「はい、お疲れさまー」
壁がぶち抜かれて崩れ落ちる様を見ながら言ってみる。壁の向こう側から現れたのは第四位『
その様に見えないのを承知でやれやれと肩を竦めて首を振り、ニッコリ笑顔でからかう事にした。
「徒労で骨折り損のくたびれ儲けになった気分はいかがかな~。『AIMストーカー』が知らないAIM拡散力場を追えないのは知ってるよ。暗闇の五月計画の子は別の所で待機かな、第四位ちゃん?」
「……ただのふざけた奴って訳じゃないみたいね」
「いやいや存分にふざけた奴だとも。少なくとも軽く叩きのめした後もふもふにする気は満々だし? やっぱり麦野 沈利ちゃんには黒雹だよね~。滝壺ちゃんはバニー一択で絹旗ちゃんは白熊かなぁ」
「………加えて変態か。人物像が全く理解できないわね。それ以前に私達の情報が漏れている事の方が問題か」
「私ほど分かりやすい人間もいないと思うんだけどなぁ。ま、いいか。フレンダちゃんは施設の外に転がってるよ。で、こうして話しているのは先に話すことは話しておこうと思ってね」
これからするのは紛れも無く一方通行並の蹂躙だ。だからまあ、アレイスターに対する説明も込みで、先に謝っておくべきだろうなぁ、と思ったのだ。
謝るくらいならするなという話だが、まあ、私の安寧のためにもそれはできない相談だ。
「話? 惨めに命乞いでもするのかしら?」
「ははは。面白い冗談だ。そんな事をするくらいなら、とっくにここから逃げてるよ。話っていうのはそんなに難しいものじゃないよ。もしかしたら知っている人間はいるかもしれないけどさ、今までずっと隠してきた分、ここらで物理最強としての力を見せようと思ってね。だから、フルボッコにしてごめんね? って話なのよね」
「フルボッコ。フルボッコね。…………面白い冗談だな、このメスガキが」
「面白い冗談とはまるで思ってない顔だねぇ。ま、いいか。分かりやすく説明するけど、私の名前は御坂 美琴。第三位で極雷球なんて呼ばれてるけどさ、違うんだよ。私の真価は君が想像するみたいな電気操作の上位互換じゃない」
そう。原作の美琴のような、電気関係を操るような能力じゃない。開発当初は思い込みで原作通りだなんて思っていたけれど、力を鍛え、努力していく内にそうじゃないことに気が付いた。
「君を含めた
困った事に、簡単に偽装できてしまうほど、とても似通ってはいるのだけれど。
「ちゃんと覚えておいてね、オ・バ・サ・ン。私の
まあ、どうせ厨二心溢れる研究者に珍妙な名前を付けられるんだろうけどね。などと嘯いて、麦野の肩を叩く。
慌てて振り向く麦野に、私は“部屋の奥から”手を上げて声をかける。
「やっほー、オバサン。そんなに近付かれたのに気付けなかったのが驚きだったのかな? まあ、私は一応これでも電気系では最高峰な訳でさ、ちょっと頑張れば精神感応系の真似事もできる、というだけの話なんだよ。理解できるかな、オバサン?」
「あんたが死にたいって事はよーく理解したわよ」
言葉と同時に、私を極太の光線が貫く。
いやいや、障害全無視で直進とか恐ろしい攻撃だけれども、当たらなければ意味が無いね。周りが融けているのに傷一つついていない私に驚愕する麦野へ向けて、私は大げさな動作で肩を竦めて首を振る。
「ふぅ、やれやれ。オバサンの頭じゃやっぱり理解できないみたいだね。私の能力名はちゃんと教えたのに、この程度の事も理解できないのかしら。歳を取るってほんと怖いわぁ」
「……視覚を乗っ取ったのか」
「ブッブー。同じようなネタを何回もやる訳無いじゃん。蜃気楼の応用よ。さすがに周辺の温度が急激に変化すると計算めんどいけど、温度差で光を屈折させて像を結んでるだけだって。これだから頭の固いオバサンは。あ、ちなみに本物の私はこっちね?」
アホみたいに見当違いの方向へぶちかます麦野にニヤニヤと笑って手を振る。
同時に光線が襲ってきたが、クイっと干渉して捻じ曲げて上げる。
これは原作で美琴がやっていた事をもう少し踏み込んでやった物で、きちんと効率化しているから燃費もいいし、計算も楽だ。あと百発来ても曲げられる。
それじゃ面白くないからしないけど。
「電磁波で捻じ曲げたのね。そんな小細工がいつまで続くかしら」
「HAHAHA。ずいぶん愉快な勘違いね。どれだけあなたが頑張ろうとも、ここでレベル六に到達しようとも私には勝てないからこそ姿を見せてるんじゃない。ただ終わらせるんなら、最初の精神干渉で潰してるわよ。そんな事も分からないからいつまで経っても四番目なのよ、オ・バ・サ・ン?」
再度の挑発に簡単にキレた麦野がメルトダウンを撃とうとするが、そもそも原子崩壊させられなければ撃てないのだから、そこに干渉されることは考えないのだろうかと不思議に思う。
ちょちょいと干渉すれば、簡単に止められる程度の事なのに。
「な、なんで力が使えないの!?」
「いや、私が干渉したからに決まってるじゃない。AIMジャマーの仕組みは能力者の思考に電磁波やら音波やらで干渉する事で計算を邪魔する訳だけど、それを再現しなくても、同じ電気系の能力者なんて、ちょっとこっちから干渉すればいいだけなんだから簡単な事じゃない」
「ふざけるな! そんな事ができてたまるか!」
「現にできてるんだけどねぇ。ま、いいか。理解されなくとも問題ないし。という訳で、そろそろ終わらせよっか」
真面目な戦闘にもちょっと飽きてきた。アレイスターに対するアピールは十分したし、年増女のヒステリーほど醜い物は無い。
最後に脅し込みでちょろっと派手な事をしてずらかりますか。
「んじゃねぇ、オバサン。もうちょっと柔軟に考えて生きなさいよ?」
世の中やっぱりストレスフリーに生きないとね~。なんて考えつつ、私は巨大なプラズマで壁をぶち抜いて研究所を脱出した。
さすがに、寒いのはごめんだしね。