ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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レスターマクフェイル

夕方

「……なら、なんで新参者とアイツとなんかと決闘しやがった!」

「――ん?」

夕陽が木々の影をくっきりと浮かび上がらせる中、軽いランニングをしていた斑鳩はその怒鳴り声を聞いた。

その声は若い男の声だった。気の小さい者なら竦み上がりそうな剣幕だが、生憎慣れっこな斑鳩。見てみると、四阿でユリスに詰め寄っている三人の男子生徒がいた。一番詰め寄っているのは大柄の男性のようだ。

少し面白そうなので身を乗り出して見てみる。どうやらギャラリーは他にもいるようだ。

 

「答えろユリス!」

「答える義務はないな、レスタ―。我々は誰もが自由に決闘する権利を持っている」

「そうだ、当然だ、オレもな」

「同様に、我々は決闘を断る権利も持っている、何度言われようと、もう貴様と決闘するつもりはない」

「だからなぜだ?」

「…はっきりと言わないとわからないのか?」

そういうとユリスは大きく溜息をついて、立ち上がった。

「きりがないからだ、私は貴様を三度退けた、これ以上はいくらやっても無駄だ」

「次は俺が勝つ!たまたままぐれが続いたくらいで調子にのるなよ!オレは、オレ様の実力はあんなもんじゃねえ!!」

「そうだ、そうだ!レスタ―が本気を出せばおまえなんて相手にならないんだぞ!」

後ろに控えていた二人が野次を飛ばしてくる。そして面白そうなので、斑鳩は動き出した。

「なら、まずはそれを証明することだ――私以外の相手でな」

そういうとユリスは背を向ける。

「待て!まだ話しは終わっちゃ…!」

レスタ―がその肩をつかもうとしたが

 

「あれ、ユリスじゃないか、奇遇だね、こんなところで」

「……おまえ、なぜここに?」

「時に奇偶というものは必然と言い変えられるものだよ、ユリス」

「…おまえまで」

「なんだてめぇらは?」

タイミングと台詞のわざとらしさに二人は揃って眉をひそめ、同時にこちらをにらんだ。

「あはは…ちょっと道を間違えちゃってさ」

「ランニング中に絡まれているお前を見つけてな、面白そうだからやって来た」

「ああっ!レスタ―!こいつ、例の転入生と"学園最弱(ザ・ワースト・ワン)"だよ!」

「なんだと……?」

鋭さを増したレスタ―の視線。

 

「それでユリス、こちらは?」

「……レスター・マクフェイル、うちの序列九位だ」

腰に手を当てつつあきれ顔で答える彼女。

 

「へぇ、君も《冒頭の十二人》なのか、すごいな、俺は天霧綾斗、よろしく」

「こんな、こんな小僧と闘っておいて、俺とは闘えねえだと…!?」

そしてレスターが呻く。

 

「ふざけるな!俺はてめぇを叩き潰す!絶対に、どんな手を使ってもだ!」

こちらには映っていなさそうだ。

 

「ちょ、ちょっとレスターさん、落ち着いてください、さすがにここじゃ……」

「ま、俺もそれには賛同だな、森が燃えてこの四阿も台無しだな」

「……」

正当な意見のせいで両者黙り込む。

 

「お、俺は諦めねぇぞ、必ずテメェに俺の実力を認めさせてやる……!」

そう吐き捨てて取り巻きを連れて去って行くレスタ―だった。

 

 

 

「はぁ……やれやれだ」

ユリスは再び長椅子に腰を降ろす。

「どうやらレスターという奴は君が気に食わないらしいね」

「あぁ、そうみたいだ。その手の輩は少なくないが、こうまでしつこいのは初めてだな」

「だけど、序列九位ってことは相当強いんだよね」

「あぁ、強いか弱いかで言えばまあ強いほうだろう、だが私ほどではないし、まして斑鳩ほどでもない、そもそも序列なんてものは言うほどあてにならん、『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』入りしていなくても実力のあるやつはいくらでもいる、根性もあるしな」

そんな中、ユリスは二人を見ながらわずかに口角を上げた。

 

「せっかくだ、私から質問がある」

「ええっと、なにかな?」

「答えれる範囲なら答えるぜ」

「今朝の決闘で、お前は流星闘技を使ったな、無調整の煌式武装で一体どうやった?」

「ああ、あれは流星闘技じゃないよ」

「……なんだと?」

「そもそも俺、流星闘技は使えないんだ、どうしても煌式武装と相性が悪いっていうか苦手でさ、出来れば実体があるほうが使いやすいんだ」

 

「だったら、今朝のあれは…」

「あれは唯の剣技だよ」

「同じく綾斗と一緒だと、言いたいんだが…」

斑鳩は言葉を濁す。

 

「斑鳩、言葉を濁してどうした?」

ユリスが聞いてくる。

「そのアレだな、さっきから聞いている、流星闘技(メテオアーツ)やら煌式武装(ルークス)やらの意味がわからないんだが」「…おぉう」少し溜息をつくユリスと綾斗であった。


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