歓楽街の端というわけではないが、割と沿岸部に近いエリアに斑鳩のお気に入りのエリアはあった。
そこは歓楽街の華やかさと海沿い特有のシーサイド感を出した不思議なエリアだ。それ故、斑鳩はその面白さに魅入られ、そこに入り浸っていた。そのエリアに一件、学生がよく立ち寄るリーズナブルな店がある。
斑鳩は久しぶりにそこに来ていた。
「(ここの料理は相変らず美味しいものだ)」
心地よい海風に、そこそこ華やかな料理。
ウッドデッキから見るアスタリスクの街並みもまた趣が良いものだった。
このエリアは、一般的な歓楽街とは違い"レヴォルフの連中"もおらず、大人しく過ごせる場とあってクインヴェールや星導舘やガラードワースなどの学生達がいた。そんな中
「お客様、申し訳ありませんが、相席よろしいですか?」
店員の一人が申し訳なさそうに頼んでくる。周りを見渡してみるが、席は結構埋まっている。なので
「えぇ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
そういうと店員は去り、そのお客を連れてきた。
「相席、申し訳ない、おや君は」
やって来たのは、アルルカントの制服を身に纏い褐色の肌に銀髪の女性。そして、赤と黒のマントを羽織っていた。そう、アルルカントアカデミー生徒会長、アンリマ・フェイトだった。彼女はこちらを見て少し驚いた顔を浮かべる
「どうも、お久しぶりですアンリマさん」
「少し棘が入っているのはまぁ、置いておいて、久しぶりだな棗斑鳩」
「どうもです」
こちらも挨拶すると、こちらの料理を一瞥し
「キミの食べているのは、何という料理なんだい?」
「あぁ、海鮮サラダとマリネとパンです」
「そうか、では同じものを頼むとしよう」
そういうとまるっきり同じものを頼んでくるアンリマ。
「にしても、本当に何も話さないのか?」
「…えっ?」
寧ろ話してほしかったと言わんばかりに言うアンリマ。
「全くこれだから最近の若い者は、やはり草食だな」
これだからと言わんばかりの表情である。
「にしても棗斑鳩、確か君が次に戦うのは"ウチの生徒"だったよな」
「…あまりネタバレをする気はないですよ?」
「寧ろしないでくれ、こちらもそういう楽しみは取っておきたいのでね」
「…本音は?」
「あまりド派手にこちらの研究成果を壊さないでくれ、かな」
脳裏に浮かび上がるのは、ユリス&綾斗vsプリシラ&イレーネの試合だ。あの試合では、イレーネの覇潰の血鎌《グラヴィシーズ》を悉く砕いている。
「…まぁ、善処しますよ」
「極力頼むよ」
と若干苦笑いしながらいう彼女に、底知れぬ何かを感じつつも食事を勧めていったのであった。
それから、尞に戻り斑鳩はストレッチを行い床についた。
――そこは、かなり広いドーム状の部屋だった。視線では、骸骨とムカデを合わせたようなモンスターがフィールドを文字通り"蹂躙"していた。
「クソッ!?」
斑鳩は一心不乱に身体を動かしていた。
「わあああ――!!」
斑鳩から見て丁度右斜め前に居たプレイヤー達から悲鳴があがり、モンスターの骨鎌が振り上げられる。そんな中、斑鳩のあの世界での一時期の相棒であった紅い鎧のプレイヤー"シーズ"が、その骨鎌めがけて相方の真下に飛び込んで鎌を迎撃し弾く。そして、耳を劈く衝撃音と共に火花が散る。だが、シーズにもう一つの鎌が迫り込む
「――ッ!!」
瞬間的に、ウォーバルストライクを発動させ二つ目の鎌を弾いていく。
「(クソッ!!重い!)」
二つ目の鎌を抑え込んでいたが、それを弾かれると同時に壁に吹き飛ばされる。
「――ガハッ!!」
壁に叩き付けられ、軽く吐血すると同時にHPバーが減少していく。
その間でも目の前のボスモンスターは斑鳩とシーズ以外のプレイヤーをためらいもなく消し飛ばしていく。正にプレイヤーの地獄と言ったところだ。もはや士気の低下というレベルの問題ではない。それに加え
「(ここまで一方的なのか――)」
余りにも強い強さ。幾つかのプレイヤーはその場から逃げるのに精いっぱいといった状態だが、
「諦める――わけにもいかないんだよね」
斑鳩は再びエリシュデータを構える。
「うぉおおおぉぉっ!!」
叫び声と裂ぱくの気迫。斑鳩はモンスターに向けて飛び出していく。
まるで戦いが身体を求めているように、いや身体自体が限界ぎりぎりの死闘を求めているのかもしれない。
そんな中、風と融合したような感覚と共に剣を振り続ける斑鳩。それはある意味、途方もない感覚でもあった。しかし、そんな中斑鳩の視線は、ある一人の人物に視線が一瞬行く。その人物は、紅いマントに希少武器である"軍神の剣"を携えた褐色の人物。確かにあったはずのその人物の名前を斑鳩は思い出すことができなかったくらい集中していた。