ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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華焔の魔女

「――咲き誇れ、六弁の爆焔花(アマリリス)!!」

轟音が鳴り響くと共に綾斗が窓から飛び降り、空中で体勢を整え着地してくる綾斗。

視線の先には、巨大な焔の花がそのつぼみを開いていた。

 

「(おいおい…)」

斑鳩の肌を熱を帯びた突風が走り抜けていく。それこそ、爆弾が炸裂したようにとんでもない威力だ。斑鳩の横であっけに取られている綾斗。

 

「おいおい、覗いたのか?」

「あれは不可抗力だよ」

必死の弁解をする綾斗だ。視線の先からは、四階分の高さを優雅に降りてくる薔薇色の髪の少女。その姿は、気品と優雅さに満ちている。まるで、どこぞのお姫様のようだ。

 

 

 

「ほう、今のをかわすとは中々やるではないか」

彼女は声に怒気をにじませたまま、少しだけ感心したように言う。

 

「いいだろう、だったら本気で相手をしてやる」

隣の綾斗はもっぱら平和的解決を望んでいそうだが

 

「(状況的に着替えを覗いたってところか…ま、コイツには借りがあるし、ここで返しておくか)」

感覚的に彼女の力が高まる事を感じる斑鳩。そんな中

 

「わわっ、ちょっと待った!」

「なんだ?大人しくしていればウェルダンぐらいの焼き加減で勘弁してやるぞ?」

「(思いっきり、しっかり火を通す気満々だな!?)」

心中でツッコミを淹れる斑鳩

 

「…それは中までしっかり火を通す気満々ってことだよね?」

「(って一緒かよ!?)」

どうやら考えていることは一緒のようだ。

 

「じゃなくて、とりあえず命を狙われる理由を聞きたいんだけど…」

「乙女の着替えを覗き見たのだから、命をもって償うのは当然だろう」

「(ここまでビンゴとはな…こいつの将来が恐ろしいことになりそうだ)」

「だったら、さっきお礼を言ってくれたのは?」

「もちろんあのハンカチを届けてくれたことには感謝している、だが……それとこれとは別の話だ」

「……そこは融通を利かせてくれてもいいんじゃないかな?」

「あいにく、私は融通という言葉大嫌いでな」

微笑ながらばっさりと切り捨てるあたり、取りつく島はなさそうだ。つまり、交渉決裂絶対不可避だ。

 

「そもそも、届けるだけなら、窓から入ってくる必要はないだろう?ましてや女子寮に

侵入してくるような変質者は、それだけで、袋叩きにされてもおかしくないのだぞ」

「(それはごもっともな意見だなー)」

そう思いならが斑鳩は綾斗の方を見ると。

「……え?女子寮?」

その瞬間、"こいつやっちまったという顔"をしながら額に手を当てる斑鳩。

 

「まさか…知らなかったのか?」

知っててやっていれば確信犯。もしかしたらなんとかなると思うが

 

「知らないもなにも、俺は今日からこの学園に転入する予定の新参者で、しかもここにはちょっと前に着いたばかりなんだ、誓って嘘じゃない」

「(…マジかよ)」

となると自分はどうやらこの転入生に助けられたらしい。少女は綾斗をしばらくいぶかしそうな目で見つめて大きな息を吐く。

 

「わかった、それは信じてやろう」

そういって綾斗は胸を撫で下ろそうとするが、その気迫の変化を感じてない斑鳩は身構える。

 

「だが、やはりそれとこれとは話が別だな」

その瞬間、彼女の周囲に小型の火球が九つ現れる。

「咲き誇れ――九輪の舞焔花(プリムローズ)!!」

「ッ!」

綾斗が動くよりも早く反射的に斑鳩が動きだし綾斗を突き飛ばす。そして、斑鳩のタイミングに合わせるかのように、エリュシデータが深紅色に光り出す。

 

「(こっちも使えるってわけか…上等!!)」

斑鳩はスネークバイトで初球二発を消し、そこからデッドリー・シンズを繰り出し、ものの見事に彼女の攻撃を文字通り"叩き斬った"。

 

「…なっ!?」

そういうと、彼女と綾斗の前に出て剣を構える。

 

「悪いな、おねえさん――こいつには借りがあるんで、ここは俺とで納得してくれないか?」

自然体でありながらもエリュシデータを構えながら言う斑鳩。

 

「…なるほど、ただの変質者というわけでもないようだ…並々ならぬ変質者だな」

「相互理解って難しいなぁ…」

「(その点は同意するよ)」

とぼやく綾斗。

 

「ふん、冗談だ――」

すると少女は綾斗を半眼に睨みながら髪をかきあげた。

 

「おまえが善意でハンカチを届けてくれたのは事実のようだし、私の、その…着替えを覗いたのも、ま、まあ、一応わざとではなかったと信じてやってもいい、あ、あくまで、一応だぞ」

斑鳩を無視して話が進んでいく。

 

「本当に?」

「とはいえ、ここがどんな建物なのかを確認しなかったのはお前のミスだ。それにいきなり窓からはいってくるなど非常識極まりない」

「(ま、わざとじゃなかったらなんでも許されるわけでもないからな…特にこういうものはシビアだからな…)」

そう思いながら、点を仰ぐ斑鳩。相変らず、こちらの空も蒼かった。

 


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