桃隠れでは労働と修業が一体になっている。
ナルト達は、水汲み、薪割り、狩り、火起こし、山菜採集などの肉体労働を、トレーニングを意識しながら行った。集めた食材などは、サービスコースのメイド達に届けた。
日が傾きかけた頃、生徒達は1から8までの番号を書いた紙を渡された。番号ごとのチームになってゲームを行うという。ダム近くの大広場で、それぞれの番号ごとに別れて集まった。木の葉隠れでは、ナルトとヒナタが1、サスケとサクラが2、イノとカムイが3、シカマルとシノが4、……、などとなった。指導役と他の里の生徒を合わせて、各数字に15人集まった。
「ナ、ナルトくん。頑張ろうね」
不意に、ヒナタがナルトに言った。
発言にはかなりの勇気を要したが、ナルトはサクラとサスケの方を見たまま動かなかった。声が小さくて聞こえなかったようだ。
不意に、ナルトもつぶやいた。
「くぅー。サスケのやつ、羨ましいってばよお」
「えっ」
ヒナタは固まってしまった。
ナルトがサクラを好んでいることは知っていた。しかし、目の前にいる自分を完全に無視して、サクラばかり見るのはショックだった。
ヒナタの目が徐々に潤んでいく。
「はい注目。今から”シュキ”というゲームを説明するよ」
1番の組にあてがわれた指導役が、パンパンと手をたたいた。メガネをかけた若い男だった。強そうには見えない。
「ルールは簡単。あの辺りに盛り上がった土俵が4つあるだろう?」
メガネの男は盛り上がった円形の土を指差す。それぞれ直系50mくらいで、高さは50センチくらいあった。
また、土俵には7個のボールが半分だけ埋められていた。ボールの1つは土俵のど真ん中に埋められていて、色は赤。残り6つは、真ん中のボールを中心とした正六角形を描くように埋められていた。正六角形の一辺は約10m。ボールの色は青。
「攻撃と守備に別れて行う。攻撃側は、時間内に赤いボールを持っていれば3点。青いボールを持っていれば1点。守備側は、ホールドによって攻撃側を捕まえる。女が男を捕まえれば2点。他は1点。ホールドは攻撃側1人につき守備側2人まで。攻撃と守備は代わりばんこで5回ずつ。時間は一回の攻守につき1分で、休憩も1分。始めの合図の時点で、守備側は正六角形の外接円の内側にいなければならない。内側ならどこでもいい。攻撃側は土俵の外ならどこでもいい。始めの合図で攻撃側が土俵に上がる。守備側攻撃側ともに、それ以降土俵の外に出てはならない。土俵内は自由に動ける。守備側は埋められたボールに触れてはならない。抜き取ったボールは自由にしていい。攻撃側守備側ともに、打撃、投げ技、忍術などは全て禁止。破ったらそれぞれ減点1。悪質な場合は退場もあるよ。おっと、例外的に、女性が男性のホールドを外すための打撃なら許されるよ。うん、こんなものかな。何か質問は?」
メガネの男が尋ねる。
赤髪の少年がそろそろと手を挙げた。目堀が深く、額に愛の刺青があるのも特徴的だった。
「はい。砂隠れの我愛羅くん」
「僕の名前を?」
「有力者のデータは全て入ってるからね」
メガネの男は得意げに頭を指で叩いた。
「ホールドとはどんなものなの?」
「うん。いい質問だ。1度僕達でやって見せるからそれを参考にしてね。他に質問は?」
質問は出なかった。
いや、ナルトがムスッとした顔で言った。
「ゲームはいいんだけどさあ。これどうやってチーム別けしたんだってばよ」
「当然、実力が均等になるようにさ。僕も含めてね」
「ええーっ、お前も入んの!?」
「失礼なやつだなあ。僕は上忍だよ?」
「上忍って確か、一番偉いやつ!? お前が!?」
「全く。クシナさんともあろう方がどういう教育をしてんだか」
「か、母ちゃんは関係ねえだろぉ!」
ナルトは怒鳴り、メガネ男に対しギチギチと歯を噛みしめる。そこで、ピンク髪の少女が2人の間に割って入った。
「カブトさん。他にやることがありますでしょう。まずは自己紹介とそれぞれの実力の確認を」
少女はゲームの事情を理解しているらしかった。おそらく桃隠れ出身だろう。
「ああ、ユリ。そうだね。でもちょっと待ってくれ。そろそろ実演の時間だ。君も来るかい?」
「えっ!? い、いえ、私にそんな実力は……」
カブトは周囲を見渡し、他の指導役の進行状況をチェックした。他の指導役は腕で丸印をつくり、カブトに準備完了を知らせる。カブトが口笛を吹く。指導役が土俵の1つに集まっていく。
「なんであいつが……」
何故か、指導役の中に梅太郎もいた。既に教員レベルだというのだろうか。ナルトのライバル心や嫉妬心がメラメラ燃えていく。
「呼ばれたやつは出てこーい! カムイ、テマリ、正重、新一、哀、アバレ、モモカ、ココア、サン、レモン、トウヤ、雪芽、吹雪丸、エンジ、雪乃!」
カブトの言葉でぞろぞろと生徒が集まっていく。ほぼ桃隠れだが、木の葉と砂と雨隠れの生徒もいた。実はカムイ等は、以前に桃隠れの合宿に参加したことがあった。だからこのゲームを知っている。知り合いがいたのもそのためだ。
「なんか、ピンクっぽい髪のやつがいっぱいだってばよ」
ナルトの感想だ。桃隠れにはピンク率が高かった。赤や紫も多いが、それもピンクっぽいの言葉に含んでいる。
「うちはお父様を筆頭に、赤髪のうずまき一族が多くいますからね。それに、長門さんとサソリさんも赤髪ですし。ミゾレさんやアラレさんは藤色ですし」
近くにいたユリが答えた。かく言う彼女もピンクである。
サクラと同じ髪色で、顔もなかなか美少女だったので、ナルトはドキリとしてしまった。
「ふ、ふーん、ってばよお」
ナルトは緊張を誤魔化すように言った。
そこで、不意に誰かがナルトの袖を引っ張った。
「ナ、ナルトくん! 試合始まるよ!」
ヒナタだった。
「わ、わりぃ!」
ナルトはニカリと笑い、試合に目を向けた。
ナルトの視線の先にいるのは、やはり梅太郎。今は攻撃側だった。
審判役はカブトの分身。
「始め!」
その分身の合図で試合が始まった。攻撃側が一斉に中に入る。
その瞬間、梅太郎の姿がパッと消える。ナルトは彼を見失ってしまった。
「クソッ! 速いってばよ!」
「ウラウラウラァ!」
梅太郎の声だけが聞こえた。他の指導役もとてももすばやい。見えるのは生徒達だけだ。
「ホールド!」
「うっ」
「ホールド!」
「うわっ」
と、2人の女指導役が、攻撃側男子の1人に次々と抱きついた。少年の前からと後ろからで、手足を使ってガッチリホールド。男子はもがくが、どうにもならない。
それ以上に、とても羨ましい。
「こ、これがホールド。すげえってばよお」
さすがは桃色の里。ナルトのみならず男子達は思った(サスケ等除く)。
ナルトは思わず鼻血を垂らしてしまった。ヒナタがティッシュを取り出し、サッとナルトの目を覆った。
「うわっ!? なんだ!?」
「ご、ごめん。間違えちゃったっ」
ヒナタは謝り、今度はティッシュをナルトの鼻の下につけた。さすがに鼻に突っ込むまではやらない。
さて、そうこうしているうちに一回の攻撃は終わる。
カブトの分身が点数を計算する。
守備側は、5人の女子が男子に抱きついていた。攻撃側は、1つの赤ボールと2つの青ボールを持っている。
「攻撃5点! 守備9点!」
カブトの分身が言った。
とりあえず、ルールはだいたい分かった。ナルトは右の拳を左の手のひらに打った。
「あれ? 守備側は10点じゃ……」
ふと、ヒナタがつぶやいた。
「雪乃くんは男なのですわ」
「ええっ!?」
ユリの言葉に、ナルトとヒナタが衝撃を受けた。どこからどう見ても女である。美少女と言っていい顔で、服装も女物の着物だった。
カブトが1番チームの輪に戻る。全員で自己紹介をしていく。
終わると、軽く”シュキ”の練習をする。カブトが中心になって競技のポイントを伝える。
「ボールを持っている人をホールドしたら、そのボールを奪って土俵の外に投げ捨てること。それができないと相手に点が入っちゃうからね」
「なるほど」
体を使った練習で、ナルトもルールを覚えることができた。本当のところを言うと、口頭の時点ではチンプンカンプンだった。
今日は4チームずつに別れて、各チーム3戦ずつのリーグ戦。結果がよかった順に、夕食、風呂、寝室などが豪華になる。特に、1位のチームは寝室が男女兼用である。さすがは桃色の里であった。
ナルトの初めの対戦相手は2番チームだった。サスケとサクラのいるところだ。
「サ、サクラちゃん。これはゲームだってばね。恨みっこなしってばね」
「うげえ、ナルトぉ。サ、サスケくぅうん! けだものから私を守ってぇ」
「オレは本気で勝ちにいく。お前も真面目にやれよ」
「ご、ごめん。サスケくぅん」
サクラは落ち込んだ。ヒナタもナルトの後ろで落ち込んだ。
さて、試合が始まる。ナルトは守備側でサスケは攻撃側だった。
合図と共に、2番チームの指導役の男が真ん中の赤ボールに突っ込んだ。ナルト達にはほぼ見えない。が、カブトが防いだらしく、気付いた時には指導役はカブトに捕まっていた。後ろから抱きつく形で。そこにユリが突っ込み、前からもホールドした。2番チームの指導役は「クソッ」と言ったが、にやけ面だった。
「チッ」
遅れて、サスケがナルト近くの青ボールに突っ込んだ。
「サスケェ!」
ナルトが意気揚々と迎え撃つ。
互いに細かくステップを踏み、一方は捕まえようとし、一方は逃れようとする。
「きゃあ!」
ふと、サクラの悲鳴が聞こえた。ナルトはそちらに気を取られてしまう。その隙にサスケがナルトを突破する。
「あっ」
「ふん」
サスケはボールを蹴り、味方にパスをした。そのまま逃げていく。
「クソッ!」
ナルトは悔しがりつつ、サクラの方を見る。サクラはお尻を地面につけて座り込んでいた。チャンスのはずだが、サクラの前にいる我愛羅は、なぜかサクラに謝っていた。
「ご、ごめん。母さんが……」
「母さん?」
「1番チーム減点1! 忍術の使用禁止!」
審判役のカブトの分身が言った。どうやら我愛羅が忍術を使ってしまったらしい。
サクラは立ち上がり、サッと我愛羅から逃げた。
「むふふっ! 逃がさないってばよ! サクラちゃん!」
ナルトはスケベな笑みを浮かべてサクラへと駆けた。
体術の実力はナルトの方が上なので、簡単に追いつく。
「うわっ。サ、サスケくぅん」
「ふっふっふ。覚悟ぉ!」
ナルトはよだれを垂らしながらサクラに飛びつく。
サクラは目を潤ませ、身をかがめる。かと思ったら、急に拳を握り締め、歯を食いしばった。
「しゃーんなろーーー!」
サクラは叫び、体重の乗った右ストレートを放った。
「へっ?」
拳が、ナルトの顔面に深くめり込んだ。
「ぶへえええっ!?」
ナルトは鼻血を出しながら吹っ飛んでいった。大ダメージである。一発で行動不能になってしまった。
などなどがあり、結局2組が勝った。
ナルト、ヒナタ、我愛羅が精彩をかき、足を引っ張った。特に我愛羅が減点を食らいまくった。逆に、サスケとサクラはよかった。
「サスケに負けたってばよお。いつつっ」
「ご、ごめんなさい。私のせいで」
「僕もごめん。母さんが女の子に触れちゃダメって言うんだ。勝手に砂が……」
それぞれが1組の輪に戻り、反省を述べた。
カブトが困り顔でまとめた。
「しょうがない。我愛羅は男のみを相手してくれ。それと、女の子に近づかれないように注意だね。ナルトは周りをよく見るように。自分勝手に動き回ると仲間の迷惑にもなるよ。ヒナタはどうしたんだい? 君らしくもない」
「すみません。迷惑をかけます」
「分かったってばよ」
「ご、ごめんなさい。次は頑張ります」
我愛羅、ナルト、ヒナタの順で応じる。
しかし、次の3番チーム戦も、その次の4番チーム戦も、この3人が足を引っ張った。結局1組チームは全敗してしまった。逆に2番チームは全勝だった。
ゲームの後、皆で食堂に向かった。食事はサービスコースの学生達が提供するが、ゲームの結果がよかった組ほど、成績のいい学生の料理を食べられるのだった。食材自体もこちらの方が高級である。
とは言え、皆、修行とゲームで疲れているので、なんでもかんでもおいしい。男子達はガツガツと食べていった。女子達も、人によってはおしとやかでない。一番食べていた女子はヒナタだった。日中のストレスをぶつけるように、食材を胃袋に詰め込んでいった。
食事の後、結果のよかった組から順番に風呂に入った。
風呂を待つ間、ナルトは”シュキ”の練習をするために、我愛羅とヒナタを呼んだ。”シュキ”は毎日行われると言っていた。これ以上足を引っ張りたくなかった。我愛羅とヒナタもうなずいた。我愛羅は単純にうれしそうに。ヒナタは顔を赤くして、鼻息荒く。
まず、ナルトとヒナタの一対一。
「行きます!」
「通さねえぞ!」
「くっ」
ナルトとヒナタでは、若干ナルトの方が体術が上だった。
ヒナタは追い詰められ、抱きつかれた。
「ほいっ」
「ひゃあんっ」
「ふふふ。捕まえたってばよ」
「捕まっちゃった……」
ヒナタはとてもドキドキした。目の前にナルトの顔。ナルトの胸が自分の胸に当たっている。
我愛羅は状況を察し、ヒナタにぱちぱちと拍手を送った。
「ヒナタ。女子は男子に捕まりそうになったら殴ってもいいんだってばよ」
「う、うん」
ナルトから助言があって、もう一度。
「行くってばよ!」
「う、うん」
ナルトが突っ込み、ヒナタが柔拳で構える。
「そりゃっ」
「えっ、えいっ」
ナルトが飛び込む。ヒナタは掌底を繰り出すが、ナルト相手に本気は出せず、へろへろだ。
「甘いってばよ!」
「ひゃっ、ひゃあああんっ!」
そして、また抱きつかれてしまった。甘ったるい嬌声が星空に響いた。
次いで、ナルト対我愛羅。
こちらはとてもいい勝負だった。あえて言うなら、若干我愛羅が優勢だった。
「やるじゃねえかってばよ!」
「あ、ありがとう」
「でも、どうしてゲームでは砂を使ったってば? ずるしなくても」
「それは……」
我愛羅は悩んだ。言ってもいいものかどうか。父や姉からは、無闇に口に出すなと言われている。自分でもあまり知られたくないと思う。
が、何故かナルトになら知られても構わないと思った。ヒナタも悪い子には見えない。
「実は、僕の中には母さんが……」
我愛羅は語っていく。
我愛羅が6歳の頃、砂隠れは謎の集団から襲撃を受けた。敵は皆が写輪眼を持っており、とても強力な幻術を使った。風影の護衛達がなすすべなくやられ、その一部は敵の操り人形になった。
敵の幻術を受けないためには、敵の眼を見なければ良かった。しかし、それはこちらが目を閉ざして戦うことを意味する。それができる忍びは多くない。その上、感知が得意な忍びは、敵に優先的に狩られていた。敵は綿密に計画を練っていたのだろう。残っている感知ができる忍びは、風影含めて極僅かだった。
そんな状況で、我愛羅は感知ができる人間の1人だった。まだ6歳で力は弱いが、生死がかかっている場面で贅沢は言っていられなかった。我愛羅は戦場に立ち、仲間に敵の居場所を指示する形で風影側を援護した。
それでも風影側は不利だった。不意に、我愛羅の母が「この子と私の思考をつなぐ! そうすれば!」と言った。風影は混乱したが、我愛羅の母は止まらなかった。尾獣に使うような封印術を己に使い、身体をまるごと我愛羅に封印してしまった。
我愛羅と母は精神を共有し、チャクラも共有した。我愛羅の感知能力と母のすさまじい馬力が合わさり、幻術使い達を蹴散らしていった。
そして現在に至る。
「つまり、どういうことだってばよ?」
ナルトの感想である。ヒナタも途中からよく分からなかった。
「僕の中には母さんがいるんだ。女の子に触れようとすると、砂が出てきて邪魔するんだ。結婚するまで待ちなさいって」
「よく分かんないけど、それじゃあ手もつなげないってばよ」
「いつもはここまで口出ししないんだ。でも、桃隠れに来てから母さんの様子がおかしいんだ」
話はよく分からないが、我愛羅は女の子に触れないらしい。
試しにヒナタが触れようとすると、ふつうに触れた。
「触れたってばよ! どういうことだってばよ!」
ナルトが我愛羅に怒った。
「ご、ごめん。でも、こういうのなら構わないって母さんが。抱きつくのはダメらしいけど」
その後も、3人で”シュキ”の練習を続けていった。
ナルトがヒナタに抱きつくたび、ヒナタは嬌声をあげた。逆にヒナタがナルトに抱きつくと、「ご、ごめん!」、と謝ってすぐに離してしまうのだった。我愛羅がヒナタに抱きつこうとするか、ヒナタが我愛羅に抱きつこうとすると、砂が出てきて邪魔をした。
練習に盛り上がっていたので、風呂に入るのが遅れてしまった。
我愛羅とナルトは2人で風呂に入ろうとした。ところが、そこにカブト、雪乃、白がいた。雪乃と白は雪一族の血を引いており、女顔。髪も長かった。カブトも女顔であり、メガネを外すと印象が全く違った。
「ご、ごめん!」
「間違ったってばよ!」
ナルトと我愛羅は急いでもう1つの風呂場へ走った。
中に入ると、カブトっぽい背格好で、カブトと同じメガネをかけた女性がいた。修道着を着ていた。
「あら? 君達こっちは……」
ナルトも我愛羅も慌てていたので、彼女のことをカブトだと思った。
彼女の他にも、吹雪丸という少女がいた。雪一族の娘であり美少女だが、武士に憧れていて、いつも男性の格好をしていた。髪も短かった。この時パンツ一枚だったが、男子にその姿を見られても何とも思わなかった。
「焦ったってばよお」
「僕も。驚いたよ」
ナルトと我愛羅はようやく風呂に浸かることができた。大きくため息を吐いた。
その時、1人の少女がとても焦っていた。ヒナタである。
ナ、ナ、ナルトくん。我愛羅くんも。ど、ど、どうしてここにい!
心の中で叫んだ。彼女はナルトの気配を察した瞬間、水の中に潜っていた。怒るとかそういう思考は全くなかった。
わ、私、間違えちゃったのかなあ!? もう! 私のバカバカ!
で、でも、ノノウさんも吹雪丸ちゃんもいたような? どういうこと!? あれ? もしかして、ナ、ナルトくんが間違えちゃったの!?
ヒナタはブクブクと泡を吐きながら、水に潜り続けていた。
「いえーっい。てばよお」
ところが、そんなヒナタに全裸のナルトが近づいてきた。ナルトは泳いでいたのだった。
「ま、まずい! ナルト!」
不意に我愛羅が叫んだ。内側にいる母の声で、間違いに気付いたからだった。
「ん? どうかしたってば?」
ナルトは泳ぐのをやめ、立ち上がった。ちょうどのヒナタの真上であり、両足はヒナタの胸と股に乗った。
「あれ? おっかしいなあ。足元がむにゅってなるってばよ」
ナルトは足元を見た。そして気付いた。ヒナタが自分の下にいて、ダラダラと鼻血を流していることに。
「ヒナタ!? なぜここにぃ!?」
ナルトの絶叫が女風呂に響いた。ナルトは慌てて飛びのいた。
ヒナタは起き上がってこなかった。興奮のあまり気絶していたからだ。水を飲んでいたので、ノノウが慌てて治療した。
カルラの砂の壁は完全に尾獣の域ですよね。ですからこんなことも可能かなあなんて。