疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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この大蛇丸は本物か?

 戦争の趨勢が決まり、木の葉連邦が和平の条件を模索していた頃の話である。

 ヒルゼンは綱手、トグロ、半蔵、風影等実力者を火影邸に呼び、何度も話し合ってきた。

 

「わしと川影殿の引退、並び戦争の起因となったことに対する謝罪によって、和平に応じると言ってきた」

「やっと妥協してくれましたか。ホッとしました。受けましょう。その程度ならば」

「話が早くて助かる。しかし、後進の育成は済んでおるのか?」

「いえ、自分が裏で里を支えるつもりです。もともと空海の名でやっていたことですから」

「なるほどの。わしは、いい機会じゃし、世代交代をと思っとるんじゃが……」

 

 ヒルゼンは言葉を濁しながら綱手を見る。

 

「綱手よ。ここは一つ」

「断る」

「む?」

「断る」

「綱手よ。話くらいは」

「断る」

 

 ヒルゼンは綱手を火影に指名するつもりだったが、全力で断られてしまった。心の中で、次は自来也に頼んでみることに決めた。

 しかし後日、その自来也にも同じように断られてしまう。自来也はミナトを推薦した。

 

「やつは数十年に1人の天才です。心優しいが、根性は筋金入り。何より本人にやる気があります」

 

 ヒルゼンもなるほどと思った。しかし23歳と若く、管理者としての経験が浅い。上役等から反対が出るだろう。指名によっていきなり火影とするのは憚られた。

 後日、再びトグロと会う機会があった。

 

「体裁としては、わしらが責任をとって政権から身を引く形になる。そのわしらが次期里長を指名するのは、少し問題がある。どう考えるか?」

「確かに。形だけでも、自分達は次の政権に無関係だと装ったほうがいいかもしれませんね。まあ、私は誰が川影になろうと裏で操るつもりですが」

「軽々しくぶっそうなことを言わんで欲しいのお」

「すみません」

 

 ヒルゼンもトグロも苦笑する。この頃にはもう余裕があった。

 

「ただ、そうですね。将来を考えると、投票で決めておくのも手ですね」

「ほう? なぜ投票が将来につながる?」

「その、うちはハーレム制ですよね」

「婉曲な表現はできんかの?」

「すみません。とかく、たくさん子どもが生まれますよね。ですから、いずれ多くの子が川影候補になります。兄弟ゲンカをさせないためには、選挙で決めるのが一番いいと思うのです」

「ふむ。なるほどの。選挙か」

 

 その後ヒルゼンは、自分からの指名、上役からの指名、部族長による話し合い、部族長による選挙、上忍による選挙、中忍以上の選挙、と様々な方法について頭の中でシミュレーションを行った。例えば自分からの指名なら、後で雲隠れ霧隠れからケチがつくだろう。ダンゾウとうちは一族も怒るに違いない。上役からの指名では、やはりうちは一族から非難が出る。また、戦争ばかりの老世代から脱却するという、自身が一番望んでいることを行えない。部族長による決定では、部族に入っていない忍びをないがしろにすることになる。また、部族の中でも抜きん出た力を持つうちは一族は、他の一族と同じ一票であることに不満を持つだろう。

 残るのは、上忍で区切るか、中忍で区切るか、下忍以上の全ての忍びとするか。これならば、いずれで区切っても批判は出にくいだろう。うちは一族も、有力部族出身でない者も、それ相応の声を発することができるからだ。さすがにアカデミー生はなしだが。

 

 しかし、うちはの不満は厄介じゃのう。

 

 さておき、ヒルゼンは思う。今大戦では、下忍も上忍と共に前線で戦った。むしろ下忍が最も苦労をした。人数でも割合でも最も多く亡くなっている。であれば彼等にも、政界に関わるチャンスを与えてあげた方がいいのではないだろうか。

 未熟さはある。情報に対する弱さ、デマに対する耐性のなさもある。しかし、彼等とて一人前の木の葉の忍びである。忍びなら、騙されるのではなく騙す側にならなくてはならない。彼等ならなれるはずである。と、ヒルゼンは期待する。

 今回は、若い世代に賭けてみるのもいいのではないだろうか。里の今後を担うのは彼等である。戦争ばかりだった自分達とは、違う道を歩んでもらいたい。老世代におんぶに抱っこではなく、自分達が木の葉を変えてやる、よりよくしてやる、という気概を持ってもらいたい。その意味でも、選挙による政治参加はいい機会になるのではないだろうか。

 

 などなどと考えて、ヒルゼンは全忍びによる総選挙を行うことにした。立候補する側も、上忍下忍年齢性別問わずとした。

 上役のダンゾウ、コハル、ホムラに内緒で、集められるだけの上忍を集めた。そこで、選挙の旨を伝えた。その最中に「老世代は潔く去るべしと言っておった。ダンゾウは棄権すると考えてよいじゃろう」と漏らしたのだった。

 

 

 とかく、四代目火影が大蛇丸に決まった。

 連邦の同盟国として桃隠れも祝福しないわけにはいかず、綱手とトグロは就任式に出席した。

 大蛇丸は別人かと思うほどすっきりした顔になっていた。上機嫌に笑んで、綱手やトグロに手を振るほどだった。各人挨拶を済ませ、大蛇丸から決意表明が行われる。

 

「誰もが末永く幸せに。安心して暮らせる火の国。そのための強い里。強固な同盟。その全てを目指して、尽力していきたいと思います」

 

 常識的な挨拶だった。あいつに常識があったとは、と綱手が言った。トグロも同じことを思った。

 大蛇丸の演説の後、新しい上役が発表された。

 

「相談役、自来也、うちはフガク」

 

 呼ばれて、自来也とフガクが大蛇丸の隣に立った。どちらも気まずそうだ。

 トグロも綱手も既に2人の人選を聞いていた。しかし、大蛇丸が素直に別の三忍とうちはを受け入れたのは気持ち悪かった。

 おいしいものをたくさん食べて、就任式は終わる。大名には帰ってもらい、各里の幹部が集まる。同盟の話が始まる。

 簡単な挨拶の後、大蛇丸が言った。

 

「前大戦では、拙い連携が互いの足を引っ張るケースが目立ったわ。どうかしら? ここは1つ、木の葉、桃、砂、雨、合同の同盟軍を常設するというのは」

「ほう?」

 

 半蔵が興味深げに眉を上げた。

 正論である。上手く行けば、どこにとっても益がある。それを大蛇丸が口にするのは、裏があるような気がしてならないが。

 

「同盟軍の有用性は理解する。しかし、戦力の配分や指揮権に問題がある」

「ええ。だから小規模なモデルケースから始めるわ。そうして問題点を修正しながら、徐々に大きくしていく」

「なるほど。いいのではないか?」

 

 上から半蔵、大蛇丸、風影である。風影は言いながら綱手の方を見る。

 

「チッ。まあ問題はないな」

 

 舌打ちしたのは、大蛇丸があまりに柔軟で、逆に怪しいと思ったからだ。

 

「舌打ちは失礼じゃないかしら?」

「ふん。それはすまなかったな」

 

 その後、同盟軍のモデルケースの規模や人員の話へ移った。

 大蛇丸は、できるだけ若い世代で組ませようと言った。全里それにうなずいた。しかし、次に述べられた言葉に、綱手もトグロも噴出しそうになった。

 

「木の葉隠れからは、代表者として波風ミナトを推薦するわ。桃隠れは、どうかしら。うずまきクシナを選んでくれるとお互い喜ぶと思うのだけれど」

「うっ、くっ」

 

 こいつ、ここまで気が利くオカマだったのか?

 

「うちの里としても、そちらの里としても、尾獣再分配の問題が曖昧なまま残っていたでしょう? この際、曖昧なままでいいと思うの。決着がつきそうにないからね。でもね。同盟軍の一員って形にすれば、どちらにも属することができるわ」

「うへぃっ?」

「何かしら?」

 

 綱手はつい変な声を出してしまった。あまりにも大蛇丸の気が利き過ぎているからだ。

 こいつって、もしかして有能なんじゃ……。

 考えたくない言葉が頭に浮かんでしまう。

 

「場所は雨隠れでいいわ。地理的に同盟国の中心だし、接している国も多いからね」

「ふむ。妥当だな」

「でも、同盟軍が成功すれば木の葉の東側にも軍を作って欲しいわ。木の葉だけで霧隠れ雲隠れの相手をするのは大変だもの」

「まあ、それぞれの負担を考えながら、妥協点を探っていくのがいいだろうな」

 

 その後、正確な位置や人数比が決められていく。木の葉、桃、砂、雨、石、で5、4、3、3、2と決められた。滝隠れ草隠れからの参加も認めるとした。同盟軍の仮の代表は、地元ということで半蔵になった。

 

「後は、医療と教育についてなんだけど」

 

 大蛇丸はさらに画期的な提案を続けた。

 医療知識の共有。大病院の設置。忍者アカデミーの留学制度。合同の研究機関の設置。などなど。

 全て、各里に配慮した、無理のない範囲の事業計画だった。利もあるので、各里共に疑いつつうなずいたのだった。

 大蛇丸は最後まで爽やかな笑みを浮かべていて、ついぞ腹黒そうに笑うことはなかった。

 

 

 トグロと綱手は、後から自来也に聞いた。本当に大蛇丸は変わったのかどうかを。

 

「トグロ、お前本物か? 生きておったのか?」

「今さらっ!?」

 

 実はかなり久しぶりの会話だった。ちょっとした殴り合いがあって、本題へ。

 自来也は不意に一冊の本を取り出した。桃園アカデミーの初等教育で使われている教科書だった。

 

「この本、お主等のやってきたことが書いておるの。綱手とトグロのページが最も多く、次にサソリのページが多い。根性、協調、話術、文化の違いなどを、身近な英雄の人生を追いながら学べるようになっている」

「それがどうかしたか? 木の葉だって爺様のやってきたことを学ぶだろう?」

「そうだが、中身が大分違うだろう? 大蛇丸が言っとったよ。このままでは、木の葉は桃に置いていかれるとな」

「ちょっと、気になりますね」

 

 トグロは無理に持ち上げられているようで気持ち悪かった。それ以上に、あの大蛇丸が自分の本を褒めているらしいのが驚きで、好奇心を煽られたが。

 

「自身の失敗を書いておるだろう。細かく。その原因や別の方法を使えばどうなったかという分析付きで。これがやつには衝撃的だったらしい」

「なるほどな。人間は失敗を認めたくないものだ。認めて、そこから立ち上がるとなるとさらに難しい。木の葉では、一度落ちた人間に冷たいしな」

「それもある。認めることの難しさもな。だが、わしの予想なんだが、失敗を認めることの意味についてもあやつに衝撃を与えたと思う」

「意味? あいつも実験が好きな男だ。失敗は成功の母くらいには思っているはずだが」

「いや、失敗を生かすことの意味ではない。失敗を見せることの意味だ」

「へえ」

 

 トグロが得意げに笑った。それは、トグロの教育方針に近いことだったからだ。

 

「大人が子どもに自分の失敗を見せる。それでも奮起して、助け合って生きている姿を見せる。子どもはそんな大人の姿に強さと思いやりを学んでいく」

「その通りだ! もう1つ言えば、そのやり方でも子どもは大人を尊敬するようになる!」

「人心掌握に脅しは必要ないと?」

「そうじゃ! 何せ、実際にそれをやっておる桃隠れの子どもが、お主等を教祖のように崇めておるからの!」

「ふんっ。それは私が実際に素晴らしいからだ!」

 

 綱手が豊かな胸を張って言う。しかし、これは照れ隠しだ。顔が赤らんでいて、視線を横に逸らしている。

 

「何にせよ、あやつは変わったよ。おぬし等には感謝せねばならんかもしれんの」

「お前に言われてもな」

「あやつは今、お前達を超えることを目標としている。自身が育てる里と、お主等が育てる里と、どちらがより優秀になるかという形での。思想であれ制度であれ、盗めるものは盗み、改善を加えていく。あやつの深すぎる思考が、このまま平和な競争に使われ続けたらよいのだがの」

「盗めるものの中に、人の命は入ってないだろうな?」

「正直、自信はない」

「おい!」

 

 これが冗談かどうかは分からない。しかし、綱手もトグロも一先ずは安心したのだった。




選挙前の部分はいずれ前々話に組み込みます。
これで選挙に納得いただけたでしょうか。

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