もはや隠すことを辞めた斑鳩。そして、濃密な殺意を解き放つ。
すると、こちらの存在への意識を取り戻したサイラスの顔が苦悶に満ちる。
「パターンは読めた、どうやらチェスのようにやっていたみたいだが、ゲームメイクが下手だな」
「くそがぁあああああ!!」
全てを見通されたのか、一転して顔を真っ赤にしたサイラスが吠える。
「潰れろ!!潰れてしまえッ!!」
綾斗と斑鳩に雲霞の如く人形が襲ってくるが二人の剣閃が舞う度に人形たちがその数を減らしていく。
《黒炉の魔剣》とスカーレッド・ファブニールの出力が圧倒的すぎて、並の武装では剣を合わせるものが出来ないのだ。そして二人の剣戟は恐ろしいほどに早い。
そして、時間にして三分もかからずに残りの人形達が一体残らず斬り伏せられた。
「……馬鹿な…こんな馬鹿なことが……ありえない……ありえるはずがない」
茫然自失といった有様のサイラス。斑鳩と綾斗が剣を向けると悲鳴を上げてしりもちをつく
「ゲームオーバーだ、サイラス・ノーマン」
「……ま、まだだ!まだ僕には奥の手がある!」
そういうと、後方の瓦礫の山から巨大な人形が姿を現わす。
「は、ははは!さあ、僕のクイーン!やってしまえ!」
サイラスの命令に従い、攻撃してくる巨大な人形。だが
「五臓を裂きて四肢を断つ――天霧辰明流中伝"九牙太刀"!」
「――サラマンドバタリオン!!」
直後、綾斗の攻撃と斑鳩の攻撃でその人形が跡形もなく"消滅"した。
「――」
もはや声を出せないといった感じのサイラス。そして、半泣きの顔で人形の残骸の中を逃げ惑う。
「往生際が悪いな――」
「確かに」
人形の残骸にすがりついたサイラスの身体がふわりと浮き、一気に速度を上げ吹き抜けを上がっていく。
「ごめん、ユリス、ちょっと追いかけてくるから、ここで待っていてくれるかな」
「それはいいが、間に合うのか?」
「……正直、微妙なところだと思う」
既に最上階まで到達したサイラス。
「ふん、だったら私の出番だな」
「え……?」
「言った筈だぞ?足手まといになるつもりはないとな!」
そういうと彼女は足もとに星辰力を集中させ
「咲き誇れ――
次の瞬間、綾斗の背中から炎の翼が広がる。斑鳩は、光の翼を展開し一気に空に駆け上がる。そして、一気に加速し、綾斗と同時に、サイラスの前で反転し
「――今度こそチェックメイトだ!サイラス・ノーマン」
「や、やめ、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
斑鳩と綾斗がサイラスとすれ違い様に一閃。人形の残骸が粉々に砕けて、絶叫を残して廃ビルの谷間に落ちていった。
「下には、クローディアたちが待ち構えているはずだし、あとはあっちにまかせようか」
「そうだな…」
ユリスは一度目を瞑り、深く息を吸った。
「(とはいえ、ひと段落か…にしても、絶景だな)」
視線の先には、沈みゆく夕陽が年を赤く染め上げている。街も空も湖もただただ赤かった。焔の翼をはためかせながらユリスと綾斗は静かに微笑みをかわし合う。
「――ぐっ!」
不意に綾斗の表情が苦痛に歪む。
「(フィードバックか…)」
「お、おい!しっかりしろ、綾斗!おい!」
気を失って綾斗の身体から力が抜ける。
「ったく――」
一気に急降下して、綾斗の身体を片手で支える斑鳩。
「さて、戻るぞ」
そういうと、ユリスと綾斗を抱え、斑鳩は近くの着陸場所を探した。
翌日――
「(――綾斗ほどはいかないが、流石に厳しかったかな……)」
疲労した身体を引きずりながらも斑鳩は教室に来ていた。クラスはいつも通りざわめくこともなく普段通りの様相を呈していた。
「おはよ、ユリス」
「……おはよう」
何事もなかったかのように斑鳩は挨拶しそれに挨拶し返すユリス。そして特に何もなく自分の席に座る斑鳩。
「ところで…その、昨日は……ありがとう」
「ん?あぁ、それはいいさ」
「このことは貸にしてくれていい」
「貸し?」
「あぁ、わかりやすいだろ」
「そうだな、そうしておいてくれ、だが、もし万が一俺が困ったら、その時は助けてくれよ」
斑鳩は彼女に背中を向けながら拳を後ろに向けて軽く突き出し言うと。
「あぁ」
拳が少しぶつかると同時に、ほんの少し明るい声で彼女がそういった。そして、丁度良く担任の教師がやってきた。