ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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華焔落涙

「……一体、これはどいうことだ、オーフェリア」

「あ、アハハハ…ごめん、ユリス」

今の状況を説明しよう。わかりやすく言えば、ユリスの部屋に並々を積まれたダンボール。それだけだ。

オーフェリア自らがやらかしたとあって、少し怒っているユリス。

 

「はぁ……まぁ、今回のはな、クローディアも少し関わっているんだろ?」

「えぇ、まぁ…伝え忘れた…のかしらね?」

「(伝えていないって言ったのは、どの口だオイ?)」

冷や汗を垂らしつつ、ユリスの逆鱗に触れないかどうか、少し顔を蒼くしているオーフェリア。そして、横から全力でツッコミを入れたくなる斑鳩。そんな中、ユリスは少し顔を戻し

 

「私もこの部屋が広くてな、少し物寂しかったところだ、それにオーフェリアが来てくれたなんて、まるで夢みたいだ・・・」

少し涙を滲ますユリス。その顔はどこか年相応といったところだ。そして、少し指で涙を拭きとり

 

「またよろしくね、ユリス」

「あぁ、こちらこそな」

軽く握手する。少し感動的な場面に立ち会う斑鳩。

「さて、では、廊下に置いておくと邪魔だ、これらの荷物をまとめて入れるとしようか」

「そうだな、さて、人手も足りないし――まぁ、足りているといえば足りているけど」

こっちをみてほんの少しニヤリと笑うオーフェリア

 

「こら、オーフェリア、あんまり斑鳩を虐めるな、ま、手早くやってしまおうではないか」

やれやれといった表情のユリスであった。

 

 

 

 

――夜、四阿

 

引っ越し作業も終わり解散した後、斑鳩はユリスに呼ばれあの四阿に出向いていた。四阿は、月光が照らしており、どこか幻想的な風景が広がっていた。

 

「(まだ、ユリスは来ていないのか?)」

そう思いながら斑鳩は四阿で座って待っていると

 

「待たせたな」

いつぞやのようにユリスがやってきた。その手には飲み物がある。にしても、月光に照らされたその姿は学生服を着ていてもその魅力を抑えられていないようだ。

 

「いや、待っていないよ、にしても、引っ越しの件ありがとな、ユリス」

「それはこっちのセリフだ、斑鳩、お前が一番動いていたじゃないか」

「それはお互い様だ、ほら飲み物だ」

「ありがとう」

飲み物を受け取り、それを口つける。

 

「にしても、ここは静かだな」

「まぁな」

お互い月光を見ながら缶を傾ける。

 

「にしても、こういう感じでお前と話すのは久しぶりだな」

「そうだな、確か、あの時は、『お前、何者だ』だったよな、それは覚えているよ」

と少し前のことを思い出し、お互い黄昏る。

 

「私はあの時、今のお前に出会えてよかった」

「…」

唐突な言葉に思わず言葉が詰まる斑鳩。

 

「まさか、私も夢にも思ってもいなかったよ、あの頃、私はオーフェリアをこのアスタリスクに連れ戻す、そして、孤児院のことを考えいてた、それがまさかこうもなるとはな」

「…」

「全く夢のようだ、再びオーフェリアと肩を並べて寝ることが出来るんだからな」

「よかったじゃないか、ユリス」

「これも全てお前のおかげだ、斑鳩」

真っすぐな瞳でそういわれて思わず気恥ずかしくなる斑鳩。それを紛らわせるように飲み物に口をつける。

 

「孤児院の件、兄上から話は聞いたぞ、お前だったんだな」

「…黙っててすまん」

「お前のことだ、ある程度の理由は分かるさ、だが――」

そういうと、ユリスは飲み物を置いて斑鳩の手を握ってくる。その行動に思わず心臓が跳ね上がる。

 

「孤児院の皆に変わって、そして、リーゼルタニアの王族の一人、また私個人としてお礼を言わせてくれ」

そういうユリスの声はどこか震えている、見れば瞳の端にきらりと光る粒が見える。

「ありがとう、本当にありがとう」

その言葉と共に斑鳩は何も言わず、その涙をぬぐってやるのであった。

 

 

 


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