斑鳩の頭の中では如何にしてヴェルナーを処理するかしかなかった。
今にでも激情に身を任せ、ヴェルナーの首を跳ねたいが、それでこの空間が収まるわけがない。下手すればレヴォルフ学院そのものが崩壊させかねない。
「――馬鹿なッ!?」
見ればヴェルナーの手元の実剣がものの見事に粉々に砕け散っていた。しかし、目の前の棗斑鳩は、剣を取り出していない。その手には、星辰力で構成されたと思わしき刀がそこにある。
「紗夜、綺凛――あまり見るな」
「えっ?」
「おそ――」
隙を見て斑鳩に向けて攻撃しようとしたヴェルナー。しかし、まるで壁に引っ張られるようにして、後方の壁に勢いよく叩き付けられる。同時に回避不能な無数の光の矢がヴェルナーに飛んできて、文字通りヴェルナーを磔にした。
「クソッ!!どういうこと――」
斑鳩はヴェルナーがここで死なれては困るので、ありとあらゆる死の手段を封じ込んだ。
「綺凛、大丈夫か?」
「は、はい」
顔を真っ赤にさせながら言う綺凛。今お姫様抱っこのような状況だ。
「少し背中で休んでいてくれ」
「ありがとうございます」
そういうと、彼女をおんぶする形になる斑鳩。そして、通信端末を開いてクローディアにつなげる。
「クローディア、襲撃者の無力化及びフローラを確保、綾斗に存分に暴れていいぞと伝えてくれ」
『あら、一歩遅かったですわ、ついさっき、試合は終わりましたよ』
「結果は、聞くまでもないか」
『えぇ、綾斗の勝利です』
「わかった、ありがとう」
そういうと、斑鳩は通信を切り、紗夜と斑鳩、それにフローラを軽く眠らせ三人を抱きかかえる。
「あとは任せたぞ――夜吹とその"お仲間"たち」
そういうと、近くの柱の影から夜吹が現れる。
「見抜いていたか、斑鳩」
「まぁな、あとは任せたぞ」
「あいよ」
専門家集団に彼を引き渡し、斑鳩はその場を立ち去る。
入り口には、警戒していたオーフェリアがいた。
「どうだった?まぁ、その様子だとってところね」
「あぁ、ありがとう、オーフェリア、このお礼はいずれ精神的にな」
「いいえ、こういう時こそ、お互いさまよ、じゃあ、私も怪しまれないうちに出るわね」
「あぁ、なんかあったら言ってくれよ?」
「えぇ、そうするわ」
そういうと、その場から消えるオーフェリア。
「さてと、帰りますか…」
その前にこの三人をどこかで降ろさないとなと思いながら、一路近くの公園に向かった。
斑鳩は案の定、近くの海浜公園に足を向けていた。
「――さてと、3・2・1」
そういうと、三人が目を覚ました。特に跳び起きたのは紗夜だった。
すぐに武器を構えるが、その光景に、少し動きを止める。
「…ここは?」
「海岸近くの公園だよ、紗夜」
「海岸近く――私達は廃ビルにいたんじゃ?」
「さぁな?」
見ればフローラの姿もあり、少し胸をなでおろす紗夜
「斑鳩、何をした?」
「少々、見られたくないものがあってな…これ以上は先に聴かないでくれ」
「……わかった」
その凄みのある言葉に納得する紗夜。斑鳩はフローラの方を一瞥し
「紗夜、あとはフローラを頼む」
「斑鳩はどうするの?」
「万が一に備えて彼女を連れていく」
「わかった、任せて」
「頼むぞ」
そういうと、信頼できる相棒に彼女に任せて、綺凛を治療院に連れていった。
綺凛は、心地よい夢を見ていた。
それも遠い昔の夢だ。あの頃は、自分もまだ泣き虫だったころの夢だった。山を駆けていたころ、転んでしまい、偶然にもおぶられていたなと思い出して、感傷に浸っている。今となってはいい思い出だ。
「(あの頃はお父さんと一緒だったな…)」
ふと薄く目を開けてみれば、父親と似た白い髪。
「…お父さん」
どこか妙に懐かしく、まるで自分の父親におぶられているように感じる綺凛。その温かさに思わずつぶやいてしまう。そして、その広さに温もりを感じ、再びまどろみに身を委ねる綺凛であった。
「(父さんか…)」
背中に湿り気を感じながらも、何とも言えない感じの斑鳩だった。