青春皆無系ボッチは峰ヶ原高校女子生徒の夢を見ない(例外もあるよ!)。 作:ボッチ系青春ブタ野郎。
比企谷八幡は天才子役のエロチックな姿を見ない。
バニーガール姿の女の人がいたら、まず何を思うだろうか。
俺は痴女か美人局だと疑う。ちなみにウサギをハンティングしようと思ったら、怖いお兄さんにお財布をハンティングされることを努々忘れてはいけない。キャバクラは恐ろしいのだ。
つまり、関わらないが吉……なのだが。悲しきかな下卑た男の性というやつはバニーガールから目線を外してくれない。いかん、眼が勝手に吸い寄せられる。
いや、この女の人も異常だが、この光景をまるで当然かのように扱っているほど反応しない周りの奴らもおかしい。もしかしてテレビか何かの撮影をしているのかと辺りを見回しても、機材のひとつもない。
……えー、何これ。俺の精神力を試されてるのん?
バニーガールに気づかれぬよう、行動を眼で追う。勉強中の女子大生や男子大生にちょっかいをかけているのに周りの人はもちろん、当の二人も気づかなかった。
なんだありゃ、幽霊なの? 教えて! Wikipedia先生!
……我が家の財政状況に余裕がないの忘れてた。
スマホどころかガラケーもない。よって、インターネットは使えない。だが幸いここは図書館。霊関係の書物はあるはずだ。……や、でもバニーガールの霊とか聞いたことすらないんだけど。
霊についての本を数冊手に取り、バニーガールがちょっかいをかけていた男子大生が先程まで座っていた席に着く。バニーガールの真正面の席は二重の意味で落ち着かない。
人間は存外視界が広いので、本を読んで下を向いていようとも前の景色が分かってしまうものである。つまり、母性の総山ならぬ双山が眼に入って集中できない。おちちゅけ、見たら罰金見たら罰金……。いかん、集中できん。帰ろう。
――失策だった。せめて、俺はバニーガールが目の前の席から去ってから動くべきだったのだ。
視線が、交錯する。
あ、こりゃ見えてることバレたな。逃げるが勝ちだ。
本を置きっぱなしにして席を立ち、早々に逃げ出す。駄菓子菓子! バニーガール(痴女)に服の裾を掴まれ逃げられなくなってしまったではないか! ……脳内ナレーターって虚しいな……。
「……見えてる?」
逃げられないことを悟り、ゆっくりと首肯した。あぁ、祟られんのかなぁ、呪われんのかなぁ。可愛い妹のためにもまだ死にたくねぇなぁ。
「そう」
悲愴な覚悟を固めた俺に対して、何でもないようにバニーガールは言う。……あの、何もされないのは嬉しいんですが、俺とあなたとの温度差が激しすぎて恥ずかしいんですけど……。
と、ここで気付く。
俺は、この
――桜島麻衣。
俺も通う県立峰ヶ原高校の三年にしてマドンナ的存在。そして、超天才子役……だった。そう、だったのだ。
ある日、天才子役は忽然と姿を消した。理由は不明。様々な憶測がネット上では行き交っているのだろうが、まぁ俺には関係ない。俺が何を言いたいのかと言うと、桜島麻衣と比企谷八幡は関わることのない人種だということだ。それが、え? 何これ何これ。何で鼻先三十センチにこの人の顔見てんの? 何でバニーガール姿なの?
今更ながらにこの状況の非常識さを認識する。あの、柔らかくて気持ち良いんで両手で頬を挟むのもっとやってください。でもこっちを注視してくるのは止めてぇ!
「あ、あの……?」
図書館利用者に聞こえないよう、囁くように語りかける。取り敢えず、幽霊ではないことが判ったのは僥倖だ。ていうか、いい加減離して欲しい。
顔を引っ込めて束縛から脱出する。大して力は込めていなかったようで、あっさりと抜け出せた。しかし改めて見ると随分とエロチックである。やはり痴女か。
君子危うきに関わらず。ボッチ有名人に関わらずに則り、一礼をして図書館を退出しようとする。
「……じゃあ、なんというか、失礼しました、
――そう。この余計な一言のせいで、俺は身バレしたのだ。
× × ×
俺こと比企谷八幡の朝は遅い。
誰もが一度は体感したことがあるであろう布団の魔力には如何とも抗いがたく、もう一回夢の国に旅立とうとしてしまう。ディズニー行ったことねぇけど。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。起きてください、朝ですよ」
愛しのマイシスターの甘々ボイスと優しい揺すりによって眼が覚める。……や、一応義妹だから愛しのは洒落にならんかもしれん。
「ん、おぉ……」
「おはようございます」
自他共に認める腐った眼を開けると、パンダのパジャマに身を包んだ義妹が俺を揺する様子が眼に入った。神にーさま曰く、義妹は妹じゃないと言っていたが言おう。義妹でも可愛い妹にゃあ変わりねぇ! ……うん、我ながらさすがに今のは気持ち悪いな。
何にせよ、かえでが起こしに来てくれたなら起きないという選択肢はない。ちなみに、かえでが俺の布団に潜り込んだ時は危うく遅刻になることが多い。
「わりぃ、すぐ飯作るわ」
時計を見ればかなりギリギリだ。生憎今日は冷蔵庫にはあまり食べ物がないため、朝食をちゃんと作ってかえでに食べさせないとかえでにひもじい思いをさせてしまう。それはアカン。
「あー、卵にハムとチーズ、パン、ヨーグルトがあんな……。これで充分か」
野菜がないのは少々不摂生だが、ないもんは仕方がない。卵をフライパンで熱し、スライスチーズを細かくしたものを入れてからそぼろ状に固まるまでかき混ぜる。次はハム。
名前を知らん料理を完成させた時、オーブントースターだと少し聴いただけで判る音が鳴ったのでかえでにパンを出すように指示した。簡易だが、まぁ朝食なんてのはこんなもんだろう。
「相変わらずお兄ちゃんは手際がいいのですね」
「フッ、そんなに褒めるな妹よ。うっかり調子乗って専業主夫としてどっかに嫁いじゃうぞ」
「それはダメなのです」
お、おう。ダメなの。……ダメなの? いや、俺もかえでも養ってくれる奴じゃないと結婚しないからね?
「ま、まぁ、行ってくるわ」
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
……笑顔の
× × ×
愛自転車のペダルを漕ぎ、高校を目指していると海が見えてくる。夏はリア充どもが騒いで煩いが、海自体は嫌いではない。広大な海を眺めていると他とは隔絶されたような気分になり、静かな時を過ごせる。ま、時間ないから見てる暇ないけど。
キコキコうるさいチェーンに、ボロボロで重いペダル。おまけにサドルは壊れて調節できないので凄い低い。辛うじてブレーキだけは無事な自転車で全速力で学校に急ぐ。時間がギリギリだということを忘れてはならない。
「めんどくせぇな……」
電車で通学なんて金の掛かることはできない。あれだ、かえでの引き籠りが治ったときに好きな学校にいかせられるようにしなきゃならんからな。……まぁ、今のところ兆しはないが。やっべ、かえでのためだと思うと急にやる気出てきたわ。……うん、本日二度目だが、我ながらさすがに気持ち悪いな。
「……にしても、有名人がバニーガールでいて気づかれないなんてあるのか?」
義妹一色に染まり掛けた思考を逸らすために、昨日の異様な状況を思い出す。まるで、桜島先輩が見えていないかのような図書館に居た人々。なぜかバニーガール姿のかつての国民的子役。水商売に身を落としたわけではないだろう。もしそうだとしたら図書館じゃなく、歌舞伎町とかにいるべきだ。
……いや、なんか思考が義妹から
そんな悶々とした感情は、学校に到着したことによって断ち切れた。