大蛇丸の改革は木の葉内部にも及んでいた。
まず、大きいのが木の葉警備部隊の解体だった。これは、里内の治安維持を目的とした警察部隊であり、二代目火影扉間が創設したときから、数十年の間うちは一族のみで構成されてきた。理由は、うちは一族の戦闘能力の高さと、政権に関われない彼等に特別な地位を与えることで、不満の矛先を逸らすためである。忍びを取り締まるのだから、より優秀な忍びが求められるのは当たり前である。うちは一族は写輪眼という戦闘能力を著しく引き上げる血継限界を持っており、この点で不足はない。うちは一族を政治参加させるのは難しい。彼等は一族間での仲間意識が強く、万人を平等に扱うような気遣いが苦手である。うちはマダラの裏切りがあって、里の一部から恨まれてもいる。しかし、うちは一族は同族が蔑ろにされるのを許せない。諸々の事情を考えると、彼等を地位という餌で遠ざけておくのは、扉間会心の政策であった。
しかし、時代は移りゆくものである。一度はその特別な地位に満足したうちは一族も、子どもの世代になるとそれが当たり前に感じてしまうようになる。他人にあって自分にないものばかりに目が行って、不満が溜まっていく。名誉ある職の警備部隊を、枷と感じるようになる。地位にあぐらをかいた横柄な振る舞いが増えていく。他一族からさらに憎まれ、うちはがさらに政界から遠ざかっていく。さらに不満と憎しみが溜まっていく。
「悪い連鎖を断ち切らなければならないのよ」
大蛇丸は、自来也とフガクに上記を力強く説明した。
自来也は、まさか大蛇丸がここまで変わるとはのう、という感じだった。フガクは感銘を受けて、その後、率先して警備部隊の解体事業に関わるほどだった。
もっとも、警察組織自体は必要である。うちは一族のみで構成されていたのがまずかった。効率性を重視しつつ協調性を知った大蛇丸は、日向ヒザシを新警備部隊隊長に据えた。
「選挙で2番だったし、里の皆も彼が上に立つならある程度納得すると思うの。戦闘能力は問題なし。白眼だって捜査にとても役立つと思うわ」
「大蛇丸よ、重要な言葉が抜けておるぞ」
自来也が言う。
「何かしら?」
「地位には腐敗が付きものだ。その点でも、日向ヒザシの人格なら問題ないということ」
「へえ。その言い方だと、うちはは腐っていたようにも聞こえるけど?」
大蛇丸がフガクを横目で見る。自来也は慌てて両手を出して否定する。
「い、いや、そんなことは言うとらんぞ」
「いえ、自来也様。お気になさらず。横暴な愚か者が複数人いたのは事実です」
「フガクよ。我々は対等なのだ。敬語はいらぬ」
「す、すみません。あっ、いや、すまないな」
フガクは緊張を隠すように下を向いた。
大蛇丸はそんなフガクを見て、密かに舌なめずりしたのだった。
大蛇丸は、ダンゾウが公然の秘密として運営している”根”の解体にも着手した。いや、根の場合にはむしろ木の葉の正式な組織とした。名称を木の葉特殊部隊と変え、表の警備部隊では手の届きにくい特殊な捜査やスパイ活動を行う。組織のトップはダンゾウのまま。ただし、その上に火影を置き、上層部が組織を管理できるようにした。
当然ダンゾウは怒った。しかし、大蛇丸は「大名を殺したのは誰かしら?」と言って黙らせた。ダンゾウは「この恩知らずが!」と怒鳴ったが、武力行使することはなかった。
大蛇丸は本当に軍縮をした。余った費用は医療福祉に回し、介護ではうちはオビトにも発言の機会を与えた。これによって、ヒルゼンやダンゾウに発言できる老世代を味方につけた。また、選挙で高い票数を得た全ての人間にそれなりの地位を与えることで、彼等を選んだ忍びにも一定の配慮を示した。飴と鞭作戦であった。
新しい政策が次々と施行されていく。
同盟軍が結成され、初めて合同訓練が行われる。これには各里長を初め、大名、空海やヒルゼンなどの実力者、フガクの長男イタチ、綱手の長男縄也、カルラの長女テマリと次男カンクロウ、家出放浪中の募ツチとその長男デイダラ、うちはミグシと長男うちはウルシ、も見学に集まった。
トグロはハーレム要員と大勢の子どもを連れて堂々の入場である。
「なあ、空海僧正。僧侶って恋愛禁止じゃなかったか? うんそうだろ」
「俺が作った宗教だから俺がルールだ」
「さすがです!」
「さすがパパ!」
「しゃすが!」
「おいおい。どんな教育してんだよ」
トグロの子どもが満面の笑みで母親の真似をする。しかし、言いながらもトグロの頭の角を引っ張ったり、裾を引っ張ったり、懐に潜っていたり、父親で遊んでいた。
「それよりもボッチ、募ツチってなんだ?」
「ん? あたいは募ツチさ。土影の縁者だと知られたくない時はボッチって呼ばせてたのさ」
「え? お前土影の縁者なの?」
「まあ姪に当たるな。あんま気にすんな。うんそうだろ」
「ふーん」
「さすがパパ!」
「うずまきイカセ!」
「うんこのトグロ!」
「コラ! あんた達!」
「きゃーっ!」
イタチ、テマリ、カンクロウ等は、子ども達の自由っぷりに圧倒されてしまう。トグロについても驚きだ。大国を裏で操るすごい男だと聞いていた。子どもに為されるがままの姿は全くイメージと異なる。
「オイラも混ざっていいか? うん」
「ああいいぞ。うんそうだろ」
「いよし! 爆発的ないじり方を見せつけてやる! うん!」
逆に、デイダラはトグロの子供に混じってトグロをいじり始めたが。
さて、訓練自体は順調に進んでいく。小隊戦、集団戦、地中移動、複数での大規模忍術、などなど。食事は共にとり、談笑を交える。
「この膝の傷は、木の葉にやられたもんでよお。毎朝痛えの何のって」
「はははっ。俺なんて、毒の後遺症で毎晩うなされてるぜ。どうしても発狂しちまうんだ」
「そりゃあ奥方もびっくりするだろうなあ」
「はははっ。でかい赤ちゃんの夜泣きだっつって、その場で慰めてくれるぜえ」
「くくくっ」
男達は男の勲章、戦場の傷跡で盛り上がる。
「ねえ聞いた? 一番隊隊長ができてるって」
「うん知ってる。クシナさんとでしょ」
「ええーっ。どうして知ってんの?」
「木の葉じゃ常識よ。めちゃくちゃ有名だもん」
「そんなあ」
女達は色恋沙汰にうつつを抜かす。忍者も人間であった。
今日は初訓練なので、早めに終わる。しかし、閉会の挨拶の際に、ヒルゼンが粋な提案してきた。
「1つ、ゲームでもやらんかね。我々もただ見学するだけではつまらんじゃろう。若い衆に頂の高さを見せる意味でも、各里隊長格のみで旗取り合戦でもせぬか?」
「いいだろう。受けて立つ」
「おもしろそうだな」
「あたしもかまわないわ」
現川影、火影、風影が賛同する。あまりにも合意が早かったので、トグロには事前に話し合いが済んでいたと分かった。それも、自分には内緒で。
嫌な予感がした。そしてそれは、チーム別けを聞きながら核心に変わった。
Aチーム
半蔵 大蛇丸 風影 カルラ 長門 ミナト クシナ(フラッグ)
Bチーム
ヒルゼン 自来也 トグロ 募ツチ 月 小南 綱手(フラッグ)
明らかに、ミナトとクシナを組ませ、トグロを負かせようとする布陣。ミナトとクシナの結婚を認めさせるためのゲーム。明らかにAチームの方が強い。募ツチ、月、小南を同チームにする意味が分からない。
しかし、各里トップの影が認めたことだから、反論しても意味がない。
そして分かる。4影は全員ミナトの味方についている。まともな7対7の戦いではない。自来也もミナトを応援するだろう。月と小南も、トグロのハーレム要員が増えることを嫌うので、あまり本気ではやらないだろう。つまり、トグロに勝ち目はない。
「舐めやがって。クシナをそう簡単に手に入れられると思うなよ。というかカルラも早く返しやがれ」
「ゲームだとか言って、あたいに負け戦をやらそうなんざいい度胸じゃねえか。吠え面かかせてやる。うんそうだ」
「ミナトよ! お前はまだ師を超えておらぬ! 何より愛の大きさでのう!」
訂正、自来也は本気で戦うらしい。
ルールは簡単。フラッグ役の女性を先に捕まえたチームが勝ち。ただし、フラッグ役は回避以外をしてはならない。決められた空間の外に出てもならない。また、各人は広範囲忍術や殺傷力の高い術を禁止される。ヒルゼンの火遁、半蔵の毒霧、長門の神羅天征、トグロの挿し木の術などだ。
試合が始まる。クシナとトグロが分身でいきなり100体に増える。
ミナトが飛雷神の術のためのクナイを投げる。ヒルゼンが手裏剣でそれを弾く。落ちているクナイもトグロの分身が封印していく。それをカルラの風が邪魔する。風影の砂が綱手に迫る。それを自来也が破壊していく。
ミナトがクナイをトグロの本体に投げる。ヒルゼンはそのクナイを落とさない。あからさまな癒着である。
ミナトが飛雷神の術でトグロの付近に飛ぶ。トグロは一歩引き、月がミナトに襲い掛かる。トグロの分身がクシナに迫る。半蔵と大蛇丸が体術で1つ1つ消していく。
長門が綱手に迫る。小南の紙が行く手を阻もうとする。輪廻眼の力で一瞬で離散させられる。自来也が長門の前に出る。ボッチも自来也を援護する。
案外いい勝負になった。ヒルゼンと自来也と月が、トグロが思っていたより真面目に戦ったし、ミナトと長門が女性に本気で攻撃できなかったからだ。
「チッ。トグロ! お前はミナトと戦え! 川影命令だ! 月も! ミナトの相手をするな!」
綱手があからさまにミナトを贔屓し、トグロと戦わせようとする。しかしトグロは命令に従わない。月も基本的にトグロの言葉以外には耳を貸さない。
「くっ。ぐあっ」
とうとう、月の骨がミナトに当たった。手加減できない娘なので一撃で大ダメージだ。
トグロがこの隙にクシナの分身に木遁を仕掛ける。一気に消滅させていく。その時に、胸や太ももをエッチな感じに締め付けたりするのは、ゲームへの当て付けである。
「すまぬ! 間違えた!」
「見えてるぞ!」
と、ヒルゼンが卑劣にも、トグロの後ろから手裏剣を投げてきた。白眼で見抜き、回避したが。
「うわっ、すまん!」
「ぐっ」
今度は綱手だ。巨大な岩を、仙人モードで投げてきた。さすがに回避が間に合わず、木遁の根で受けた。
「おい中年女! てめえ攻撃禁止だろうが! ご主人様に何しやがる!」
「中年? なっ、なんだとゴラァ!」
「中年でも愛しとるぞ! 重要なのは中身だ!」
「黙れエロガエル!」
何故か綱手と月の間で戦いが始まる。自来也が2人を止めに入る。
この間に、ミナトはヒルゼンの治療によって回復する。もはやルールも何もない。
「ありがとうございます」
「しまった! わしとしたことが幻術で操られた!」
いや、ヒルゼンはまだ騙し騙しやっているつもりらしい。
ミナトは立ち上がり、戦時中のような雰囲気でトグロを睨む。数瞬の後、ミナトはトグロの付近のクナイへ飛んだ。
「くっ、くっそー!」
トグロが柔拳と木遁で迎え撃つ。ミナトは体術と飛雷神のコンビネーションで攻める。
体術はミナトの方が上だが、トグロはゴムの鎧で衝撃を吸収する。トグロの柔拳は少し触れただけでもミナトにダメージを与える。スタミナを考えると、このままではトグロの方が有利。
「螺旋丸!」
「ぐおわっ!」
しかし、ミナトの螺旋丸はゴムの鎧を抉って本体へ到達した。トグロのチャクラ吸収により完全には決まらなかったが、確実にダメージはあった。
「ふん。この程度なら」
しかし、トグロは大地の実を食べてあっという間に回復してしまう。ミナトは螺旋眼により疲労しただけだった。チャクラを吸収できるトグロには、幻術も捕縛もほぼ不可能。今回は大地の実で回復したが、そうでなくとも莫大なチャクラにより何度も回復できる。ミナトのスタミナでトグロを倒すには、殺傷力の高い一撃で気絶させるしかない。優しいミナトには厳しい状況だ。
「ずるいぞ貴様!」
「うわっ」
「あたしも混ぜてよね」
「ひえっ!」
ところが、そこで風影と大蛇丸がミナト側で参戦する。Bチームは誰もトグロの増援に来ない。頼みの自来也は綱手と月を止めるのに必死で、小南とボッチはふつうに長門に負けた。ヒルゼンは幻術にかかったフリをして傍観。
「クソッ、この手は使いたくなかったが……」
突然、トグロが大きく息を吸った。
「クラマあああああああああああ!」
そして、叫んだ。
数秒後、クシナのチャクラが揺らぐ。さらに数秒後、彼女から破壊的なチャクラが噴出した。
「グォオオオオオアアアアア!」
九尾が表に出てきたのだった。クシナは九尾の赤いチャクラを纏い、トグロ目掛けて飛び出す。
「待っ」
「何を……?」
事態の急変に、ミナト派は見ていることしかできなかった。
クシナはトグロの手前で急停止する。トグロはクシナの頭に手を伸ばし、撫で撫でし始める。クシナはニヤリと口端を上げ、なされるがまま。
不意に、トグロが言った。
「はい捕獲。俺の勝ち」
「はあああああああああ!?」
ミナト派の叫びが場を包んだのだった。