疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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抜け忍は肩身が狭い

 税金でごっそりもっていかれた。

 

 長引く戦争で防衛費がかさんだとか言われた。波の国に忍者はおらず、防衛はフリーの忍者や近場の木の葉、霧隠れに頼っている。特に木の葉だ。この場合、防衛費というよりも、揺すられたと言うべきである。やはり軍隊のない国はダメだ。早く俺の国を作らないと。

 

 その防衛を担うことになるかもしれない、今の孤児達。彼等には少しずつ忍者の修行をさせている。力仕事はそれだけで体力作りになる。畑の手伝いや薪割りを女子にも積極的にやらせ始めた。

 だが、その程度では足りない。なんと言ってもチャクラが扱えなければ、この世界では戦えない。術の使えないゲジ眉コンビだってチャクラはすさまじかった。

 

 幸い、雪一族もかぐや一族もかつては忍の家系らしく、チャクラは多い。特にカグヤ一族が多い。病弱なのが珠に傷だが。雪一族はスピードに優れている感じがする。チャクラコントロールはどちらも上手い。日向には劣るが。

 

 修行を始めてから、孤児達の不満が増え始めた。辛いからストレスが溜まるのは当たり前だ。かと言って、最近は街に繰り出しにくくなっている。道をゆく木の葉の忍びが多い。この島から船で霧隠れに攻め込むつもりなのだと思う。

 下忍や中忍なら大丈夫だが、上忍は俺の変化を見抜くかもしれない。特に日向一族がいけない。白眼で俺の正体が一発でバレる可能性がある。だから、細心の注意を払っていたのだが。

 

「チッ、志村のカス死ね」

「ちょっと寝坊しただけで罰金! ありえんね全く」

「ああー、クッソー。波の国の姉ちゃん楽しみにしてたのにー」

 

 やさぐれた木の葉の忍二人が、何故か俺の土地に入ってきた。手当たり次第に木を切り裂き、または殴り、倒していく。物に当たるチンピラだ。

 俺は孤児達を部屋に入れ、嵐が通りすぎるのを静かに待つことにした。しかしなんと言うことか、忍び達は真っ直ぐ俺の家にやって来るではないか。

 

「ういーっ。誰かいるかー? つーかいるのは気配で分かるんだけどー」

「何か御用ですか?」

 

 俺がしょうがなしに出る。

 

「いやー。俺たち勇敢な木の葉の忍びだけどさあー。今金に困ってんだわ。上がらせてもらうぜー」

 

 そう言って勝手に入ろうとする。要するに大っぴらに盗もうというのだろう。この近くには忍びがいないから隠し通せると思っているのか? それとも幻術で俺を洗脳か、ふつうに殺して証拠隠滅するつもりか? どちらにしろ許せん。

 俺は両手で二人を突き飛ばす。二人は俺の以外な力に驚いたようだった。が、すぐに怒りの表情に変わる。

 

「ああっ!? 何しやがんだてめえ!」

「誰のお陰で生きられると思ってんだ!」

 

 調子に乗りやがって。逆に俺が幻術を掛けてやる。

 

「舐めた真似しやがって。半殺し決定だ」

「謝っても遅いぞ。心からの謝罪と全財産、ついでにボコられる。これ以外は誠意と認めない」

 

 ゆっくり歩いてくる二人。俺は足にチャクラを集め、飛び出す。

 

「ぐっ」

「うおっ」

 

 再び両手で二人を飛ばす。二人が尻餅をついている間に木遁の印を組む。

 木遁、毒花降臨。

 二人の周りに眠り粉を撒き散らす巨大な花が咲き乱れる。二人はその粉を吸い、気を失った。他愛のないことだ。

 

 眠った二人の襟首をつかみ、街へと下山を始める。殺してしまってはまずい。調査隊が来るかもしれない。酔いつぶれたことにして、その辺の道へ放るつもりだ。

 

 ところが、二人の蛮行を懸念したのかどうか、忍びが山を登ってきていた。しかも暗部の仮面をつけていて、動きも素晴らしい。

 俺は気配を消し、やり過ごすことにする。

 

 が、忍びはその気配の変化にこそ気づいた風だった。

 

「まずい! このレベルだったか!」

 

 上忍、それも上の方の可能性がある。今の俺で勝てるか? 勝ったとして木の葉に怪しまれたらどうする?

 俺は木遁分身を出し、本体は地中深くに戻る。これもバレている可能性がある。

 

「その二人はどうした?」

 

 早くも来た。男が木の枝の上から声をかける。

 

「酔いつぶれたようです。なんでも上司にひどく叱られたようで」

「なるほど。では、二人の胸についた染みはなんだ?」

「染み?」

 

 なんのことだ? 白眼で見たところ、何もないが。

 おっと、俺の視線が逸れた隙に忍びは動き始めた。白眼だから見えてるぞ。

 忍びは素早く俺の後方に移動する。クナイをかかげ、俺の首に刺そうとする。

 俺はタイミングを合わせて屈み、後ろへ蹴り上げる。忍びはぎりぎり反応し、直前に背中を丸めて衝撃を和らげた。

 

「驚きました。なぜいきなり攻撃してきたのですか? 私は善良な一般市民ですよ」

「当てるつもりは無かったが、一般市民でないことは今判明した。そいつらをどうするつもりだ?」

 

 くっ、面倒なことになったか。やはり軍隊のない国はいけない。

 

「どうって、木の葉に返しますよ。いきなり人の家に入って盗みを働くような野蛮人でした。金輪際お断りです」

「そうか。それはすまないっ、なっ!」

 

 忍びは雷遁を纏い、稲妻のような速さで突っ込んでくる。

 俺はその場でジャンプする。一瞬遅れて忍びは眠っている二人の忍びを両手に捕まえる。そして、そのまま森を下っていった。

 俺では追い付けない。速すぎる。九尾のような速度だ。人間だとは思えない。やはり相当な実力者だったか。

 問題はこの後どうするかだ。幸いあいつが仲間を街に降ろして再び戻ってくるまでは時間がありそうだ。その間に、逃げるか? それしかないよなあ。調べられて俺だとバレたら連れ戻されるか、最悪殺される。いや、殺されはしないな。貴重な木遁使いだし、呪いを命令に従わせるのも簡単だから。

 クソッ。せっかく生活基盤が整ったところだったのに!

 

 とりあえず、孤児は全員回収だ。男児もなんだかんだ育ててきたわけだしな。親がいる子はそのままでいいだろう。取り調べはあるだろうが、木の葉もそこまで外道ではないはずだからな。いや、分からないが。しかし、この大所帯を全員連れ出す余裕はない。悲しいが、残していくしかないな。

 

 後から分かるのだが、この時現れた上忍は木の葉の白い牙という異名を持つはたけサクモだった。彼はこの時、俺の家を調べる前に仲間を街まで降ろしたことで責められることになる。俺の家が実験施設か何かだったかもしれないことと、残された住人への調査からこの場にうずまきクシナらしき人物がいたことが分かったからだ。なお、俺は遺伝子などの証拠を残さぬよう家は燃やした。

 

 俺は孤児達と下忍二人を連れて地下を進んだ。俺の膨大なチャクラによる土遁で一気に掘り、疲れた時は木遁で大地の栄養を補給する。地味に下忍二人のチャクラも吸いとった。ありがたかった。

 波の国は島国だから、脱出するには船で出なければならない。しかしそれは目立ち過ぎる。少なくとも戦争が激化している今はできない。だから、波の国の別の場所に住居を構える必要があった。と言っても俺にとっては簡単だ。木遁で一瞬で家を作れる。田畑もすぐだ。

 

 俺のせいで子供達に迷惑をかけた。俺はそう思った。修行を多少緩めるべきかとも。しかし、子ども達はむしろやる気になっていた。

 

「強くならなければ、奪われる。それを再認識したからだと思います」

 

 初に尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。

 以後、俺達は修行僧のように山に籠り、一心に修行に励んだ。捕虜となってしまったうちはミグシ、ボッチにも修行や本を読む機会を与えた。

 そして3年後、終戦を迎えた。

 

 さすがに3年も山に籠れば子供達も欲求不満になっていた。俺は木の葉の忍び達が島から引いていくのを確認し、子供達を連れて久しぶりに我が土地に戻った。と言っても、木遁分身はずっと置いていたが。

 

 ボッチは解放した。彼女は下忍だが、空を飛べるので一人で帰れる。

 

「覚えてやがれ! おめえはいつかあたいが殺す! うんそうする!」

 

 彼女はたわわに実った乳房を揺らしながら、鳥形の泥人形に乗って去っていった。ちなみに、「うんそうする」というのは彼女の口癖である。金髪で前髪が長く、いつも右目を隠している。

 うちはミグシは一人で帰るには実力が低いので、俺の木遁分身をつけてやった。目茶苦茶嫌がったが。

 

 とかく、子供達は懐かしい親子達と再開した。抱き合って喜び、万歳したりもした。大きなパーティを開き、高価な料理を目一杯食べた。

 そしてパーティの終わりに、今後について話し合う。

 

「俺はここではない場所に新しい国を作るつもりだ」

「えっ」

「なんと……」

 

 場所についてはまだ言わない。彼等が国民になると決まったわけではないから。

 

「土木工事、畑仕事、家事、防衛。仕事はたくさんある。来たいやつはついて来い。そうじゃないやつは、ここに残ってもいい。故郷に帰ってもいい。誰も残らないならこの土地は売る。今決めてくれ」

 

 5家庭のうち、父親のいる2家庭と1つの母子家庭は残ると言った。残りは俺についてくるらしい。

 初めの国民となるのは、俺(13)、雪一族の初(ハツ。14)、積雪(セキセツ。10)、涼(リョウ。8)、長袖(ナガソデ。15)、釜倉(カマクラ12)、豪(ゴウ。41)、薄(ハク。37)、霙(ミゾレ。11)、霰(アラレ。9)、雪解(ユキドケ。28)、雪崩(ナダレ。6)、カグヤ一族の月(ツキ。13)、竹(タケ。9)となった。

 男と女の比率は4対10。まあまあである。

 

 大所帯での移動である。食糧や財産や生活用品はもちろん運ぶ。車輪付きの人力車を半日で作った。俺が木遁と土遁で材料を作り、大雑把に加工する。細かい寸法の加工と組み立ては手作業で行った。

 夜はもう一度パーティ。深夜は母子家庭の若い未亡人に思い出を作らせてもらった。

 明くる朝、出発する。

 

 人力車は修行のために子供達に引かせた。段差の激しい山道は俺が担ぐこともあったが。

 街に出ると、名産品を買ったり、3年前の知り合いに挨拶したり、店で食べたりした。新しい国については秘密にし「旅商人を始めようと思いまして」という設定にした。

 

 食事を終えると、港へ向かう。人が多かった。ここで木遁を使うのは憚られた。しかしフェリーの値段はかなり高かった。まだ戦争が終わったばかりなので、抜け忍や戦争継続派の忍びがはびこっており、危険なのだという。だから高い金を出して忍者を雇っているらしい。

 白眼で見てみると、木の葉の上忍らしき忍びがいた。というかミナトだった。港だけにと言ったところか。

 

「よお」

「え? 君だったの?」

 

 話しかけると、ミナトはホッとしたように息を吐いた。

 

「はあ、焦ったよ。霧隠れの上忍とこんなところで戦闘になったらどうしようかと思った。悲惨な戦争が終ったばかりだっただけにね」

 

 気持ちは分かるが、期待していた反応と違う。

 

「反応薄いな。俺が生きてるって知ってたの?」

「うん。クシナに会ったからね」

「え? マジ? クシナ捕まったのか!? 俺のこともバレたりした!?」

「いや、捕まったわけじゃないよ。僕だけが彼女と九尾にバッタリ会ったんだ。僕は里に戻るよう言ったけど、フラれちゃった。ははは。九尾が納得するまで里には帰らないんだって」

「そうか。自由意志の尊さに気づいてしまったんだな。お前みたいに仲間のために自分を犠牲にできるのも尊いと思うけどな」

「ははは、ありがとう」

 

 ミナトはズーンと落ち込んだ感じになった。クシナに拒否されたのが相当ショックだったらしい。クシナのミナト愛は分かりやすかったが、ミナトの方もそうだったらしい。

 

「ところで俺は? 指名手配されていたりしたら、大幅に予定が狂っちゃうんだけど」

「されてないよ。あの事件で死んだことにされている。というかあのあと大変だったんだよ! クシナと九尾はいなくなるし、日向当主と君は死んじゃったし! 戦争中なのにいろんな責任問題で大喧嘩になったんだ! 自来也先生なんて未だに思い悩んでるよ! 自分のせいで弟子が自殺してしまったって! 女グセは余計ひどくなった!」

 

 最後のは俺のせいか? ともかく、ミナトの苦労は察して余る。すまんかったな。

 

「ううっ。本当に、本当に。生きていてよかった」

 

 あっ、怒ってると思ったら泣き出した。本当に仲間思いだなあ。俺なんかのためにさ。

 その後、俺が国作りするつもりであること。今までの孤児との生活。夜に木遁で船を作って出発するから適当に見逃してほしいこと。などを話した。

 

「乗っていきなよ。その方が安全だよ。君と僕の二人で守れるし」

「他に木の葉の忍びはいないのか?」

「いるけど、下忍になりたての子だけだよ。君のことは知らない」

「ふーん。でもなあ。金がもったいないんだよなあ。払えない額じゃないが、これからたくさん必要になるかもしれないから」

「そんなこと気にしなくていい。僕が払うよ」

「う? えええっ!? お前そこまでお人好しなの!」

 

 ふつうに笑顔で言われたから、余計にビックリした。個人で払うような額じゃないのに。しかも、裏切り者の俺にポンと払うか? ふつうじゃない。

 

「いや、僕が戦争に奔走している間、君は君で頑張ってたんだと思ってね。すごいと思うよ。というより、感謝したい。僕たちの起こした戦争で犠牲になるかもしれなかった人たちを、たくさん救ってくれた。僕の財産じゃ足りないくらいだよ」

「はーっ。なるほどなあ。やっぱりお前のその博愛精神は素晴らしいわ。俺は自分優先なところがあって、孤児を救うにしても女に目が行ってたもん」

「ははは。作戦中に女にフラれた僕に対する当てつけかい?」

「おっと。そうじゃないんだよなあ。これが」

 

 ミナトはまた落ち込んでしまった。しかし、彼のは美しい恋。俺のは醜い性欲。この辺の感覚はないのかなあ。


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