「――肩慣らしにもならねぇな」
実際、ユリスが手を下すまでもない腕前の連中だった。そして、今ではそのほとんどがぼこぼこにされ横たわっている。何人かは逃げ出した。そんな中、ユリスがこちらをにらんだ。
「言いたいことはわかるが、今はあとだ――おい、貴様」
近くにいた学生の一人を引きずり起こす。
「さて、簡単に応えてもらおう、誰の指示だ、三秒以内に目を覚まさなければその毛根まるごと貴様を燃やすぞ」
手の平に火球を携えながらドスの聞いた声でいう斑鳩。
「お、俺はなんも知らねぇ!あんたらを少し痛めつけてやれって頼まれただけだ!理由は聞いてねぇ!!」
「金か?」
「そ、そうだ」
「背格好、そしてどんな奴だ」
「黒ずくめで背の高い、大柄な男だった、だから顔は見てねぇんだ」
「指示はまさか、封筒とカネというわけじゃないだろうな?」
「そ、そうだ」
そんな中、ユリスが何か考えていると突然モヒカンの目が大きく見開かれた。
「あ、あいつ!あいつだ!あいつに頼まれたんだよ!!」
「っ!!」
綾斗とユリスが視線を向けると同時に、その人影は路地へと逃げ込んでいく。
「待てッ!!」
ユリスが男を追って走り出す。
「ユリス!深追いはまずい!」
かなり血が上がっていたのか、綾斗の言葉を聞かずに足を止めることはない。
「――あのバカ!」
斑鳩はモヒカンを地面に叩き付け、同じく走り出す。そして、コンマの差で一気に路地に突入すると、待ち伏せしていた大男が巨大な戦斧を振り下ろす。がそれを即座に後ろに飛びのく。そこへ黒ずくめの男がもう一人襲い掛かる。その手にはアサルトライフルの煌式武装だ。大男をサマーソルトキックのようなものを繰り出し、はじき出させる。すると、今度は後方から駆けつけてきた綾斗に三人目の襲撃者がクロスボウで襲ってくる。
「――二度はその手は食わないよ!!ハウンリングオクターブ!!」
炎をまとわせた剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出し、それを打ち払うに必要なものを全て打ち払った。だが、
「っと」
身のこなしの中で、何発かかすった光弾が斑鳩が来ていた制服をかぎ裂きに切り裂いた。
「お、おい、大丈夫か?」
「問題ないさ」
険しい顔で駆け寄ってくるユリス。それを苦笑いをしながら返すと襲撃者の姿はもうなかった。
「(逃げられたか・・・)」
さっきまで足元にいたレヴォルフの学生たちも逃げ出していた。
「(あれこれと聞かれると、クローディア会長に迷惑もかかる、ここは潔く退散するか)」
周囲を見渡し安全を確認し
「後はお前に任せるぞ、綾斗」
軽く綾斗の肩を斑鳩はその場を離れた。そして、携帯端末を取り出しクローディアに一報を入れておいた。
そして、合わせて明日休むとも連絡を入れておいたのであった。
再開発地区――廃ビル。
「(ま、定番と言えば定番…)」
解体工事中のここは、一部の壁や床が打ち壊されて広く感じるが実質のところ死角が多いところだった。
行きの途中で勝ったあんぱんと牛乳で軽く朝食を済ませる斑鳩。ちなみに手元では絶賛ICレコーダーが稼働している。
「(さっきからこうもペラペラ、ペラペラと自供してくれているものだ)」
半ばあきれ気味の斑鳩。それにしてもサイラスはどう見ても小物臭い。
「(おいおい、強く振る舞うなよ、弱く見えるぞ、あ、俺は最弱か)」
今にもケタケタと笑いだしそうな斑鳩だが、それを押さえて監視と録音に徹する。
眼下には、サイラスとユリス、そしてレスター。いわゆる監視しているのだ。それにしても、相変らず三人はこちらにいまだに気付いていない。
そんな中、学園の方から綾斗が動き出したとメッセージが来た。
「(はーん、四対一になるわけないだろうなー)」
そう思いながらどんなふうに立ち回るべきかを考えながらいる斑鳩
「(ま、面倒だな)」
流石にポイ捨てはアカンので買ってきた牛乳の瓶をそっと鉄骨の上に置き、
「(さて、そろそろ行きますか)」
そういうと、エリュシデータを取り出し構え、あんぱんの袋をサイラスの前に落とす。
「なに、お二人とも揃って口が聞け無くなれば、あとは適当な筋書きをこしらえますから、ご安心を、ま、そうですね、お二人が決闘の挙句、仲良く共倒れというのが一番無難な――」
サイラスは案の定で言葉を止めた。無理もない、天井からあんぱんの袋が落ちてきたのだ。
「あんぱんのふく――」
そして、斑鳩は地面に降りた。
誤字報告ありましたら、ぜひご一報下さい。 by作者