ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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内なる何か

ズドォオオォォオオォンッ!!

一瞬にして、その場から消滅する戦闘用外骨格。

 

 

「《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》を入れずに、しかも序列一位を相手に完封できればこそ、最高のデモンストレーションだったんだけどなぁ…おい、このザマはなんだよ、これじゃあ戦闘用外骨格は、レーザー光線すらも受けきれない、ひ弱なスーツになったことになるぞ?これなら、まだアルシィやリムディの方が骨があったな」

物凄い黒い笑みを浮かべながら、ナルシスをにらみつける斑鳩。

 

「――そ、そんな馬鹿な…」

「おいおい、現実見えているか?」

と手を駆けようとした時だった。

 

「そこまでにしておけ、絶天、気持ちはわかるが、少々やりすぎじゃ」

「…」

星露に言われたので、武器を置く斑鳩。

 

「よろしい、にしてもナルシスよ、数字しか見ておらぬお主にはわかるまいよ、じゃが、儂にとってはどうでもよいことじゃ、それほどまでに象牙の塔の居心地が良いならば、好きなだけそこに籠っておるがよいわ」

そういって、席から飛び降りる星露。そして、扉に向かって歩いていく。

 

「ど、どこへ?」

「第三フェイズは儂の担当じゃからのう、やはりもっと近くで観戦せねばなるまいて」

「マジで?」

「えらくマジじゃよ」

にひひとした顔で笑う星露。

 

「ま、待ってくれ…!」

とナルシスが言ったとき、すぐさまそれをけん制するように斑鳩の槍がナルシスの頭上に展開される。

 

「黙ってろ、不快だ――それと、茶番は終わりだ」

強制的に黙らせる斑鳩。二人から放たれる威圧感に、ナルシスの体は否応なく竦みあがる。

 

「おや、先手を打たれたものかな、まぁ、よいか」

「すいません――ッ!?」

斑鳩は謝ろうとした直後、こちらにやってくる気配を感じて、すぐに構えた。そして星露を守るようにドアの前に出る。

 

「――まさか、この時点でこちらに気づくとはな、にしても我からしてみればお前のしていることも茶番と変わらんがな」

やはりといったところか、廊下から声が響き、見知らぬ女が部屋へと入ってきた。目深いローブを被ったその姿はいかにも怪しい輩だ。とはいえ、かろうじて声と体型で女性だということが分かる。

 

「ふむ……おぬし、誰じゃ?」

斑鳩の後ろからいぶかしげな顔で女を見上げる星露。そして、その女は小さくため息を吐くとローブを脱いだ。現れたのは、二十代半ばの堀の深いなかなかの美人だが、布を巻きつけたような簡素な服装は引き締まった体のラインを際立たせていた。

 

「むむ……心当たりがないのう」

首をひねりながらその顔をまじまじと見つめる星露。そして、彼女の胸元へと視線を落とした途端、手をポンと打った。

 

「おお!誰かと思えば、これまたずいぶんと可愛らしい身体になった(・・・・・・・・・・・・・)ものじゃな!」

 

「それはこちらの台詞だ」

視線の先の女の胸元には、格好とは不釣り合いほどに大きな、機械的で化け物を象ったようなネックレスがかかっている。

 

「それで、わざわざおぬしがこんなところまで何用かの?」

腕組みしてそう問いかける星露。女は、それにこたえることなく部屋を横切りステージに面したガラス壁まで歩く。

 

「……珍しくおまえが表に出てきたので、再度勧誘に来たのだが、明らかにヤバいのを飼いならしているじゃないか」

「ふむ、こやつか、飼い慣らしているつもりはないぞ?それと、何度来られても返事は変わらんのじゃが」

斑鳩を一瞥し、そういう星露。

 

「これまで関わってきた中でもずば抜けておっかない奴だな…そいつ」

こちらを忌々しいように尚且つ警戒している女。

「濃密な殺意って奴をまるでコートを羽織るかのように纏ってやがる…お前、何もンダ?」

「星導館の生徒、といったところだ」

名前を名乗らない斑鳩。

 

「分が悪いな…覚えておけ、もしお前が敵に回るというのなら、我々も容赦しないぞ」

「ほほう、それは脅しかえ?」

「警告だ、少なくとも、我はお前に相応の敬意を払っている」

「くくっ、それはありがたい話じゃ」

くつくつとのどを鳴らす星露。相変わらず斑鳩は彼女を捉えて離さない。

女は、もう一度ため息を吐くと、再びローブを身にまとう。その直後、こちらに濃密な殺意を向けてくるので、で、斑鳩は構える。直後、胸元のネックレスが黒く輝いた。同時に、猛烈な頭痛が斑鳩を襲う。気を失いそうなほどの強い痛みだが、かろうじて構える斑鳩。

そして、必死に脳内で抵抗する斑鳩。

 

「しぶとい奴だ、今度は逃がさん」

先ほどとは比べならないほどの苦痛。

 

「(このままで、終われるか(・・・・・)…)」

「――…」

その瞬間、意識がふっと途切れるのと同時に、斑鳩はその手に剣以外の何かを握る感覚を覚える。

否――もしかしたら、それは、何かに握られる感覚だったのかも、しれない。

 

 

 


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