数日後――海岸
斑鳩は、いつも通り綺凛と一緒に、早朝の白くぼやけた世界となったアスタリスクの外周を走り終え、湖岸沿いを走っていた。
「(にしても、これほど霧が深いとはな…)」
前を走る彼女を捉えられていないわけではないが、とはいえ、こんな霧だとあの世界のフィールドを思い出す。
「(まるで、早朝のロンドンと言ったところかな…)」
と思いながら、周囲を警戒しつつ湖岸沿いの歩道を走っていく。
「……棗先輩」
「あぁ、こいつは…複数ってところかな?」
その気配を察知して身構える斑鳩。その手にはエリュシデータ。
「そうですね、でも、何か変です?」
「獣の匂ってところだな…」
そういったところで二人は足を止める。無理もない。視線の先には工事中の看板があるからだ。
「工事中…はめられたな…」
「えぇ、嵌められましたね」
軽く顔を見合わせる斑鳩と綺凛。そんな中、迂回路を見るがどうみても出来すぎている。
「なぁ、刀藤さん」
「はい」
「どっちが狙われているか、心当たりある?」
「えっと、それなりに、まぁ、先輩も?」
「うん、まぁね、ま、ここは一緒にいくとしますか」
そういうと、背後から滲みよる気配。同時に、明らかにこちらに向けられる殺意
現れたのは、見たこともないような生き物。言うとすればキマイラと言ったところだろうか。
「この子たち…なんて生き物でしょうか?」
「さぁな、けど言うとすればキマイラと言ったところかな?」
綺凛ちゃんにとっては初見の生き物らしく、不思議そうに首をかしげる。
「でも、ちょっとかわいいですね」
「ん?ああ、うん――っと!!」
目の前の竜もどきが、隙ありとばかりにとびかかってくるが、生憎それを見切れない斑鳩ではなく。
すぐさまエリシュデータで迎撃する。
「棗先輩、大丈夫ですか?」
「あぁ、さほど手ごわいって感じでもないからな」
斑鳩は軽く牽制しながら、剣を振るう。すると、竜もどきの切り離された前足がその場で崩れ落ち、水飴のように溶けていった。といっても、スライムのような状態で残って震えている。
「…これは」
興味深く見ている斑鳩。そんな中、低い咆哮と共に放たれた火球を斑鳩は易々とはじく。
「刀藤さん、これは一体……?」
「多分、変異体と呼ばれるものかと思われます」
「変異体――あとで教えて」
「えぇ、今はこの状況を打開しましょう」
「あぁ」
そう言いながら剣を霞に構える。とはいえ、並の技で倒せるようなものではなさそうだ。
そんな中、抜き身の刀を構えながら言う綺凛。
「――少し試してみていいですか?」
「おう」
そういうと、無造作ともいえる足取りで竜もどきに近づいていき
「……ごめんね」
焦るでもなくそうつぶやくと、僅かに身体をよじらせその攻撃をかわし、襲い掛かってきた竜もどきの胴がばっさりと切り裂かれた。
「オオオオオオオオオッ!!」
悲鳴をあげ身体がスライム状にとける。そこから、そこのスライム状の物体に向かって、もう一撃鋭い斬撃を放つ。そして、そこから、すさまじい速さでそれを切り刻んでいく。その速度たるやまさに神速である。
そのスライム状の中に小さな球があった。
「(そこが、核ってわけね―――)」
「――終わりです」
一閃。彼女の刀が煌いたと思うと、その球は真っ二つに両断された。
「これで退いてくれればいいのですが……」
「さすがだ、でも、よくわかったね?」
「星辰力の流れが妙でしたから、わたし、昔からそういいのに敏感なんです」
「キミの強さの一端がわかった気がするよ」
そう言いながら、その残骸に目を落す。
「…手口的にアルルカントってことかな?」
「アルルカント?」
彼女が不思議そうな顔で訪ねてくる。
「っと――ッ!?」
斑鳩と綺凛から距離を取っていた竜もどきが連続して火球を撃ちこんでくる。
同時に、こちらを狙ってくる。だが――
「(――この狙いは!?)」
今度はこちらを狙ったものではない。明らかに低い軌道を狙った火球は、爆発音と共に綺凛の足元へと着弾し、爆発する。
「ッ!?」
同時に、彼女の石畳に放射状の亀裂が走った。