ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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月光の剣士

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

空気を震わせ、九つの首が同時に咆哮をあげる。先ほどと同様に、ヒュドラが光線を放ってくる。

 

斑鳩は言葉を遣わずに、見ることもせず、まるで思考がダイレクトに接続されたようなリニア感を得る。

 

そして、息もつかせぬヒュドラの連携攻撃を瞬時に反応し、受け止め、攻撃し返していく。

斑鳩はオーフェリアとかつてないほどの一体感を味わう。まるで、二人が融合したかのような感覚を得る。

 

まさに神速ともいえる連携攻撃で攻撃をしていく。そして、首を切り落とすが、今まさに切り落とした首の切り口がぼこぼこと泡立ったかと思うと、それが次第に盛り上がり、やがて元通りに再生した。

 

 

「そんなところまで神話通りというわけか…」

「中央の首を落すしかなさそうね」

「みたいだな」

そういうと、ヒュドラに対して一歩前に出るオーフェリア。

 

「ま、準備運動は出来たし、久々の私の本気、見せてあげるわ」

そういうと、オーフェリアの周囲から星辰力が溢れだす。そして、あの時とは違い、今度は周囲から緑色の粒子が噴き出していく。斑鳩は瞳を軽く合わせ、ヒュドラに向けて滑空するようにかけていく。その手には、エリュシデータではなく、スカーレットファーブニルが握られている。

 

「――塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

オーフェリアがつぶやと同時に、緑色の粒子で構成された腕が地を這う蛇のように素早く雪原を走り、

ヒュドラの中央の首以外を掴み、それを無理やりへし折る。

 

「ガァァアアア――!!」

そんな中、ヒュドラの眼は生きていたらしくこちらに向けて光線を放とうとしてくるが、

 

「グギャアアアアッ!!」

不意にその頭部が炸裂し、文字通りのた打ちまわる。この攻撃を出来るのは一人しかいない。案の定、その人物から通信が入る。紗夜からだ。

 

『危機一髪?』

「ナイスフォロー、助かった!」

斑鳩の知覚は対岸からの攻撃を感知していた。それにしても、今の一撃は湖の対岸、優に三キロある地点からの長距離狙撃だ。さすがというしか言いようがない。

そして、連続して8つの首が連携攻撃してくるが、オーフェリアと紗夜の隙のない攻撃で爆発していく。光線攻撃が悉く失敗に終わる。斑鳩は、大きくスカーレットファーブニルを構える。そして

 

 

「――サラマンド・バタリオン」

剣から摂氏3000度の熱を発する一閃、その光跡は龍の形をしている。

一閃をすると共に、爆炎に飲み込まれたヒュドラが断末魔のようなものを上げる。即座に焼かれる。

そして、その骨でさえも一閃で砕かれ、正真正銘ヒュドラが消し飛んだ。

 

 

 

「――終わったな」

ヒュドラを一瞥する斑鳩とオーフェリア。サラマンド・バタリオンのせいで地面は大きくえぐり取られ、熱波によって周囲に積もった雪が解けていく。周囲を見渡すが、案の定ギュスターヴの姿は見られない。

 

「そうね、それにしても彼には逃げられたのかしら?」

周囲を一度見渡しいうオーフェリア。

 

「大丈夫だ、信頼できる追っ手がいる」

そういいながら、高台の方をねめつける斑鳩であった。湖畔には月光が光輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そんな、まさか」

余りの短時間の出来事に驚いているギュスターヴ。ヒュドラと竜牙兵があの速さで倒されたのもさることながら、それにもまして、この距離であちらがこちらを見てきたということだ。スコープ越しだが、彼と目が遭い底冷えぬ何かに充てられるギュスターヴ。

 

「(とはいえ、ここまで間に合うまい)」

あくまでここに居れば逃げられることに半ば安堵の息を吐くギュスターヴ。震えながらもスコープをしまい、落ち着かせるために口ひげを撫でる。

 

「仕方あるまい、また次の機会を窺うとしましょう」

そういってギュスターヴはその場を立ち去ろうとするが、その人影に気付いた。

 

「――これは驚きましたな、どうやってここが?」

「それは貴方が知る必要がありません、しいて言うとすれば、斑鳩さんとユリスさんの見立てです」

月光に照らされた人影――刀藤綺凛の顔が露わになる。

 

「この近くで貧民街とあの場所を一望できる場所はそう多くありません、あとはそこを調べていけば…」

「こうして当たりを引くこともありますか、なるほど」

ギュスターヴは、頷きながらも星辰力を集中させる。

 

「大人しく投降してはもらえませんか?率直に言って、星辰力を消費したあなたでは、私には勝つことはできません」

「ふむ……その通り、でしょうが、打つ手がないわけでもありませんよ」

そういうと、その場に竜牙兵が現れる。

 

「貴女を倒せずとも、私が逃げおおせるくらいの時間は稼いでくれれましょう」

ゆっくりと竜牙兵が綺凛を取り囲んでくるが

 

「確かに、綾斗先輩の天霧辰明流と違い、刀藤流には多対一を想定した技術は、実戦レベルのものとなると、ほとんど皆無でしょう――」

言いながら、綺凛は腰の日本刀をすらりと抜く。そして、その鞘を持ち、半身に構える。

 

「私個人としてなら、話は別です――」

「なんですと…!?」

綺凛から放たれる剣気に後退りはじめるギュスターヴ。

 

「かかりなさい!!」

次の瞬間、ギュスターヴが命令するよりも早く動き出す綺凛。

 

「―――」

綺凛は、刀を振り上げてから、払うことによって目の前に衝撃波を発生させて範囲攻撃の残月と刀と拳撃を組み合わせた3連続の攻撃の羅刹を繰り出す。そして、最後に相手が技を出してから反応してたら間に合わないほど素早い辻風を繰り出した。

 

「がはっ…!」

「安心してください、峰打ちです」

綺凛の剣戟でギュスターヴは白目を剥いて雪の上に倒れ込んだ。

 


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