ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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ディルク・エーベルヴァイン

「会長だと…?」

ユリスの顔が一瞬で引き締まり、剣呑な雰囲気が流れる。ユリスが彼女に向かって何かを言おうとするが、斑鳩はそれを手で軽く制す。

 

「《悪辣の王(タイラント)》か…綾斗どういうことだ?」

「うん、それは俺から頼んだんだ」

そういうと、状況を話しだす。そして

 

「わかった、そういうことなら私も同行させてもらおう」

「え?でも会長は天霧さんを――」

「――なにか「まぁ、待てよ、問題ないよな"会長さん"」ッ!?」

聞かれていることはもはや斑鳩にとっては筒抜けだった。すると、突然彼女の前に暗転した状態のウィンドが現れる。

 

『バレていたのかよ、構わねぇよ、棗斑鳩共々連れて来い、ころな、せっかくだ、《華焔の魔女》の面も拝んでおこうじゃねぇか』

「は、はい、わかりましたっ」

「ほらね?」

さも当然のような顔をする斑鳩。

 

「(にしても、フローラをみられたのはまずかったな…一応、頼んでおくか)」

そういうと、コンソールと共に斑鳩は信頼できる人物に連絡を入れる。同時に、フローラのポシェットにごみを着ける。

 

「で、では、ご案内しますので、どうぞこちらに……」

完全に顔が引きつっている。どうやらよほどユリスと斑鳩が怖かったみたいだ。

 

「フローラ、すまんがそういうわけだ、一人でホテルまで帰れるな?」

「あい!大丈夫です!」

スプーンを握り締めたままいうフローラ。とはいえ、その件に関してはもう解決済みで

 

「ユリス、その件は大丈夫だ―― 一応ボディーガードをつける」

「ボディーガードだと?」

「あぁ」

そういうと、店に一人の少女がやってくる。刀藤綺凛だった。

 

「わざわざ済まないな、綺凛ちゃん」

「いえ、どうかしましたか?」

「彼女をホテルまで頼む、それともしよろしければ食べてくれ」

そういうと、軽い甘味をウェイターが持ってきてくれた。

 

「いいんですか?」

「あぁ、ぜひな」

そういうと綺凛の頭を軽く撫でてやり、店の外に出た。

店の外に出ると、そこには、巨大な黒塗りの車が止まっている。いわゆるリムジンだった。

 

「こちらです」

ころながその車のドアを開けると、中は想像以上にゆったりしている。言い変えるとすればちょっとした応接室と言った感じだった。

 

「――入れよ」

青年――ディルク・エーベルヴァインの声がする。斑鳩が先に入り、それから綾斗とユリスが中に入る。

 

「てめぇが、《叢雲》と《絶天》か――ぼんやりとした面といかにもってな面だな…」

「……そんなぼんやりとした輩の相手を――」

ユリスの言葉を斑鳩が遮る。

 

「ま、先日の襲撃の件は証拠不十分で何も言わないよ、それにそっちにも被害は出ただろ?」

うすら寒い笑みを浮かべる斑鳩。この場の雰囲気が一瞬にして最悪になる。ディルクが言うのも無理はない。斑鳩はこのレヴォルフの金目を何人か文字通り"潰している"のだ。本来なら全面戦争ものだが、状況が状況であり、彼の実力をよく知っているのも、またディルクだった。

 

「…話の通りの奴だな《絶天》」

「ま、関係ないけど牽制さ」

「あぁ、そうだったな、だが、話をする前に言っておくぜ、俺はテメェの質問に答えてやる義理はねぇ、それだけはよく覚えておけよ」

 

「でも……だったらなぜあなたはここへ?」

「そうだな、唯の気まぐれといったとこか」

「忙しいであろう生徒会長がわざわざ、ただの気まぐれで?まさか」

綾斗は深い息を吐くと、ディルクの眼を見た。

 

「俺にもあなたに提供できるものがなにかある、そうでしょう?」

「……その通りだ、何かを得たいと思うなら、何かを差し出さなけりゃ取引は成立しない」

ディルクはそういうと、足を組み直す

 

「いいぜ、合格だ、何が聞きたい?」

「姉さん――天霧遥について、貴方の知っていることを全て」

「天霧遥……か、生憎とオレもそれほど多くのことを知ってるわけじゃねぇ、一度見たことがあるってだけだ」

「どこで?」

「――《蝕武祭(Eclipse)》」

ディルクの顔にユリスが驚いたように目を見開く。とはいえ、斑鳩もそれは同じだ。

 

「《蝕武祭(Eclipse)》、ルール無用で非合法、おまけにギブアップなし、決着は気を失うか、絶命か――アンダーグラウンド開催だから、規模は小さいが"殺し合い"が大好きな連中の格好の遊び場ってところか」

「…テメェ、どこまで知ってやがる?」

「さぁ、それはあなたが思うところまでですよ」

「はっ……オレが天霧遥を見たのはその出場選手の一人として、だ、当時の俺は《蝕武祭(Eclipse)》の客の一人だった」

「姉が…試合に出ていた?」

「あぁ、《黒炉の魔剣》を使ってやがったからよく覚えているぜ、《蝕武祭(Eclipse)》に純星煌式武装を持ち込むはそういねぇ」

そういうとディルクは、昔を懐かしむように話し出した。


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