「確かに、我が星導舘学園は、その学生に自由な決闘の権利を認めていますが、残念ながらこの度の決闘は無効とさせていただきます」
そういいながらギャラリーから現れたのは、金色の髪を靡かせた一人の落ち着いた雰囲気の少女だった。
「……クローディア、一体なんの権利があって邪魔をする?」
「それはもちろん星導舘学園生徒会長としての権利ですよ、ユリス」
そういうと、彼女は校章を手にかざし
「赤蓮の総代たる権限をもって、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトと天霧綾斗、棗斑鳩の決闘を破棄します」
そういうと、二人の校章の紅い輝きが失われる。
「ふふっ、これで大丈夫ですよ、お二人とも」
「はぁー……」
今度こそなんとかなり、綾斗は額の汗をぬぐい、大きく息を吐く。
「ありがとうございます、生徒会長」
「はい、星導舘学園生徒会長、クローディア・エンフィールドと申します、よろしくお願いします」
綾斗はそっと差し出された手を慌てて取った。その一方で今の裁定を不満そうな顔をしている彼女。
「いくら生徒会長といえども、正当な理由なくして決闘に介入することはできなかったはずだが?」
「理由ならありますとも、彼が転入生なのはご存じですね?すでにデータは登録されているので、校章が認証してしまったようですが、彼には最後の転入手続きが残っています、つまり厳密には、まだ天霧綾斗くんは星導舘学園の生徒ではありません」
笑顔のまま説明する生徒会長のクローディア。
「決闘はお互いが学生同士の場合のみ認められています、だとしたら、当然この決闘は成立しません、違いますか?」
「くっ……!」
悔しそうに唇を噛むユリス。どうやら聞き分けはいいらしい。
「はい、そういうわけですから、みなさんもどうぞ解散してください、あまり長居されると、授業に遅刻してしまいますよ」
クローディアの言葉で集まっていたギャラリーたちも散っていく。そんな中、綾斗が声を掛けようとするが
「捨て置け、どうせもうとっくに逃げている」
「とはいえ、流石にやりすぎだろうな――これに関して生徒会長はどう見ます?」
斑鳩は彼女に視線を向けると
「えぇ、今回のは流石にやりすぎです、決闘中に第三者が不意打ちで攻撃を仕掛けるなど言語道断、風紀委員に調査を命じましょう、犯人は見つかり次第、厳重に処分いたします」
「(まぁ、すぐに捕まるだろうがな)」
手応えを感じていた斑鳩はそう確信する。そんな中
「ところで……先ほどは、その…あ、ありが、とう」
ばつの悪そうな顔で綾斗に向き直る彼女。
「ああ、うん、それはいいんだけど……もう怒ってない?」
「それは―――まぁ、怒っていない、こともないが、助けてくれたのは確かだからな、私とてあれが不可抗力だったことぐらいわかる、だから、今度のことは貸しにしてくれていい」
「貸し?」
「あぁ、わかりやすいだろう?」
「ま、わかりやすいな」
彼女の言葉に同感する斑鳩。それから、彼女に何か小言を告げるクローディア。とりあえず会長に言われた通り、その場を離れようとしたが
「…待ってください、棗 斑鳩」
「どっちかでいいですよ、用ですか?」
斑鳩は目の前の生徒会長に止められた。
「えぇ、少しいいですわよね?」
そういうと、綾斗はさも当然のように歩き出すが、斑鳩は任意とは名ばかりの"連行"されることになった。
それから、クローディア会長に指示され、綾斗が終わるまで別室待機となった。そんな中だった。
「少し、いいか?」
やって来たのは薔薇髪の美少女、先ほどこちらに刃を向けたユリスだった。
「ユリスさん、でいいか?」
「なんども言わせるな、ユリスでいい」
「そうか、それでユリス、なんの用だ?」
「まぁ、少し聞きたいことがあってな――」
そういうと、近くの自動販売機で買ったと思われるペットボトルを渡してくる。
「ありがとう」
「あぁ、早速本題に入ろう――お前、何者だ?」
「何者だ…ってな、俺は棗 斑鳩。それ以上のそれ以下でもないが」
「貴様、本当の"棗 斑鳩"か?」
「……どうしてそう思う?」
「そう思うも何も、昔お前と手合わせしたことがあるが、あの時お前と手合わせしたときの得体のしれない違和感があってな…」
「…違和感だと?」
「あぁ、まるでお前がお前でないかのようにな…」
「随分と、俺のことを知っている口調じゃないか…」
「知っているも何も、同じクラスだということをしらないのか?」
「(……嘘だろ)」
衝撃の事実で言葉が出ない斑鳩。
ハッタリだとしても、かなり無理があるともいえないものだ。何せ、この世界での記憶は全くないのだ。
「それに、お前の詳細に関して誰かによって細工されたように真っ白、改めて問うがお前は一体何者なんだ・・・?」
ユリスの瞳はいつも以上に鋭い物だった。なので斑鳩はこう言い放った。
「ユリス、お前口は堅い方だな?」
斑鳩はそういった。