――《
「さてと、そろそろいくか」
斑鳩はそういうと、控室から立ち上がる。紗夜は手元に落としていた視線を上げ、いつものように無表情でうなずく。斑鳩の視線が偶然、彼女の古い紙切れに行く。
「――お守りか?」
「うん、なんでも願い事が叶う、魔法のチケット」
「そうか、大事にしろよ」
「わかってる」
そこで言葉を終わらせ控室を出て通路を歩いていく。
「――斑鳩」
「ん、なんだい?」
「ありがとう」
思わぬ言葉だったが、多くは語らないシンプルな言葉でもあった。
「ここまで来られたのは、斑鳩の力があってこそ、感謝する」
「こっちも、沙々宮の力があってこそだったさ、こちらこそありがとう」
お互い謝辞を述べながら歩いていく。何も言わずともお互いなんでこの戦いに臨むのかもうわかり切っている。故に、交わす言葉は少ない。
そして、薄暗い長い通路を進んでいく。一応、紗夜と斑鳩はシリウスドームで試合をするのは初めてだ。とはいえ、この世界に来て間もない斑鳩もこのシリウスドームで試合をすることには特別な何かをを感じている。
そして通路の先に二人の影が見えた。いち早く気付いた斑鳩は紗夜を後ろに下がらせる。
気配であの二人だとわかる斑鳩。
「やぁやぁ、剣士君、お久しぶり」
「お久しぶり、エルネスタさん」
にこやかな顔だが、身体から滲ませるのは純粋な闘牙だけだ。
「にゃはは~キミは本当に一筋縄ではいかないね~これから闘う者同士とはいえ、別に親交を深めちゃいけないってわけでもないっしょ、別に八百長しようってんじゃないんだしさ」
「闘うのは、お宅らの擬形体でしょ?」
「んー、まぁ、そりゃそうなんだけどね」
エルネスタが何かを言いたそうだが、大体察しがつく斑鳩。
「ま、大方後ろの…えーと、カーミラさんが相棒に言いたいわけだろ」
「ピンポーン、正解!ということだから、ほれ」
二人のやりとりを眺めていた、カーミラが出てくる。
「久しぶりだね、沙々宮紗夜、なに、わたしも少し誤解をしていたようなので、決着をつける前に――」
カーミラが言おうとした言葉を、斑鳩は軽く手をかざして止めた。
「悪いが、面倒事はこっちも好ましくないのでね、単刀直入に言わせてもらうよ」
そういうと、更に気迫を増しながら言う。
「先日の言葉を負けたら撤回するか否か、それだけが焦点だ」
「不可能だ、万が一、ありえない話だが、仮にアルディとリムシィが君たちに負けたとしても、私がそれを認めることはない」
明らかにこちらへの宣誓布告だ。その証拠に紗夜の瞳に怒りが満ちる。
「……ただ、その時は先日の言葉を撤回しよう、アルディとリムシィの武装は私と《獅子派》が積み上げてきた技術を全て注ぎ込んである、彼らを打ち破ったとするならば、さすがに実践的ではないと言えないからね」
それだけ言うと、クルリと紗夜に背を向けて去る。
「あ、ちょ、自分の要件がすんだら即撤収とかひどくない?あたしだってその子の武装には興味があるんだから!色々と聞きたかったのにー!?って、あーもう、待ってよカミラってば!!」
カミラを追っかけていくエルネスタ。そして、彼女は不意に足を止め
「それじゃあ、うちの子たちをよろしく頼んだよぉー!楽しんでねー!」
子どものように大きく両手を振ると、今度こそ通路から消えた。
斑鳩の心の中ではこのやり取りでかなり言いたいことが渦巻いている。が、
「行こう、斑鳩」
「…あぁ」
光と歓声が渦巻くステージへ、足を向ける。
「――絶対に勝つ」
「あぁ、当然だ(アルルカント、いやエルネスタとカーミラ!!そういつもいつも……思い通りになると思うなよ!!)」
会場は綾斗とユリスの時と同じように、熱狂に包まれている。相変らずの良い実況だ。とはいえ、そんな実況を軽く楽しみつつも、斑鳩の意識は目の前の擬形体に意識が言っている。
『確かに、どちらのペアもほとんどの試合が瞬殺と言っていいほどの短時間ですもんね、それでも沙々宮・棗ペアは先の準々決勝でも多少苦戦したようですが、アルディ・リムシィペアのほうはここまで全試合、ほぼ一分で決着しています!」
『それもあの"一分間は手を出さない"という宣言をすべての試合でやってのけたうえでの話ッスからねー、今日の見どころとしては、沙々宮・棗ペアがアルディ・リムシィ選手の絶対防御を破れるかがまず一つめの焦点かと思います』
「聞くがよい!今回も貴様らには一分の猶予をくれてやろう!吾輩たちはその間、決して貴様らに攻撃を行うことはない、存分に仕掛けてくるがよい!」
「(ッシャアアアアアアア!!全力解放していいってことだな!!思う存分一分で終わらせてやる!!)」
内心ガッツポーズをする斑鳩。そして、紗夜と斑鳩は互いを一瞥し
『《
試合開始が宣言された