三人がリレーと呼ばれる、テンノや彼等を支援する者達が集う場所へ向かっている頃。
準惑星ケレスという星で、とある二人が対峙していた。一人はグリニアに所属するレッチ・クリル中尉だ。ケレスの支配を任されているレッチは、胡散臭そうに相手を注視する。
「キャプテン・ヴォーがテンノを服従させたという話は聞いたが、まさか本当だったとはな」
「俺が服従? 違うな、俺は俺の意志でグリニアにいる。そこは勘違いしないで貰いたい」
「……ふん、そういう事にしといてやろう。それで、お前の能力を我輩に分け与えるというのは?」
テンノの一人がグリニアに属するなど、よもや信じられない話だ。これが真実ならば、太陽系のパワーバランスが大きく変わる。しかし現状で目立った報告がないのは、他のテンノ達の力なのか、それとも……?
目の前の男はグリニアとは異なる種族でも、嘘を吐く人物だとは思えなかった。あのヴォーが監視の一人も付けずに、ケレスにテンノを送り付けたという事実で、充分意味は通じる。半信半疑ではあるが。
「このデータをくれてやる。レッチ・クリル中尉なら扱い切れると、ヴォーは言っていた。随分と信頼されているみたいだな」
テンノは右腕をレッチに突き出し、握った拳を開いた。あるのは小さな情報端末が一つ。それを受け取ったはいいが、レッチは使い方が分からず首を傾げる。何かを察したテンノは、ゆっくりと語りだした。
「俺のデータの一部が入った端末だ。このまま繋げてやるだけでいい」
「ほう、これが……」
「予備はないから、強固な部品で守るのを勧める」
「本物だろうな?」
真偽を問えば、テンノは面白そうに笑う。あの種族が笑いだすのを間近で見るなど、生涯で一度あれば奇跡とも言える。笑い終えた彼は「疑うくらいなら使って試せばよい」と言う。レッチは端末とテンノを見比べ、首を横に振った。
「本来なら今すぐお前で試してみたいが、我輩はやらねばならない事があるのでな。今度手合わせ願おう」
「それはありがたい。楽しみにしている」
「ふん。……お前の名を聞いてなかったな。なんて名だ?」
踵を返して緑色のライセットに戻ろうとしたテンノは、レッチの言葉に足を止めた。彼は右腕で頭を数度掻き、面倒そうにしながらも応える。その名に驚きを隠せないレッチを無視して、彼とライセットはケレスから飛び立った。
宇宙空間に出たライセット内で、オロキンAIはテンノを迎え入れた。レッチと面会したテンノはそれに応じ、AIに注文を入れる。
「敵とは限らないが、追われているぞ。アークウィングで迎撃する。エリュトロンの準備をしてくれ。武装は任せる」
「了解です、オペレーター。貴方は欠陥な私に的確な指示を与えてくれます」
「コルセール、世辞はいいといつも言っているだろう。いけるか?」
「いつでもどうぞ」
コルセールと呼ばれるAIの返事と同時に、テンノは宇宙空間に吐き出された。それを追うように、アークウィングと呼ばれる翼型推進装置がテンノの腰部に装着される。
エリュトロンは、アークウィング中でも破壊活動を目的として設計されたものだ。彼のエリュトロンは赤と橙色で統一されて美しい。
「武装は……フラックキャノンと対艦ソードか。悪くない」
フラックキャノンに分類されるチャージ式ビームショットガンを両手に、レーダーを頼りに周囲を探る。テンノのライセット自体ステルス性に長けているが、それ以外でもステルス性に秀でたテンノもアークウィングも存在する。少なくとも、追手がグリニアやコーパスといった勢力でないのは間違いないだろう。
「フロストのプライム型……?」
「やっと姿を表してくれたか。そうだ、俺はフロストプライムの設計図から製造されたヘイルだ。雹って意味らしい」
「ヘイル……? あんたが噂の?」
「知っているようで何よりだ。俺はお前に用事はない。お前も俺に用事がないなら、今ここで出会わなかった事にした方が得策だと思うぞ」
ヘイルを追っていた人物は、彼の予想通り同じテンノだったのだ。そのテンノは全身が黒く、宇宙空間に紛れて分かりづらく、アークウィングもまた黒かった。ただ、特殊なケーブルを装着していることから、相手がなんのフレームかは容易に想像出来る。
「そうしたいのは山々なんだけれども」
「コーパス生まれのヴァルキアか。それなら仕方ない」
「こっちのお偉いさんに発見情報送っちゃったから、上っ面だけでも戦闘しとかないとね」
「困ったテンノだな」
心底嫌そうにするヴァルキアを眺めながら、ヘイルはフラックキャノンをしまい込み、対艦ソードをエリュトロンから引き抜いた。アークウィング装備の射撃武装は手加減なんてものを知らないのだ。
「お互い様ね! 私はヴァルキア! コーパス生まれのヒルデよ!」
彼女もヘイルに見習い、近接武器をアークウィングから引っ張り出す。盾にも見えるソレは、二本の刃を展開させる。ケレス宙空にて、静かに小さな『ごっこ遊び』が始まったのだ。