ソード・オブ・ジ・アスタリスク   作:有栖川アリシア

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ヴァルダと斑鳩

最初にこの異変に気付いたのは、ヴァルダでもなく星露だった。

 

「いかん!こやつ、おかしいぞ!」

「なら、殺すまでだ!」

ヴァルダが斑鳩の胸元めがけ襲い掛かるが、その溢れだす何かに負け、空中で下がる。直後、星露は、縮地術で被害の出ないところに一瞬で三人を移動させる。斑鳩の綺麗だった白い髪は、ゆっくりと闇に塗りつぶされたように輝いたかと思うと、次の瞬間、斑鳩から溢れた黒い万応素の奔流が、いとも簡単に近くの山を溶かし、巻き散らす。

 

「おい、これはどういう・・・ことだ・・・?」

なんとかそれを避け切ったヴァルダが、忌々し気に星露に問う。

 

「お主のウルム=マナダイトとあやつの星辰力が反応した――今は、それだけしかいえん」

「・・・俺のが反応だと?まて、棗斑鳩は星脈世代(ジェネステラ)じゃないはずだ」

空虚な瞳ながらも驚いた顔をするヴァルダ。

 

「あやつは孤毒の魔女(エレンシュキーガル)を元に戻しておる、儂の見解としては、彼女の力のある程度がこやつに流れたとみている」

 

「…そんなバカげた話があってたまるか――!!」

直後、ヴァルダに向けて、黒い触手のようなものが一斉に襲い掛かる。

 

「こいつ!?オーフェリア・ランドルーフェンよりたちが悪い!!」

身体だけを狙っているのではなく、直接胸元のウルム=マナダイトに向けて襲い掛かってくる。

 

「――今は、こやつの攻撃を避けることを考えろ!」

斑鳩のその手は、異様に変化しており手の甲にウルム=マナダイトと思わしき宝玉が輝いており、そこから力が直にあふれ出していた。

それを見た瞬間、ヴァルダは背筋を走るぞくりとした感覚に息をのんだ。なぜだろうか、あの剣には、刃物や武器としての剣呑さや、ウルム=マナダイトの強大さ以外に思わず身震いしてしまような、恐ろしいものを覚えさせる何かがあった。

 

 

 

 

ざぁ……ざぁぁん……

 

「(ここは……)」

遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、斑鳩はどこともつかぬ砂浜の上を一人歩いていた。

足の裏に直接感じる感触と熱気。それに海の潮の匂と波の音。

ここがどこで今はいつなのかわからない斑鳩。

それから砂浜を歩いていると

 

「―――。~♪~♪」

丁度、自分の後ろからそれはとてもきれいな歌声が聞こえてきた。斑鳩は無性に気になり、後ろを振り向こうとする。しかし、目の前に気配を感じた斑鳩。

そして、そこに現れた、いや居たのは、黒髪の少女だった。

肩と腰に輝く漆黒の鎧。そして、胸元と下半身を覆うように広がった闇色のヴェール。そして、幻想的な輝き放つ瞳がまっすぐ、こちらを見据えていた。

斑鳩とその少女の無言の時間が続く。そんな中、少女は、こちらと目を逸らしじぃっと空を見つめている。

斑鳩は不思議に思って、彼女の隣に向かう。

 

「どうかしたのか?」

声をかけるがじっと空を見つめたまま動かない彼女。

 

「まさか、こうして宿主と話せるというのはうれしいな」

「…宿主というのは、俺のことか?」

「そうだ、起点はどうであれ、こうやって話せるというのは、思いもよらなかった」

そういうと、彼女はこちらを向く。先ほどとは違い人懐っこく、尚且つ無邪気そうな顔を向けてくる。

そして手を取られ、にこりと微笑みかけられる。斑鳩はひどく照れくさい気持ちになる。彼女は、斑鳩の手を取ってそれにくちづけをする。

 

「――ッ!?」

思わぬことに驚くが、身動きが取れないためなすすべしかない斑鳩。彼女はまるで、親猫が子猫を舐めるのようにその手の甲をなめていく。そのゾクゾクした感触に思わず背筋が伸びる。

同時に、今まで少し曇っていた空が晴れまぶしいほどに星が輝きを始める。

 

「では、行ってこい」

先ほどのあの無邪気な笑みを浮かべる彼女。そして、まさに夢の終わりとも思わしく、斑鳩の意識は再び落ちていった。

 

 

「……おや、やっと目覚めたかのぅ」

「ここは?」

見上げると、そこは普通の天井だった。

 

「ここか?ここはグランコロッセオの会場じゃよ」

「気絶していたわけですか?」

「ま、そういうことじゃな」

「ローブの女は?」

「去っていったよ、それも足早にな」

徐々に過去のことを思い出していく斑鳩。見れば、眼下のグランコロッセオでは、≪聖騎士≫アーネスト・フェアクロフが白と黒に人形相手に無双していた。

 

「星露、ローブの女について、何か知っているよね?」

そういうと星露は、こちらを一瞥し再び目を逸らす。

 

「あぁ、知っている、だが、今はそれをおぬしが知る必要はない…最も自分で調べるなら止めはせんよ」

そっぽを向く星露に、どことなく違和感を感じる斑鳩であった。

 

 


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