疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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科学の進歩、スーパー大蛇丸ゴッド

 戦時中は研究開発に迫られて科学が進歩するものである。戦後1年で、次々とその成果が表に出てくるようになった。

 

 まず、桃園アカデミー技術者コースの天才、則巻ター坊が15歳にして大仕事をやってのけた。発明したのは、チャクラや神経の通った、副作用の緩い義手義足だ。綱手とサソリの協力もあったが、ター坊が最も重要な役割を担った。これにより、ダイナ・イシ等が四肢を取り戻し、忍びとしての任務を再開した。

 表向きにはそう発表したが、実は半年前の時点で”トグロの細胞を利用した”義手義足は発明できていた。桃隠れの忍びにはそちらを配り、一般向けにはふつうの義手義足を販売した。なお、トグロの細胞を利用した義手義足の持ち主は、簡単な木遁を使用することができる。が、使いすぎると副作用がある。

 

 それからやや遅れて、木の葉隠れが千手柱間細胞の移植と木遁の使用に成功する。以前にも成功例が1例だけあったが、他は死亡していた。今回は、優秀な忍びならば死亡だけは防げる域にまで水準が上がった。ダンゾウ等に移植された。

 

 約一月遅れて、桃隠れの月が、綱手の再生医療により視力を取り戻す。また、様々な治療で身体の毒を取り除き、妊娠出産の安全を認められるに至った。排卵はなかなか起こらなかったが、この問題も”桃太郎の桃”により解決した。

 

 草隠れの木の葉実験施設で、いくつかのサンプルが盗まれる事件が起こった。墺撫の科学者、鳥島ボツが事件と共に行方を晦ませており、重要参考人として指名手配された。人体実験に関わる墺撫の科学者にはダンゾウから呪いがかけられており、本来ならすぐさま見つかるはずだった。しかし、ダンゾウが呪いを辿った場所には、大量の血と切り落とされた舌が残されており、鳥島の死体と実験サンプルは見つからなかった。DNA鑑定の結果血と舌は鳥島のものだと分かった。生還して逃走、その途上で死亡、強盗にあって死亡。全ての可能性を考えて、捜査が続けられることになった。

 

 野原リンが、”精神安定剤”の投与を始めた。

 思考が鈍くなったが、その分大人しくなった。暴れる回数も一度の暴走で出る被害も減った。

 オビトはとても機嫌がよくなった。カカシとも、いつの間にかラーメン屋で談笑する仲に戻った。

 

「オビト、うれしそうだな」

「分かるか? へへっ」

「リンのことだろ? 教えてくれないか?」

「誰にも言うなよ? 実は、リンがな。今朝、俺にありがとうって言ったんだ」

「へえ」

 

 オビトはとても気恥ずかしそうに言った。彼とリンの苦労を知るカカシは、素直に笑ったのだった。

 

「カカシ、そろそろお前も会えるようになるんじゃないか?」

「本当か? そりゃあうれしいな」

「へへっ。これもお医者様のおかげだ」

 

 いろんな施設を当たって、ようやく治療に自信を見せてくれた医者だった。オビトはこの医者を心から信頼し、尊敬した。

 決して患者を見捨てない。諦めない。やさしいお医者さん。

 

 しかし、一月もすれば異常が出始める。人間は薬に対して耐性ができる。薬の効果は徐々に薄れていく。医者とオビトは悩みながらも、薬の量を増やしていった。

 

「大丈夫。いつかきっと治るから。科学は日々進歩しているんだ」

「はい。先生」

 

 オビトはまだ医者を信用しきっていた。医療は専門外だからと、完全に医者任せにし、薬の成分を調べることもなかった。医療費がかさんでいくことについても、特に疑問には思わなかった。

 

 しかし、薬を増やしたことで、リンにキツい副作用が現れ始めた。記憶障害、言語障害、よだれが垂れる、突然倒れる、幻覚を見る、などなど。リンにとっても介護しているオビトにとっても、最もきつかったのは、夜に漏らしてしまうようになったことだった。

 

 初日は、誤魔化そうとした。次に漏らした日は、オビトのせいでお腹を壊したと怒った。さらに次は、とうとう抑えられず泣き叫んだ。

 リンは、嫌な記憶を消すために薬を求め始めた。用量外の薬である。危険性は知っていたが、もう深くは考えられなかったし、投げやりな気持ちになっていた。

 オビトは、そんなリンを必死にを止めた。リンは「邪魔するな!」「くれないなら出て行け!」「死ね!」などど叫び、何度も暴力を振るった。が、オビトは折れなかった。

 この頃には、薬が精神を落ち着かせる効果はほとんどなくなっていた。薬物依存だけが残った。

 

 近所の子ども達が、リンに対し、「しょんべん垂れ」「怒りんぼおばさん」「算数もできないアホ」「鳥頭」、等々とバカにするようになった。石や空き缶を投げてくることもあった。リンはさらに怒り狂い、周りに当たった。さらに薬を求めるようになった。

 

 オビトは長く我慢していた。できるだけ下手に出て、リンに振るわれる暴力は自分が受けた。ほとんど反撃しなかった。

 が、公衆の面前でリンに花火が投げ込まれたことで、ついに爆発した。

 

「おっ、お前等あああああああ!」

 

 オビトは子どもを捕まえ、縄で縛り、その場でお尻ペンペンなどをした。中には女の悪ガキもいた。

 通行人のほとんどは、どちらが悪いかを知っていた。しかし、事情を知らない者には忍者による子どもの虐待に映った。さらに、悪ガキのバカな親が、悪ガキを庇い始めた。

 

「あんた! うちの子に何やってんのよ!」

「またうちはか! お前達はいつも問題ばかり起こす!」

「偉ぶるばかりで大事な時には全く役に立たぬ連中め!」

「オビトおおおお! そいつ等ぶち殺せえええええ!」

 

 リンはさらにヒートアップしてしまった。

 

「な、なんだって!? 俺達を殺すだって!?」

「こいつ達は危険すぎる! 通報だ!」

「警備隊よ早く来てくれえええ! 忍者が暴れてるうううう!」

 

 住民の声に引かれ、特殊部隊の男2人がやってきた。

 いや、実は彼等は初めからオビトを狙って張っていたのだった。ダンゾウから写輪眼捕獲を厳命されており、達成できれば褒美がもらえる。オビトが犯罪者気質でないことは知っていたが、リンを庇って暴れる可能性があるので、その機会を待っていた。

 

「貴様! 何をやっている!」

「大人しく縄につけ! 殺されたくなければ!」

 

 特殊部隊の2人は乱暴にオビトに飛び掛かった。前のめりに倒して後ろ手を縛った。オビトは抵抗をしなかった。あまり大事になると、動けないリンが狙われるかもしれないからだ。

 ところが男達は、オビトが捕まってから大人しくしていたリンにも、縄をもって近づいた。

 

「ちょっ、やめてよ。私は何もしてないでしょ!」

「なんだその口の利き方は! 立場が分かってないようだな!」

「あっ」

「いいから大人しくついてこい!」

「リ、リン! おい貴様等! その汚い手をリンから退けろ!」

「なんだとお!? 俺達は特殊警備部隊だぞ! 犯罪者ごときがなんて口利いてやがる!」

 

 2人は怒り、オビトに殴りかかった。オビトは後ろ手を縛られ、リンを人質に取られているようなものであった。なすがままにやられてしまい、事態を聞きつけた警備隊が現れた時には、血まみれの痣だらけで気絶していた。

 この事件が、うちはの怒りを買った。オビトは一族の若きホープであり、有名人だった。その人柄も、リンとの状況も、一族にはよく知られていた。積もり積もったうちはの不満が、とうとう爆発した。

 

 後日、特殊部隊の計8人が死体で発見された。うちは一族の若者による襲撃が原因だった。いくつも目撃証言があり、知らぬ存ぜぬは通用しなかった。しかし、うちは一族は若者を庇った。

 

 特殊部隊も、さらにその報復に動いた。山で修行していたうちは一族の下忍達3人に、突如襲い掛かった。後に、下忍達は眼をくり抜かれた状態でその場に発見された。下忍は全員10歳前後の子どもだった。当然過激派の襲撃にも関わっていない。皆生きてはいたが、うちは一族の犯人に対する怒りはすさまじいものだった。犯人は不明だったが、うちは一族の多くは特殊部隊によるものだと断定した。

 

 その後も、うちは一族と特殊部隊の抗争が続いた。全面戦争とはならないが、互いに熱が増していくばかりだった。

 フガクは、うちはの過激派を抑えることに邁進した。且つ、大蛇丸に特殊部隊過激派への処罰を要求した。自来也とヒルゼンも同意見だった。

 ダンゾウは逆に「内乱分子を一掃し、写輪眼を手に入れるチャンスだ。止める必要はない。むしろ協力しろ」と大蛇丸に言った。

 この状況でも、実は、木の葉内でダンゾウに同意する忍びが一定の割合いた。それだけ、里に仇なすものに容赦ない人間がいるということである。うちは一族が嫌われていたのもあった。うちはマダラの裏切りや、個人が奢り高ぶり問題を起こしやすいからだけでなく、組織としても、身内贔屓が酷かったり、先の戦争では、写輪眼を奪われる危険性があると言ってあまり前線に行かなかったりした。同じ有力部族でも、里のためにと、積極的に前線に立った千手一族や日向一族と比較すれば対照的である。千手一族の綱手が未だ信頼されているのはこういう理由もあるのだ。日向一族も、ともすればうちは一族以上に内向的だが、戦時の活躍によって里の信頼を勝ち取っていた。

 

 さて、大蛇丸の決断は、お互いに過激派を抑えるというものだった。

 特殊部隊は大蛇丸が直接指示を出し、ダンゾウを落ち着かせる。うちは一族は、当主であるフガクが過激派を止める。また、問題が起こりそうな時は、第三者である警備隊を積極的に派遣し、両者を止める。大蛇丸はこれらを約束した。

 また、このような問題が起こったことへの詫びとして、抗争のある意味発端となった野原リンを、自らが治療するとした。

 

 フガクの頑張りと、ダンゾウが大蛇丸に従ったことによって、抗争は徐々に落ち着いていった。うちはの過激派の一部は抜け忍となった。

 野原リンは、大蛇丸が実験場としていた場所の、表向きの方の病院に入れられた。大蛇丸は、自来也、ミナト、オビト、カカシを呼び、まずこう言った。

 

「薬物中毒になってるわ。まずは薬を抜かないとね」

「えっ……」

 

 この言葉に誰よりショックを受けたのはオビトだった。彼もさすがに薬の効果を疑っていたが、まだ医者を信じていた。薬の効果はあまりないにしても、現状維持かちょっと快方に向かうと思っていて、悪い方の効果の方が大きいとは思っていなかった。

 しかし、大蛇丸はさらに衝撃的な言葉を続ける。

 

「古い薬を使っていたみたいね。売れ残っているから、あなたがカモだと思って買わせたのでしょうね。忍者は子どもでもお金を持っているから」

「そ、そんな……」

「あなたも忍びなら、簡単に騙されちゃダメよ。おかしいと思ったら自分で調べること。無理でも誰かに頼みなさい。何事も疑うクセをつけないとね。忍びどころか一般人でもやっていけないわよ」

 

 大蛇丸は、彼には珍しくやわらかい口調で言った。まるで、里の子を思いやっているようである。自来也は驚いて口をぽかんと開けてしまった。悪人がちょっといいことをすればとてもいい人に見える。

 オビトは絶望のどん底に落とされたような気分になった。信じていた人に裏切られ、その結果彼が最も大切にしている存在を傷つけてしまった。しかし逆に、自身が信じていなかった人が、今、自身を諭し、最も大切にしている存在を救おうとしている。

 

「あたしはこういうのに詳しいから、最高級の医療を受けさせられると思うわ」

 

 大蛇丸は得意げに言った。自来也は苦い顔になる。何故彼が詳しいかと言うと、薬を使った人体実験で多くの薬物中毒者を出しているからだろう。

 逆にオビトは、大蛇丸に魅力を感じてしまった。現在、彼の心はぽっかり空いている。今までの自分が間違いだったと深く反省しているから、似た思想の持ち主である自来也やミナトには魅力を感じない。逆に、自分と対極にある人間に、実は見落としていたよさがあるのではないか? そう思い始めていた。

 

「お主の悪癖に救われるとはのう」

「言ったでしょ。国のための実験だって。私にだって里の子を守りたい気持ちはあるわ」

 

 自来也はハッとした表情になった。

 国のため対自分のためで1対9くらいかもしれないが、そんなことは些事だった。

 

「正直、すまんかったのう」

「謝罪なんていらないわ。疑われることには慣れているもの」

 

 大蛇丸はそう言いつつ、どこかうれしそうだった。

 

 数ヵ月後、リンは元気な姿で戻ってきた。薬の後遺症はすっかり無くなっていた。どころか、戦闘による負傷が原因だった障害も、改善が見られた。左半身が弱々しいが動くようになっていて、少しだけなら立って歩くことさえ可能になっていた。性格も、病的な怒りは全く無くなり、以前のように朗らかに笑えるようになっていた。

 ただし、薬の代わりに幻術がかけられていたが。

 

 それでも、オビトには大蛇丸が救世主に見えた。自来也、ミナト、カカシと共に、大蛇丸に何度も感謝の言葉を述べた。そして、密かに決意した。リンが独り立ちできるようになったら、この人に弟子入りしようと。


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