俺も子どもの頃には美しい夢があった。
スポーツ選手や大金持ちではない。安定した職やそこそこの家庭でもない。
弘法大師空海! その人のように、人々を救うことである! 特に緑化! 治水! 貯水! 戦争の偉人は敵方にとって悪だが、緑化と治水は生きとし生けるもの皆を救う! 貧乏な国では医療よりも多くの人を救う! 俺は、そんなことを成した偉人に憧れていた! 台湾、インド、中国、ネパール、アフガニスタン! 近現代の日本人でもできることだった! 俺も頑張ればできるはずだった! でも面倒だと思ってやらなかった! それでいいのか夢!
よくない! やるぞ俺は! かつてはできなかったが、今やるぞ! 全身全霊をもってやり遂げるぞ! 本当にやりたかったことを!
地図、設計図を両手に現場を指揮する。隣には土木に詳しいおっちゃん。実家はこの近くにある。木遁分身が3年前に仲良くなった人だ。近年は木の葉で働いていたが、頼み込んで来てもらった。
「そこっ! もうちょっと土を盛り上げよう! 角度をこう、お椀型につけて! 設計図ちゃんと見て! あーっ! 綱手さんそこ崩しちゃダメえ!」
土遁で大雑把な形を作り、細かい部分は手作業で行う。大きなダムなので数回に分けて土を動かす。
特に水の開閉の部分が難しい。強度を強くすればいいという問題ではない。一般人にも改修、修築できる作りにしないとな。俺がいなくなったら後が続かないというのでは、国として成り立たない。
しかし、前世の人間の努力がかわいそうになるほどあっという間にできちゃうなあ。おっちゃんも目が点になっちゃってる。土遁と水遁が便利過ぎる。
平行して、ダムからの水を送る水路も作っている。ここでは皆大好き蛇籠を使う。要するに竹で編んだ籠に小石を詰めて、それを並べて川の両岸にするのだ。木を植えると根が小石の間に入り込み、非常に頑丈な壁になる。修復が簡単というのも特徴だ。
この竹の編み方は波の国のおばちゃんに聞いた。手先が器用な子に教え込み、今急ピッチで増やしている。竹は近くの竹林を伐採、小石をその辺の石を拾ったり割ったりして集める。作業は近隣住民にも協力してもらった。報酬は薪、食料、医療などだ。山賊や元忍もいたが、素直に従うなら雇った。中には偉ぶって子どもを虐めたり、女を犯そうとするやつもいた。そんなやつは、俺が直々にボコボコにして晒し者にしてやった。一応殺しはせず、幻術をかけて木の葉方面に放った。よっぽど運がよくない限り蛇の餌になるだろう。
そうして、半年が過ぎる。
面積約4キロ平方メートル。堤高50メートル。最大積水量約0、1キロ立方メートルの立派なダムが完成した。水路はまだ完成にほど遠いが、1キロくらいは伸びた。以後、水路を伸ばしつつ、水路の周りの荒れ地を緑化していく。平行して開墾だ! 田畑作りだ!
砂漠では、苗を植えて水をやっても、砂が被って枯れてしまうことがある。砂、いや砂を撒き散らす風を止めるためには、植林が必要である。ここで重要になってくるのが俺だ。木遁で一気に樹海を作れる。砂漠は大地の恵みが薄いのでしんどいが、それでも俺がやれば早い。だが、皆の手で緑化を成功させたい気持ちがあった。よって、俺はあまり出しゃばらず、皆で苗木を植えていった。苗木と言っても巨大だが。土遁で根こそぎ取れるし、人力でそれを運べるので。
俺の盛り上がりを他所に「そろそろいいのでは?」という声も出始める。あまり広い土地を耕しても、食べる人がいない。水やり等の管理が面倒になるだけ。
それは正しい。だが、俺は確信している。探せば生活に困っている美少女はまだまだいると。そいつらをこの理想郷に導くのだ。また、雪一族もかぐや一族も滅亡寸前だから、産みまくって増やすべきである。相手がいないならいい男を紹介するぞ。俺だ。
綱手が怖くて大っぴらには言えないので、メイド達には「子ども欲しいか? 赤ちゃんかわいいよな」とそれっぽく誘導し始める。また「困っている人を探す」と言って木遁分身を各地に遣わせた。今度はどんな美少女が現れるか。楽しみだ。
さて、工事の規模がこれだけ大きくなると、隣国も干渉し始める。砂隠れ、雨隠れからは、土地と仕事の欲しい人間がやってきた。彼等はいい。俺が救いたかった種の人間である。
扱いに困るのは「忍者として雇え」と言ってくる自称フリーの忍だ。防衛は信用が大事。スパイもチンピラもいらない。丁重にお断りするも、やつらも仕事がないから粘る。畑仕事なら許すと言っても、「俺を雇うならこれだけ出せ」と言って聞かない。ついには人質作戦や自作自演の救出劇も始めてしまう。人質作戦は計画が始まった瞬間に忍者を殺した。自演の救出劇は幻術にかけて真人間に教育した。
なんてことがありながら、さらに半年が過ぎる。人数、役職は以下のようになった。
名誉顧問 綱手
代表 マオ(旧偽名)、空海(現偽名)、うずまきトグロ(本名)
外交官 豪
土木顧問 イズモ(36)
親衛隊隊長(筆頭メイド) 初
親衛隊(メイド) 13人
親衛隊見習い 9人
警備部隊隊長 長袖
警備部隊 10人
綱手の弟子 シズネ
初期集落民 46人(綱手、シズネ含む)
近隣住民協力者 65人
難民、移民 279人
ある日、真っ昼間に突然、水路の一部が爆破される事件が起こった。子どもの悲鳴が上がり、赤子は泣きわめく。
「オッラ、マオのバカ野郎よおおおお! 殺しに来たぜえええええ!」
犯人は探すまでもなく、自分から目立ちまくって俺に突進してきた。
鳥の泥人形に乗る金髪の美女。ボッチだった。
俺はかっこいいところを見せるべく、木遁で巨大な要塞を作り、鳥の逃げ場を無くした。そして要塞を一気に縮め、ボッチをグルグル巻きにした。
「ご、御主人様! 彼女は!」
「無礼者! 御主人様に何をするか!」
「クッ、クソ野郎が……っ。次こそは、必ず……っ」
遅れて親衛隊(メイドと言うと綱手が怒るので名称を代えた)がやってくる。大して役には立たないが、いるとうれしい。
俺は皆にボッチのことを説明する。
「根は悪い人間ではない。俺は長年彼女の自由を縛った報いを受けているだけだ。むしろ丁重にもてなし、この村のすばらしさを教えてやれ」
えーっ、という反応が多かったが、初期メンバーを中心に納得してもらった。
ボッチの木遁の縛りを解き、集落へ向けて歩き出す。
その時、背後に悪寒を感じた。
白眼!
後方から急速接近するクナイ! 風のチャクラを纏っている!
「つっ」
振り向きざまに指でクナイの腹を突き、弾く。
敵は、……4人か! 同じ服、黒い生地に赤で模様を付けている、を着て、顔には仮面。うち2人は上忍並みの動きだ! ヤバい!
「アラレは綱手を呼んでこい! 戦えない者は集落へ逃げろ!」
言いながら特大のチャクラを込め、先程の要塞より一回り大きく、付近の住民を覆い尽くす巨大な木の壁を作り出す。
さらに内側にもう1枚壁! そして、壁と壁の間に眠り粉を撒き散らす毒花を咲かせる。
敵の術の火やクナイが木の壁に当たる。火は木の表面を焦がすが、チャクラを吸い取ればすぐに鎮火される。風を纏ったクナイは木を切り裂くが、切断した木に押し潰されて途中で止まる。
よし、簡単には突破できないようだな。今のうちに陣形を整えよう。
「親衛隊と警備隊は木の上から敵を狙え! だがチャクラの多い二人には接近するな! あいつらは俺と綱手がなんとかする!」
「はい!」
「了解です!」
親衛隊、警備隊が左右に別れて要塞を登っていく。敵は一人が巨大な鳥を口寄せした。上忍らしきやつだ。それに中忍らしき一人が乗る。さらに一人は、パラパラと身体が紙のようになって浮いた。血継限界か! 厄介な!
残りもう一人は、身体に高濃度の赤いチャクラを纏って突っ込んでる! 五影並みのチャクラだ! それに、どこかで会ったな。このチャクラは見覚えがあるぞ。
衝撃。耳をつんざく爆音。赤いチャクラを纏ったやつは、一撃で木遁の要塞を粉砕してしまう。
だが、バカめ。かかったな。要塞はもう一枚ある。そこは毒花の地獄だ。
フシューッ、フシューッ、とか言ってふつうに息してやがる。よっぽどうれしかったのか? 散々苦渋を舐めさせられた俺の木遁を破壊できたことが。
「あ? あれ?」
眠り粉を吸ってフラりと揺れる女。もう正体は分かってるぞ。
俺は残った木で女を縛りにかかる。紙が飛んできて女を救おうとしたが、それより早く木で覆い尽くした。
「はい捕獲。まだお前には負けん」
「く、くやしい……ってば……」
クシナは眠った。さて、他の三人は誰だ?
「油断していていいのか?」
突然後ろから声。上忍らしき男は空から攻めると見せかけて、分身を地面に送っていたようだ。もっとも、白眼に死角はないが。
前を見たまま背中から木の槍を出し、男の分身に突き刺す。カウンターは決まったが、男の方もギリギリ反応し、分身が消える前に俺に謎の棒を投げてきた。
「ふっ」
もっとも、白眼に死角はないが。手をチャクラで覆い、謎の棒をキャッチする。
「うっ」
途端、悪寒が走った。チャクラも乱される。なんだこの棒は。気持ち悪い。
俺は手に木刀を作り、謎の棒を真っ二つに切り裂く。
っと、こんな暇はない。メイド隊の応援に行かなくては。
「チェックだな」
「何!?」
しかし、筆頭メイドの初、警備隊隊長の長袖、共に上忍らしき忍びに捉えられてしまっていた。だが、こちらも月が敵の男を一人捕らえている。俺もクシナを捕まえた。
引き分け? いや、敗けだ。これではダメだ。自宅警備兵はともかく、俺の宝であるメイドが奪われてしまった。こんな戦いをしちゃダメなんだ!
「御主人様! 私など構わず!」
「何者だ貴様! 俺の宝に汚い手で触るな!」
おおっ。なんかかっこいいぞ俺。
「ぷっ」
と、紙の忍者が笑った。女の声だった。
初を捕まえている男も殺気を消す。そして自身の仮面に手をかけた。
「元気でやっているようだな。今の名は、空海だったか」
「長門!」
男の正体は長門だった。懐かしい顔だ。記憶より大分デカくなって、声も低くなっているが。しかし、こんな形で再開するとはな。びっくりした。
紙の女は小南で、月に捕まった男は弥彦だった。うわっ、悲しいな。今は弥彦が一番弱いのか。一番目だちたがりなのに、気弱で戦いとは無縁だった小南にさえ抜かれてしまったんだな。
「ここの守りがどんなものかと思ってな。試させてもらった」
長門が悪戯っぽく言う。初と長袖を解放しながら。
「3人仲良くやってるのか?」
「まあな。俺達も自来也先生を真似て孤児の世話をしている。お前が自殺したと聞いた時は悲しみより信じられない思いが強かったが、彼女に真実を聞かされた時は笑ったよ」
長門はクシナを見る。なるほど。旅をしていたクシナが長門に出会って、俺のことを話したんだな。相変わらず口の軽いやつ。
と、地面から俺の木遁分身が出てきた。孤児を探しに行かせていた分身だ。俺の目前でそいつが消え、記憶が入ってくる。
ふむ。こいつがボッチに出会って、長門達やクシナに出会って、孤児達と一緒にここまで来たわけだな。なかなかおもしろい旅だった。ちゃんと美少女もいるな。つーか今回の難民、うずまき一族がいやがる。俺を売り払った親族だったらどうしてやろうか。まあ美女、美少女なら許すが。