過去編後編。
椿季と碧(お母さん)のお話です。
楽しんでいただけたらと思います。
そんな話をしてから二週間くらいたったある日。
ピピッ、ピピッ、ピピッ。
「うーん。37度9分。完全に風邪ひいたね。こりゃ」
夏休みも終了間際、柊季は風邪をひいた。
「うー……、のど痛い、頭痛い」
「毎日夜遅くまでゲームやってるからこうなっちゃうんでしょ」
「うっ……」
「今日くらい大人しく寝てなよ、何か食べたいものある?」
「今は、何も……」
「じゃあ、あとでリンゴ剥いてきてあげるから、それ食べたら薬飲んじゃいなさい」
「は、はーい…」
そう言って、お母さんは柊季の部屋から出てくる。
私は柊季のために薬を探していたんだけど、
「椿季何してるの?」
「薬もうないみたいだよ」
私は空の風邪薬の瓶をお母さんに見せる。
「あちゃー、じゃあ、買ってくるしかないか、ついでに柊季が食べれるようにうどんも買って来るかな」
「私も行くよ、荷物出そうだし」
「うーん、でも、柊季いるからな……」
お母さんはそっと、柊季の部屋の扉を開けると、柊季はすでに眠りに落ちていた。
「柊季寝ちゃってるし、起きる前にさっさと行ってこようか」
「そうしよう」
そういって、パッと準備を済ませ、私たちは家を出る。
買い物を大体済ませ、私達は帰ろうとしていた。
「うどんは買った、リンゴも買った、夕飯用のお肉も買った、これで買い忘れは…」
「お母さん、薬買うの忘れてる…」
「あっ…」
お母さんは、苦笑いしながら、ドラッグストアへ戻ろうとする。その途中で、
「お金下ろすのに銀行よってもいい?」
「いいよ」
そういって、私たちは銀行に寄ったんだけど、運悪くATMは大混雑だった。
「これは少しかかりそうだね……椿季、そこに、座って待っててよ」
そう言って、お母さんが指差したのは銀行の待合のためにおかれたイスだった。
「うん、分かった」
「終わったら、呼び行くね」
そういって、私は椅子に腰かける。まだかな、そんなことを考えて退屈ながらも待っていた時…
パンッ!パンッ!パンッ!
私は生涯忘れることは無いだろう、三発の銃声を聞いた。
「!!」
「出入り口にロックをかけてシャッターを閉めろ!全員一か所に集まるんだ!」
三人の拳銃を持った目だし帽の男がそう言う。
(これって……もしかして……銀行強盗!?)
そこにいる人々もひそひそと同様した。
「うっせー!!ぶち殺されてーのか!」
目だし帽をかぶった男たち、手に握られた拳銃。どれもテレビや漫画で見るものとは違い、私を恐怖に陥れるには十分だった。
「おいお前…」
パンッ
「うっ…」
抵抗しようとした若い男性が腕を打たれ倒れる。
「お前らも痛い目に合いたくなければ、おとなしくしろ!!」
そうして、次々に人が銀行の中心へと集まっていく。
「おいそこのお前早くこっちに来い!!」
「は…は…」
恐怖に声も、体も動かない。
「早くこっちに、来いって言ってんだろ!!」
そういって、男は私の髪をつかみ強引に投げ飛ばす。
「うっ、うっ」
私はもう泣きだしたかった。しかし、
「椿季、椿季!」
「!!」
横にいたのはお母さんだった。
「声を出しちゃダメ、あなたは絶対私が助けるから」
「う、うん」
私は必死に自分自身を落ちつける。
「おい、この銀行の支店長はどこだ」
「わ、私ですが…」
「よし、立て」
中年の男性が、縛られたまま立たされる。
「このバックにここにあるだけの金を詰めろ!、十分以内だ!」
「私一人でですか?」
「そうだ、早くしろ!」
支店長と呼ばれるは金を急いで持ってきて、バックの中へと詰める。
すると私の横でも小さな男の子が泣きそうになっていた。
「う、うっ……」
(この子もさっきの私と同じ、なら……)
「お、お、おかぁさん……」
「どうしたの大丈夫?」
「お母さんが、お母さんが…」
男の子の指差す先には女性が座っていた。
「大丈夫だよ、きっと助かるから…お姉さんと頑張ろ」
「う、うん…」
そういって、私はなだめる。
そして、しばらくすると犯人側に動きがあった。
「おい!どうしてこれしか金がないいんだ!」
男の一人がそう言った。
「そういわれましても、当銀行の資本準備金はこれだけです」
「そんなわけねー、だってこいつは…」
パンッ
強盗の一人が、仲間を撃つ。
「な、なんで…」
「おい、何やってん…」
パンッ
そして、もう一人を撃つ。
強盗犯の二人はその後動くことは無かった。
「こんなしけた銀行の金を三人で山分けするわけねーだろ」
そう言って、男は死体を蹴とばす。
「さて、ずらかるか、おい、お前ちょっと来い」
そういって、男は手近な女性を手に取り、人質に取る。
それはさっきの子のお母さんだった。
「お母さん!!」
「あ、だめ!!」
私ははそう言って男の子を止めたけれど、彼は犯人の前に飛び出していき、その小さな体を男に思いっきり当てた。
しかし、小学生の男の子の体当たりが、彼のお母さんのを守れるはずはなかった。
「あ?なんだ、ガキ」
「お、お母さんを放せ」
「ほー、威勢のいいガキだ」
そう言って男はその子に銃を向ける。
「あ、あ、」
冷たい銃口を前に男の子は言葉を失っていた。
「直樹!」
「お前は黙ってろ!」
そういって、男は彼の母親の頭を机の角にたたきつけ気絶させる。
「さて、ガキ、ママとのお別れの準備は出来たかな」
「う、う、」
男の子の目は怯えていた。そして、
「お、お姉ちゃ…」
私を見ていた。
でていけるわけがない……
私だって拳銃が怖い、撃たれたら死んでしまうのだから……
あの子はここであっただけで関係ない子だ……
だから見捨てても誰も文句は言わない……
だから…
「あ、?なんだてめぇ?」
私はその子の前に立っていた。
「お……………」
「あ?」
「お願い!この子を撃たないで!」
すると男はニヤリと笑って言う。
「お前この子の姉ちゃんか?」
「違う……でも、私はこの子と約束したの!一緒に助かろうって!だから私がこの子を守る!」
私はただただ一生懸命だった。目の前にいる小さな男の子を守るそれだけしか頭になかった。
すると真剣な私の表情を見た男は笑うのを止め、私に近づいてくる。
そして、
パンッ、パンッ、パンッ。
拳銃を撃ったのだ、私の後ろにいた男の子に……
男の子は血まみれになり力なく倒れこんだ。
「あ、あ……」
男はまた先ほどより大きく狂ったように笑い、言った。
「あはははははっはははっ、どうだい、守るといったものを簡単に奪われちまった時の気持ちは、正義のヒーローさんよ!」
私は力なく座り込む、この時私は痛感した…自分の無力さを、情けなさを、
「さて、これだけのことをしたんだ、お姉ちゃんにもご褒美を上げなきゃな…」
そう言って、男は今度私に銃を向ける。
「じゃあな、小さくてバカなヒーローさん」
私は目をつぶった。結局私はお母さんみたいにはなれなかったと、諦めながら…
パンッ
「おかあ、さん?」
肩のあたりから大量の血を流しているお母さんは私をかばうようにして、私の目の前に覆いかぶさっていた。
「椿季……無茶しちゃ……だめでしょ…」
「なんで?どうして?」
「でもお母さん、うれしかった。あなたが、弱い人のことを、守れる、人であって」
「いやだ、いやだよねえ、だめだよ」
「そんな…顔しないで…」
「ねえ、お母さん?お母さん?」
「愛してるよ…つば、パンッ……」
私はその音にハッと気づくと、男はお母さんに対して銃を向け引き金を引いていた。
お母さんは動かなくなってもなお私に多いかぶっていた。
「あーあ、つまんねぇ、本当つまんねぇ、シラケちまった」
男はそう吐き捨てた
すると、どこからかサイレンの音が聞こえる。
「チッ、思ったより早かったな」
男は気絶した男の子のお母さんを人質に裏口から逃げていった。
「ちなみにその男の子のお母さんはどうなったの?」
倉橋の質問に椿季は首を横に振った。
「数日後、死体で発見されたってニュースでやってたらしいよ」
「らしいって?」
矢田の質問に答えたのは柊季だった。
「椿季自身が、いろいろありすぎて一週間位、目を覚まさなかったんだ」
「それに、私が普通の生活に戻れるまで一か月はかかっちゃったから、お母さんのお葬式にも出られてないし、結局、私は誰も守れなかったし、何もしてあげられなかったんだよ…」
椿季は、表情を曇らせながらそう言った。
すると、
「果たしてそうでしょうか?」
殺せんせーは椿季のほうをまっすぐ向きそう言う。
「確かに五年前、君は結果は誰も守れなかったかもしれない、でも守れないのと守ろうとしないのでは大きな違いがあることは君が一番よく分かっるいるはずですよ」
「でもせんせー、今回だって私は……」
椿季がそう言いかけると殺せんせーは椿季の頭の上に触手を乗せ、もう一本の触手を横に振った。
「いえ、今回は確かに君は誰かを守れていましたよ」
「えっ……」
「考えてみてください、もしあそこであなたが、鷹岡先生が持っていた警棒を弾いていなかったら、柊季君と倉橋さんの二人は大けがを負っていたでしょ」
まあ、もちろんそうなる前にマッハで助けましたけどね、と先生は付け加えた。
「そうだよ。つっちゃん。だからね…」
倉橋もうなずいて、こう言った。
「助けてくれて、ありがとう」
「陽菜ちゃん……」
「あはは、つっちゃんといいに柊季といい、助けてもらってばっかりだね、私」
「そんなこと……」
「でもね…」
倉橋は優しい目をして椿季に言う。
「つっちゃんだって、誰かに助けを求めていいんだよ、私達友達なんだから」
「そうだよ、椿季ちゃん」
「……」
その言葉は椿季の心の中の何かを溶かした。
「とは言っても、私なんかができることは限られてるんだけどね」
と、倉橋はなんだか照れくさそうに言う。
するとそんなやり取りを見ていた柊季が言った。
「陽菜乃、そんなこと無いみたいたぞ」
「??」
「みて見ろあの椿季の顔、嬉しさのあまり感極まっている顔してるぞ」
「!!」
「えっ」
倉橋はそう言うと、椿季の顔を見ようとするが椿季はとっさに枕で顔を隠した。
そしてさらにその様子を見た柊季がニヤニヤしながら言った。
「図星だな」
「うっさい!!」
椿季は得意げな顔をしていた柊季に思いっきり枕を投げつける。その様子を見ていた、倉橋や矢田、クラスのみんなからは笑いが漏れた。
(彼女は幼いころから、お母さんを自分のせいで死なせてしまったという罪悪感と、お母さんの代わりをしなきゃという責任感が誰かを守るために強くなる。そんな今の彼女を作っていた。しかし、これを機に彼女は友達を信じ、助けを求めることができるようになることでまた一歩優秀な暗殺者となるでしょうねぇ)
殺せんせーのそんな思惑を椿季が知るわけもなく、彼女もまた殺せんせーや3-Eの生徒によって手入れされていたのだった。