青春皆無系ボッチは峰ヶ原高校女子生徒の夢を見ない(例外もあるよ!)。   作:ボッチ系青春ブタ野郎。

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早くも感想三件ありがとうございます。誰か、他にも青春ブタ野郎の二次小説書いてくれェ〜。


青春皆無系ぼっちは持つ者故の苦しみを見ない。

 高校生になったからとはいえ、何か劇的な変化があるわけではない。あれだ、空気はどこに行っても多少はあるのと同じで、故に空気となっている俺の存在に気づく者はいない。空気はどこに行っても多少はあるくだり、全く関係なかったな。

 ただそんな俺にも話しかけてくるコミュ力測定不能な奴はいる。国見とか国見とか国見とか。あと国見のガールフレンド(笑)とかな。ただし、国見のガールフレンド(笑)は「私の彼氏と話さないでッ!」みたいなことを言ってくるだけだが。……いや、向こうから話しかけてくるのにどないせぇっちゅうねん。

 まぁ今日も今日とて平和である。

 いつもなら休み時間なんて寝ているふりをして過ごすのだが、あれだ、網膜に焼き付いたウサギさんは中々離れてくれない。眼を瞑ればあのエロチックな光景が思い出される。自分の卓越した記憶力が恐ろしいな……。

 ただいま昼休みになったところだ。高校生になって一番嬉しいのは、班の机を強制的にくっつける(ただし、俺はむしろ遠ざけられた)給食がないことだ。離された机の隙間の深さはマリアナ海溝より深い。なんなら地球が真っ二つになるほど深いまである。

 春とはいえ、海から吹く潮風は容赦なく冷気をぶつけてくるが、俺はこのベストプレイスで飯を食っているこの時間が嫌いじゃない。むしろ学校で唯一心が安らぐまである。そんな聖域に土足で足を踏み入れる者がいた。……聖域認定は俺が勝手にしただけだし、外にあるから土足なのは当然だけど。

 

「……ども」

 

「…………」

 

 ……先輩とはいえ無視とは良い度胸だなああん? ……すいません、脳内八幡八万人がバニーガール姿を克明に思い出そうとしてるから思考を逸らさないといけなかったんです。だからその凍てつく波動をやめてください桜島先輩。何? 図書館で痴女とか思ってたのがばれたの?

「……昨日のことは忘れなさい」

 

 無理です。

 口に出しそうになった。アブねぇ。や、でも実際無理だと思う。桜島麻衣は清純派……というか、演技派で通っていたので肌の露出とかは全くしなかったらしい。俺もコンビニで立ち読みしていたヤングジャンプとかたまたま視界に入った雑誌には桜島麻衣のグラビアは載っていなかった……と思う。そんな人のバニーガール姿を即忘れられたら、その男はホモだ。

 

「……善処します」

 

 しかし、解せない。桜島麻衣は言うまでもなく大人びていて、故に近寄りがたい空気を醸し出しているらしい(三年の移動教室時の会話から)。二回しか対面していないが、確かにそんな雰囲気を出している。

 そんな人が初対面の人に……それもカースト最下位の俺にわざわざ『○○しないで』と言うことは弱味を見せていることに他ならない。本当に言われたくないのなら、あくまで気にしてない風を装わなければいけないし、天才子役であった桜島麻衣の演技を俺が見抜けるとも思えない。そんなことに気づけないほど短慮ではないはずだ。

 お互いのことなんか全く知らないのに何故かピリピリしている空気を撃ち壊したのは、ぐううぅぅぅぅ〜という間抜けな音だった。途端、桜島先輩の俺から見ても素直に整っていると言える顔がそれこそ名字の通りに赤く染まる。羞恥と怒りで桜島は噴火寸前です!

 こういうとき、知らんぷりをすればいいのか自分の腹の音だとすればいいのか黙って食べ物を差し出せばいいのか……。いや、桜島先輩がここに来たのは俺が飯を食い終わった直後。つまり、俺が飯を食っていたのを見ていたかもしれない。なら二番目はなし。三番目は俺が今食い物を持っていないのでなし。よって最初の案で行く。

 

「……じゃ、じゃあ、失礼しまふ……」

 

「待ちなさい」

 

 失礼、噛みまみた☆……なーんて言っても誤魔化せないですねごめんなさい。ふざけました。ブックオフで西尾維新の本を昨日読んだのが悪いんだ、俺は悪くねぇ!

 

「……い、今のも忘れなさい」

 

 ……さっきとは態度が百八十度真逆な桜島先輩に少し萌えまみた☆うわ、ないわ。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 桜島先輩の来襲以外には特に何もなく放課後を迎える。本日は国見が話しかけて来なかったから精神疲労も少ない。……まぁ、バイト先で顔を合わせなきゃならんのだが。

 しかし、ちょっとマズイ。担任のホームルームがいつもよりかなり長引いたせいでバイトの時間に間に合わないかもしれないのだ。こういうとき、自転車は不便である。

 仕方ないので今日は自転車を学校に放置して、電車で向かうことにしよう。

 ――と、これが間違いだった。

 現在、駅のホームで頬を少し引き攣らせた桜島先輩が目の前にいる。エンカウント率高すぎだろ。

 しかし桜島先輩は特に声を掛けてくることもなく無視をして、イヤホンから流れる音楽に集中するように眼を閉じた。さすが、と言うべきか、桜島先輩はぼっちの扱いを心得ている。クラス内カーストどころか学年すら違う有名人とぼっちが関わることなどあってはならない。まして、同じ高校の生徒が三人いるのだから。

 Be cool. So cool.これ大事。

 ぶつぶつと唱えているとさすがにこれは看過できなかったのか桜島先輩がアブソリュート・ゼロな視線をぶつけてきたため口をつぐむ。うるさくしてすんません。でも〜、あのいかにもウェイウェイ勢みたいな大学生カップルの方がうるさくないですか〜?

 

「ねえ、あれ」

 

「やっぱり、そうだよな?」

 

 耳障りな音を奏でる二人組の声に聞こえていないのか聞こえてるけど無視しているのか判らないが、桜島先輩は無反応で視線を線路に固定している。そんな状況を吉と取ったか、男がスマホを構えレンズを桜島先輩に向ける。

 ちょっと、イラッと来た。彼女いるくせになんで桜島先輩(彼女以外の女の人)の写真まで撮ろうとしてんだああん? 彼女(笑)の写真を待ち受けにしてるのを友達(笑)にでも見られて引かれとけよ。そしてリア充ルートから転げ落ちてしまえ。

 

「あ、数学の小テストが〜」

 

 我ながらひどい棒読みだ。ちなみにテストの点数は十五点。もちろん百点満点中だ。いや、公式とか覚えられても活用できません。

 当然シャッターを切る時に桜島先輩が隠れるようにテスト用紙を離すタイミングなんて解らないため、狙ったのは桜島先輩の顔である。

 

「……!?」

 

 いきなり視界を覆われたためか、わちゃわちゃ腕を動かし、ブンブンと振られる鞭のような攻撃を回避しながらテストを回収する。

 

「や、すんません。ついテストの点数が悲惨すぎたショックで思わず紙を離してしまいました」

 

 ホントホント。嘘じゃないです。だからその憤怒の表情をやめてくださいかなり怖いです。

 盗撮がばれたら今俺が向けられている顔を自分達に向けられることが想像できたのか、おバカップルはそそくさと退散していく。俺も同じく退散したいのだが、ポケモントレーナーとの勝負では逃げれないのと同じである。つーか、逃げたら明日制裁されそう。

 

「はぁ……」

 

 怒気が吐き出された息に含まれていたのかと思うほど桜島先輩の顔が赤色から淡い桜色に変わっていく。助かった、のか……?

 

「一応、お礼を言っとくわ。ありがと」

 

「は? あー……」

 

 さっきのことでお礼を言われるのはお門違いだ。俺がおバカップルにムカついて勝手にやったことなのだが、それを言ったらまた睨まれそうだったので素直に受け取っておいた。『桜島先輩は怖い』ともう頭に刷り込まれている。

 にしても、正直意外だ。『余計なことしないで』とか、『忘れなさいって言ったわよね?』とか言われるかと思った分、拍子抜けした。……後者、なんか破局したカップルの片方が未練タラタラみたいな台詞だな。

 

「……何? そのあからさまに『意外だ』って言ってる顔は」

 

「……見た通りですよ。昨日初めて会った先輩にいきなり『昨日のことを忘れろ』なんて一方的に言われたら、いい印象を持つ奴はいませんよ。いたら相当なお人好しですね」

 

 国見とか国見とか国見とか。お人好しもあそこまで行くとバカだと思う。

 

「……君、友達いないでしょ」

 

「……そういう先輩こそ、友達いなさそうなんですけど?」

 

 お互いに妙な笑みを浮かべながら、真っ黒な腹の探り合いをする。あれだ、後輩として敬語を使われるより、格下と思われて失礼なことを言われる方が会話しやすいとは、我ながら下の階級に長年属していただけはあると惚れ惚れする。

 とはいえ、このまま顔を向け合ったら分が悪いのは俺だ。事実、改めて桜島先輩の顔を眺めると緊張して手に変な汗を掻いてしまっている。

 そう言えば、バイトのために電車に乗ろうとしているのに電車が来る時間を知らなかった。急いで時刻表を覗き確かめるが、現在の時刻が判らないのであまり意味はなかった。ここの駅を利用したことなんて数回しかないので、時計がどこにあるか……そもそも時計がここに在るのかも知らない。

 ズイッと赤いウサ耳スマホカバーが装着されたスマホの待受画面が表示され、時刻が判る。桜島先輩のだ。俺が何か言う前に、桜島先輩が言葉を発し制した。

 

「……時計とか持ってなさそうな素振りだったから。迷惑だったら謝るわ」

 

「……いえ、助かりました」

 

 いきなり未知の物体を向けられて困惑していたが、さっきはチラッと見ただけなのでもう忘れてしまった時刻を再度見る。その時、最近あまり聴いていないバイブレーションの音を耳が、『マネージャー』と表示された画面を眼が捉える。

 当然バッグにスマホを入れていたわけでもない桜島先輩が着信に気づかないはずもなく、画面を一瞥し――その時、わずかに顔をしかめたような気がした――拒否を押す。

 

「いーんすか?」

 

「聞き方が小生意気ね……。いーのよ、どうせあの人が言うことなんかいつも同じなんだから」

 

 苛立ちを含む声。

 あぁ、桜島麻衣は俺とは違う。でも、近い。比企谷八幡は持たざる者故の苦しみを、桜島麻衣は持つ者故の苦悩を抱えている。

 勝手にだが、画面越しでしか知らなかった有名人が、少しだけ身近に感じられた。

 


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