疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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貧乏神綱手

 目覚めた時、子どもたちに囲まれていた。俺の頭の角のような部分を引っ張ってるガキもいる。

 

「ご主人様起きたよ!」

「小鬼様だけどな!」

「コラ! 見た目で悪口言ったらいけません!」

「いたっ!」

 

 なるほど。俺の正体がバレて、こういう反応が起こったか。まあ俺は、もともと見た目でモテようなどとは考えていない。重要なのは一緒にいて楽しいかどうかだよな。あと圧倒的力。

 ぬんと顔を起こす。

 

「ふにゃあっ。うっ、あああああん! ぎゃあああああん!」

 

 俺の出っ張りを掴んでいたのは2歳くらいの幼児だった。落ちて泣いている。かわいそうに。

 ん? 誰の子だ? この厳しい3年にせっせと子作りに励んだバカがいたのか?

 

「おいっ。誰の子だ」

「わ、私です。すみません」

 

 17歳くらいの青髪の娘が手を上げる。そう言えば彼女、去るときには腹が膨らんでいた。胸と尻もデカいからデブと思っていたが、妊娠だったようだ。今はとても魅力的な体つきをしている。

 

「父親は?」

「あっ、すみません。その……」

 

 彼女はとても悲しそうな顔をした。戦争で死んだのかもしれないが、経験上ちょっと雰囲気が違う。これは、暴徒に犯されたな。たぶん。

 

「綱手さんは、いるみたいですね」

 

 綱手は椅子に足を組んで座っていた。

 

「ああ。別れの挨拶くらいはしてやろうと思ってな」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 と、俺から少し離れて、月が寝ていることにも気づく。頭に冷やしたタオルが置かれている。

 

「おっと、彼女についても言わなければならないことがあった」

 

 綱手が言う。

 

「なんです?」

「あの娘、生まれつき体が弱いそうだな」

「ええ」

「衛生環境の悪いこの村で生活させるつもりか? 医療忍者も足りないだろう。木の葉なら」

「いえ、たぶん大丈夫ですよ」

「たぶんだと!?」

「ええ、僕が多少医療忍術使えますし、この術がありますからね」

「この術?」

 

 俺はジャンプで子どもの輪を飛び越え、ドアを開けて外に出る。

 木遁の印を組み、大地に手を当てる。

 大地の生命力を感じ、手元に集める。それをチャクラと混ぜ、圧縮する。そして一気に形にする。

 

 小さな木が生まれ、花開く。花弁は次第に垂れ、中から実が現れる。それを摘まんで千切る。

 

「大地のエネルギーが詰まった実です。これを食べさせたらだいたい治りますよ」

「なんだと!? 本当か!?」

「ええ。理屈は分かりませんけどね。かぐや一族にはこれが効くみたいです」

「無茶苦茶だ……」

 

 まあ、そんなもんだろう。チャクラなんてものが存在する世界だからな。

 

 その後、久しぶりに畑仕事をしたり、狩りをしたり、薪を割ったりした。昼食、夕食共にパーティのような形で食べ、歌を歌ったりもした。

 

 深夜、綱手が俺の部屋に入ってきた。夜這いかと思って興奮した。

 

「お前に話すことでもないんだがな」

 

 しかし雰囲気はとても真面目で、しかもどちらかと言うと暗かった。

 

「自来也がお前達の面倒をみると言ったとき、私はあいつのことをバカだと思った。忍びが余計なことに心を割いては腕が鈍るだけで、何も益はない。忍びは忍びの仕事に集中していればいい。子どもの世話をするのは別の人間の仕事。そうして社会は成り立っている、とな」

 

 長話が始まった。これは、天命とかそういう話だろうか。

 

「だが、私はこの戦争で大切なものを失った。その時、否応なく忍びとして余計な感情に包まれてしまったのだ。私は数日間冷静でいられなかった。しかし恐ろしいことに、数日経つと冷静になるときが来てしまうのだ。そして迫られる。お前は忍びだ。だから余計な感情は捨てろと」

 

 綱手の両手が震え出す。彼女はその両手を胸の前にかかげ、わざわざ見る。恐怖に引きつった顔で、マジマジと。トラウマを思い出しているかのようだ。

 

「しかしその時、それこそが、私にとっての最大の恐怖だと気付かされた。大切な思い出を否定した時、私は私で無くなる。私の感情全てを否定することになる。それはできない。しかし、忍びはやらなければならない。私は恐怖に立ち向かわされた。そして、負けた……。あれは負けと言うしかない」

 

 うーん、アラサーの忍者でもそういうことで悩むんだなあ。

 それを俺に話すってことは、あの時のことを言ってるんだと思うけど。

 

 こっち方面の木遁分身の記憶だ。半年ほどでチャクラが切れかけて、焦っていた。このままでは孤児を残して消えてしまう。しかし、四方八方で激しい戦闘が繰り広げられているから、子どもを連れて動けない。そんな時、綱手が戦っているのが見えた。彼女はあっさり敵を倒したが、彼女の仲間は深傷を負った。

 綱手なら簡単に治せるはずだった。が、彼女は重傷者を前に動けなかった。チャクラがめちゃくちゃに乱れ、手が震え、ついにはワアワアと幼児のように泣き叫んだ。

 幻術かと思い、出ていって解こうとした。この時点で彼女に恩を売って孤児の面倒をみてもらうことに決めていた。ところが、彼女は幻術にかかっていなかった。どうするべきか分からない。とりあえず俺は重傷者に応急措置をし、彼と綱手を集落に連れていった。

 孤児と一緒に重傷者の看病をした。綱手については、歌を歌ったり、孤児が「私もお父さんお母さん死んじゃったけど、皆と頑張ろうって決めたんだよ。辛いけどね」と言って励ましたりした。自分で言って泣きながら。

 綱手は夕食までぼおっとしていたが、俺が野菜を口渡ししようとすると急に復活した。

 

「貴様、なぜ生きている?」

 

 俺は殴られる前に孤児達を頼む必要があった。

 

「皆喜べ! お姉さんが復活したぞ!」

「ほんと!? わーいわーい!」

 

 孤児の喝采で綱手は再び呆然とした。その隙に、俺は言った。

 

「綱手さん。一時彼等を頼みます。僕は分身のチャクラが尽きそうなので」

「へ? あっ! おっ、おい! 待っ!」

 

 俺は殴られる前にチャクラ切れを起こし、分身を消した。

 

 

 ということがあったのだ。綱手は弱い自分を俺に見られてしまったから、話してもいいと思ったのだろうか。

 綱手は不意に月を見上げる。何かを諦めた人のように、ふうとため息を吐く。

 

「私は、忍びを引退するつもりだ」

 

 衝撃的な発言だった。でも、辻褄があう。戦後の忙しい時期にここに残っていること。孤児達も残ったままであること。彼女はおそらく、長く木の葉に帰っていない。早くから辞める決心はつけていたようだ。

 

「血がダメになってしまったんだ。この子達の笑顔を見ていると、余計にな。命の重みってやつを、今さら感じるようになってしまった。だから、もうダメなんだ。忍びはな」

 

 綱手は俺に背を向け、立ち上がった。何もせず、ただ空を見上げる。

 失礼ながら、白眼で表情を覗いてみる。予想通り、涙を流していた。

 数分そうしていた。涙が乾いた頃、綱手は再びふうと息を吐いた。

 

「自来也やお前が楽しそうに孤児を育てるから、私も試しにやってみた。なかなかどうして、おもしろいじゃないか。けど、あいつらをお前みたいなガキに任せてはおけんし、一緒にいたいと言われてしまったからな。特別に私も協力してやるよ。名誉顧問って形でな」

「えっ! 本当ですか!?」

 

 これは驚いた。思わぬ行幸。勝手に美女がやって来た。

 いや、でもこの人俺の趣味にケチつけてきそう。ハーレム禁止はもちろん、メイドや巫女も危ない。あー、どうしよっかなあ。俺のシャングリ・ラがー。

 

「おい! なんだその顔は! うれしいだろうが! もっと喜べ!」

「は、はい」

 

 あーっ、やっぱ鬼嫁っぽい感じだー。俺の自由の楽園がー。

 

「まあ私も3年も働いたんだ。長期休暇と3年分の未払金はいただいていくぞ。私も鬼じゃないからな。あの手押し車に入ってる金全部でいい」

 

 綱手は当たり前のように言った。そして歩き出す。

 

「どこに?」

「休暇だよ」

「いつまで?」

「さあな。顧問を縛る法はない」

「へ? はえっ?」

 

 うわーっ! あまりの変わり身の早さにビックリしたーっ! つーかこの人、俺と一緒で理想郷の王になるつもりだ! 同族だから分かる! しかも俺の立場を奪って! どころか顧問って、口だけ出してあんまり働かない気じゃん! 俺よりタチが悪い! それを思いつくとは、やはり卑の国の忍者か! 卑の遺志は途切れることなく受け継がれているということか!

 

 なお、綱手は酒とギャンブルに明け暮れ、一週間後にとても機嫌の悪い状態で帰ってきた。一文無しだった。

 また、その時にシズネという娘を連れていた。なかなかの美少女だった。綱手曰く死んだ友人の子であり、いつまでもめそめそしているのがあまりにみっともなかったので、無理矢理弟子にしたらしい。やはり卑の遺志か。


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