「――そういうことね」
「はい…」
斑鳩は彼女のこれまでの話を聞いていた。この学園に入った理由、父を助けたい理由、それと伯父との仲に関することなどをだ。
「伯父さんと、そんな感じで仲が悪かったんだ」
「えぇ、けど、棗先輩のおかげで目が覚めた気がしました」
「…一歩踏み出せたってこと?」
「はい、けど、最近わかったことがあるんです」
「何さ?」
「私は、一人では…とても、とてもそんな――」
震える声でつぶやく綺凛。同時に少し罪悪感を感じる斑鳩。斑鳩は、ゆっくりと彼女をやさしく撫でる。
「大丈夫だよ」
「あ……」
「刀藤さんは一人じゃないさ、少なくとも俺は力になるよ――それに君が選んだ一歩だ、それなら尚更な」
「…わたしが自分で……」
こちらをまじまじと見つめてくる綺凛。その瞳の奥に何かが煌いたかのように見える。
そんな中、綺凛はこちらを見つめながら口を開いた。
「棗先輩、ぶしつけなお願いを聞いていただけますか?」
「あぁ、いいよ」
すっきりした表情の彼女を斑鳩はとらえていた。
「なんでまた決闘なんだい?それも俺となんて」
「…どうしても必要だと思ったからです」
「そうか、なら何も言うことはないな」
彼女のこれまでになく澄んだ瞳にその理由を納得する斑鳩。
「なら、本気で行かせてもらうとしよう」
「……望むところです」
バラストエリアのコーティングされた氷の上に向かい合って立つ綺凛と斑鳩。
斑鳩の内なる意識が集束していく。その集束先は彼女だ。そして、周囲の音が全てシャットアウトされていく。同時に、その気配も斑鳩自身に集束していく。
「(小細工なんて必要ない、彼女が本気で来るなら…こちらも本気で相対しよう)」
斑鳩の意識がまるで矢の弦のように張りつめていく。
「では――参ります!!」
あの時と同じように先に仕掛けてきたのは、綺凛からだ。だが、その一歩一歩は斑鳩の意識の中では蚊を落す以上に遅い。その彼女の一歩一歩を捉えているのだ。
「(――この一撃で…決める!!)」
そして、彼女が斑鳩のクロスレンジに入ると同時に、その意識下で一気に剣を振り抜く。
ザクンッ!!
確かな手応えと共に、大気が切り裂かれる。ソニックブームが巻き起こり、轟音がこのバラストエリアに鳴り響いた。
「…これが、棗先輩の本気ですか…参りました…完敗です」
すっきりした顔の綺凛。同時に、感覚がノーマルに戻っていく。斑鳩は地面に叩き付けられた彼女に手を差し伸べる。
「どうも、立てるか――」
「はい立てます――棗先輩!?」
「んっ?」
見れば身体の色々なところから血が流れていた。
「(…身体が追い付かなかったってところか)」
そう思いながら、彼女を絶たせてやると
「ちょっと、大人しくしていていください」
彼女は、ポケットかとりだしたハンカチで血をぬぐってくれる。
「ありがとう」
「いえ」
斑鳩と綺凛は先ほどの壁に腰かける。お互い、ほっとした時間が流れる。
「あ、あの…棗先輩」
「ん?なんだい?」
「その負けたのでなんともという感じがするのですが、ふ、二つほどお願いがあるのですが……いいですか?」
耳の先まで朱色に染めながら、小声で言ってくる彼女
「お願い……?」
「は、はい、できればその、な、棗先輩のことを、お、お、お名前でお呼びしたになと……」
「いいよ、それで、もう一つは?」
「は、はい……じゃ、じゃあ、い、斑鳩、先輩……」
「うん」
俯き上目遣いにもじもじとしている。それがどことなくではなく確実に愛嬌がある。
「……わ、わたしのことも、名前で呼んでもらえます、か…?」
驚いたが、断る理由もないので
「わかったよ、綺凛ちゃん」
そういうと、名前で呼ぶと同時に頭を撫でてやることにした。
「ふぁ…」
再び顔を赤らめる彼女であった。
疾風刃雷はかわいい。これは真理