「そういうことね……」
「あぁ」
そういうと、少し考えたのちにオーフェリアは口を開いた。
「結論から言うと――私から言えるのはあまりないわね」
「……そうか」
残念であるがこれは予想されていた答えだ。
「まぁ、誤解しないでちょうだい、私も彼から口止めされているわけじゃないわ、むしろその逆ね」
「逆?」
「今回の件は、まず彼によるものね、それにお抱えの機関も」
「黒猫機関ってわけか」
「えぇ、にしても、厄介なところに人質を取られたわね、今回は、イレーネみたいな子飼いの連中じゃないわ、なにせ、通達が来ていないわ」
「…ますます黒猫機関の連中ってわけか」
「えぇ、それで斑鳩はどこに検討をつけているわけ?」
「廃墟ではなく、こちらの生徒会長がピックアップしたところだな」
「まぁ、検討はいいわね、私としては歓楽街ね」
「歓楽街…確かに、草を隠すには草のなかってわけか」
「その通りよ、どうするついていこうか?」
まるで子供を見るかのようにいうオーフェリア。
「子供じゃあるまいし……」
そこまでいうとオーフェリアの表情が変わる。
「ま、まぁ、地の利のそっちの方がわかっていそうだから頼めるかな?」
「待ってました、んじゃあ、いくわよ」
そういうと、オーフェリアに手を掴まれ、そして彼女は飛び出していく。
そろそろリミットの時間、ゴミが起動する時間だ。
「オーフェリア、いいか?」
「ん、どうした?」
斑鳩は"ゴミ"を起動させた。すると、斑鳩の端末の地図、歓楽街のはずれ、北側の一角に紅い点が浮かび上がった。
「ビンゴ、オーフェリア、このまま最高速でいくぞ」
「待ってました」
そういうと、斑鳩は近くにいた綺凛と紗夜に居場所データを送り、速度をあげて北側の一角に向かった。
先に到着した綺凛と紗夜。二人は、入り口の敵をなぎ倒し、地下に降りていた。そして、すぐに巨大な扉に行きあたっていた。
「紗夜さん、まずは私が」
何かあった時に備えて、役割を分担しておいた方が賢明だと感じた二人。前に立ったのは綺凛だった。
「……わかった」
紗夜が頷くのを見て、ゆっくりと扉を開く。そこは、一階と同じようなホールが広がっていた。しかし、天井はあまり高くなく、柱の数もずっと多い。全体的に薄暗いフロアの中、所々明るい照明の所に人質はいた。
「フローラちゃん!」
綺凛が声を掛けると、女の子はハッとしたように顔を上げた。
「んんんー!」
猿轡を噛まされているために何を言っているか分からない。そんな中
「――ッ!?」
綺凛はふいに殺気を感じて、大きく横に飛びのいた。
わずかに遅れて柱の影から飛び出してきた巨大な棘が、さきほどまで綺凛が立っていた空間を刺し貫いた。
そして、更に他の影からも同じような棘が次々と綺凛を狙う。
「(一階の人影といい、やはり影を武器にする能力者……!)」
ホールの無数の光源。この場所はこの能力を最大限まで発揮できるようになっているみたいだ。
「――刀藤綺凛か、随分と大物がやってきたものだ」
ピタリと攻撃が止む。そして、フローラの柱の影から無機質な目をした男が姿を現した。
「……あなたが誘拐犯ですか?」
そう問うと、フローラの影から延びた棘がその喉元に突き付けられる。
「オレの邪魔をすればこの娘の命は保証しない」
「そ、そんな……!もうやめてください!そんなことをしてもあなたが不利になるだけです!」
「一つだけ教えておいてやろう、俺がどうなるかなどということは、俺にとってはどうでもいいことだ」
その本気の言葉にゾッとする綺凛。どうやら、ためらいは無いみたいだ。
「まずは武器を捨てろ」
「……くっ」
それが分かった以上、綺凛はどうすることも出来ない。仕方なく千羽切をゆっくりと床に置く。
「綺凛!フローラを!」
その瞬間、鋭い紗夜の声がホールに響く。同時に、フローラの喉元の棘が撃ち抜かれ、同時に照明弾で影をいくつか消した。千羽切を斑鳩に教えてもらったやり方で拾い上げ、そのまま全速力で駆け抜ける。
男が、動く。同時に、フローラ自身の影から棘が生まれる。
「させません!」
剣閃がその棘を立ち切り、綺凛はフローラを抱きかかえる。
そして、後方から光弾が飛んでくる。
「この狙撃――沙々宮紗夜か」
そして、綺凛は猿轡と縄をほどいた。