~μ’s Forever Lovers~ μ’sic Start! 作:絢未
今回は進行中のにこえり小説の続き、ですが絵里は出てきません。
絵里とにこが別れたあとのにこサイドでのお話です。
今回も甘めにしてみたつもりなんですが、前振りがかなり長いです。前振りはシリアス目で、今回も暴行表現ありです。いわゆるDVですね。
私の初恋は、高校一年のとき。
初恋を自覚したのは、進級して少し経ったあと。
初恋をあきらめたのは、三年生になった頃。
音楽室でピアノを弾いているときに、穂乃果に誘われて始めたスクールアイドル。
今思い出せば、とても懐かしくて――あの頃は幸せだった。自分の気持ちに気づくまでは。
二月上旬。
「……ふぅっ……んんーっ……」
手術の執刀が終わり、数時間。私、西木野真姫は病院内の自室で休憩中。コーヒーをすすりながらファッション誌を眺めてぼーっとしていた。今日は二件続きで執刀。疲れが急に襲ってきたのだ。
まだ23歳だが、それなりに経験は積んだつもり。パパ……じゃなくて、お父さんのおかげというのもあるけれど、簡単な手術なら執刀してきた。もともと少し勉強していたというのもあるけれど、高二の夏が終わるころから猛勉強していたせいか、志望校の医学部にも一発合格。医師免許もすぐに取ることができた。
最近は幸いなことに執刀することが多い。”親が医者だから”という理由でなった医者も、まだ年月はそれほど経ってはいないけど、やっているとやりがいを感じてくる。人を助けられたときは達成感や安心感、なによりご家族に感謝をされること。それがなによりも嬉しい。
ファッション誌を読み終わり、デスクに置いてある別の雑誌を取る。それは何種もあるなかのある芸能誌。表紙には大きなピンク色の太字で『元超人気アイドル・現在はタレントとして活動中!矢澤にこ、スペシャル特集』とある。気分転換に書店に立ち寄った昨日。ふと気になり雑誌コーナーで見つけたこの一冊。気づけば迷うことなくレジへと運んでいた。
”あきらめた”
そう思っていた私の初恋にして、最後の恋。
やっぱりまだ未練があるのかな。手にしたその雑誌の表紙を開くと、トップには満面の笑みの矢澤にこ。何とも言えない気持ちになった私は、表紙を閉じ自室のゴミ箱へ落した。
”力が抜けた”というほうが正しいかもしれない。これ以上見ているのがつらかった。
学生時代、三年生が卒業すると同時にμ'sを解散すると決め、九人だけの海で宣言したあの日。気づけばにこちゃんに向かって放っていたあの言葉。今でも深く心に残っている。
『にこちゃんたちのいないμ'sなんて嫌なの!』
今思えば、バカみたいと思う。
卒業はいつかは必ずやってくる。考えれば分かることだったけど、あの頃はまだ子供だったからその考えには至らなかったのかもしれない。
にこちゃんたちがいなくなるのは、悲しかったし、寂しかった。でも、自分の心にはその感情とは違う”何か”があった。それが何なのかはわからなかったけど、三年生が卒業したあとはかなり精神が不安定だった。
卒業したあとも三年生に会えなくなるわけじゃないけど、やっぱり寂しい。そう思ってた。
でもにこちゃんのことを考えると、心がキリキリと痛んだ。
にこちゃんに会いたい。
にこちゃんに触れたい。
にこちゃんを抱きしめたい。
にこちゃんと――
そんな願いばかりが頭に浮かぶようになって、次第にやっと自覚したんだ。
”私は矢澤にこが好き”
でも自覚した瞬間、私はあきらめた。
常識的に考えて、同性愛というのは世間的にはあまりいいこととはいえない。
気持ち悪い、そう思って軽蔑してきた私。
でも、そう思われる側の感情を持った私は、にこちゃんに伝えることなんてできないと思った。伝える勇気もなければ、まず怖くて言う気にならない。”当たって砕けろ”なんていうけれど、実際このことでは砕けたらもう終わりだろう。と思っていた。
正直逃げているだけだったと思う。にこちゃんに嫌われる、軽蔑されるのが怖い。と思っていたし、他のメンバーや両親、身内に知られたくはなかった。
ふと告白――というか、”好き”と伝えたことは二回あるけれど、あの時はにこちゃんにも”私も真姫ちゃんのこと好きよ”と、適当に流されてしまったから。
でもまだ迷っていた。
頭の隅には”告白する”という選択肢も残っていたけど、あの人の言葉で追い打ちをかけられた。
穂乃果たちも卒業した頃、にこちゃんはアイドルになるべくオーディションなんかを受けまくっていたようで、会えない日が続いていたのだけれど。
ある日、いつも通りの学校生活が終わり帰宅しようとしていると校門から見知った姿が現れた。
『久しぶりやな、真姫ちゃん』
『の、希……」
一年ほど会っていなかった為か、最初は希だと認識することができなかったけど。
希は少しだけ。たったそれだけ言ってとっとと帰って行ってしまったけれど。
私をその場で崩れさせるには十分だった。
『唐突やけど、真姫ちゃん。こころして聞いてな。えーっと、正直に肯定か否定で答えてな』
『真姫ちゃんの好きな人は、にこっち』
『その恋はあきらめている』
『でもあきらめきれていない自分がいる』
『今も好き』
圧倒されていたからかもしれないけれど、私はうんうんと頷くことしかできなかった。
『えっと、にこっちがアイドルとしてデビューすることが正式に決まったんよ。それで、伝えておこうと思って。知らなかったかもしれないんやけど、にこっちはえりちと高校時代から付き合っているんよ。現在進行形でな。……真姫ちゃんがにこっちに告白するのは自由やけど、今はやめておいたほうがいいと思うで』
そう言って希は去っていってしまった。のだと思う。
実際このことははっきり覚えていないのだ。現実だったのかもしれないけれど、夢だったのかもしれない。いつまでも結論が下せない私に、私自身が告げたのかもしれないけれど。私はその場から数分動けなかった。
別に絵里に嫉妬しているとかそういうのではない。むしろ絵里には感謝している。私の恋にピリオドを打ってくれたのだから。
結局、それから今まで希とは会っていない。にこちゃんとも。絵里とも。
気づいたら、自室で一人で泣いてた。ゴミ箱から雑誌を取りだして中をみる。久しぶりにみるにこちゃんの姿。素直に愛おしい。そう思った。
会いたい、にこちゃんに。
少しの希望を持って、私は自室を出た。
立ち寄ったのは小さな穴場のバー。カクテルを頼み、うとうとしたりぼーっとしていると、気づいたら数時間経過していた。
(何してるのかしら……私)
もう帰ろう、そう思って会計を済ましバーを立ち去った。
特に空腹感もなかった為、どこにも寄らずに帰ろうとしたとき、死角のところから出てきた女性と激突した。
女性はその場でしりもちをついてしまって、私が手を差し伸べると軽く立ち上がった。
「すみません……大丈夫ですか?」
女性はサングラスをかけていた。夜なのに、とも思ったが顔を隠したい職業なのかもしれない。
私の問いには”大丈夫です”と返してくれたのだが、その声には聞き覚えがあった。
昔、よく聞いた声。好きな声。好きな人の声。今一番会いたい人の声。
にこちゃんの声。
そう思った。
そしたら私にも気づいたみたいで、サングラスを外してこちらをじーっと見つめてきた。
そして、互いを呼ぶ声が重なる。
「にこ、ちゃん……」
「真姫ちゃん……」
にこちゃんとの再会を果たしてから、一時間くらいして私の家に来ていた。にこちゃんも私に久しぶりに会ったからか、話したいこととかがいっぱいあったみたいで家に呼んだら軽くOKしてくれた。
にこちゃんは、雑誌なんかで見るより断然可愛くて、綺麗で。見惚れるほどだった。
せっかく再会できたんだし、私はもう砕けちゃっていいや。と思ったわ。正直、にこちゃんに会えたことがすごい嬉しかったんだけど、もう気持ちが抑えられないの。
今日、告白する。
三度目の正直よ。
にこちゃんに色々話を聞いた。全部聞いた。にこちゃんは泣きながら話してくれた。
にこちゃんがどんどん話をするものだから、告白するタイミングを逃してしまったけれど。
私はにこちゃんが自分の口から全て、全て話してくれたのが嬉しかった。
高校時代から絵里と付き合っていたこと。アイドルやタレントになっても、ずっと交際を続けていたこと。身体を重ねる仲で、どんどん絵里から離れられなくなっていったこと。でも妹や弟の為に、望んでいない結婚をすることになったこと。絵里には結婚のことは伝えず、突然別れを告げて飛び出してしまったこと。そのことを後悔していること。婚約者の人に暴力を振るわれていること。必ず自分の手で、妹と弟を大学卒業させるんだ。だから、それまで私は耐えるんだ。って……。聞いている方が辛くなる内容だった。でも、にこちゃんは話してくれた。真剣に話してくれたその姿は、誰よりもカッコよかった。あの決意は、きっと誰にも負けないと思う。
にこちゃんは数時間かけて余すところなく話してくれた。
二月とはいえ、かなり着込んでいたにこちゃんの身体はもうボロボロだった。医者の私から見たら、もう身体は限界なはず。一般人から見たって、相当ひどい傷。
切り傷のようなものもあれば、火傷のようなもの。青アザや煙草を押し付けられたような痕。両腕には切り傷が多数。目を背けたくなるようなものばかり。
私はにこちゃんに伝えた。無我夢中で叫んでた。
「一生残っちゃうわよ、こんな傷。今すぐ病院に行って、警察に行かないと!私が治す、治すから!このままじゃ、このままじゃっ……にこちゃんがっ……!お願い、お願いだから……!お金なら私が出すわ、もうにこちゃんに辛い思いさせたくないのっ!お願い、お願い、もうやめてよ……」
にこちゃんの手を握る力が強くなっていって、自分がそのとき何を言ったかは覚えてない。ただ、にこちゃんを助けたくて必死に叫んだことは覚えている。
でもにこちゃんは、泣きながら私のこと抱き締めてくれた。声は震えてた。身体も、震えてた。
それでもちゃんと宣言してくれた。安心させてくれた。
「私は……大丈夫よ」
今まで見たことないような笑顔で、ほほえみをくれた。
「あ、あのねにこちゃん……話があって」
にこちゃんが落ち着いて、お風呂に入ったあと、私はついに告白を切り出した。声が震えちゃって、ちゃんと伝えられるか心配で……。でも、きっと大丈夫。どこからくるのかはわからないけれど、今の私は自信に満ち溢れてる気がするから。
髪を梳かしているにこちゃんは、『んー?』と声を出した。私たちは今、ベットに座っている。私はにこちゃんの横に座り直すと、真剣な顔で向き直った。私の表情を見て察したのか、にこちゃんも一度梳くのをやめる。
「突然で申し訳ないんだけどね……うぇぇ、えっと……わ、私にこちゃんのこと……」
”好き”
その二文字を一瞬”躊躇った”――わけではない。
”喋れなかった”というほうが正しいだろう。
なんせ私の口はにこちゃんに塞がれたのだから。
「……ん……んぁっ、ちゅっ……はむ」
最初は起こったことがわからなかった。でも、自分の口ににこちゃんの舌が入ってきたときに状況を理解することができたんだ。
あぁ、私……、にこちゃんに”キス”されてるんだなぁ。
別にキスが初めてなわけではない。それでも、こんな熱いのはじめてで……。きっと顔は真っ赤よ。
「……ふぁぁっ、んんっ……ちゅ、ん」
にこちゃんに応えるように、頑張ってみるけれど……。にこちゃんのキスが上手すぎてそれどころじゃない。脳内がトロトロになっちゃうくらい、甘い甘いキス。私たちはずっとキスを続けていた。
先に唇を離したのはにこちゃん。唇を離して周りについた唾液を舐め取られる。にこちゃんって、こんなキャラだったのかな……?
「真姫の唇、すんごい甘かったわよ」
その表情に思わずドキッ、と大きく心臓が高鳴った。一瞬にして鼓動が早くなるのを感じる。”真姫”って呼び捨てにされるのも、意外といいかもしれない。
でも唇を塞がれちゃったから、結局告白できてないまま。どうしようって、思ってたらにこちゃんが私のシャツの襟を掴んでグイッ、って引っ張ってきた。その体制は、まるで私がにこちゃんを押し倒しているようで……。
「ちょ、ちょっと……にこちゃん」
こんなことしたことないから、どうしたらいいのか分かんないけど、とりあえず気持ちを伝える。すべてはそれからよ。せっかく覚悟を決めたのに、結局告白しないとかカッコ悪すぎ。
「ねぇ、真姫?……さっき言おうとしてたこと、教えてよ」
初めて見たにこちゃんの大人の表情に、またもや心臓が早まる。早鐘は止まることなくバクバクバクバク、となり続けている。
それでも、伝えるのは今しかない。
私は勇気を振り絞り言った。
長年の想いを。
「私は、にこちゃんが好き。自覚したのはにこちゃんが卒業してからで、最初は告白しようとも思ったけど、怖かったから。にこちゃんに嫌われたくなかったから……。付き合いたいとかそういうんじゃないけど、想いだけは伝えておきます。大好きです」
言い終わって、恥ずかしさなどが相まって目をギュッとつぶると、唇に優しく触れたにこちゃんの唇。さっきとは違った優しいキス。すごく新鮮な気持ちがする。
形勢逆転。
体制が変わって今度は私が押し倒された。にこちゃんは私が貸したシャツのボタンに手をかけている。ま、ま、まさか……。ちょ、ちょっとそれは早くないかしら?順序ってものがあるでしょっ!
だけどそんなこと言える雰囲気でもなく。私は黙ってにこちゃんのされるがままになっている。
「今は真姫の気持ちには答えられないけど、すべて終わったら答えるからそれまで私を好きでいてよ。約束よ?ふふっ、もう逃げられないんだから。今日から私の愛人、西木野真姫ちゃん。……冗談よ、まぁ半分は。あなたがいいなら愛人でいいわよ。……さぁ、決めて」
ここで否定すれば、私とにこちゃんは会えなくなってしまうかもしれない。でも、愛人になれば会うことができる。私は迷わず、にこちゃんを受け入れた。少し躊躇ったけれど、愛情って止められるものじゃないわよ。
「にこちゃんとずっと一緒にいたいもの。愛人とやらで構わないわ」
私がそう言うと、にこちゃんは私のシャツのボタンに手をかけた。片手で器用に外しているその姿。ボタンを外すのが初めてではないことくらい、容易に分かる。
にこちゃんが私に馬乗りになると、いきなりブラのホックに指をあててきて。展開が早すぎてついていけていないけれど、ちょっとだけ嬉しい。やっぱり好きな人と一緒にいれるのは幸せ。
にこちゃんに初めて?と聞かれて、コクっと頷くと少し手の動きが優しくなった気がする。
「いつもはされる側だったから、するのはあんまり慣れてないけど頑張るから。真姫も痛かったりしたらすぐに教えてね?なるべく今日はリードするわ。……でも、いずれは真姫も私にシてほしいな。愛人っていうのは、そういうもの……なの、よ。たぶん……」
カッコいいこと言ってるつもりかもしれないけれど、顔が赤いのは私だけが知ってることで。
「……あ、あんまり見ないでよ」
運も悪くたまたま赤い下着だった今日。最悪よ。
「照れてるんだ。可愛いとこあるのね」
チュっとほっぺたにキスの雨。
そのまま私は流れとにこちゃんに身を任せた。
とびっきりの甘い夜になると信じて。
あと二話くらいで終わらせる予定です。
バットエンドだけだと悲しいとおもって、最後にはGOODとBAD両方作ることにしました。だって死んで終わっちゃったら悲しいじゃないですか。
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