九尾の気持ちになって考えてみると、虫けらのように小さな人間に拘束されて、なおかつ人間のために戦えと言われているのだ。これでは協力してくれるはずがない。そもそも人柱力という考え方がいけなかった。これが俺の出した答えである。
「つまり、どういうことだってばね」
「戦争に九尾を使うのは諦めよう。口寄せで野放しにして、彼の自由な心に任せよう。木の葉が正しいのであれば、ちょっとだけなら力を貸してくれるかもしれない」
「それって、全然解決になってないんじゃ」
「解決できる問題じゃなかったんだよ。勝手に捕まえて働けというのは虫が良すぎる。試しに口寄せしてみよう」
「うーん。分かったってばね」
俺達は長らく二人で行動するようになっていた。九尾が暴れてもいいよう広い演習場を借りられたので、口寄せしても問題ないと思った。口寄せの巻物を買い、九尾に契約を促す。九尾は「口寄せじゃなくてお前が死んでわしを解放しろ」と言ったらしいが、粘り強い交渉の末契約は結ばれた。
「お? おお?」
九尾を口寄せするためには莫大なチャクラが必要である。クシナだけでは不可能だが、今回は九尾を自由にするためなので、九尾が自主的にチャクラを恵んでくれた。
「口寄せの術! うっ、うわわわっ」
そして巨大な九尾が現れる。今まで俺が感じてきたのはほんの一部の力にぎないと知っていたが、それでも本物の圧倒的チャクラと巨体にはビックリした。
「大丈夫か! クシナ!」
「な、なんとか」
クシナは突然現れた巨体に押されて、けっこうな高さから地面に落ちていた。しかし頑丈な忍者なので怪我とかはないようだ。
「おいガキ共、何をやってやがる」
「危険だ。早く封印しろ」
と、いつも見張りをしている暗部の方がやってきた。俺より弱いくせに偉そうにしてけっこうなことだ。
その時、九尾がぬんと顔を寄せ、暗部達を睨み付けた。
「う、うわあああああ!」
「おいコラ! 暴走してるじゃねえか! 早く押さえろ化け物!」
暗部二人は尻餅をつきながら吠えた。なんともみっともない。
九尾は脅すように彼らを睨み付け、大きく息を吸い、吐く。
「うわあああああ!」
「ぎゃあああ! 死ぬううう!」
ただの風であって、もちろん死んだりはしない。本当に忍者かと思えるビビりっぷりである。俺も木遁がなければビビるだろうけど。
「ふん。ほとほと人間には愛想が尽きた。もうどうでもいい」
九尾はそう言うと、俺に背を向けて歩き出す。
「う、うわあああああ!」
と、途中でクシナを口にくわえた。くわえたまま、ゆっくり森の奥へ歩いていった。
よかったな。お前はこれで自由だ。
その後、俺は火影に呼ばれた。その場にいたダンゾウと相談役に目茶苦茶怒られてしまったが、自来也と火影は庇ってくれた。
蹴る殴るの暴行の後、九尾追跡班に入れられた。メンバーは俺、自来也、ミナト、日向の当主、犬塚家の上忍である。俺は日向の当主に額の呪いを使われ、とても痛い思いをした。「これに懲りたら勝手な行動は慎むように」と言われてしまった。
九尾はなかなか見つからなかった。でかい足跡が途中で途切れていた。変化を使ったか、人柱力に戻った可能性があった。頼れるのは犬塚家の鼻だけとなった。しかし途中で雨が降り、追跡はさらに困難になった。また、追跡の最中、雲隠れの忍者と戦闘になり、彼等も俺達が大切なものを探っていることに感づいてしまった。
「もし見つからなかったら、貴様の命もないと思え!」
日向の当主が脅すように言った。しかし、俺を殺せるはずがない。たった一人の木遁使いなのだから。俺は脅しには屈しないと示すように睨み返した。また呪いで痛い思いをさせられてしまった。
数週間そんな日々が続いた。もう諦めようとした時、岩隠れの駐屯地付近の方から轟音が響いた。急いで駆けつけると、岩隠れの忍びと九尾が戦っていた。
「クシナ!」
ミナトが真っ先にクシナを見つけ、確保する。かと思えば、瞬身の術で彼女を俺の付近に置いた。
「ぐっ。ごめん。こんなつもりじゃなかったってばね」
クシナは脇腹から血を流していた。かなり深く切られているが、九尾の力で急速に戻っている。
俺も白眼を使った医療忍術でその手助けをする。
「回天!」
「ぶん太あ油じゃあ!」
自来也、日向当主、ミナト等がかなり激しく戦っていた。こっちにも来たが、俺の動く木遁の要塞は突破できない。チャクラ吸い取りつつ押し潰してやった。
「先に九尾をどうにかしろ!」
「いや、人柱力から狙え! そうすれば尾獣も!」
「木遁は何が有効なんだ!? 全て吸いとられる!」
「吸いとられる前に破壊するんだよ!」
岩隠れの忍びは連携も悪く、木の葉の忍びに蹂躙されていった。指揮官が日向当主に殺されると、逃げるものが現れ始めた。
完全に木の葉が優勢。しかしそうなって初めて、九尾が木の葉に攻撃し始める。
「いかん! 速い!」
「八卦空壁掌!」
「ぐっ。小癪な」
自来也、日向当主、犬塚上忍と九尾の激しい戦いが始まった。ミナトは俺の隣に来て、戦いに参加しなかった。
「おい! うずまきのガキ! さっさとこの化け物を封印しろ!」
「えっ? どっちのうずまきですか?」
「おめえに決まってんだろうが日向のなり損ない!」
犬塚、日向当主等が命令してきた。ちょうどいいからこいつら死んでくれないかなと思った。そうすれば俺はまた自由になれる。ような気がする。
「トグロ、戦わないのかい?」
ミナトが不安そうに言った。
「何故戦わなければならない?」
「先生も戦ってる。このままじゃあ木の葉の忍が殺されてしまう」
「これは九尾の自由をかけた戦いだ。どちらかと言うと九尾を応援したい」
「君の気持ちは分かる。でも、この戦いで九尾が木の葉の人間を殺してしまえば、取り返しのつかないことになる」
「ミナト。俺の夢はな。こんな里を飛び出して、かわいい娘たちに囲まれて暮らすことだよ」
ミナトが瞬身の術を使う。一瞬で俺の後ろに移動する。俺の後ろ首にクナイが当てられる。
「こんなことはしたくない。でも分かってくれ。今、何をすべきかということを」
「俺の望みは自由だ」
「うっ」
ミナトはうつむいた。そっとクナイが離れていく。
「てめえ! さっさと戦え! 呪い殺すぞ!」
日向当主が怒鳴りながら、俺に呪いを使った。また激しい頭痛に襲われた。
しかしあいつ、俺を呪いながら器用に九尾の攻撃を捌いている。口だけじゃなくて本当に強い。厄介だな。
「わ、分かった。戦う。戦うから拘束を解いてくれ」
「ふん。初めから従っていればいいものを! 返ったら覚えておけ! 厳しい前線に投入し続けるよう火影様に進言してやろう!」
頭の痛みが取れた。俺はゆったりと木遁の印を組む。組みながら、九尾と視線を合わせ、にたりと笑みを浮かべる。九尾も理解したらしく、小さくうなずいた。
木遁、挿し木の術。
大量の木の槍が日向当主に向かう。
「なあっ! 回天!」
「貴様ァ!」
日向当主は己を軸に回転し、チャクラで球体のバリアーを作った。俺の挿し木は全て弾かれてしまう。だが、この程度は織り込み済み。
本当の挿し木は下からだ!
回天の効果が薄いのは回転軸付近の上下。俺は下から日向当主を狙う。
「待っ、それをやったら!」
再びミナトが俺の首にクナイを突きつける。だが俺は止まらない。
「くっ。くおおおっ」
当主は器用に体勢を変え、致命傷だけは避けていく。白眼で地面が見えているのも躱せる理由だろう。しかし手足や脇腹にいくつもの切り傷ができた。多少動きは鈍るはずだ。何より残った挿し木が当主の行動を抑制する。
そこに、九尾の巨大な口が向けられる。口の先には高濃度に圧縮されたチャクラの塊が浮かんでいる。
「しまっ」
九尾が光線のようにチャクラを放つ。日向当主はなすすべなくそれを受けた。死んだな。
「な、なんてことを! なんてことを!」
「肉体の自由は縛れても、心の自由、夢は縛るすべなし!」
呆然としているミナトの前で、俺は叫んだ。そして挿し木の術の印を組む。狙いは俺本人だ。
「ぐうっ!」
「トグロ! 何を!」
「ミナト、クシナ、お前達はいい人間だった。俺みたいに一時の感情で暴走したりせず、長生きしろよ」
適当にいい言葉を残し、血を吐く。この日のために用意していた。本物の血だ。
本体の俺は、地中深くでじっと堪える。頼む九尾。偽物の死体を吹き飛ばしてくれ。調べられたら木遁分身だとバレる。
「アホが! 血迷いおって! クシナ! 早く止血を!」
「は、はい!」
自来也とクシナが俺を救おうと駆ける。
「ふん。わしを無視して大丈夫か?」
そこで出てくる九尾。日向当主を粉々にしたのと同じ技を、口元に集めていく。
やった! 気づいてくれた! さすがは自由を求める戦士!
「しまっ」
「危ない!」
「きゃっ」
自来也はその場を離れ、ミナトもクシナを連れて離れる。九尾から巨大なチャクラの波動が放たれる。俺の木遁分身は木っ端微塵となった。
よっしゃああああ! これで俺は自由だぜええええ!