疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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THE LASTを意識した忍び世界の説明と、中忍試験を意識した問答。
ほぼ説明回です。


忍びの歴史

 合宿はまだ外の赤暗い朝早くから始まる。ただでさえ冬で寒いのに、この時間帯で、山の頂上付近ならなお更だ。外は雪が降っている。ナルトとキバはふとんに包まってなかなか起きない。

 

「起きろ! おい起きろナルト!」

 

 サスケがナルトを乱暴に揺する。実はサスケは、まだ外が暗いうちに起きていた。そして、赤髪の男を倒すイメージをしながら、外で軽く汗を流した。それだけやる気満々だった。ついでにシノも同じことをやっていた。

 

「サクラちゃん。俺ってば朝のキスをもらってないってばよ。むにゃむにゃ」

「チッ。ウスラトンカチが」

「い、いたっ! サクラちゃっ、いっ、いたっ」

 

 サスケがナルトの頬をパンパンとはたく。ナルトはまだ粘る。

 

「サクラちゃんっ、やめっ。いたっ、サクラちゃっ、サク、サクラちゃん。サクッ、サ、サスケェえええええ!」

 

 やっと起きた。

 ナルトは寝ぼけてサスケに殴りかかるが、サスケは軽く足を引っ掛けて転ばせた。

 

「さっさと準備しろ。ウスラトンカチ。合宿だぞ」

「はっ。そうだった! あの赤いやつをぶん殴るってばよ!」

 

 ナルト達は揃って宿の受付へ向かう。サクラ達や先輩後輩達が先にいて、ナルト達を待っていた。

 

「おっそーっい! ナルト!」

「ごめんってばよ!」

「その頭は何!? ぼっさぼさじゃない!」

「えっ? そっかなあ? まあでも、野生的な魅力があふれるっていうか」

「アホ! 他所の子に見られるのよ! 私達まで恥ずかしいじゃない!」

「ぎゃはははは。そいつのバカは隠せるもんじゃねえよ」

「キバ、言っとくけどあんたもよ?」

「えっ」

 

 とにかく、一行はそろって桃園アカデミーへ向かう。

 2分ほどで到着する。既に多くの生徒が集まっていた。

 

「しかし、近くで見るとでっけえなあ」

「人もいっぱいいるね」

 

 シカマルとチョウジの感想である。木の葉の忍者学校も、忍び養成機関としての規模は大きいが、さすがにここには敵わない。大人と子どもの修行場として、全世代の忍びが集まるし、サービスコース、学者コース、技術者コースもあるからだ。

 もっとも、今ここに集まっているのは下忍未満の子どもと教員役の忍びだけだが。

 

 今回の合宿はとても規模の大きいものだ。桃隠れの忍者コースの子は全員参加で、木の葉隠れ、砂隠れ、雨隠れ、石隠れ、東草隠れ、滝隠れからも、将来を期待される子ども達がやってきている。それぞれの子どもが各里ごとに集まっており、早速注目のライバル達を探している。

 

「あいつだな。火影の長男」

「あれ? かっこよくない?」

「うちはイタチの弟ってのはどいつだ?」

「あの黒髪のスカしたガキじゃねえか?」

「あれ? あの子もかっこよくない?」

「あの金髪はクシナさんの写真にいたやつだな」

「あいつはダメね。クシナさんの子どもなのにかっこ悪い」

 

 木の葉も、最大隠れ里として大いに注目を浴びた。特にマークされていたのが、カムイ、サスケ、ナルト、ヒナタだった。

 血筋に対する嫉妬心むき出しの子どももいる。お前だけには負けたくないと、サスケやヒナタを睨みつける。近くにいるサクラ達も敵意を受ける形になった。

 

「な、なんか強そうね。皆……」

「当たり前だろ。桃を除けば、どいつもこいつもそこの里で優秀な成績を残しているエリートなんだから」

「ええっ!? そうなの!?」

「今さらか?」

「いや、言われてみればそうだったけど……」

 

 シカマルの声にサクラは不安になった。自分はエリートではない。この場にいていいのだろうか。

 いや、他の皆、ナルトやサスケでさえも冷や汗をかいた。昨日の強力な赤髪の男が頭をよぎったからだ。

 

「お、オラァ! おめえ達にゃ負けねえぞ!」

「な、ナルトぉ」

 

 そこで、プレッシャーに煽られたナルトが啖呵を切ってしまった。サクラが慌てて諌めるが、もう遅い。他里の子が一斉にナルトを睨みつける。

 

「なんだとオラァ」

「ガキが。調子に乗りやがって」

「血筋が全てじゃねえってことを体に刻みこんでやるぜ」

 

 気の短い少年達が、ナルトに近づいていく。その全員がナルトより2つ以上年上で、背もかなり高かった。おそらく勝てない。

 しかしそこで、木の葉側からも背の高い少年が割って入る。

 

「よさないか。まだ始まってもいないじゃないか」

「て、てめえは……っ」

 

 少年を見て、気の短い少年達が途端に怖気づく。

 

「カ、カムイの兄ちゃん!」

 

 大蛇丸の長男カムイだった。

 先ほどまで落ち着いた雰囲気でいたが、今は全く異なった。全身から怪しげなオーラを発し、血に飢えた獣のような眼差しで少年達を睨む。さらに、長い舌でぺロリと舌なめずり。

 

「ぐっ」

「ひぃっ」

 

 少年達は慌てて逃げていった。

 カムイの雰囲気がフッと元に戻る。

 

「気付いたか。捕食者がどちらであるかということに」

「かっけぇ……」

 

 戦わずして勝利する。絶対的な力の差。

 言葉の意味は分からなかったが、ナルトはカムイに憧れを抱いた。

 

「や、やっぱりかっこよくない!?」

「怪しげな雰囲気! 物憂げな表情!」

「きゃーっ! カムイくぅーん!」

 

 他里の女の子達のハートも早速掴んだのだった。

 

 しばらくして、合宿開始の時間となった。子ども達は里ごとに並び、教員の指示に耳を傾ける。

 

「えーっ、早速合同訓練を始める。まず、クラス別けのために試験を行ってもらう。ここでは学年ではなく実力や特性でクラスを別けるからな。試験は、忍術、体術、ペーパーテストからなる。では、忍術の試験から始めるぞ」

 

 そうして試験が始まった。

 忍術の試験では、主にチャクラコントロールを調べられた。木登り、水面歩行、チャクラ感知など。

 体術の試験では、短距離走、長距離走、重量挙げ、手裏剣術など。

 ペーパーテストは演算能力や論理的思考を問う問題が多かった。単純に知識で答える問題もあった。

 

 なお、赤髪の男、梅太郎は試験の途中に遅れてやってきた。顔は痣だらけで、目には大きな隈。服もあちこち泥だらけだった。

 

「さ、財布が見つからなくって……。徹夜で……。か、母ちゃんが、ううっ」

 

 梅太郎は、公衆の面前でぽろぽろと涙を流した。教員は事情を理解しているので怒らなかった。

 ナルトは「こ、これはさすがにやばいんじゃないってば……」とドキマギしながら懐の財布を見た。続いてシカマルを見た。シカマルは何も言わず、ただうなずいたのだった。

 

 昼前にはテストが全て終わる。結果は初めの授業の後に発表される。

 初めの授業は、講堂で全員参加の歴史だった。授業の前に、川影の小南が出てきた。簡単な挨拶の後、合宿の狙いについて語った。

 

「皆も忍びになる子ですから、試験中は他里の情報を集め、自身のライバルとなる子に目星をつけたことでしょう。負けたくない気持ちは成長を促します。存分に競争してください。一方で、忍びの基礎は、たった2週間で身につけられるものではありません。重要なのは合宿が終わってからです。それを理解した上で、ここでしか得られないものは何かを考えながら日々を過ごしてください。忍びならば自分で答えを見つけることも必要ですが、厳密にはあなた方はまだ忍びではありませんから、授業を通して大人からアドバイスをします。と言っても受身ではいけませんよ。こちらから与える言葉をヒントにして、自分なりの解答を作ってみてください。では、初めの授業お願いします」

 

 小南は一礼し、去っていく。軽く拍手がわく。

 ナルトとキバは彼女が何を言っているかチンプンカンプンで、美人だとかおっぱい大きいとか考えていた。

 歴史は学者コースのフジタカが壇上に立った。いつものんびりした笑顔を浮かべている男だが、この場には柄の悪いガキがいっぱいいるので、睨まれてバツが悪そうだった。

 授業のテーマは『これからの戦争』だった。フジタカとしては『これからの平和』という題にしたかったが、柄の悪いガキは平和という名詞だけで拒絶反応が出るので、仕方なく重い言葉を使ったのだった。

 

「試験お疲れ様でした。結果が気になってらっしゃる方も多いでしょう。そこで、というわけではないのですが、授業に関係しているので、第一問の解答から始めたいと思います」

 

 歴史は嫌われやすい教科だ。テストに絡めて興味を引くのはフジタカの得意技だった。

 

「問題は、『現在の一国一里制度はどのようにしてできたか。部族制、千手一族、五大国、の三つの言葉を使って書け』というものでした。では、そうですね。当ててみましょうか」

 

 フジタカは桃隠れの生徒を探した。1人の生徒と目が合う。その生徒はとても苦い顔になった。

 

「すみません。当てやすいので私の長男に答えてもらいます。トウヤくん、お願いします」

「ぐっ」

 

 トウヤはナルトと同い年だった。学年が上の連中に「親子贔屓かよ」睨まれ、気分はよくない。

 しかし、反発すると余計に睨まれるだろう。それが分かっているからサッと立ち上がって答える。

 

「えーっと、もともと忍者は部族ごとに固まってやっていた。近所だとしても、他部族は敵。むしろ、近所だからこそ殺し合いが多く、より憎しみあっていた。が、これではいつまで経っても殺し合いから逃れられない。嫌気がさした千手一族の当主、千手柱間は、うちは一族の当主、うちはマダラと手を結んだ。当時力の強かった千手とうちはが手を組めば、どこの部族も手が出せなくなり、平和になるという目論見だった。柱間の思想に共感し、日向、猿飛、奈良など、今の木の葉にいる部族も集まってきた。そうやって、木の葉隠れの里ができた。実際、木の葉隠れは一時の平和を作った。それを見て、他の部族も里という制度を真似ていった。五大国にそれぞれ忍び里ができた。一国一里にしたのは、いろいろ理由が考えられるが、一番は依頼主を国で区切るためだろうな。そうやって管理しないと、同国の政権争いに巻き込まれてしまうから。……っと、こんな感じでいいですか?」

 

 トウヤは恥ずかしそうに言った。フジタカが笑顔で頷いたのを見て、そそくさと座った。

 桃隠れの子ども達から拍手と歓声がわいた。黄色い歓声が多かった。トウヤがイケメンだからだ。

 

「はい。ありがとうございます。満点でもいいのですが、うちは採点が厳しいので、30点満点で20点くらいでしょうか」

 

 本来はもう少し点がもらえるが、フジタカは息子を逆贔屓して低めに採点しているので20点になるのだった。

 

「えー、また知人で悪いのですが、補足をお願いしたいと思います。カムイくんお願いします」

 

 その瞬間、場がざわめいた。

 えっ。知り合いなの? どのカムイ?

 女子達が口々に疑念を述べる。彼はのほほんとした一般人とは対極の存在なはずである。しかし”大蛇丸の息子”は、温和な表情で「はい」とうなずき、立ち上がった。

 ほんとに知り合い!? というかあんな顔するの!?

 

「トウヤの解答でも悪くはありません。が、あえて付け足すなら、全ての里が平和的に手を結んだわけではないということ。むしろ、力あるものが統治するという力の論理によって、支配勢力を増やしていった場合が多いです。もちろん、木の葉に対抗するためにそうせざるを得なかった面もあります。ですから、纏めるなら、隣人との平和を望む者と、大国に蹂躙されないために勢力拡大を望む者の思惑が一致し、力の論理によって里を作った、という感じでしょうか?」

「ええ。すばらしいです。満点の解答です。ありがとうございました」

 

 フジタカがカムイに拍手をする。木の葉、桃、からも大きな拍手が巻き起こる。カムイは控えめに一礼して着席した。その仕草がさらに女子達のハートをつかんだのだった。

 

「きゃーっ! 博識!」

「あんなにすごいのに偉ぶったりしない! なんて完璧なの!?」

「すげえってばよ」

 

 ナルトはさらに尊敬を深めた。カムイの言っている内容自体は分からなかったが。

 

「俺も2年経てば」

 

 サスケはカムイをライバル視しているので、ギリと歯を噛んだ。

 イノは他の女子と一緒にキャーキャー言った。それをサクラに咎められた。

 

「ちょっと。他の男の人に色目使っちゃダメでしょ?」

「悪い? かっこいい先輩をかっこいいと思うのは当然でしょ? だいたいあんたもそう思ってんでしょ? 純情ぶってんじゃないわよ」

 

 イノは開き直り、逆にサクラに詰め寄った。

 

 さて、授業は進んでいく。フジタカは、木の葉隠れ、砂隠れ、雨隠れ、石隠れ、桃隠れ、東草隠れの順に里の成り立ちを説明していった。次いで、どうのように同盟軍が誕生したかを語った。ダンゾウ、日向一族、現風影の青年団、が元々トグロと険悪な関係だったことも隠さず語った。もっとも、どのようにその関係を改善したかにより重きを置いたが。

 なお、この時点でナルトとキバは眠ってしまっていた。

 

 同盟軍の話が終わり、ようやく本題となった。

 

「第三次忍界大戦は、同盟軍の力によって終結しました。同盟軍は世界最強の力を誇ります。力の論理でいえば、どこの組織も逆らえません。岩、雲、霧が同時に手を結ぶようなことがあったとしてもです。実際、世界には一時的な平和が訪れました。しかし、その同盟軍によっても、完全な平和は実現できませんでした。つまり、力の論理だけでは防げない戦いがあるのです。その戦いをどう防ぐか。どう民を守っていくか。それが皆さん若い世代の課題です。方法はいろいろ考えられるでしょう。さらなる力で押さえつけるのか。監視の目を強固にするのか。話し合いで理解を求めるのか。新術や新技術の開発が、新たな可能性を生むこともあるでしょう。もちろん、未来は誰にも分かりません。私が挙げたどれもが不正解かもしれません。しかし、歴史の中にヒントが隠されていることもあるでしょう」

 

 ふと、「ふああー」と大きな欠伸が聞こえた。なおも「ふああー。ふああー」と続く。欠伸というよりイビキらしい。犯人はアバレだった。ナルトの「サクラちゃん、もう食べられないってばよ」という寝言も続く。梅太郎からは「お、お母様」の声も。

 現在、ナルト、キバ、梅太郎、アバレの4人が盛大に眠っていた。サクラとイノが、それぞれナルトとキバをぶん殴った。梅太郎とアバレは、桃隠れの娘が起こした。

 

「ひゃああっ! サクラちゃんが急に母ちゃんに!」

「おい赤丸! お前俺の肉食ったな!」

「ひいいいぃっ! イナリ寿司で許してぇ!」

「カチコミか! どこの組のもんだオラァ!」

 

 それぞれ寝ぼけを披露しながら起きた。

 フジタカは困り顔で講義を再開した。

 

「お疲れでしょうか。では、こうしましょう。今から問題を出しますから、皆さん答えを考えてみてください。周りと相談してもかまいません。いえ、各里で1つずつ答えを出すことにしましょう。後で代表者に発表してもらいます。ただし、答えを知っているトウヤくんとカムイくんは無しでお願いします。では、問題です。忍びの始祖、六道仙人。1000年以上前に生きていたかもしれない伝説の人物とされています。しかし実は、彼の思想や、彼がどうやって平和を実現しようとしたかを知る方法があります。それはどのようなものでしょうか。お答えください。15分さし上げます。ではどうぞ」

 

 それぞれの里ごとに話し合うことになった。

 カムイがいなくなったので、木の葉は代表者の選出に揉めた。カムイがやれやれと出てきて、日向ネジを代表に指名した。

 カムイと同年代の子がカムイに詰め寄った。

 

「なっ、あいつ年下じゃねえか」

「こんな話し合いでいちいちケンカしているやつに代表の資格はない」

「何!?」

「おいカムイ! お前最近調子に乗りすぎだろ!」

「俺に文句があるのか?」

 

 カムイが同年代の子を軽く睨んだ。彼等は途端におとなしくなって、カムイの言葉に従った。

 ネジは各学年で10分話し合うように言った。残り5分でそれぞれの意見を出し合い、自分が纏めるとも。

 

「ねえサクラ。あんたなら分かる?」

 

 イノはまずサクラに尋ねた。他のメンバーも聞き耳を立てた。ペーパーテストの成績はいつも彼女が一番いいと知っているからだ。シカマルが真面目に受ければ逆転するが、彼は滅多に真面目に受けない。

 

「分からないわねえ。1000年前のことでしょ? 昔は文書があったのでしょうけど、時が経つにつれて偽の文書が出回っていくでしょう? どうやって本物を見分けるのか」

「そっか。あんたでも分かんないのかあ」

 

 イノはため息を吐いた。サクラは、むむっ、と眉間を寄せていた。

 

「つーかさあ。これ忍者と何の関係があるわけ? 俺たち修行しに来たんだってばよ」

「そうだよなあ。勉強なんてかったりーぜ。歴史とか知って何になるって話だぜ」

 

 ナルトとキバは早くも思考を放棄し、愚痴を言っていた。

 

「だからバカなのよ。あんた達は」

 

 イノがつぶやいた。

 

「なんだとぉ!」

 

 キバがイノに食って掛かり、それをチョウジが止めた。

 

「シカマル。分かる?」

 

 チョウジはシカマルに尋ねた。シカマルはポケーッと天井を見ながら考えていた。

 

「いや、分からん」

「そっか。シカマルにも無理なのか」

「むきー! こんなの考えて何になるってばよ! 答えだけ知ったらいいってばよ!」

「そんなこと言って、どうせ答えを聞いても覚える気ないでしょ?」

「そ、それは……」

 

 サクラのツッコミを、ナルトは笑って誤魔化す。キバがナルトをバカにして笑い、イノが「あんたもよ」と釘をさす。いつものパターンだった。

 その時、桃隠れ方面から歓声が上がった。

 

「それだ!」

「よくぞ閃いた!」

「チッ。正解かもな」

「たまには褒めてやる。正解だったらな」

「でも、卑怯です! こいつはお母様がクラマさんなので!」

「ふっふっふ。もっと褒めてくれてもいいんだぜ? だーっはっはっはっは!」

 

 梅太郎が正解を思いついたらしい。盛大に笑っていた。

 あいつ、バカっぽいと思っていたのに、勉強まで……。

 このままでは、自分達はたった一人に戦闘も勉強も完敗してしまう。ナルトの中で焦りのようなものが生まれた。

 

「シカマル!」

 

 ナルトは叫んだ。このメンバーで最も頭が回る男に答えを見つけてもらうために。

 

「チッ。めんどくせーが、やるしかねえな」

 

 シカマルは床に座り込み、胡坐をかいた。本気モードである。

 イノ達もシカマルを祈るような気持ちで見つめた。ナルトと同じく、全員合わせても梅太郎1人の能力に劣るというのは耐えがたかった。

 10分後、シカマルは額から汗をかきながら息を吐いた。

 

「ふう。情報が足りないが、勘でいくしかないか」

 

 ネジの周囲に集まり、学年ごとに答えを述べていった。シカマルの案が全面的に採用された。

 

 代表者がフジタカの周りに集まり、答えを紙に書いていった。

 雨と東草の解答は同じような感じだった。残っている文書や口伝から、地道に本物を探すというもの。

 砂の解答は風影の長女テマリが行った。

 

「世の中には死人を蘇らせる術がある。それで六道仙人本人か、近い人間を蘇らせればいいのさ」

 

 周りからは「そんなのありかよ!」「木の葉の卑劣な術のことだな!」という声が上がった。

 桃は現川影の長男が答えた。

 

「世の中には尾獣ってのが9体いる。彼等は六道仙人の時代から生きていて、六道仙人のことをよく知っている。だから彼等に聞けばいい」

 

 周りからは「そんなのありかよ!」「本当にいるのか!?」という声が上がった。

 木の葉からは日向ネジ。

 

「六道仙人は月を作った。我々は未だ月に到達していない。よって、あそこには六道仙人の残した遺跡が手付かずのまま残っているはずだ。それを調べればいい」

 

 周りからは「そんなのありかよ!」「すげえ! これは正しい!」「待て! 遺跡があるとは限らないぞ!」という声が上がった。

 一番反響が大きいのは木の葉の解答だった。誰でも知っている知識を使い、なかなか思いつかないアイディアを出した。頭の回転のよさが子ども達の心を捉えた。

 

 フジタカは、全てが正解だと言った。特に木の葉の案が素晴らしいとも。

 そして講義が再開する。現実的には、桃隠れの案と雨隠れの案を併用して研究を進めていっている。そうして分かった新事実がある。という話になる。

 

「六道仙人の生きていた頃、実は、チャクラを扱う手段のことを、忍術ではなく忍宗と呼んでいたのです。2つの違いは、戦う術か、平和を実現するための思想か、と言えばいいでしょうか。チャクラ自体も、もとは人と人の心をつなぐためのものであったそうです。と言っても、心と心を直接繋ぐ術だけが、正しい忍宗の技というわけではありません。技である必要もありません。講義の初めの話を覚えていますか? 千手柱間が、うちはマダラと手を結んだときに言った言葉です。腸(はらわた)を見せ合うことができれば、戦いなんてしなくなる。実際、柱間とマダラは互いが互いの平和を望む心を理解し合い、手を結ぶに至りました。これです! 実は、六道仙人の考え方は、今の時代にも通じることだったのです! おもしろいのは、滝隠れで、思念を感知する忍びのことを”新型”と呼んでいることでしょうか。本当は”旧型”の忍びと呼ぶべきなのかもしれませんね。それが悪いという意味ではなく」

 

 その時、鐘が鳴った。授業終了を知らせる合図だった。

 

「ちょうどいい時間に終わりました。では、講義はおしまいです。皆さんこれから2週間頑張ってください」

 

 そうして長い講義は終わった。

 生徒達はしんどそうに伸びをしたり、講義の感想を言い合ったりした。女子はカムイに対する感想が多かったが。

 

 しばらくの後、5人の教員が講堂にやってきた。手には数十枚の紙を持っていた。名前を呼び、それを一枚ずつ生徒に手渡していく。試験結果が書かれていた。

 

「いよっしゃあああ! 初の400点超え!」

「チッ。負けたか」

「あんなに勉強したのに……」

 

 己の結果を知った生徒が、様々な反応を見せる。

 

 ナルト、サクラ、イノ、シカマル、チョウジ、キバは、もらった場所では結果を見なかった。一斉に見せ合うことにしていたからだ。

 

「まだ見てないわよね? せーので見せ合うわよ」

「き、緊張するってばよ」

 

 ナルト達がごくりと唾を飲み込む。

 

「せーのっ!」

 

 イノの超えに合わせ、一斉に成績表を出す。

 

「こ、これは……」

「読みづらい。えーっと、Dが2つでFが1つ。この場合、どうなるんだってばよ」

「単純に足し算でいいんじゃねえか? それぞれ点数も書いてるだろ」

「えーっと、三桁の足し算はちょっとお」

「バカねえ全く。貸してみなさい」

 

 結果は以下の通りだった。

 

  名前  忍術  体術 紙試験  合計

 ナルト 121 143  17 281

 サクラ 155  85 108 348

  イノ 118 117  84 319

シカマル 115 114 191 420

チョウジ 116 115  65 296

  キバ 113 141  18 272

 

「いよっしゃあ! 勉強でナルトに勝ったぜぇ!」

「総合的には負けてるけどね。勉強も目くそ鼻くそだし」

「い、言わないでくれ」

「というかシカマル! あのテストで200点近く取れたの!? アカデミーどころか下忍レベル超えてんじゃないの!?」

「まぐれだ。気にすんな」

 

 キバ、シカマルに、イノ、サクラがそれぞれツッコんだ。

 ナルトはいつもより成績が悪いことにガッカリした。紙試験の比率が高いせいだとシカマルに慰められた。

 サクラは逆にいつもよりかなり成績がいいことに喜んだ。紙試験もいいが、忍術がこの中で断トツ一番だ。チャクラコントロールの試験がほとんどだったので、実践で強いかどうかは分からないが。

 チョウジとシカマルは「シカマル。珍しく本気出したんだね」「ま、こんな時くらいはな」というやり取りもした。

 サスケは6人の成績を覗き見て、苦しい顔になった。総合でシカマルに負け、サクラともあまり変わらない。しかし、忍術と体術の合計で見ると、自分がある程度離してトップである。自尊心は守られた。

 シノも内心はサスケと同じような反応だった。誰も見てくれないが。

 ヒナタは、自分の成績を見て理由なくとりあえず落ち込み、次いでナルトの成績からいいところを探した。その結果以下のような感想になった。ナルトくんはやっぱり体術がすごい。私はダメだな。姑息にも偶然高い点を取っちゃった。

 サスケ、シノ、ヒナタの成績は以下の通りである。

 

 サスケ 141 151  78 370

  シノ 131 136  94 361

 ヒナタ 174 135  83 392

 

 さて、木の葉隠れのメンバーには成績の気になる男がいた。桃隠れの梅太郎である。

 おそらく自分達より上だろう。しかし、その差がどれほどかを知っておきたい。試験の数値が全てではないにしても。

 

「こっからじゃ見えないってばよ」

「でも、わざわざ聞きにいくのもねえ」

 

 ナルトとサクラが遠目に梅太郎を見ながら言う。

 梅太郎は桃の仲間と成績を見せ合っていた。そして、不意に崩れ落ちた。

 

「う、うわあああ! 母ちゃんに殺されるう!」

 

 どうやら結果は芳しくなかったらしい。サクラはホッと一息ついた。ナルトは難しい顔だ。ライバルは強いほうが盛り上がると思っているからだ。

 

「えっ!?」

 

 と、そこで不意に、ヒナタが声を漏らした。ナルト達の視線がヒナタへ向いた。

 ヒナタは目の周りに血管を浮き上がらせて、梅太郎の方を見ていた。白眼で梅太郎の成績を見たのだろう。

 

「ヒナタ、どうしたってばよ!」

「見たのね! あいつの成績!」

「ヒナタ。俺にも教えろ」

 

 ナルト、サクラ、サスケがヒナタに詰め寄った。

 ヒナタは、言わないほうがいいかもしれないと思った。

 

「ヒナタ、教えてくれってばよ!」

 

 が、ナルトに見つめられたので、話してしまうことにした。

 

「た、たぶんだけど」

 

 本当は完全に見えていたが、一言断りを入れた。こういう性格なのである。

 

「それでいいってばよ!」

「に、忍術、243」

「に、200ぅ!?」

「体術、301」

「なっ!? 300ぅ!?」

「紙試験、51」

「51ぃ!?」

 

 忍術と体術の飛びぬけた成績は、木の葉の全てのメンバーにとって衝撃的だった。勉強の数字はナルトとキバにとって衝撃的だった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 ヒナタは何故か謝り、走って逃げていった。梅太郎のことが衝撃的過ぎて、誰も追いかけることができなかった。

 しかも、梅太郎は今、ガックシと両手両膝をついているのである。いつもはもっと点が取れるということ。実際取れるはずだ。試験中の彼は、徹夜と母からのお仕置きでボロボロだったのだから。

 

「テストなんてどうでもいいじゃねえか。おめーいつから真面目ちゃんになったんだ?」

 

 アバレが梅太郎に近づいた。

 

「か、母ちゃんが、同じ年だったイタチさんに勝てないと八つ裂きにするって……」

「へえ。あいつ何点だったんだ?」

「598」

「うぷっ。たった3点差じゃねえか! 間抜けだなあ!」

「く、くそーっ! 徹夜さえ無ければ! もう20点は確実に取れたのにぃ!」

 

 イタチの名前に、サスケが衝撃を受けた。

 憧れの兄。しかし、父はいつもいつも兄と自分を比べ、兄ならもっとできたように言う。

 それが、全くの事実だった。兄は桃の化け物連中と渡り合えていた。しかし、自分はぬるい木の葉で悦に入っている道化だったのだ。

 

「くそっ!」

 

 サスケは地団駄踏み、講堂から出て行った。




梅太郎は九尾の力を受け継いでいる化け物なので。

ナルト達は9歳ですが、原作初期とほぼ同じ強さの設定。
大蛇丸が厳しくしつけているのと、雲隠れとの戦争があって修行の大切さを身にしみて分かっているので。とは言え、原作ほどの成長速度は期待できません。年齢による制限を受けます。

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