ヘルガは、軽く手を挙げ、その場を去っていく。
「はぁ…なんだか考えることがいっぱいだな」
ようやく姉に会えたことには間違いない綾斗。その実感がわいてくるが、やはり問題は山積みであった。
「(五年か…)」
決して短い時間ではない。しかも綾斗にしてみれば、今までの人生の三分の一に近い時間だ。
「姉さん…とはいえ、これ以上俺にできることはないんだよな……」
知らずに声に出てします。無理もない、喜ぶのはまだ早く、今のままでは話すことはできないのは明白な事だった。そんな時だった。
「そんなことはないですよ」
突然背後から声がかかった。
「えっ?」
慌てて振り向くと、そこにアルルカントの制服に白衣を着た怪しげな女性がいた。
「天霧綾斗、ですね?」
「そうだけど、あなたは?」
「きししし、これは失礼しました、あたしはヒルダ、ヒルダ・ジェーン・ローランズです、ヒルダとお呼びください」
衣擦れしたような乾いた笑い声の彼女。彼女は猫のように目を細める。
「それで…俺に何か?」
「あぁ、そうでした天霧綾斗、キミがあたしを必要としているのじゃないかと思いまして」
「え…?』
「きししし、だってキミはお姉さんを治療したいのですよね?」
「っ!なぜそれを……!」
反射的に身構える綾斗。
「知っていますよ、我々《超人派》は治療院と深いパイプを持っていますからね」
その名前に聞き覚えがある綾斗。
「あぁ、それとニュースを観ました、「おまえらの先輩がこっちにやってくれたみてぇじゃねぇか、ヒルダ・ジェーン・ローランズ」な、なんですかッ!?」
聞き覚えのある声と共に、こちらに向けられているのは濃密な殺気。見れば、殺気慣れしている綾斗はそうでもないが、ヒルダに関しては何かを察知し、その身体を震わせていた。そして、その殺気の正体が現れた。
「最悪のタイミングですね」
「どうも、
斑鳩の言葉に思わず身を構える。
「それで綾斗と接触したのは、姉である天霧遥の治療と引き換えに貴様に課されてるペナルティの解除か」
「制限?」
「あぁ、コイツはとある実験で失敗してな、その中でも大型万応素加速器を操る施設に入れなくてな、それで綾斗に優勝してもらい、その施設に入れてもらおうっていうわけさ」
黙り込む綾斗。
「一つ聞きたい……あなたがオーフェリア・ランドルーフェンを《魔女》にしたっていうのは本当なのか?」
「おやおや、そのあたりもご存じでしたか、一応あの実験のことはまだ発表されていないのですが……きししし、これは話が早い」
独特の笑い声をあげながら目を細める彼女。
「そうですそうです、あれはあたしにとって特別な被験体でした、あぁ、もし今あれがあたしの手元にあったなら、どれほど貴重なデータが取れたことか、まったくもって残念でなりません、それに、彼女も変わったっていう話もありますし、とはいえ過ぎたことを嘆いていても仕方ありません、科学者たるもの、常に未来へと目を向けなければならいのです――そ「そうか、言いたいことはそれだけか?」
「えぇ、そうですよ」
不気味に笑う少女。斑鳩にとってはつくづく不愉快としか言いようがないが、なんにせよ彼女に対する憎悪は非常にこの空間を捻じ曲げかねないほど黒く膨らんでいた。その周囲に斑鳩の周囲にどす黒い星辰力があふれ出ていた。
「…ま、まさか――」
「お前の想像通りだよ、アンタの思う通り、オーフェリアの毒を消したのはこの俺だ」
「そ、そんなーー」
その気迫に押され、後退りしはじめるヒルダ。
「知っているか――人間の脳味噌って、電気が流れているらしいな?」
この学園都市では殺すのはご法度だ。だが、ばれないように傷つけることは可能だ。斑鳩は彼女の頭を掴み。
「では、魔女裁判の時間と行こうか」
「へっ?」
地面に突き刺すことによって周囲に電撃を走らせるライトニングフォールを手から起こした。しかも、唯の雷撃じゃなく、黒い雷だ。
「―――!!--!!」
とてもじゃないが人間が発する言葉を発していないヒルダ。
「さて、記憶のクリーニングは出来ているかな?」
まるでゴミを扱うように彼女を扱う斑鳩。斑鳩は何事もなかったかのようにその場を立ち去ることにした。