射命丸文です。今、私は命蓮寺にいます。見てくださいこの混雑ぶり! 敷地の外にも長蛇の列が出来ています! ざっと見た限りでは人間と妖怪が半々といったところでしょうか。里のすぐ近くなので人間もお参りしやすいのでしょうね。
ここにも屋台がありますね。お面とかおもちゃとか、人間の子ども向けの屋台があるのが特徴的です。命蓮寺は飲酒肉食厳禁なので、食べ物の屋台は甘いものしかありませんが、それでも参拝者が多いので随分賑わっています。
本堂前の浄財箱には次々とお金が放り込まれています。博麗神社の巫女が見たら泣きそうになるぐらいの光景です。その奥では何やら声が聞こえていますね。お経でしょうか? ちょっと調べてみましょう。
「はい、次のグループの方入ってー」
あ、あのネズミ耳はナズーリンさんですね。すみませーん、「文々。新聞」の射命丸文ですー。
「やあ。取材かい?」
そうです。本堂の奥で何をされているんでしょうか?
「新年の護摩祈祷を行っているんだ。君も参加してみるかい? 実際に自分の目で見た方が早いだろう」
おお、中に入れて貰えるのですか。
「あちらのテントが受付になっている。そこで護摩木を買ってくれたまえ」
わかりました、ありがとうございます。ところでナズーリンさんは寺の信者ではなかったはずですが。
「こういう忙しい時期にはご主人様に呼ばれて手伝いに来るのさ。バイト代も出るしね」
なるほど。猫の手ならぬネズミの手を借りるってやつですね!
「正直なところ、もっと人手が欲しいところだけどね。まあ、これも毘沙門天の化身たるご主人様の功徳を求めて参拝者が集まってのことだから、忙しいに越したことはない」
毘沙門天の功徳は今や幻想郷じゅうに知れ渡っています。ではその功徳を求めて早速、本堂に入ってみましょう!
本堂には五十人ぐらいですかね、妖怪も人間もめいめいのお願いごとを抱えて正座して住職の祈祷を待っています。お願いごとを受付にあった護摩木に書いてそれを焚くとのことですが、あっ、今護摩が住職の聖白蓮さんの元に運ばれてきました。そして出入り口が閉められました。これから祈祷が始まります。
白蓮さんが般若心経を唱えながら護摩木を火にくべていきます。下座には彼女のお弟子さん達が座り一斉に読経していますが、それでも白蓮さんの声がよく聞き取れます。読経に合わせて太鼓も打ち鳴らされまています。良いリズムですねー。
ちなみに毘沙門天の化身である寅丸星さんは白蓮さんの向こう側、一段高い場所に座っています。私達の方を向いていて、まるで御本尊のように見えます。こうすることで毘沙門天を祀る格好になっているんですねー。
護摩の炎はたちまち天井に届かんばかりになりました。熱がこちらの方にも伝わってきます。
「毘沙門天御真言~オンベイシラマンダヤソワカ~」
「オンベイシラマンダヤソワカ~オンベイシラマンダヤソワカ~オンベイシラマンダヤソワカ~……」
白蓮さんが先唱し、お弟子さんが続く形で真言が唱えられます。
真言とお経を唱えること何十分経ったでしょうか。白蓮さんは御本尊に一礼すると私達の方に振り返りました。
「お忙しい中お参りくださり、ありがとうございました。みなさまのご多幸をお祈りします」
白蓮さんの顔は護摩の火に炙られて軽く火傷していました。護摩壇から一番間近の場所に座っておられましたし、長い間ずっと炊き続けてきたのでしょう。頭が下がります。
それでは、一緒に祈祷を受けた方にインタビューしてみましょう。あのカップルにしましょうか。すみませーん、そこのお二方、ちょっといいですかー?
「はい?」
「あれ? 射命丸さんですよね? 『文々。新聞』の。僕たち、読者なんですよ」
そうです! ありがとうございます! いやー新年早々嬉しいことが起きました。お二方は恋人同士ですか?
「いえ、僕たちは夫婦なんです」
「そう。私はこう見えても妖怪で、旦那は人間なの」
何と、妖怪と人間の夫婦ですか! 種族を越えた愛、素晴らしいですね! どこで知り合ったんですか?
「僕達は命蓮寺の檀家でして、仏事で知り合いました」
なるほど。そして、妖怪と人間の平等を説く命蓮寺の教えを結婚という形で実践されたのですね!
「そうですね。あははは」
先ほどは何をお祈りされていましたか?
「そりゃもちろん、嫁と末永く幸せにいられるようにって……」
「何照れてんのよー。私は末永くどころか、旦那が先に亡くなった後もずーっと墓の世話をさせてもらえるように、って祈ったわ」
「お前……」
いやー、今日はとても寒いですがお二方の周りだけは熱いですね! どうもありがとうございました! 良い一年でありますように!
「ありがとうございました!」
◆
はーい、姫海棠はたてでーす。博麗神社から仙界に続く抜け道を通って神霊廟に来ちゃいました。
参拝客ですが、何と一人もいません! わざわざ仙界まで行く妖怪も人間もいないから当たり前なんですけどね。どうも寂しい感じがします。
ですが、神霊廟ではつい今しがたまで新年を祝うお祈りが行われていました。道教式の祈念がどんなものなのか知りたかったのですが、残念ながら非公開ということで中に入ることはできませんでした……。
その代わりと言ってはなんですが、今から宴会が開かれるということなので、せっかくなのでお邪魔しちゃいまーす!
どーも、「花果子念報」の姫海棠はたてでーす! 新年あけおめー!
「おーっす!!」
中では道士たちが酒盛りをしています。百人以上はいるでしょうか、大賑わいです!
さて奥の席に……いましたいました、豊聡耳神子さんの姿が見えました。早速インタビューです! どーも!
「やあ、待たせてすまなかったね」
いえいえ。それにしてもいつもの服と違って、何かキラキラした豪華な道士服、ですかね? 紫色の派手な服を着ていらっしゃいますが。
「これは道教で祭事を行う時に着る正装だ。その中でも高貴な紫色を着こなせるのは私しかおらんよ、ハハハ!」
そう言えば愛用のマントも紫色でしたよね。私も紫は好きな色なので、頭巾とリボンとスカートを紫色にしています。私の着こなしはどうでしょうか?
「うん、悪くはないな。だが烏天狗は誰も似たような服しか着ないのが惜しいところだ。もっとド派手な服にしても良いと思うがな」
ありがとうございます。残念ながら一応烏天狗の服装には決まりがあるんですよねえ。それが無ければもっとオシャレしたいです。さておとなりの布都さんにお話を伺いましょう。布都さんの白の道士服姿は初めて見ましたが、なかなか似合ってますね。
「そうか? そうであろう! しかし何と言っても、色違いとはいえ太子様とお揃いの格好ができるのが嬉しいのだ!」
あ、神子さん照れ笑いしてますねー。
「お揃いなら私もだぞ」
「あらあら、私もですわ」
屠自古さんに青娥さんもなぜか知りませんが張り合っています。それぞれ緑と青の道士服とイメージ通りですね。こうして見ると色とりどりで目を楽しませてくれます。
では、ここで新年の抱負をお聞かせください。まずは布都さんからお願いします!
「な、我からか? いきなりじゃのう。そうだな……我はまだまだ未熟ゆえ、もっと修行して太子様に近づきたいと思うておる。そのために新しいスペルカードを編み出したいのう」
修行ですか。さすがは道士といったコメントを頂きました。屠自古さんは?
「料理のレパートリーを増やしたい」
家庭的な答えが返ってきました。ちょっと意外でしたね。青娥さんはどうでしょう?
「そうねえ、そろそろ芳香の仲間を作ってあげたいなー、って」
仲間を作る? それってもしかして……。
「ええ、新しいキョンシーを作りたいの。芳香一人だけじゃどうも寂しいからね。できれば新鮮で可愛い男の子の死体がいいわあ」
そ、そうですか……博麗の巫女に見つからぬようこっそりとやって頂きたいです。さて神子さん、締めをお願いします。
「よかろう。ここ数年、幻想郷自体を揺るがしかねない騒動が起こっている。今年こそは安定した一年になるよう、私は道教を代表して祈念し、幻想郷に関わる者の一人として尽力していく。何かあれば私を頼りなさい」
おお、力強い言葉を頂きました! これで幻想郷は安心ですね! みなさま、今日はありがとうございました!
「ちょっと待て。せっかくだから一杯やっていきなさい」
え? いいんですか?
「天狗は酒に強いと聞く。一丁試してやろう」
これ以上取材もありませんし……わかりました、ではお言葉に甘えさせて頂きます!
「フッフッフッ……」
日本では道教が広まっていないせいか、道教寺院での新年はどんな祭事をするのか日本語の資料がほとんど無くてわからんとです