「ユリス、お前口は堅い方だな?」
「言うなといわれれば誰にも言わない、これは約束する」
「そうか、今から話すのは紛れもない現実だ」
そういうと、一連の"ここまで"の事を話をし始めた。
「…にわかに信じがたいな、だが辻褄が合うな」
顎に軽く手をやりながら話を聞くユリス。その顔はどこかやるせないといった顔だ。
「信じてくれるのか?」
「信じるも何もな、目の前で"あの事"が起これば否応なく信じるしかないだろ、それにあの手かのレーザーは《魔術師》たる証拠他ならないからな、それに元のお前は《魔術師》じゃないからな…」
「理解してくれて助かる、それにしても《魔術師》か、そんなたいそれたものじゃないんだがな…」
腕を組みながら言う斑鳩。
「んじゃあ、効かせてもらおうか――なんで、俺が"学園最弱"と呼ばれているのか?」
「――ギブ&テイクというわけか、非常に分かりやすいな、いいだろう教えてやる」
「感謝する」
一礼を告げる斑鳩。
「まぁ、呼ばれた理由はこの学園で唯一というべきなのだろうか、戦い方は守りに徹し、ほとんどの対戦相手のスタミナ切れで引き分けに持ち込んでいたということだ」
「スタミナ切れ?」
「あぁ、この都市の仕組みは理解しているんだろ、ショーでこんな戦いならつまらないが、かといって敗北の記録もない故に、学園最弱というわけだ、いつもなら防戦一方のお前がどうしてと思ってな」
「……そういうことね」
斑鳩自身がなぜ"学園最弱"と呼ばれたのか理解していた。
「まぁその他にもいろいろあるが――」
そんな中だった。
「あら、お取込み中だったかしら?」
「…クローディア会長」
やって来たのは生徒会長であるクローディアだった。ユリスと彼女がいくつか視線をかわし
「クラスで待っている、わかんなかったら探せ」
そういうと部屋を出るユリスであった。そして、先に口を開いたのはクローディアからだった。
「さて、はじめましてというべきかしら、棗斑鳩君」
「…それは一連のことを"聞いていた"と受け取ってよろしいですか?」
「それで結構ですわ、我が星導舘学園が貴方に期待することはただ一つ、勝つことです」
「わかりやすくて結構、お望み通り頑張ってみせますよ」
「えぇ、期待していますよ棗斑鳩、それとあなたの処遇というわけではないですが、一応日常生活に支障がない程度の"記憶喪失"として、こちらで話しを通しておきます」
「お心遣い痛み入ります」
「いえ、これも生徒会長ですからね」
「えぇ、さて、そろそろ始業時間ですし、このくらいにしておきましょう、なにかありましたら、いつでも言ってください、できるだけお力になりますよ」
「よろしくお願いします、クローディア・エンフィールド会長」
「クローディアでいいですわ」
「わかりました、改めてよろしくお願いします、クローディア」
「えぇ」
そういうと彼女に見送られ、斑鳩は教室に向かった。
クラスに戻ると、斑鳩はユリスに声を軽くかけた。
「戻った」
「あぁ、よく戻って来れたな」
「まぁな、こんな近代的な建物の中で遭難しても意味ないからな」
「よく言うものだ」
「ありがとう、それで、俺の席はどこだ?」
「…そうだったな私の前だ」
「ありがとう」
そんな中だった。そういうと彼女の席の前の席に座る。すると担任と思わしき女性が入ってきた。名前は谷津崎匡子という人らしい。長身の目つきが悪いといった女性だ。
「棗、少し来い」
こっちに向けて軽く手招きをする担任。
「なんでしょう?谷津崎先生?」
「やはり、生徒会長の言った通りか」
「…?」
「理解できていないようだな、貴様記憶喪失になったんだって?」
その言葉でクローディアの言葉を思い出す。
「えぇ、そうですが」
「そうか…無理はするなよ」
「お心遣いいただきありがとうございます」
「気にするな、私は貴様の担任だからな、ほら席に戻れ」
「はい」
そういうと席に戻るのであった。
「あー、とゆーわけで、こいつが特待転入生の天霧だ、テキトーに仲良くしろよ」
「ほら、さっさとしろ」
「あ、はい、えーと、天霧綾斗です、よろしく」
実におざなりな紹介とそっけない自己紹介だった。「(ハハッ、コイツは面白いことになりそうだな)」
心の中では愉快極まりないと言った感じで高笑いをしている斑鳩。
「席は、ちょうどいい、火遊びの相手の隣で斑鳩の斜め後ろが空いているからそこにしろ」
「だ、誰が火遊びの相手ですか!」
ユリスが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「まさか同じクラスとわね」
「……笑えない冗談だ」
「ま、よろしくな綾斗」
溜息を吐くユリスとケタケタとした笑みを浮かべる斑鳩であった。
「(この学園生活、中々面白い物になりそうだな)」