ゼルダの伝説 虚無《ゼロ》の少女と時の勇者   作:すもーくまんじゅう

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『我らの勇者』と『微熱』
『我らの勇者』と『微熱』


 夕食を済ませ、部屋に戻ってきたルイズはぽすんと自分のベッドへと倒れこんだ。体を包み込む柔らかな感触が心地いい。リンクとは別れて、ルイズは一人で帰ってきていた。

 食堂に入っていったところで、シエスタを庇ってくれたお礼がしたいとのことでリンクがメイドたちから厨房への招待を受けたためだった。

 何も礼をされるようなことはしていない、とリンクは断ったが、メイドたちはとても引き下がってはくれなかった。両側から腕を抱えてぐいぐいと引っ張られ、ルイズからの『行ってきなさい』との促しの言葉もあり、最後はリンクが頷いて厨房へと連れ立って行ったのだった。

 シエスタのためにギーシュと戦ったリンクは、学院の平民にとっては英雄のようなものだ。リンクに向けるメイドたちの尊敬と憧れの混じった視線から、それが分かったルイズには拒否する謂れもなく、大義名分を得たメイドたちは安心してリンクを連れて行ったのだった。

 

 それにしても、思い返すと大変な一日だったように感じる。リンクとギーシュの決闘の後、感極まったシエスタをなだめたり、熱狂冷めやらぬ観衆に対応したり、はたまたようやく妨害が無くなって近づくことのできた教師たちの小言を聞いたりと、面倒なゴタゴタが片付いた頃にはすっかり日が暮れてしまっていたほどだ。それでも、ルイズは満ち足りた気分だった。

 

「まだ夢でも見ているような気分だわ、まさか貴族に剣だけで勝っちゃうなんて……決闘だって聞いた時には気が気じゃなかったけど……でも、ふふっ! あれが私の使い魔で、騎士なんだ!」

 

 リンクとギーシュの決闘を思い出して、ルイズは思わず笑みをこぼした。ギーシュはメイジのランクの中では最下位にあたるドットとはいえ、ワルキューレを次々と切り裂き、圧勝して見せたリンクの剣技は称賛されてしかるべきものなのは疑いようがなく、また、彼が自分の召喚した使い魔であるという事実にルイズは誇らしさが湧き上がってくるのを感じた。

 

 なによりも痛快だったのは、常日頃自分を侮り、ゼロと馬鹿にしてきた生徒たちの顔だった。はじめはいたぶられる様を楽しんでやろうという、にやついた表情だったのが、決闘の後には目の前の光景を信じられないという思いがありありと浮かんだ驚愕と、絶対のものである魔法に対してリンクが確かに示した勝利への称賛の表情に変わったのだ。

 

 そして、それはリンク本人にだけでなく、ルイズにも向けられていた。使い魔は主を映す鏡。その言葉通り、使い魔であるリンクへの称賛は主であるルイズへのものに等しかった。

 また、ゼロとしか思っていなかったルイズには、実は彼女の使い魔の力に相応しい何かがあるのでは? そんな考えが彼らの中に浮かんだためだった。自分が認められたような気分がして、ルイズはふつふつと気持ちが高揚してくるのを感じた。

 

 ふと、ルイズは部屋の片隅へと目を向ける。今朝までは藁の山が積まれただけの、リンクの寝床があった場所だ。そこには見た目は華美ではないものの、上質なベッドが置かれていた。昼前に大急ぎでと頼んだリンク用のベッドがなんとか間に合ったのだ。無理を言った割には安く済んだようで、持たせた金貨のほとんどは帰ってきた。きちんとベッドメイクも済んでいて、まだ戻ってこないベッドの主が体を休めるその時を静かに待っている。

 リンクが戻ってきて、これを見たらなんて言うかな。喜んでくれるかしら? そんなことを思うと、ルイズは顔がほころぶのを感じた。

 

「……でも、これだけじゃ足りない気がするわ。主として相応しくなるよう、もっとご褒美をあげなくちゃいけないのじゃないかしら?」

 

 ルイズはむうと小さく唸りながら、そうぽつりと呟いた。そう、これはまだ昨日の約束を果たしたに過ぎない。積もり積もった鬱憤──とまでは流石に言いすぎだが、胸の空く思いをさせてくれたリンクに対して、主人としてもっと応えたいとルイズは思った。

 だが、自分に何が出来るだろう? 出来れば、お金のような単純なものではなく、何か、大切な、象徴のようになるものがないだろうか。

 

 しばらく眉をひそめてルイズは考え込んでいたが、リンクの戦う姿を思い描くうちに、ふとそれに思いあたった。──剣だ。騎士として、剣こそまさしく象徴と言えるものではないだろうか。

 

 ルイズは自分が与えた剣をリンクが振るう、その姿を想像してみた。凶悪な敵(そんなものはいない)に追い詰められ、囲まれてしまうルイズとリンク。

 その時、リンクはルイズを守るようにその前に立つ。絶対絶命の危機にも、リンクはまるで何でもないかのように、ルイズに向かって涼しげに笑いかける。

 そして背中の剣を抜き放ち、剣閃が走る。一振り、二振り、瞬く間に崩れ落ちる敵たち。全ての者が倒れ伏す中、静かに佇むリンク。その左手には、ルイズがプレゼントしたその剣がしっかりと握られている──。

 

「……いい」

 

 とてもいい。ルイズは頬に手を当て、ほうと息を吐きながら呟いた。これこそ私の騎士というようで、ルイズは胸が高鳴った。この光景はぜひとも実現したい。ルイズは剣をプレゼントしようと心に決めた。明日は虚無の曜日で授業も無いから、早速王都へ出かけることができる。

 問題はプレゼントする剣が、リンクが今背負っているあの美しい黒薔薇の剣に勝てるかということだ。生半可な代物ではとても勝てそうにない。どうしたものかしら? 

 

 ルイズはちょっと不安になって、うーんと小さく唸っていたが、やがて隣の部屋から何やらどたばたと騒がしい物音がすることに気づく。

 隣の部屋。それはキュルケの部屋だ。不穏な、それでいて不愉快な予感が胸をよぎる。そういえば食堂で別れてから随分と経ったが、リンクはいまだに戻ってこない。

 

 はしたないとは思いつつも、ルイズは声の聞こえる方の壁へと忍び寄った。いやいや、まさかそんな、と飛躍している自分の考えに頭を振りつつも、耳をしっかりと押し付ける。その瞬間に聞こえてきた、覚えのある二人の声に、ルイズは目をかっと見開いた。気がついた時には、ルイズは隣の部屋に怒鳴り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズが隣室へと怒鳴り込みをかけるしばらく前のこと、ルイズと別れて厨房へと連れられていったリンクは大勢のコックやメイドたちに囲まれ、長テーブルの前に座らされていた。

 当番で給仕に忙しく立ち回っている者以外はほとんど全ての人が集まっているようで、にこにこと嬉しくてたまらないといった表情をこちらに向けている。

 いつもは賄いの料理が並んでいるテーブルには、素晴らしい御馳走が所狭しと並べられていた。ごろごろと具材たっぷりで湯気をたてるシチューや、ふかふかの白パン、分厚いステーキまで並べられている。手元のグラスには芳醇な香りを漂わせるワインが注がれていた。

 

「さあ、好きなだけ食って、飲んでくれ! シエスタのために、あの鼻持ちならない貴族相手に立ち向かい、見事勝利して見せたお前さんに、俺たちからほんの礼代わりだ!」

 

 リンクのすぐ傍に立っていた、他より一段高いコック帽を被った体格の良い男が満面の笑みでそう言った。立派な顎髭を蓄えた、年齢四十ほどのこの男は、ここでコック長を務めているマルトーだ。

 勢いよくリンクの背中をばしんと叩くと、わははと豪快に笑った。邪気のない笑顔に、リンクも笑いかけながら言葉を返す。

 

「すごい御馳走だけど、良いんですか?」

「おいおい、随分と他人行儀じゃあねえか。もっと砕けて話してくれよ、水臭い」

 

 にっと笑ってそう告げたマルトーに、リンクは視線で問いかける。マルトーは期待するようなまなざしでこちらをじっと見ていた。

 こりゃあ、応えない方が失礼かな。そう思って、リンクは微笑みながら、砕けた口調で改めてマルトーへと聞いた。

 

「良いのか、こんな御馳走用意してもらっちゃって?」

「おうともよ! 俺たちが腕によりをかけて作った自信作だ! 一口食べりゃ頬も落ちるってもんよ! さあ、食べてくれ!」

 

 にんまりと満足げに笑うマルトーに促されて、リンクはシチューをスプーンで一掬い、口へと運んだ。思わず目を見開いてしまう。口に運んだ途端、溶け込んだ旨味が弾けるように流れ込んでくる。それでいてきちんと調和がとれており、一つの味になっているのだ。素晴らしい美味しさだった。

 

「こりゃあ美味い……! マルトーの言う通り、頬が落ちそうだよ!」

 

 リンクはそう言って、夢中になって食べ始める。そんなリンクの様子に、マルトーたちはますます笑みを深めた。

 

「わっはっは! そうだろう、そうだろう! 気に入ったなら何よりだ!」

「ぐむっ! ごほっ! ごほっ!」

「あっ! ちょっとコック長! 駄目ですよ、そんなに叩いちゃあ!」

「おーっと、悪い、悪い! あんまり食べっぷりが良くて嬉しくってなあ! わはははっ!」

「もうっ! 本当に悪いと思ってるんですか!?」

 

 高らかに笑うマルトーにばしばしと背中を叩かれ、思わずせき込むリンクを見て、メイドの一人からマルトーに抗議の声が上がる。ちっとも悪びれた様子のないマルトーに、そのメイドは眉を吊り上げて怒った。それを見て周りのコックたちはますます笑い声をあげた。

 

「大丈夫ですか? リンクさん?」

 

 シエスタは心配げに優しくリンクの背中をさすった。

 

「だ、大丈夫、大丈夫。ありがとう、シエスタ」

 

 息を整えながらリンクがお礼を言うと、シエスタは嬉しそうに、にっこりと笑って応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 テーブルに並べられていた料理も、すっかり平らげてしまった。並んでいるのを見た時にはとても食べ切れない量だと思ったが、あまりの美味しさに食事の手が止まらなかった。

 ワインもまた格別だった。香りが満たされるように広がり、円熟した味わいとほのかな渋みがとても心地いい。聞けばアルビオンとかいう場所のヴィンテージものだそうだ。グラスを傾ける度にシエスタが注いでくれるので、勧められるままにずいぶんと飲んでしまった。酔いつぶれるようなことはしないが、すこしいつもとは違う気分が快かった。

 

「いやあ、ご馳走様。美味かった」

「良い食いっぷりだったな! これだけ食ってくれりゃあ、こっちも腕を振るった甲斐があるってもんよ。いや全く、お前さんのような良い奴ばかりなら、俺だって毎日やりがいがあるのになあ。仕事とはいえ、俺の料理を食うのは鼻持ちならないお貴族様ばっかりなんだからなあ」

 

 マルトーはそう言うと、腕を組んで怒りを込めた声を上げた。

 

「あの貴族どもめ! 魔法が使えるからって威張りくさりやがって! 確かにお貴族様は土塊から鍋を作れる! 空を飛べる! 果ては竜だって操れる! だけどな、俺様の料理だって魔法みたいなもんだってんだ! 固い芋だろうが、肉だろうが、俺の手にかかれば頬も落ちる極上の料理に変わるんだ! しかも偉いお貴族様が杖振ったところで、料理は作れやしねえときたもんだ! なあ、そう思わないか、リンク!?」

 

 鼻息も荒く、ぐっと顔を間近に寄せて問いかけてくるマルトーに、リンクは若干背を反らし、押され気味に答える。

 

「ああ、そうだな、確かにそう思うよ」

 

 勢いには押されたが、お世辞ではない、ありのままの気持ちをリンクは答えた。これだけ素晴らしい料理を作るのは素直にすごいとそう思った。マルトーはリンクの言葉を聞くと、がっしとリンクの首にその逞しい腕を回して引き寄せた。そして心底嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「おい、リンク! 全くどうしてくれるんだ、俺はますますお前が気に入っちまったぞ! 特別にキスしてやろうか!」

「あっはっは! いや、それは遠慮しておくよ」

「そうか!? もったいないことするじゃないか! もう、してくれって言われてもしてやらねぇぞ!」

 

 マルトーの冗談に、聞いていた皆は笑い声をあげた。しばし笑いあっていたが、マルトーは真剣な表情になると、リンクをまっすぐに見つめて言った。

 

「シエスタを守ってくれて本当にありがとうよ。俺たちじゃあ、貴族の言いなりになるしかなくてな。見て見ぬ振りをするしかなかったんだ。改めて、心から礼を言うぜ」

 

 リンクはふるふると首を横に振って、マルトーに応えた。

 

「礼を言われるようなことじゃないさ。俺だってあの態度に我慢ならなかったんだ。それにシエスタには約束したから。傷つけるような奴がいたら、貴族だろうと、何だろうと、きっとやっつけてやるって」

 

 リンクの言葉を聞いて、シエスタは恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに頬を染め、そっとはにかんだ。同僚のメイドたちはきゃー、と小さく歓声を上げてお互いに顔を見合わせあう。小声で囁きあって、楽しい、しかし決して容赦のないシエスタに対する尋問が開かれることが決定した。

 

「シエスタから聞き出さないといけないことが山ほどできちゃったわ!」

「今日は全員集合よ! 全部聞くまでは寝かせないわ!」

「ああ、シエスタったら羨ましい……私もあんなこと言われてみたい……」

 

 マルトーはにぃっと笑って、リンクを引き寄せたままに、乱暴に彼の頭を撫でまわした。

 

「はっはっは! 何でもないってふうに言いやがって! まったく本当にいい男だぜ! 『我らの勇者』は!」

 

 マルトーの思わぬ言葉に、リンクはきょとんとした顔になって聞き返した。

 

「『我らの勇者』?」

「おうともよ! お前は我ら平民のために立ち上がってくれた! 魔法を使う貴族相手に、剣で立ち向かい、そして勝利した! まるであの伝説のイーヴァルディの勇者のように! まさしく『我らの勇者』だとも! そうだろう、お前ら! さあ、続けろ! 『我らの勇者リンク』!」

「『我らの勇者リンク』!」

 

 マルトーが呼びかけると、コックたち全員が拳を振り上げて大声で応えた。リンクがあっけにとられていると、シエスタがにこっと微笑みながら教えてくれた。

 

「『イーヴァルディの勇者』ってお話があるんですよ。ずっと昔にいたっていう、苦しんでいる人々のために、恐ろしいドラゴンや怪物に立ち向かう、勇者の物語が。イーヴァルディの勇者は平民なのに、その勇気で必ず人々を救うんです! 色んなお話があるんですけど、中には平民を苦しめる、悪い貴族を懲らしめる話もあったりして……私、おとぎ話だとしか思っていなかったですけど、リンクさんを見ていたら本当にいるんじゃないかって思っちゃいました!」

 

 そう言うと、シエスタはぎゅっと拳を握って興奮した様子で続けた。

 

「それに、イーヴァルディの勇者は輝く左手で剣を握っていたっていうんです。それまでリンクさんは一緒なんですもの!」

「……」

「……剣を振るうリンクさんの姿、すごくカッコよかった……」

 

 シエスタがうっとりと熱い視線を送って言った言葉にも気づかず、リンクは自分の左手の甲を見つめた。そこには勇気のトライフォースが静かに光っている。

 

「勇者、か……誰かからそう呼ばれることなんて、もうないと思ってたんだけどな……」

 

 リンクがどこか寂し気な目をしながら小さく呟いた言葉は誰にも届かず、ただ喧騒の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 厨房の皆に別れを告げ、リンクはルイズの待つ部屋へと戻ろうとしていた。ワインに火照った頬が少し熱い。部屋のドアノブを回そうとしたところで、くいくいとブーツを引っ張られるのに気付いた。足元に視線をやると、キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムがきゅるきゅると鳴きながら、口でブーツを引っ張っている。

 

「フレイム? どうした、俺に何か用でもあるのか?」

 

 きゅるー、と一声鳴くとフレイムはルイズの隣の部屋へと向かって歩いていく。その部屋の入口のところで立ち止ると、尻尾を振ってリンクの方を見つめる。どうやらついて来いと言いたいらしい。

 

「何だ? 隣の部屋に何かあるのか? ルイズの隣の部屋は……確かキュルケの部屋だったっけ?」

 

 リンクがそう言いながら、フレイムの後をついていくと、部屋の扉は開け放たれていた。フレイムはとことこと部屋の中に入っていってしまう。明かりはついていない。

 

「何だってんだ……? キュルケ? いるのか?」

 

 呼びかけながらリンクが部屋へと足を踏み入れると、扉がひとりでにぱたんと閉まる。廊下のロウソクの明かりが届かなくなり、ぼんやりと光るフレイム以外には光源のない部屋で周囲を見回していると、床に並べられたロウソクがベッドに向かって導くように順番にぽっと火を灯していく。全てのロウソクに火が灯ると、ベットの上にいた人物が淡い光に浮かぶように照らし出された。

 

「こんばんは、リンク。素敵な夜ね」

 

 甘い声が柔らかく、誘うようにリンクの耳を揺らす。そこにいたのはキュルケであった。その燃えるような赤髪に映える淡い紫色のネグリジェを身にまとい、口元に柔らかな、それでいて実に蠱惑的な微笑を浮かべている。大胆にもそのネグリジェは大半の部分がシースルーとなっていて、男を魅了してやまない美しいボディラインと褐色の肌を露わにしていた。

 

「キュ、キュルケか!? な、なんて格好してるんだよ!?」

 

 あまりに扇情的な格好に、リンクは視線を慌てて逸らしながら言った。

 

「うふふ……どう? 似合っているかしら?」

「ああ、まあ、よく似合ってると思うよ、うん」

 

 困ったように頬をかきながらリンクは答えた。いつの間にか後ろに回っていたフレイムに小突かれ、キュルケの方へと歩み寄る。一歩ごとに匂い立つような色気と甘い香りが強まり、包まれるようだった。

 

 ぎしり、と静かな音を立ててキュルケは立ち上がると、ゆっくりとリンクに近づき、その首へと両腕を回す。

 

「ねえ……? もっと見てくれないの……?」

 

 ほう、と静かにキュルケは息を吐いた。視線を逸らしているリンクに合わせて首を傾げ、上目遣いに見つめる。その瞳はほのかに潤んでおり、蠱惑的な輝きをたたえている。学院の男たちから羨望の眼差しを受けているその胸には、見る者の視線を捉えて離さない、罪深き深い谷間が刻まれていた。

 

「いや、その、あんまりまじまじと見ちゃ悪いから……」

「いいの、見てほしいんだからっ……!」

「うわっ!」

 

 どさり、と柔らかなベッドの上に二人は倒れこむ。キュルケが不意に引っ張ったためだ。途中で半回転して体を入れ替えたために、ちょうどキュルケが上に乗るような体勢になっている。リンクの頬に手を当てて、キュルケは艶然と微笑む。妙な雰囲気にどぎまぎしてリンクは思わず体を固くした。

 

「うふふ……もしかして、緊張しちゃった? 可愛い……」

「へ、変なこと言わないでくれよ。どうしたんだよ、急に」

「私ね、あなたに恋してしまったの」

 

 キュルケはうっとりとした瞳をして、はあ、と悩まし気な吐息をして続ける。

 

「あなたのその凛々しい表情、吸い込まれそうなほどに澄んだその瞳……そして何よりメイジ相手にだって怯まずに挑む勇気に、何体のゴーレムだってものともしないあの強さ! カッコよかった……本当に物語に出てくる勇者のようで……あの瞬間、もう私の心はあなたという存在に囚われてれてしまったの!」

「あの、そういったことはお互いもっと深く知り合ってからの方が……」

 

 リンクは突然の告白に面食らいつつそう言った。好意を告げられるのは嬉しく思うが、出会ってまだ一日だ。恋だのなんだのはどうにも早すぎる気がしてならない。だがキュルケは止まらない。

 

「そうね、私もあなたのことをもっと知りたい……あなたにも、私のことを知ってほしい……」

 

 そう言うとキュルケはリンクに体をぎゅっと押し付ける。密着して、張りのある、吸い付くような肌が触れて、その温もりが全身に伝わってくる。胸板に柔らかな双丘の潰れる、慈愛のこもった、それでいて破壊的な感触が声高にその存在を主張していた。甘い香りが漂い、誘うように鼻をくすぐる

 

「私の二つ名は『微熱』。その身を甘く焦がす情熱の炎よ。出会ってからの時間がなに? 情熱が燃え上がるのに時間なんて関係ない……。さあ、ただ感覚に身を任せて……私の中の情熱が、あなたを、熱く、焦がしてあ・げ・る……」

 

 キュルケは潤んだ瞳をそっと閉じ、囁く。

 

「さあ、熱い口づけを……」

「ちょ、ちょっと、待って……」

 

 リンクは慌ててキュルケの肩を抑えるが、彼女が動きを止めることはない。キュルケの唇が近づき、今にもリンクのそれに触れかけようとしたところでその怒号は響いた。

 

「キュルケ!?」

 

 二人が目を向けると、窓の外に一人の男がいた。服装からして生徒の一人だ。魔法で宙に浮かんで、こちらに向かって叫んでいる。

 

「ペリッソン!?」

「待ち合わせをしてたのを忘れたのか!? 二時間も君を待っていたんだぞ!」

「もう二時間後にしてちょうだい」

 

 見るからに投げやりな態度でキュルケが言うと、窓から新しい顔がにゅっと割り込んできて叫んだ。

 

「キュルケ! 僕との約束はどうしたんだい!?」

「ああ、スティックス。四時間後に」

 

 続けて現れた二人目の男の方をキュルケは見向きもせずに、同じように出直しを要求した。しかし、あきれたことに、さらに三人の男が現れた。

 計五人の男たちが押し合いへし合い、髪を引っ張り、時に顔面へパンチをお見舞いする様は、さながら餌を取り合う野良犬のようだ。男たちは口々に叫ぶ。

 

「キュルケ!? そいつは誰だ!?」

「恋人はいないって言ったじゃないか!?」

「今夜は僕と過ごすはずだろう!?」

「マニカン! エイジャックス! ギムリ! 六時間後!」

 

 悪びれもなく答えるキュルケに、窓の外で佇む全員の声が揃った。

 

「朝だよ!」

「あら、それじゃあおやすみなさい~♪」

 

 キュルケはそう言って笑顔で手を振りながら、火が灯されているロウソクの一つに向かって杖を振った。ロウソクの炎は激しく燃え上がり、巨大な蛇のようになってうねりを上げると、約束を忘れ去られた哀れな男たちを包んだ。それぞれ悲鳴をあげて地面へと落下していき、窓枠から姿を消した。徐々に小さくなっていく叫びが何とも言えない無常感を醸し出していたが、それもキュルケが再び杖を振り、窓が閉じられると聞こえなくなった。

 

 頭を抱えてため息をついていたリンクだったが、潮時とばかりにキュルケを引き剥がして、立ち上がった。何もしていないのにどっと疲れた気分だった。どうやらキュルケは随分と気の多い、気まぐれな女の子のようだった。その気まぐれに今回はどうやら自分が当たったらしい。

 

「どうやら先客があったみたいだから帰るよ。おやすみ」

「あんっ! ダメよ!」

「うわっと!」

 

 うまく逃げようとしたリンクだったが、抱きついてきたキュルケに再びベッドへ引っ張り込まれてしまう。

 リンクの顔を両手で挟み、吐息のかかるような至近距離でキュルケは囁く。

 

「もう邪魔者もいなくなったんだし、熱い夜を二人で過ごしましょう♪」

「キュルケ!」

 

 扉が破られんばかりの勢いで開けられ、怒鳴り声が響いたのはその時だ。先ほどまでの低い声とは違い、甲高いその怒鳴り声は寝間着を着たルイズのものだった。怒り心頭にぶるぶると肩を震わせ、眉を吊り上げて彼女は叫ぶ。

 

「ツェルプストー! 誰の使い魔に、手を出しているの!?」

「取り込み中よ、ヴァリエール」

 

 キュルケはうるさいと言わんばかりに、邪険にしっしと手を振って言葉を返す。その態度がルイズの怒りをさらに燃え上がらせた。ロウソクを蹴り飛ばし、ずんずんと二人の傍までやってくる。ベッドで抱き合い、絡み合うように見えるその姿が視界に広がってきて、一歩進むごとに頭に血が上ってくるのをルイズは感じた。思わず声が震え、上擦る。

 

「あ、あ、あんたのひ、火遊びに、リンクを、巻き込まないで!」

「火遊びってひどい言いぐさね。私は本気で好きになったのよ。ね、リンク」

 

 リンクに向かって妖艶にキュルケは流し目を向けて微笑む。その艶やかさに思わずリンクはどきりとしてしまう。さらにキュルケはルイズに向かってじとっとした視線を向けて問いかける。

 

「それに使い魔の恋愛にあなたの許可を取る必要があるわけ?」

「恋愛!? どう見てもい、いやらしいことしようとしているだけにしか見えないわよ!」

「あら、私の家系のことはあなたも知ってるでしょ? 燃え上がる情熱の炎のツェルプストー! 熱い愛に身を焦がされるのは我が家系の宿命……私は彼のことをもう愛してしまったのよ。その愛をただ確かめ合おうとしているだけ……」

 

 そう言ってキュルケは唇をリンクに向かって近づける。ついに触れようとしたその瞬間、ルイズがリンクを横からぐいっと抱き寄せたため、キュルケはバランスを崩してベッドの上でころんと転がってしまう。きわどいところが覗けてしまいそうで、リンクは慌てて顔を逸らし、ルイズは頬を赤くしながらリンクの視界を塞ぐように手を当てた。

 

「全く、恥じらいってもんがないのかしら! 悪いけど、あんたの気まぐれは聞き飽きたわ! さあ、帰るわよ、リンク!」

「ああ、それじゃキュルケ、お休み」

 

 元よりそのつもりであったリンクはご主人様の命令に背くこともなく、苦笑しながらキュルケに別れを告げる。

 

「ああ、そんな……行ってしまわれるの……?」

 

 キュルケは去り行くリンクに向かって言葉を投げかける。その潤んだ寂しげな瞳に、儚げなその声の響きに、リンクはどうにも胸が締め付けられて、後ろ髪を引かれる思いがした。

 自分が彼女の元に戻れば、その悲しみの表情は消えて、彼女は花が咲いたような笑顔となってくれるはずだった。笑顔にしてあげたい。微笑んでほしい。それは男としての素直な気持ちだ。

 

 最も、キュルケがそれだけで終わるはずもなく、その身に溢れる情熱を示すように、きつく抱きしめて熱いキスをしてくることまでは、リンクには思い浮かんでいない。そのことを知ってか知らずか、警告するようなルイズの鋭い声に、その思いは断ち切られる。

 

「騙されちゃダメよ! あの女のいつもの手なんだから!」

 

 そう大声を上げて、ルイズは扉を勢いよく閉める。一人残された暗い部屋の中、どさりとキュルケはベッドに体を伸ばした。だが、楽し気な声を上げて、彼女は微笑んでいた。獲物を見つけたその瞳はきらりと輝く。

 

「逃がしちゃったか……ふふ、でもいいわ。簡単に落とせたって、それじゃあ面白くないものね。逃げられるほど、追いたくなる……うふふ、絶対に私の虜にして見せるわよ、リンク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンクのバカ! ツェルプストーなんかに鼻の下伸ばしちゃって! なによ! そんなにあのおっぱいお化けがいいの!?」

 

 自分の部屋へと戻ったルイズは腕を組んで威圧感たっぷりにリンクの前に立っていた。一方のリンクはと言うと、床に正座させられている。有無を言わさぬルイズの視線に抗うことなど出来ず、速やかに命令を実行したためである。リンクに向かって、ルイズは多分に私怨のこもった怒りをぶつける。

 

「いや、鼻の下なんて伸ばしては……」

「ああっ!?」

「ナンデモナイデス」

 

 リンクの反論は刺々しいルイズの声にかき消される。リンクに最早出来ることは嵐の過ぎ去ることを待つことだけだった。

 

「言っておくけど、もしあの女の誘惑に乗ってごらんなさい! すぐに軽く十人の貴族とは決闘する羽目になるわよ! いいえ、それだけじゃないわ! 廊下を歩いていても、食事をしていても、いつだって背中に『ファイアー・ボール』が飛んできたり、『ウインド・ブレイク』で吹き飛ばされたりするようになるわ! 間違いなく! それでもあのおっぱいに誘われるままに、い、いやらしいことがしたいの!? おっぱいのために決闘する覚悟はある!?」

 

 そんな覚悟は生憎だが決めていないし、これからも決めるつもりはない、とリンクが返答することも待たず、ルイズはわなわなと拳を震わせながら続けた。

 

「大体、あの女は気に食わないのよ! 何かと言えばすぐに私のことをからかってきて! トリステインじゃなくて、隣国ゲルマニアの貴族だってだけでも気に食わないのに! ……そりゃあ、落ち込んだ時に励ましてくれたり、庇ってくれたりすることは感謝してなくもないけど……なにより、フォン・ツェルプストー家と我がヴァリエール家は代々因縁があるのよ!」

 

 腹立たしくて仕方ないとばかりに、ルイズは枕に拳を何度も振り下ろして息巻いた。ただ、ぽすん、ぽすんと、枕を殴りつけるその様子は、怒っていてもどこか可愛らしくもある。

 

「情熱の家系ですって!? ただの色ボケのくせに、冗談じゃないわよ! 今から二百年前、キュルケのひいひいひいおじいさんは、私のひいひいひいおじいさんの恋人を奪ったのよ! それからひいひいおじいさんはキュルケのひいひいおじいさんに婚約者を奪われた!」

 

 リンクは口を挟まない。何か言えばそれだけルイズの怒りが燃え上がる。今は戦うべき時ではない。リンクはそれを勘で察した。

 

「ひいおじいさんのサフラン・ド・ヴァリエールなんてね、奥さんを取られたのよ! 信じられる!? 奥さんよ!? 永遠の愛を誓った相手を、あの女のひいおじいさんのマクシミリ・フォン・ツェルプストーは奪ったの! ……あれ、弟のデューディッセ男爵だっけ……? とにかく、これ以上ツェルプストーに我がヴァリエール家のものを絶対に奪われてなるものですか! だから、あいつにデレデレしたりするんじゃないの! 例えおっぱいに誘惑されてもよ! わかった!?」

「ハイワカリマシタ」

「ふんっ!」

 

 最後は鬼気迫る表情でルイズは叫んだ。リンクが返事を返すと、ルイズは不機嫌そうにベッドへぽすんと腰掛けた。腕を組んで神経質に指をとんとんと叩いていたが、ふうと一息つくとリンクに向かって言った。

 

「迷っていたけど、決めた! あなたにも、周りの奴らにも、リンクのご主人様が私なんだってことをよーく示すために! 明日、王都に剣を買いに行くわよ! この世で一番の剣をあなたにあげるんだから! いいこと!? あの女に聞かれたら、私からのプレゼントだって言うのよ!」

「えっ、急にそんなこと言われても……」

「もう決めたんだもん!」

「あー……うん」

 

 大妖精の剣以上のものがそう簡単に手に入るようには思えず、返事を濁すリンクだったが、最後には頷いた。いくらルイズから変えるように求められても、自分の命にも等しい剣について妥協するわけにはいかない。

 とはいえ、絶対に良い剣が見つからない、という訳ではない。思いがけず、十分納得できるものが見つかったならばそれで良し。そうでなかったならば、その剣では自分の命を懸けられないことをルイズに納得してもらおうと考えてだった。それに、王都というものがどのようなものか見てみたい好奇心もあった。

 

「よし。明日は早いから寝坊しちゃダメよ。王都までは馬でも三時間はかかるんだから。それじゃあ、お休み」

 

 リンクが頷いたのを見て、ルイズはベッドへと潜りこんだ。ようやく話が終わり、リンクは立ち上がった。床に正座していたせいで足の感覚が妙になっていて気持ち悪い。血を巡らせるように何度かぶらぶらと足を揺すり、とんとんと感覚を確かめるように足先で床を叩く。

 ようやく普段の感覚が戻ってきて、リンクはやれやれと頬をかいていたが、被っていた布団の端からいつの間にかルイズがちょこんと顔を覗かせていた。先ほどまでの刺々しさはなく、ルイズはいつもの鈴のような愛らしい声で言った。

 

「あの……その、昨日約束したベッド……ちゃんと用意したの。だから、今日からはそれで休んでね?」

 

 ルイズの言葉に、リンクが部屋を見渡すと、今までのどたばたで気付かなかったが、確かに上質なベッドが置かれていた。昼前に秘密と言っていたのはこのことだったのだろう。リンクは顔をほころばせ、ルイズに礼をいった。

 

「ありがとう、ルイズ」

「ううん、いいの……喜んでもらえたら、私も嬉しい……」

 

 最後はリンクに聞こえないように小声でもごもごとルイズは呟いた。リンクが寝支度を整えようとしたところで、ルイズからまた声が掛かる。

 

「オカリナ……」

「え?」

「オカリナ、昨日みたいに吹いてくれないの?」

「……気に入ってくれたのなら、いくらだって吹くよ」

「……ありがとう」

 

 思わぬルイズのリクエストに、リンクは少しの間ぽかんとなったが、嬉しそうに微笑むと、昨夜と同じようにルイズの傍へと行って、時のオカリナを構えた。ルイズは目を閉じたリンクの顔を見つめた。

 やっぱり、ツェルプストーなんかに、私の使い魔を、騎士を取られてたまるもんですか。そんなことを考えながら。やがて、優しい旋律がまた静かに宵闇へ響き、夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 すっかり寝静まった真夜中の魔法学院だったが、学院長室にはいまだ明かりが灯っていた。部屋の中では深いクマが刻まれ、憔悴しきった表情のオールド・オスマンが必死になってペンを走らせている。

 かれこれ十数時間、オールド・オスマンは全くの不休で書類仕事をこなしている。この数日間全く片付けていなかった仕事のツケの支払いのためだから、同情の余地はあんまりない。無論、その中にはミス・ロングビルからのお仕置きで血まみれになってしまった書類の作り直しも含まれている。

 

 これだけやっているが、書類の山は全く減る気配が無い。このままのペースで続けても、明日の夕方までは余裕でかかりそうだ。椅子の後ろでは、ミス・ロングビルが作り出した重厚なゴーレムが仁王立ちしている。その姿は罪人を見張る獄卒のようにも見える。

 

 離れた位置にあるもう一つの机にはミス・ロングビルが座っていて、作成した書類のチェックや残件の整理を行っていた。オールド・オスマン一人になると即座に仕事を放棄することが分かり切っているため、彼女も仕方なく一緒に仕事をしている。

 

 決闘騒動が済んだ後、学院長室へと戻ってきたミス・ロングビルはオールド・オスマンに書類の山脈を片付ける以外には何もさせず、誰にも会わせることは無い、と刑の宣告を行った。

 オールド・オスマンは決然とした表情で、『わしにはなすべきことがある! こんな紙切れにペンを走らせるよりも重要なことじゃ!』と言い放ち、ミス・ロングビルを追い返そうとした。

 しかし、ミス・ロングビルが鞭で粉々に砕いた床石の破片を示して、仕事を放置したオールド・オスマンの三秒後の姿であることをにっこりと笑顔で、丁重に伝えると、彼は血の気の引いた顔で何も言わずに黙々と働き始めた。サインはぶるぶると震えていたが、書類上は何の問題もない。

 会話とは本当に大事なものだとミス・ロングビルは改めて実感する。これからは何事もしっかりと言葉で説明することにしなければと心に決めた。

 

 サインを続けながらも、オールド・オスマンはちらと視線を上げて様子を伺い、恐々とミス・ロングビルに話しかける。声を出すのはオールド・オスマンがこの責め苦──自業自得以外の何物でもないが──を受けてから初めてのことである。長時間口を開いていないせいですっかり掠れてしまった声でオールド・オスマンは言った。

 

「……ミス・ロングビル、わし、休憩を入れたいのじゃが……ほら、もう真夜中じゃし、その、ちょっとくらい……」

「わかりました。オールド・オスマンは挽肉になりたいとおっしゃっているのですね。お手伝いいたしますわ」

 

 いつもの知的な雰囲気のままに鞭を手に取って、ミス・ロングビルは言い放つ。声の調子が変わっていないのが余計に恐ろしい。そして椅子の後ろで仁王立ちしていたゴーレムが拳闘の姿勢をとった。どうやらゴーレムもオールド・オスマン産挽肉製造のお手伝いをやる気満々でしてくれるらしい。解体作業は彼がやってくれそうである。

 オールド・オスマンは抑揚の無くなった声を上げて、諦めて刑期を務めあげることにした。

 

 

「ワシ、オシゴトダイスキー。ヤスミナンテイラナイゾー。アー、ハタラケテシアワセジャー」

 

 感情の無くなった、死んだ目をしているオールド・オスマンを見て、ミス・ロングビルはため息をついた。くそ爺め、寝不足でお肌が荒れたらどうしてくれるのよ。

 しかし、こんな苦々しい思いをするのも明日で終わりだ。この学院にやってきた本当の目的をようやく果たせる。ミス・ロングビルは心の中で、暗く笑った。

 

 

 

 




バイオレンス成分は全てミス・ロングビルに行ってるかも……?

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