怒ったか。言い方がアレだったしな。

 だが、よく考えてみるとそこまで悪いことではない。実際同じことをやって砂隠れとは上手くいったしな。

 

「奪取と言っても乱暴な手は使わない。各小国から同士を募り、木の葉連合に加わってもらう。岩隠れの恐怖が現実にある今、連合を魅力的だと思う人間も一定数いるだろう。もちろん自治権は大幅に認める。というより、実を言うと、この同盟は口約束でもいい。重要なのは、岩隠れが攻めたら小国は木の葉側につく、と岩隠れに認識させることだ」

「あっ」

「なるほど。そうすれば侵攻に及び腰になるか」

「ああ。そしてこの作戦の成否は、小南。お前の手腕によるところが大きい」

「えっ」

 

 弥彦と長門にもかかっているが、あいつらは信用したくないからな。あえて小南を指名した。

 大勢の命を背負わされてドキッとした小南がかわいかった。


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