ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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一足早く――

アスタリスク中央区行政エリア――その中心に《星武祭》の運営本部は存在していた。

そして、斑鳩とユリス、綾斗は事件の報告を受けるためにマディアスと向き合っていた。

 

「やあ、よく来てくれたね、今回の《鳳凰星武祭》はいろいろあったものだから、後始末に時間がかかってしまった――ああ、どうぞ座って」

マディアスに促され、テーブルをはさんでソファに座る。《鳳凰星武祭》が終わってから1か月、既に長い夏休みも終わり季節は秋にと移っていた。

 

「早速だが、本題に入ろう、フローラ・クレム嬢の誘拐事件に関して――もうすでに君たちの耳にも入っていると思うが、あの事件の犯人であると目されているマフィアグループのうち、逃亡していた幹部連中が先日逮捕された」

そこで小さく息を吐くマディアス。

 

「クレム嬢が監禁されていたカジノを運営していたマフィアでね、他にも手広く違法行為を行っていて《鳳凰星武祭》関連のとばくの堂本でもあったようだ、ところが少し倍率を偏らせすぎたようで、君たちに勝たれるとかなりまずい状況だったらしい、とはいえ、棄権されると払い戻しになってしまう、そこで思いついたのが、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を使えなくさせるというハンデだ、今の所ほとんどの連中が否認しているが、アジトからは決定的な証拠がいくつも押収されている」

そこまで話すと、マディアスは苦笑して肩をすくめる。肩をすくめたいのはこっちもだ。

 

「まるで納得していないという顔だね――」

「当然です、あれは明らかに――「まぁ、まて綾斗」斑鳩?」

「フェスタの運営委員長として、名前を上げるのは贔屓になるのであまり大きな声で言えない、とはいえ、マフィアの構成員にレヴォルフの生徒はいたんですよね?マディアスさん」

斑鳩の言葉に、ユリスが奥歯をかみしめる。

 

「あぁ、もちろんだ、所属学園の責任は逃れない、当然処罰も検討しているし、場合によっては《星武祭》のポイント剥奪なども考えている、それにこの一件に関しては警備隊長が強い関心を持っているとも聞く、捜査も引き続き行われるようだし、もう少し長い目で見てくれたまえ」

「……わかりました」

不承不承といったところで頷くユリス。それから、綾斗の姉の捜索に話が行く。

《鳳凰星武祭》優勝者の願いとして、綾斗と紗夜は綾斗の姉である天霧遥の捜索を願った。ユリスは当初から言っていた通り、金銭を要求した。統合企業財体が提示した金額はとてつもないもので、ユリスはそれを使ってリーゼルタニアにある複数の孤児院の借金を全て返済し、さらにその権利者となり、残った分は、以後の運用資金に充てるそうだ。ちなみに、斑鳩は少し特別なお願いをしている。それから、面々は一礼を告げ、その場を後にした。斑鳩はこの後行くところがあったのであった。

 

 

 

 

北関東多重クレーター湖上のフロートエアポート

 

斑鳩は、とある人物の見送りでこのフロートエアポートにやってきていた。

 

「――にしても、どこにいるんだ?」

周囲を見渡すが彼女の姿は見当たらない。いくら、目立つといってもこのような人混みがあるところは話が別だ。再び、メールに視線を落すが、手がかりという手がかりがあまりない。そんな中

 

「――だーれだ?」

定番中の定番、というか目は塞いでいないものの、誰かが抱き付いてくる感覚。

背中にはやわらかい感触。というか、ある意味で慣れた感覚だ。

 

「さぁ、オーフェリアかな?」

「せいかーい」

顔を見せるオーフェリアだった。

 

「いんやー、これ一回やってみたかったんだよね」

そういうと、彼女の顔が少し曇る。大体の理由は知っているのだ。彼女の足元にはキャリーケースがある。

 

「オーフェリア、時間あるか?」

「ん?えぇ、あるわよ」

「ちょっと、座ろうぜ」

「うん」

近くの椅子に座り込む。すると斑鳩が、先に口を開いた。

 

「ディルクがってところか?」

「えぇ、そういうこと――4時の便でミュンヘンだって」

そういうと、彼女は斑鳩によりかかってくる。斑鳩は軽く彼女の後ろに手を回す。

 

「ごめんね、ちょっとしんみりしちゃってさ」

「ま、その気持ちわかるよ」

「ありがとう、けど、たぶん貴方は私のものに来るわ」

「なんで?」

「多分、リースフェルトが自分の王国に呼ぶからよ」

「あぁ~」

「まぁ、それまでのしばしの別れね」

「そうだな」

軽く頭を撫でる斑鳩。すると、物凄い赤い顔をした後に、何やらしかめっ面をするオーフェリア。

 

「オーフェリア、俺が浮気すると思っている?」

「さぁ、星導舘は綺麗どころが多いからね~どうだか」

再び頭を撫でる斑鳩。

 

「ま、大丈夫だよ、多少信じてくれよ」

そういうと、先ほどの比にならない位顔を赤らめるオーフェリア。それから無言の時間が続く。

お互い寄り添い合っている。それから1時間後、飛行機の時間がやって来た。

 

「じゃあ、待っているからね」

「あぁ、待ってろよ」そういうと、彼女を見送り、斑鳩は飛行機と反対方向の星導舘に戻った。

 

 


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