疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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上代の日本語で『我』のことを『あれ』とも言っていたようです。
自分は専門家ではありませんが、おそらく女の子はかわいらしく『あれ』と言っていたことでしょう。


月に移って、お仕置きされちゃう

 白ゼツはウサギ一号に暗殺者としての教育を施した。6年間自らが鍛え、常人の域を十分に超えたところで、滝隠れの下忍と模擬戦をさせた。

 結果、忍術も体術も、ウサギ一号が圧倒した。結末は予想通りだったか、実力は期待以上だった。この世で一番と思えるほどの隔絶した才能。やはり母の生まれ変わりかもしれない。

 しかし、ウサギ一号には暗殺者として致命的な弱点があった。感受性が強すぎることだ。相手にダメージを与えると、自分も痛いと感じてしまう。人殺しどころか、獣の狩りでさえ悶え苦しんでしまう。自分が殺さずとも、近くで人が死ねば発狂してしまう。

 

 黒ゼツが言った。

 

「そいつがあと3年しても使えないようだったら、ギレンに貸してやって写輪眼量産の媒体に使え」

 

 実は、神居結(かみいゆい)は度重なる実験で衰弱しきっていた。もうほとんど死者の念を呼び寄せることができなくなっていた。しかし、ウサギ一号にはそれができた。

 

 白ゼツは焦った。かわいいウサギ一号が人体実験で廃人になる姿は見たくない。それまでたった3年しか時間が残されていない。

 白ゼツは、ウサギ一号が人殺しに発狂しないように、様々な手段を試してみた。ある時は、無我の境地を目指して、共に滝に打たれたり、座禅を組んだりした。結果は逆に、ウサギ一号の感知能力が上がってしまった。またある時は、卑劣で有名な二代目火影の自伝を読ませた。自己犠牲と平和の精神を学んでしまった。またある時は、桃隠れの教科書を読ませた。様々な知恵を身につけ、愛のすばらしさを知ってしまった。

 もう何もかもが逆効果だった。ウサギ一号は暗殺者と対極の生き方に憧れ、それが取り返しのつかないところまで来てしまった。もはや、黒ゼツの部下になることは不可能。人体実験をさせないためには、逃がすしかない。黒ゼツには死んだとでも伝えればいい。

 

 白ゼツは黒ゼツの目を盗み、アジトを脱出した。目的地は月。浮いて月に行くのではない。地球には月に行くためのワープ装置がある。以前それを通って月に行き、外道魔像を盗んだことがあった。今回もそれを通るのだ。

 

 月には大筒木ハムラの子孫がいる。ハムラは六道仙人こと大筒木ハゴロモの弟である。この兄弟は、絶大な力におぼれた自らの母を封印し、月に閉じ込めた。外道魔像はその母の一部である。ハムラは母が復活しないように、己の子孫を管理者として月に住まわせた。

 

 以上から、ハムラの子孫が外道魔像を盗んだ存在を覚えているなら、白ゼツを許しはしないだろう。しかし、以前見たハムラの子孫は温厚だった。もちろん中には危険な連中もいるが、少なくとも月を統治するハムラの直系の子孫は平和的だった。彼等ならば、自分はともかくウサギ一号を殺しはしないだろう。

 

 白ゼツは特に理由を言わず、ウサギ一号をある洞窟に連れ出した。そこの奥に月へのワープ空間があった。

 以前来た時と違い、トラップがいくつも仕掛けられていた。外道魔像を盗まれたことに気付いた連中が仕掛けたのだろう。ほとんどは幻術系のトラップだった。白ゼツには解除が難しかったが、ウサギ一号にはわけもなかった。

 もう少しでワープ空間にたどりつく時、不意にウサギ一号が言った。

 

「おきな、一緒に月に来るんだよね」

 

 ウサギ一号はギュッと白ゼツの手を握り締めた。

 

「なんでそれを?」

 

 白ゼツは言っている最中にも理由に思い当たった。ウサギ一号は感受性がとても強い。他人の思考だって読むことができる。それで自分が胸に秘めている情報を盗み見たのだろう。

 

「おきな、あれ(我の意味)はおきなと一緒なら」

 

 ウサギ一号は両目の白眼で白ゼツを見つめた。

 この子にウソは通用しない。ならば、本気で思うしかない。

 

「うん。僕も一緒に月に行くよ。ひょっとしたら命を狙われるかもしれないけど、その時はまた逃げればいいさ。一緒にね」

 

 白ゼツは自分に言い聞かせるように言った。

 

「うん!」

 

 ウサギ一号は笑顔で頷いたのだった。

 

 さて、2人は月にワープした。出てきたのは湖の中。湖を出ると、森の中。空は新鮮な空気に満たされている。

 

 実は月では、地中に人の住める巨大な空間があった。水も自然もあれば、重力も人工太陽もあった。恐るべきハムラとハゴロモの力である。

 白ゼツの記憶と、ウサギ一号の感知能力で、ハムラの直系の子孫がどこにいるのかはだいだい分かった。2人は歩いてそこへ向かった。

 

 しかし、街が見えかけたところで事件が起こった。

 

「く、苦しい」

「どうしたの!?」

 

 突然ウサギ一号が苦しみ始めたのだった。

 

「ち、近くで人がいっぱい死んだ。はあ、はあ、はあ。入ってくる。死の苦痛と絶望が。はあ、はあ、はあ。ううっ」

「し、しっかりして。一旦森に帰ろう」

 

 白ゼツはウサギ一号を連れて森に帰っていった。

 

 実は月では、数年前から、ハムラの直系の子孫である宗家の人間と、分家の人間との間で戦争が始まっていた。理由はハムラの思想の解釈の違いだった。

 宗家側の方が数が多いが、分家側には転生眼という世界を作り変えるほどの力を持つ秘宝があった。

 

 戦争はウサギ一号にとって苦痛でしかない。人が死んだ数だけ苦しんでしまう。しかし、地球に戻れば黒ゼツが自分達の命を狙ってくるだろう。白ゼツは、月にある森で隠れながら暮らすことを選んだ。

 

 そうして約一ヵ月が過ぎた。不意に、宗家側の人間が大勢で森にやってきた。ほとんどが子どもだった。それを追うように分家の人間もやってきた。こちらは戦闘訓練を積んだ大人ばかりだった。

 

 ウサギ一号の感知により、彼等が森へ来た理由は分かった。

 宗家の子どもは、戦争で分家が一般居住区への無差別攻撃を始めたので、地球へ逃げようとしていた。分家の人間は逃げることすら許さず、子どもでさえも1人残さず殺そうとしていた。

 

 理由を知って、ウサギ一号の表情が変わった。怒り、憎しみ。負の感情が抑えられなくなった。

 

「殺す。殺す。あいつらめ! あいつらめあいつらめ!」

 

 そして、動き始めてしまった。

 

「お、落ち着くんだ。君に戦いは無理だ」

「うううっ! この! 分家のクソ野朗が! 苦しい! くううっ! くたばれェ!」

 

 白ゼツが諌めるが、ウサギ一号のチャクラは高まっていくばかりだった。

 体を張って止めようと、ウサギ一号に抱きついた。が、わけもなく引きずられた。ウサギ一号は、神居結のように死者のチャクラを引き寄せ、吸収していた。死者の無念、怒り、悲しみと共振するように、凶悪なチャクラを溢れんばかりに漲らせていた。

 

「な、なんだあいつは!」

「変なのがいるぞ! 心してかかれ!」

 

 とうとう敵にも見つかってしまった。分家の戦闘員20人近くがドッと押し寄せた。

 もう逃亡も間に合わない。白ゼツは力なくウサギ一号を手放した。

 ウサギ一号は、雄たけびを上げながら敵に突っ込んでいった。

 

「うおおおおお! 分家の能無し外道があああああ!」

「なっ! 速い!」

「なんだこのチャクラは!?」

 

 20対1だが、いい勝負だった。むしろウサギ一号が押していた。敵の全員が、地球でいう中忍や上忍の実力者だったにも関わらずだ。

 敵はウサギ一号に恐れをなし、引いていった。ウサギ一号は粘り強く彼等を追いかけた。

 

「死ねえ! 死ねえええええ!」

「くっ、化けもんがああああ! ぐはあっ!」

「ぐはあっ! 死ねえ! 化けもんがあああああ!」

 

 ウサギ一号は、狂戦士となっても他人の思念を直接的に感じるらしかった。敵の断末魔と同じ言葉を自らも叫び、血の涙を流しながら人を殺していた。

 やがてウサギ一号の周りから敵はいなくなった。しかし、宗家の人間はいた。

 

「あ、ありがとう」

 

 宗家の子どもの1人が、ウサギ一号に礼を言った。ウサギ一号は黙って子どもを見た。未だ怒りに歪んだ顔だった。

 嫌な予感がした。白ゼツはウサギ一号に向かって叫んだ。

 

「ウサギ! その子は敵じゃない!」

 

 白ゼツの言葉は届かない。ウサギ一号はにやりと悪そうな笑みを浮かべた。

 まるで、先ほどまでの分家の人間と同じように。

 

「そ、宗家の人間は死ねええええ!」

 

 ウサギ一号は、憎いはずの敵の思想まで自分のものとしてしまっていた。

 善悪関係なしに死者の遺志を引き受けてしまうようだ。長き時を生きてきた白ゼツも、こんな現象は知らなかった。

 

「うわあああ!」

 

 悲劇は起こった。目の前の少女に救われたはずの子どもは、目の前の少女によって凄惨な八つ裂きにされてしまった。

 

「うわああああ! いたああああああ!」

 

 ウサギ一号はやはり子どもと同じように叫んだ。しかし発狂の仕方は今までより激しかった。

 

「お姉ちゃんが何故僕を! 痛い痛い痛い! 何故だ何故だ何故だああああ!」

 

 ウサギ一号は叫び、自らの体をかきむしった。かと思うと、歯で己の指を噛み千切った。

 白ゼツがザッと分析する。自傷しているのは、殺した子どもの感情に共感し、己を憎んだからだろう。まるで自分1人で憎しみの連鎖を表現しているようだ。

 ともかく、このままではウサギ一号が危ない。止められるのは、自分しかいない。

 

「や、やめるんだ! ウサギ!」

 

 白ゼツはウサギ一号に近づいていく。そして、精一杯の気持ちを込めて、抱きついた。

 

「あっ」

 

 ところが、飛び込んだそのタイミングで、ウサギ一号の手刀にばっさり切られてしまった。

 白ゼツは真っ二つになって崩れ落ちた。しかし彼は気付いた。今、自分が死んだとしたら、その思念はウサギ一号に吸い込まれる。自分の愛が届けば、ウサギ一号は自らの体を大事にしてくれるのではないか。

 白ゼツはスッと目をつぶり、祈った。君がいつまでも無事でいてくれますように。

 

 そして、祈りは届いた。

 

「お、おきな……」

 

 ウサギ一号はハッと我に返った。しかし、自分が最も愛した存在は、無残な姿で横たわっていた。それをやったのが自分である。

 こんなに自分を愛してくれた白ゼツなのに。ずっとずっと一緒にいたかったのに。自分はなんてことをしてしまったんだ。

 

「う、うわああああああ!」

 

 ウサギ一号は悲観にくれた。目と鼻からいっぱいに涙を流し、空へ向かって吼えた。

 感情に呼応するように、身体に変化が表れ始めた。

 髪が白く変色し、額が割れていく。割れた額に第三の眼が現れる。輪廻眼と写輪眼の両方の特徴を併せ持つ、輪廻写輪眼だった。

 

 このタイミングで輪廻写輪眼が開眼した奇跡。と同時に、輪廻眼自体も数々の奇跡を起こす力がある。

 その1つが、魂の呼び戻しであった。

 

「おきな、おきな」

 

 ウサギ一号はほぼ無意識に莫大な力を使い、白ゼツを復活させた。

 

「あれ? 僕は死んだはずじゃ……」

「おきな! おきなあああ!」

 

 白ゼツは健康体に戻り、パッと体を起こす。そこへウサギ一号が抱きついた。

 

「どういうこと? 君も死んじゃったの? でもここは……」

 

 感動の再開。しかしそれも長くはなかった。

 ウサギ一号から逃げた分家の人間が増援を連れて戻ってきたからだ。彼等はウサギ一号が宗家の用意した秘密兵器だと考え、最大級の警戒をしていた。自身らの秘宝、転生眼まで持ち出して。

 

「転生眼発動!」

 

 その声の直後、転生眼から莫大なエネルギー波が発され、ウサギ一号と白ゼツを襲った。

 

「きゃああああ!」

「ぐぎゃっ」

 

 ウサギ一号は吹き飛ばされる。白ゼツは粉々に砕け散った。

 

「おきな、おきなあ」

 

 ウサギ一号はダメージを受けたが、輪廻眼の力や生まれ持った特性によりあっという間に回復していく。

 そして、再び白ゼツを生き返らせようとチャクラを高める。

 

「化け物が! 転生眼発動!」

 

 ところが、それも転生眼から発された莫大なエネルギーに邪魔をされてしまう。

 

「ううっ。じゃ、邪魔をするなああああ!」

 

 そうして再びウサギ一号と分家の人間の戦いが始まった。

 ウサギ一号は輪廻眼により遥かにパワーアップしていたが、世界を変えるほどの力を持つ転生眼には敵わなかった。ほぼ一方的に攻撃され、ダメージが蓄積されていった。

 ウサギ一号は自らのチャクラだけでは足りなくなり、死者のチャクラを意図的に集め始めた。が、それでも転生眼には勝てなかった。生者のチャクラも集め始めた。自分に向かってくる分家の人間のみなず、逃げ惑う宗家の人間も。しかし、それでも転生眼には敵わなかった。

 

「木遁、花樹界降臨」

 

 柱間の技を使っても。

 

「輪墓・辺獄」

 

 マダラの技を使っても。

 

「んちゃあああ!」

 

 アラレの技を使っても。

 

「転生眼発動!」

 

 その一言で覆い潰される。技は全てチャクラごと吸い取られる。

 どうして! どうして勝てないの! どうしてあれの邪魔をするの!

 

 約1時間後、ウサギ一号はとうとう大地に伏せた。下半身を無残にもぎ取られた状態だった。

 

「ようやくくたばったか。化けもんが」

 

 ウサギ一号の周りに分家の人間が近づいていく。

 しかし、ウサギ一号はまだ死んでいなかった。下半身も自動で再生を始めていた。

 

「力が、力が欲しい」

 

 ウサギ一号は両手で弱々しく印を結んでいく。

 リミッターを解除しなければならない。あらゆる手段を講じなければ白ゼツを救うことはできない。

 

「なんだと!? まだ生きてやがるのか!? 転生眼発動!」

 

 再び襲ってくる莫大なエネルギー波。しかし、ほぼ同時にウサギ一号の技も発動した。

 

 口寄せ、外道魔像。

 

 チャクラの母の抜け殻が、再び月へと戻った。しかし、新たな中身を伴って。

 

「力だ! この力だあ!」

 

 ウサギ一号は外道魔像の頭頂部に立ち、叫んだ。

 

「なっ! 転生眼発動!」

「そればっかりか! 分家のクズ共が!」

「くうっ! 外道魔像か! ならばこちらは、ハムラ様の魔像を動かす!」

 

 戦いは第3ラウンドへ。

 外道魔像の力を得て、ウサギ一号の攻撃は分家の人間に届くようになった。それに対して、分家の人間はハムラの姿を模した巨大な魔像で対抗した。

 勝負は拮抗した。ウサギ一号も無尽蔵と言えるチャクラとスタミナを得たが、ハムラの魔像も同じく無尽蔵と言える回復能力を有していた。

 

 しかし、ウサギ一号は、相手を殺してしまうとその思念を取り込んでしまうという特性を残したままだった。分家の人間が死ぬたび、ウサギ一号の動きが鈍った。

 

「チャンスだ! 転生眼発動!」

「くっ」

 

 ウサギ一号は劣勢に立たされる。

 

「分家の者よ! 一時休戦と行かんか! そやつは我々にとっても敵!」

 

 さらに、宗家の者が分家側で参戦してしまう。

 どいつもこいつも!

 

「なんだって!? どういうことだ!?」

「外道魔像は地上の人間に奪われていた! つまり、あれを使っておる人間は地上人(ちじょうびと)ぞ!」

「どのみちろくな奴じゃねーんだ! 見つけ次第転生眼ビームで殺せ!」

 

 どうして! どうしてそんなあれを悪く言うの!? あれが何をしたって言うの!?

 

 その時、ぞわりと冷たい物を感じた。外道魔像の奥底に眠る、すさまじい力。これを使えば目の前の連中を倒せるかもしれない。だが、逆に自分が魔像に取り込まれてしまう恐怖もある。

 

 取り込め、わらわを。その体に。

 

 声が聞こえた。チラと女の姿が見えた。まるで、自分を大人にしたような女だった。

 

 取り込め。そうすれば全て上手くいく。

 

「う、うるさいうるさいいいいい!」

 

 ウサギ一号は声を拒絶し、無造作に暴れ始めた。

 劣勢は変わらない。分家の人間は相変わらず転生眼で攻撃してくる。ハムラの魔像は何度破壊しても再生し、以前と変わらない力で襲い掛かってくる。そこに宗家の人間まで加わった。女の声もうざったい。集中力が乱される。

 もう、なんのために戦っているのか分からない。自分は戦いが大嫌いなのに。

 

「もうやめて! 撃ちたくない! 撃たせないで!」

 

 ウサギ一号は、口元にアラレのチャクラ砲を溜めながら言った。口は動かないので、思念を飛ばして伝えた。

 

「ならばお前が死ねええええ!」

 

 だが、思いは届かなかった。思いも力も届かなかった。

 どうして!? どうして分かってくれないの!? どうしてこんなことになったの!?

 ウサギ一号は顔を涙でグシャグシャに濡らした。分家の人間は変わらず攻撃してきた。

 

「う、うわあああああああ!」

 

 ウサギ一号は、半ば投げやりに最後の術を使うことにした。

 莫大なチャクラである。これを自爆させれば、白ゼツを殺し、自分を苦しめた連中を一網打尽にできる。死者達の憎しみが、全員殺せと促す。

 

 ご、ごめん。おきな……。

 

 しかし、ウサギ一号にはそれができなかった。

 

 外道・輪廻天生の術。

 

 ウサギ一号は、むしろ全て生き返らしてしまうことにした。

 憎しみの連鎖を止める。愛によって平和を導く。咄嗟の判断だったが、それが正しい答えだと思った。

 

「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ」

 

 この術は、使用者の寿命を著しく縮めるものだ。

 ウサギ一号はほぼ不死身であり、今は外道魔像の力が加わっているので、白ゼツを1人を生き返らせるくらいならわけはなかった。が、月の住民を一気に生き返らせたことで、さすがに魂を浄土に引きずられ始めた。その苦しみが身体を襲った。

 チャクラも術でほとんど失ってしまった。外道魔像のチャクラを含めてだ。

 

「よく分からんが、チャンスだ! とどめの転生眼発動!」

 

 しかし、ウサギ一号の願いは目の前の敵に届かなかった。

 自分は放っておいても死ぬだろう。だが、自分の命を使うことで、目の前の人間から人殺しの意志を奪いたかった。死ぬ前に平和な世界が見たかった。それすらも叶わないのだろうか。

 

「どうして……。あれはただ、皆が……」

 

 ウサギ一号は外道魔像の頭頂で崩れ落ちる。涙を流し、前のめりに倒れる。

 そこへ、転生眼の莫大なエネルギー波が向かってきた。ウサギ一号はもはや指1つ動かすことすら叶わない。死を覚悟した。

 

 おきなと同じ死に方で、おきなと同じところに……。

 

 しかし、最後の痛みはいつまで経っても襲ってこなかった。

 代わりに、爺さんの声が聞こえた。

 

「感謝する、娘よ。おかげでようやく母の苦しみが分かったやもしれん。兄者とわしが気付けておれば、あるいは母も……」

 

 ウサギ一号には、爺さんを見上げる力も残されていなかった。しかし、なんとなくその者が誰か察することができたのだった。




もともとこの二次創作を書くモチベーションが
・クシナと小南を落とす
・空海の生き方を組み入れる
・卑劣な忍界大戦を書く
・カグヤが狂った理由を書く
だったので、絶対にウサギ一号の話は避けて通れなかったのです。クシナ寝取りもです。評価されていないのは知っていましたが。

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