疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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黒い男と白い男

 全身真っ黒の男、黒ゼツは悩んでいた。待ち望んでいた輪廻眼。その開眼者マダラは老衰で亡くなり、亡くなる前に後継候補にしていた長戸とオビトも悪い方向に賢くなっている。

 2人は本当に闇に染まってくれるのか? 染まろうとすると、またいろんな意味で桃色のあいつに邪魔されるんじゃないか?

 長い時を生きてきた黒ゼツだから、なんとなく展開が読める。これはこっち側に来ないパターンだ。

 

 画期的なことをする必要がある。

 

 まず思いついたのが、桃色のあいつを殺すこと。殺せば”純粋な”理想主義者の洗脳がグンと楽になる。

 しかし、あいつに勝てる人間がほぼいない。あいつ自身厄介な耐久力を誇る上、周りに強力な護衛が多すぎる。自分が出向けば殺せる確率は出てくるが、失敗したときに自身が消滅させられるかもしれない。あいつは自分と似ている。そういう力がある気がする。

 無限の時を生きられる自分は、死にさえしなければ何度もチャンスがある。だから、死なないことを第一に考えて動くべきだ。よって桃色のあいつの暗殺は保留とする。どうせ100年も待っていればあいつは死ぬし。しかし、ただ待つのも退屈だ。何かおもしろいことはないか。

 

 いろいろ考えたが、あまりいい案は浮かばなかった。余興のような気持ちで、オビトに薬を売ったり、うちは一族とダンゾウが戦うように、互いのせいに見せかけて彼等を殺したりした。狙い通り、オビトは幻術のよさを知った。うちはとダンゾウも殺しあってくれた。だが、まだダメな気がする。

 

 黒ゼツは世界の火種を見回した。政治、宗教、科学、文化、個人の憎しみ……。

 2人、おもしろそうな人間を見つけた。天才科学者、鳥島ボツ。悪のカリスマ、紫苑ギレン。どちらも忍びとしての能力は期待できないが、別分野では飛びぬけた才能を持っていた。ボツは科学技術。ギレンは民衆の扇動。

 黒ゼツは、白ゼツを使って2人のさらなる情報を集めた。集めながら、今の科学技術と扇動理論も学んで行った。

 黒ゼツの興味を特に引いたのが、クローン技術だった。細胞の中にあるDNAをもとに受精卵を作り、遺伝的に同一の固体を作るというもの。この研究は戦中に大蛇丸とダンゾウが特に熱心に行っていた。戦後、大蛇丸は手を引いたが、技術は滝隠れと岩隠れにも流れていた。墺撫のウツミがユラ達を逃がすために、2里と取引をしたためだった。

 

 このクローン技術では、ほぼ同一の人間が複製される。柱間のクローンは木遁が使えるし、うちは一族のクローンなら写輪眼を開眼できる。これは、輪廻眼の安定供給を望む黒ゼツにはとても喜ばしいことだ。

 しかし、クローンはたいてい体が弱く、寿命も短い。受精卵の段階で遺伝子が歳をとっているからだ。また、黒ゼツが見るにチャクラの絶対量も本体より少ない。産まれた時のチャクラが、本体の一部を受け取る形になるからだろう。

 

 これらの弱点を、どう克服するか。どう生かすか。黒ゼツは考えた。

 写輪眼は、眼だけあればいい。ならば、幼いうちに薬で無理やり強化して、悲劇を味わわせて、写輪眼ができたら死んでもらう。寿命で早く死ぬから、裏切られて面倒なことになる可能性も低いだろう。

 木遁はどうか? 柱間細胞の研究はダンゾウが継続して行っている。やつはクローンを固体として動かすのではなく、意志の無い人形として体に埋め込むことを想定している。これは、いいのではないか。クローン細胞の寿命が伸びるのではないか。あまり分裂しないで済むからだ。

 

 黒ゼツはこれらを思いつき、鳥島とギレンに遠回りに伝えた。しかし、伝える必要はなかった。二人ともその策を思いついていたからだ。が、両者ともその策を実行する能力がなかった。鳥島は金銭不足のために。ギレンは技術不足のために。よって、黒ゼツは二人の橋渡し役を担うことにした。

 鳥島を研究所から逃がし、ダンゾウの呪印がかけられている舌を切り取った。切れた部分は白ゼツの細胞で代用した。そのまま鳥島をギレンの下へ連れて行き、科学者として雇うよう交渉を行った。信頼関係は必要なかった。2人は互いに自尊心の塊だったので、目の前の男は利用価値があり、自身を出し抜けるほど利口ではない、と思わせることができればよかった。

 

「よろしく頼む。鳥島博士」

「こちらこそよろしく。ギレン閣下」

 

 こうして悪と悪は手を取り合った。黒ゼツの狙い通りに。

 いや、それ以上のことが起こった。

 

「ところでギレン閣下、本当にクローンなどでいいのか? 所詮本物以下の贋作だが」

「ふん。弱いからと言って利点がないわけではない」

「どういう意味だ?」

「弱いからこそ、人に頼るようになる。洗脳が容易いということだ」

「なるほど。そうか」

 

 鳥島はさして興味を示さなかったが、この言葉が黒ゼツにとって衝撃的だった。

 

 頭の中でパズルのピースが埋まっていくような感覚に包まれた。

 クローン。寿命が短い。未来に希望が無い。本体より弱い。劣等感。洗脳が容易い。

 

 これだ! 未来のないクローンは世界に絶望するしかない! 幻術でしか救われない! 必ず無限月読の可能性に賭ける人間が現れる!

 

 黒ゼツは歓喜した。今後はこちらをメインで戦力を整えることにした。

 

 

 白ゼツも悩んでいた。白ゼツはたくさんいるが、神居の緑色の光に触れた白ゼツのことである。

 彼は今まで、特に疑問を持たず黒ゼツに従ってきた。最終的な目的は自分と同じだと確信していたし、黒ゼツの方が自身より能力が高いと思っていたし、黒ゼツは白ゼツに唯一命令権を持つ母の代行者でもあったからだ。

 しかしある日、白ゼツに命令できる可能性のある別の人間が現れた。ウサギ一号である。

 

 彼女はまだ赤子で、あの日以来カグヤの名をつぶやいたことはない。しかし、見た目で言えば黒ゼツよりも彼女の方が母に似ている。チャクラも似ている気がする。何より、白ゼツ自身がウサギ一号に可能性を感じてしまっている。

 

 白ゼツは、ウサギ一号の育て役を買って出ていた。黒ゼツも特に疑問を持たずそれを承諾していた。

 いくら育ての親になろうと、時がくれば、ウサギ一号を生贄に差し出すことを躊躇しないだろう。

 黒ゼツの白ゼツに対する信頼は絶対だった。白ゼツがよっぽどしくじらない限りまず疑われない。それだけのことを1000年以上かけてやってきた。

 

 白ゼツはウサギ一号に傾いていた。もともと愛おしい存在だったが、手で触れて、赤子がこちらに笑いかけて、離れるとすぐに泣いて。と繰り返していくうちに、どうしようもなく赤子のことがかわいくなってしまった。

 芽生えた自我は尽きる気配もない。忠誠心は赤子に捧げることにした。どうせ自分の命1つ。軽いものだ。

 

 最初は彼女のために死ぬ覚悟をしただけだった。しかし、赤子が言葉を覚え始めて、「おきな、おきな」、と言ってヨチヨチと擦り寄って来るようになった。もっとかわいくなって、さらに先を目指したくなった。

 この子、どうにかして計画が終わっても生かしてもらえないかなあ。

 

 まず、母を復活させる計画の中でこの子が殺されないように、黒ゼツを出し抜かなければならない。次に、母の世界でもこの子を生かしてもらえるように、母を説得しなければならない。この子自身も、母にとって有益になれるように教育しなければならない。

 

 白ゼツは、ウサギ一号を自身に従わせてみることにした。自身に従うなら、自身が命令すれば母に従うからだ。

 ウサギ一号は純粋な赤子だった。面倒くさがりで、従わせようとすると嫌々と泣いた。が、おだてると、「見てて。見てて」、と言って白ゼツの要求通りのことをするのだった。その後褒めるととても喜ぶ。もっとかわいくなってしまった。

 どうにかして、計画が終わっても幸せになってもらえないかなあ。

 

 白ゼツはウサギ一号を逃がすことも考え始めた。母の下で、この娘が楽しんで生きていけるとは思えない。どころか、無限月読にかかったら、永遠に夢の中に閉じ込められてしまう。それはそれで幸せかもしれないが、育ての親としては引っかかるものがある。

 逃げ場所は1つだけあった。月だ。それも、母の気分次第では破壊されてしまうが、地上よりは安全だろう。母の復活前に、この子を月へ逃がす。それまでは、自分がこの子に生きるための知恵を授けよう。




前話の評判があまりにも悪かったので、言い訳のように黒ゼツの行動をネタバレ。また、前話が分かりにくかったので文章を直しました。
次話、THE FIRST -NARUTO
子ナルトと子ヒナタ中心の話で、舞台はいきなり月。原作の逆。

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