疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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陰謀の犠牲者

 トグロの潜入捜査により、石隠れの皇神カグヤが幽閉され人質になっていることが分かった。

 トグロはサヨコと共にカグヤを捜索し、3日後に見つけ出した。そしてその日のうちに奪還した。

 そこでサヨコが明らかにした。実は、サヨコはカグヤの部下であり、カグヤから空海の情報を集めるように命じられていたと。サヨコは趣味でメイド喫茶に来ていただけではなく、仕事でもあったのだ。

 カグヤが空海の情報を集めた理由は、誰か力ある人間の協力を得て、国に巣くう膿を除去するため。14歳のカグヤには兵を動かす実権がなかった。他所から力を借りて、現政権を倒して権力を取り戻し、それから国を治めるつもりだった。しかし、他所から戦力を連れてくるのは、そのまま実権を奪われるリスクを負う。慎重に行う必要があった。よってカグヤは長らく名を隠していたのだ。

 

「ありがとうございます。空海様。よろしければ私を妻にしていただけませんか?」

 

 トグロに助けられたカグヤは、己の命運を託す相手にトグロを選んだ。いきなり求婚したのはその表れだ。何も無しに他所の国のために戦えとは言えない。自分の恋愛感情は、国のために捧げるつもりだった。もっとも、サヨコから空海の活躍を聞いて、以前から猛烈な空海ファンになっていたが。彼は自分の相手にふさわしいと彼女自身も思っていた。助けられたことで思いはさらに燃え上がっていた。

 

「いいですよ。うちはハーレム制ですけどね」

 

 カグヤは14歳の美少女だったので、トグロはにべもなく頷いた。ただし、ハーレムの一員という形で。

 

「まあ! うれしいですわ! 私は妾でよろしいです! よろしくお願いいたします!」

 

 カグヤも問題なく喜んだ。こうして彼女がハーレムに加わることが決まったのだった。

 

 カグヤが味方についたことで、石隠れの反スザク政権分子と意思疎通が可能になった。草隠れのノーマ隊ともある程度連携は取れた。後は、作戦決行あるのみ。

 

 雨隠れ、滝隠れ、桃隠れ遊撃隊、チヨの部族、ノーマ軍、が一斉に草隠れの墺撫政権に攻め込んだ。と同時に、石隠れカグヤ派、桃隠れ、砂隠れも、一斉にスザク政権に挑んだ。

 もともと数の利が桃隠れ側にあったが、墺撫もスザクも嫌われていたので、部下が次々と離反し、または逃げ出した。桃隠れ側が圧倒的に有利となった。焦った岩隠れは、草隠れを切り捨てて石隠れに増援を集中した。ところが、何を思ったか浦切スザクは石隠れを捨てて、草隠れのユラを助けに行った。

 

 事態は急転した。あっという間に石隠れはカグヤ派に制圧された。岩隠れも呆れ果て、裏切り者スザクを殺すために草隠れに攻め込んだ。

 全方位から攻撃されたことで、さすがに闇の支配者墺撫もなす術がなかった。当主ウツミは娘のユラを逃がし、自身は城に立てこもった。当然、多少の時間稼ぎしかできない。ほどなく焼身自殺を図った。様々な書類、闇の証拠も、燃えて消えてしまったのだった。

 ユラ、スザク、タスク等は逃げ切ってしまった。次世代の悪の芽を摘むことはできなかった。どころか、彼等を捜索している間に、安寿とその仲間のノーマもどこかへ消えてしまった。

 

 結局、草隠れは西半分を岩隠れが管理し、東半分を桃隠れ連邦が管理することになった。

 この時点の国力差を考えると、岩隠れに草隠れの半分をあげる必要はなかった。しかし、あげれば終戦の和平条約に応じると言ってきたので、トグロはその要求を呑んだのだった。

 

 こうして桃隠れ周辺の戦争が終わった。トグロは再び子作り開放宣言を出した。桃隠れはさらにピンク色な里になったのだった。

 しかし、木の葉は相変わらず霧隠れ雲隠れと戦争を行っていた。たくさんの悲劇が起こる中、ある男の陰謀も動き始めていた。

 

「カカシのやつ桃隠れ行ったんだってさ! この大変なときに!」

「くそーっ! あいつ上忍で金持ってやがるからなー! 羨ましい!」

 

 木の葉のとある繁華街。少年達が大声で話し合っていた。

 

「むしろ憎い! くーっ! 中忍試験で見たような綺麗なお姉さんがいっぱいいるんだろうなー」

「ハーレム公認だもんなー。まるで夢の国だー」

 

 しかし実はこの少年達、ある男が変化した姿だった。男の狙いは、カカシをライバル視する少年にこの話を聞かせることだった。

 

「何!? カカシが!? あの野朗!」

 

 うちはオビトは、その噂を耳にした。男の狙い通り、行動に出た。

 オビトは全力でカカシの下に駆けた。彼を見つけると、すぐさま怒鳴りつけた。

 

「カカシ! 見損なったぞ!」

「何の話だ?」

「お前桃隠れに行っただろう! なんでこんな時に!」

「別にいいだろう。俺の勝手だ。俺は俺の金でやりたいことをやっただけだ」

「カカシィ!」

 

 オビトはカカシに殴りかかった。カカシは頬を殴られ、しりもちをついた。

 

「ぐっ。何しやがる!」

「里が大変な時に! それに、リンの気持ちを考えやがれ!」

 

 オビトが叫ぶと、カカシはバツが悪そうには視線をそらした。

 

「別に、俺が誰を好きになろうが勝手だろ」

「えっ」

 

 カカシは小声でポロッと言った。ところが、何故か名前の出てきたリンがオビトのすぐ後ろにいた。そして先ほどの声を聞き取ってしまったのだった。

 実は、偶然居合わせたわけではない。オビトに噂を聞かせた男の仕業である。彼は引ったくりを装い、リンをこの場に走らせたのだった。

 

「リ、リン! どうして!」

「カカシ、今のって」

「いや、これは、その」

 

 カカシはリンからも視線を逸らした。

 リンは泣きそうな顔になった。しかし涙を見せる前にカカシ達に背を向けて、走り出した。

 

「お、おいリン!」

 

 オビトが声をかけるが、リンは止まらない。

 

「おいカカシ! 何故リンを追いかけない!」

「チッ。俺には関係ないだろ。お前が追いかけろよ」

「なんだとぉ!」

 

 オビトは再びカカシに接近し、顔を殴ろうとした。しかし、カカシが気まずそうな顔をしていることに気付き、彼が本音で話していないと分かった。本音が何かまでは分からないが、このまま殴るには気分が悪かった。

 オビトは拳を下げ、リンが去ったほうへ振り返った。

 

「カカシ、お前に言っておく。仲間を見捨てるやつはクズだと。お前にとって、俺達は仲間でも何でもなかったのかもしれないがな」

 

 オビトは捨て台詞を残し、リンを追って走った。

 

 追いかけるはいいが、オビト自身も何と声をかけていいか分からなかった。カカシの悪口を言えば慰めになるかもしれない。しかし、仲間の悪口を言って好きな女を自分に振り向かせるのは、男として情けない。

 リンは人里離れた方へ走っていた。国境近くまで来て、オビトはやっと危険に気付いた。

 

「リ、リン! あまり離れるな! 国境に近づいてるぞ!」

「わ、私のことは放っておいてよ!」

「そういうわけにはいかない! あっ! リン!」

 

 オビトは、霧隠れの忍びがリンに近くづくのを見た。

 

「右だリン!」

「えっ」

 

 リンもやっと反応する。しかしもう遅い。いや、霧隠れの忍びが速すぎるのだ。間違いなく上忍だった。

 

「がはっ!」

「リン!」

 

 リンを一蹴りで吹き飛ばし、飛ばされたリンは木々を折りながら直進していく。

 すさまじい体術。即死でもおかしくない。オビトの心臓がバクンと跳ねる。

 

「きっ、きっ、貴様ああああああ!」

 

 オビトは激昂し、霧隠れの忍びに飛び掛っていった。うちは一族の秘宝、写輪眼が人生で初めて発動していることにも気付かずに。

 オビトの怒りも空しく、実力差はどうにもならなかった。オビトは一方に攻められ、すぐに動けなくなった。

 

「ちく、しょう……」

 

 自分は負けてはいけなかったのだ。すぐさま目の前の敵を倒し、リンを回復させなければならなかった。だが、もう体が動かない。2人とも死んでしまう。

 自分が浅はかにも、リンがいると気付かずカカシに詰め寄ったせいで。告白もできず、情けない嫉妬で好きな女を殺してしまった。悔やんでも悔やみきれない。

 

「くっ」

 

 しかし、突然霧隠れの忍びが眉間にしわを寄せ、その場でジャンプした。

 直後、そこに巨大な木が振ってきた。今大戦で有名になった、桃隠れのミサイル攻撃だった。

 オビトも知っていた。あれが来たということは、近くに川影がいるということを。

 

「チッ。小僧だけでもを殺っとくか。今は雑魚だが写輪眼の発現者だ」

 

 霧隠れの忍びはそう言うと、何故か水分身を1つ出してリンの方にやった。

 

「待っ! リンはやらせな……っ!」

 

 オビトは必死で這い蹲り、リンへと駆ける水分身へ手を伸ばす。川影が自分の救援に来るとしたら、その間にリンが殺されてしまう。あの子の命が助かると思ってすぐさま、結局自分のせいで……。

 

「少年よ! お前の気持ちは受け取った!」

 

 ところが、猛スピードで駆けてきた川影は、オビトではなくリンの方へ走った。まるで迷いなく。

 

「やはりか。時間つぶしになればいいが」

 

 そしてそれは霧隠れの忍びの狙い通りだったらしい。

 霧隠れの忍びは改めてクナイを構え、オビトの胸を切り裂いた。

 

「かはっ」

 

 さらに、土遁の術を使い、オビトを地面の下に埋めた。

 トグロが瀕死のオビトを助けようとすれば、時間が稼げる。水分身を倒し終わったトグロが、すぐに自身に向かってこないよう”見せかける”ためだった。

 霧隠れの忍びはすぐさまその場を離脱した。

 

 トグロが水分身を倒し終えたとき、リンは瀕死の状態だった。

 今のトグロは分身である。チャクラを分け与えることでリンを治すことはできるが、そうすると自分は消えてしまう。あの霧隠れの忍びが戻ってきたら、リンは確実に殺されてしまう。

 

「賭けになるな」

 

 しかし、迷っている暇はなかった。リンは今すぐ治療しないと本当に危険だったからだ。

 トグロは土遁を使い、リンを連れて地中深くに潜った。そこでリンを治療した。せめて、自身が消える瞬間を敵に見られないためだった。

 チャクラを渡していく。リンの大怪我が、見る見るうちに治っていく。しかし、治り切る前にチャクラが切れ、トグロの分身は消えてしまった。

 

 霧隠れの忍びに”憑りついていた”男は、すぐさま地中に潜り、オビトを回復させた。回復してすぐ、彼を連れて全力でアジトへ戻った。普段の男にとって、地中の道は絶対の安全圏。しかし今は、自身と同じ特性を持ち、戦闘能力も近い存在がいた。まだその存在に自身の存在を気付かれるわけにはいかなかった。

 

 

 さて、リンは一命を取り留めた。約1時間後、桃隠れから全力でやってきたトグロの本体によって救出された。

 しかし、後頭部を木々へ激しく打ちつけて、その後には地中で低酸素状態に置かれた。脳は深いダメージを負ってしまっていた。左半身附随、記憶障害、空間認識能力の欠如、などの障害が現れた。また、情緒不安定になり、以前の朗らかな彼女がウソのように、怯えと怒りで暴れるようになってしまった。

 当然任務からは外され、退院後も長いリハビリ生活を送ることになった。

 

 同期の人間は、最初のうちは見舞いにきた。しかし、リンは傍若無人な振る舞いが目立つようになっていて、一緒にいて気持ちいいものではなかった。徐々に見舞いに来る人間は減って行った。

 今は戦争中で、余裕がないのもあった。また、戦争で障害を負う忍びは大勢いて、手や足を失っても頑張って忍びに復帰した人間だって少なからずいた。彼等とリンを比較してしまうと、同情心が薄れてしまうのだった。

 リンは特にカカシに強く当たっていた。

 

「お前のせいで怪我をしたんだ! お前も怪我しろ! というか死ね! 死ねええええ!」

 

 こんな言葉を何度も口にした。好きという気持ちは、被害意識や怒りによって塗り替えられてしまったようだった。

 それでも、カカシは暇さえあればリンのもとへ行った。罪滅ぼしのつもりだった。

 ところが、医者は残酷なことを口にした。

 

「カカシさんがいると、リンさんは精神が不安定になってしまうようです。申し訳ありませんが、一時訪問を控えていただけませんか?」

 

 カカシは酷く悲しげな顔で頷いたのだった。

 

 さて、病棟を去ったカカシと入れ替わるように、オビトが木の葉に復帰した。彼は奇跡的に一命を取り留めていたのだった。しかし、リンの置かれている状況を見て愕然とした。

 

「何故誰も、リンを助けてやらない! なぜそんなに冷たくなれる!? 優秀だから付き合っていたのか!? 使えなくなったら用済みか!? それがお前達の考える仲間なのか!」

 

 オビトは同期の忍びにそう言って回った。彼等の返答は「今は戦争中で、時間に余裕がない」「戦争で障害を負う忍びは大勢いる。手や足を失っても、頑張って忍びに復帰した人間もいる。甘やかしたって彼女のためにならない」「俺だって戦争で家族を亡くしたんだよ! 怒ってばかりの他人を構ってやる余裕はないんだ!」というものだった。

 オビトは同期の連中に心底落胆した。いや、一部言いたいことは理解できるのだ。だからこそ心が抉られた。

 誰も彼も自分のことばかり。他人を構う余裕なんてない。こんな世界では、誰も幸せになれないんじゃないか? 世界の仕組みを変えなければならないんじゃないか? 彼の中でそんな考えが育ち始めた。

 カカシの態度も、彼を苛立たせた。「医者に任せるんだ」「脳は回復しない」。やつはそう口にした。苦しそうな表情を浮かべているが、自分で現状をなんとかしようとはしない。諦めてしまっている。オビトにはそんな考え方は認められなかった。

 

「自分から諦めるな! 諦めたらそこで終わってしまうんだ!」

 

 そう言って、何度もカカシに殴りかかった。カカシも「この分からず屋が!」と激昂して反撃することもあった。しかし、いつも別の誰かが止めに入ってきて、消化不良のままケンカは中断するのだった。


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