緋弾のアリア side M   作:宮城友佳

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ロンドンには行ったことないのでこんな場所ねーよというツッコミはご容赦を……。

※視点がバラバラになりつつあったので修正しました。
現場に行くところからワトソン視点で固定されます。


霧の都の武偵(ジーニアス)

 霧の都とは名ばかりだと、エル・ワトソンはベッドの中で思考した。

 ドラマや映像などで形作られたイメージとは程遠く、街にはゴミが落ち、壁には落書きが無数にあるなど、ひどく薄汚れている。

 天気は今日も曇り。

 滞在にして3日目になるが、太陽を全く見ない。

 フランスのマンチェスター武偵高から交換生としてこのロンドンへ来訪し、気候への適応のため二日の休息を取り、本日からロンドン武偵高へ行くことになる。

 手櫛でミディアムの、寝癖で跳ねまくっている髪を大雑把に整えながらテレビをつける。

 ニュースを見て、常に社会の動きを把握するのは大事なことだ。

『今回の事件で四人目の被害者となりました連続殺人事件ですが、警察は未だに犯人への糸口をつかめてはいないようです。遺体は裸にされ、持ち物が全て持ち去られている状態なので身元の確認が難しくなっており、警察の能力自体にも疑問の声が上がっています』

「物騒なんだな、ロンドンも」

 武偵特有の素早く無駄のない動きで顔を洗うと、武偵高の男子制服に袖を通す。

 この服も結構長いこと来ているため、もう違和感はない。

 その違和感の無さを再確認するたびに、自分の中の女が一人ずつ死んでいくが。

 エル・ワトソンの性別は女性である。

 通称を転装生(チェンジ)と呼ぶ、性別を偽った武偵高生だ。

 理由はあえて割愛しよう。

 とにかく、エルは本日から期間限定でロンドン武偵高の生徒となるのだ。

 

 ‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

「やあ、初めまして。探偵科(インケスタ)教師のドレッド・マグヌッセンだ。通信科(コネクト)も受け持っている」

 武偵高の教務課(マスターズ)に到着し、前もって教えられていた担当教師の下へ行く。

 それが彼だ。

「初めまして、エル・ワトソンです」

「まさかこのロンドン武偵高にワトソン氏をお迎えできるとはね。歓迎しますよ」

 武偵とは、逮捕権を持つ探偵である。

 時には推理し、時には鉛玉を駆使して犯人を逮捕する。

 そしてその武偵の始祖と言われるのが、かの名探偵シャーロック・ホームズだ。

 彼の功績や能力は、もはや語る必要はないだろう。

 そのシャーロック・ホームズと行動を共にし、共に数々の難事件に立ち向かったのが、ジョン・ヘイミッシュ・ワトソン。

 エル・ワトソンの曾祖父に当たる。

「さて、早速だけど、今後について話そうか」

 交換生になるには、幾つかの必須項目があるが、細かいところを省いてざっくりと条件をあげると、以下の二つになる。

 一つ、成績優秀者であること。

 二つ、学びたいことが明確に示されていること。

「はい。先日文書でもお伝えした通り、探偵科で捜査技術を学びたいと思っています」

「結構。ウチの取って置きを用意しています。隣の部屋で待機してるよ。シャルロットくん、呼んでくれ」

 そう言ってマグヌッセン先生は側に立つ秘書らしき女性に声をかけた。

 しかし、シャルロット女史は困ったように眉を下げた。

「それが、ティータイムだから一度部屋に戻ると……」

「は?」

 思わず声を漏らすエル。

「はぁ……またですか」

「申し訳ありません。お止めしようとはしたのですが」

「まあ、彼はそういう人ですからね。エルくん。早速段取りが崩れましたが、もしよろしければ彼の部屋まで行ってもらえますか?今後のことは全て任せてあるので」

「は、はい。わかりました」

 

 ‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 マグヌッセン先生はずっと謝っていたが、エル自身は特に気にしてはいなかった。

 知り合いにもティータイムを重要視する人はいたし、英国ではそれなりにある事だ。

 英国人は戦時中でもティータイムをしていたという話もあるくらいだし。

 かくいうエル自身も、そうしたティータイムを愛する英国人の一人だ。

 それにしても、部屋の場所は教えてもらえたが、人物についてはノータッチだった。

 いったいどんな人が出てくるのか、エルは密かにワクワクしていた。

 ロンドン武偵高の取って置きというぐらいだ。

 有名どころと言えばAランクのパトリックやギルバートだ。

 二人とも鑑識科(レピア)の戦妹(アミカ)がおり、さらに他の学科の生徒とチームを組み、理想的な犯罪捜査チームとして活動しているという。

「ここか……」

 探偵科棟の一番奥。

 湿っぽい空気が漂うその部屋の青緑色のペンキで塗られた扉には、ほこりを被った小さなプレートが嵌めてある。

 しかし、エルはその文章に大きな戸惑いを与えられた。

「てぃーたいむ、なう?」

 日本語、しかも平仮名だ。

 まて、と一度目線を下げて思考する。

「ここは、ロンドン、だよね……?」

 一呼吸置いてから顔を上げる。

 当然ながら文字は変わらない。

 意を決してノックをした。

『はい』

 男の声だ。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。

 そこにいたのは武偵高の制服を着た青年だった。

 背の高さは百八十センチといったところだろうか。

 少し顔の彫りが英国人より浅めだ。

 茶色い髪を総髪にし、どこまでも見透かされそうなアンバー(琥珀色)の瞳をしている。

「初めまして。暮島・M・アレクサンダーだ。まあ入りたまえ」

 暮島の背中を追いかけるように中に入る。

 ロンドン武偵高の取って置きだって?

 冗談じゃない。

 取って置きなんて安っぽい言葉では片付けてはいけない人だ。

 二つ名はジーニアス・アレクサンダー。

 自分にも西欧忍者(ヴェーン)や全身武器(プレンティ)という二つ名があるが、それとは格が違う。

 多数の特殊部隊や秘密組織が乱立するこのヨーロッパで活動している化け物武偵達をランク付けするヨーロッパSDAランキングにおいて第七位の称号を持つ男。

 ジーニアス(天才)・アレクサンダー。

 かのシャーロック・ホームズに一番近いと言われる人物だ。

「そこのソファに。ああ、何か飲み物はいるかな?」

「い、いや、大丈夫、です」

 緊張で言葉遣いが乱れてしまう。

 部屋はそう広くはなく、ドアから真っ直ぐ長方形に伸びている。

 右手の壁一面には本棚が置かれ、ざっと千冊ほどの本がアルファベット順にキチンと並べられている。

 小さい食器棚が本棚の並びの一番出入り口に近い端に置かれていた。

 部屋の中央に二人掛けのソファーがガラスのテーブルを挟んで置かれ、まるで何か事務所のようだ。

 そして一番奥には大きめの窓があり、その前にはエボニー製のデスクがある。

 いくつもの紙束が積み重ねられ、多少荒れているそここそが彼の仕事場であることは一目瞭然だ。

「敬語はいらないよ。敬語というのは人間関係を円滑に進めるのに効果的な方法だが、様々な思想があっての人だからね。そういう衣は纏うべき時と場合があるが、私の前では不要だ」

「わかったよ。え、と、アレクサンダーでいいかな?ボクはエル・ワトソンだ」

「よろしく、ワトソン」

 彼はデスクに置かれた高そうな革張りの椅子に腰掛けると、傍らに置いてあった飲みかけのコーヒーカップを持つ。

 そしてそのカップはインスタントコーヒーと電気ポットや袋入りシュガーなど、庶民的なアイテムに取り囲まれていた。

 そのセットに目を奪われていると、声がかかる。

「意外かな?」

「うん、なんというか、ドアのプレートにもティータイムだと張り出すような人があまりこだわらないんだなって」

 日本語が読めたことに驚いたのか、少し関心したような顔をした。

「私は紅茶も好きだし、母の祖国である日本の緑茶も好きだ。でも、用意が手間だろう?私にとってのティータイムはお茶を楽しむのではなく、一息ついて脳を休ませるための、いわば一服なのだよ」

 コーヒーを早々に飲み干すと、デスクの横にあるコート掛けから、黒い外套を取る。

「さて、一時の休息の後は仕事をしなければな。ワトソン家は代々医者の家系だと聞くが、君もそうなのか?」

「まあね。医師免許は持っているよ」

「なるほど。ワトソン、検死はできるかね?」

「できるよ」

「荒事は?」

「ニューヨークでは強襲科だった」

「修羅場は見てきた?」

「嫌というほど」

「もっと見たい?」

「まだまだ引退するつもりはないよ」

「結構、ますます気に入ったよ。優秀な探偵には優秀な助手が付き物だからね」

 エルにコート掛けに掛かった小さい外套を渡す。

 女性用の香水の香り。

 戦妹のものなのだろうか。

「どこに行くんだい?」

「まあ、待ちたまえ。私の推理が正しければ、あと三秒だ」

 エルが怪訝な顔をしてからきっかり三秒後、扉がノックされた。

「どうぞ」

 暮島が促す。

 ガチャリと音を立てて入ってきたの百七十センチほどのガッチリとした肩幅の白人だった。

 黒いトレンチコートに、グレーのスーツ、暗い赤のネクタイ。

 コートの膨らみから左の脇の下には銃があるだろう。

 彼は暮島とエルの格好を見ると、少々面食らったような顔をした。

「アレクサンダー、出かけるのか?」

「ああ、現場にな。さあ、案内してくれたまえ」

「相変わらずの準備の良さだな。監視カメラでもつけてるのか?」

「ちょっとした推理だよ」

 暮島と彼が会話する中で、エルはなにやら言いようのない違和感を覚えた。

 何だろう。

「その彼女は誰だ?ガールフレンドか?」

 その言葉にさっきまで考えていた違和感のことはどこかに吹き飛んだ。

 焦りや驚きを表に出さないように表情を操作する。

 女だとバレてはいけない。

 エルは体があまり大きくないため、初見で女だと思われることはそれなりにあるのだが、それでも不意打ち気味で来られると少しびっくりするものだ。

「エル・ワトソン。私の助手だ。早く案内してくれ。こっちはうずうずしてるんだ」

「ワトソン?というと、あのワトソンか?」

「そのワトソンだ」

 なんとたまげたといった具合に、彼は額に手を当てる。

「初めまして。グラハム・レストレード。階級は警部だ」

 なんと、数奇な出会いだろうか。

 レストレード警部と言えば、シャーロック・ホームズが現役の時代にロンドンで警察だった人物だ。

 ワトソン以外ではほとんど唯一付き合いのある人物と言えるだろう。

 ホームズの絶大な推理力の陰に隠れがちだが、レストレード警部も新聞などでは絶賛されるような素晴らしい警官だったという。

 現代の彼がどれほどのものかはわからないが。

 ここに彼女が、カメリアの少女がいないことが悔やまれる。

「初めまして。エル・ワトソンです。あと、ボクはおと、」

「さあ、早く行こう。事件が私を待っている」

 もう待ちきれない様子の暮島がボクの言葉を遮る。

「そうだな、行こうか」

 そう言うと、レストレードは先頭に立ち、部屋を後にし、暮島がそれに続く。

 エルは渡された女の匂いのするコートを羽織ると、追いかけるように部屋を出た。

 

 ‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 ボクは移動中になんとか男であると訂正できた。

 女であることをバレるわけにはいかないからね。

 レストレードの車でしばし走った後、辿り着いたのは地下通路だった。

 キープアウトのテープと横付けされたパトカーで塞がれていた入り口は警官が警備していたが、レストレード警部の顔を見るやいなやテープをぐいと引き上げ、ボクらを中へ招いた。

 普段は若者達の溜まり場になっているであろうその空間は、スプレーで描かれたと思われる絵やロゴが所狭しと並び、古い絵の上には一旦塗りつぶしてから別の絵を描くなど何度もなんども重ね塗りされて表面はデコボコとし、独特の、異様とも言えるアンダーグラウンドな雰囲気が漂っている。

「こっちだ」

 そう言って案内された先には、警察の鑑識が集まっていた。

 そのさらに内側の地面には、一人の遺体。

 額を正確に撃ち抜かれた全裸の女性だ。

 茶髪に、濃いめの化粧、年齢は三十代といったところだろうか。

「ワトソン、検死をしてくれ」

「検死ならうちの連中がもうやってるが?」

「ああ、そうだな。しかし視野という点ではワトソンの方が柔軟だ。特にアーノルドとかはわけのわからない推察をする。聞くに堪えん」

 すると、一人の男が鑑識の壁を割って前に出てきた。

 スーツの上に白衣を纏った白人の男だ。

 短めの茶色がかった黒髪をワックスで固め上げている。

 そしてより人目をひくのは、左目に付けられた眼帯だ。

「俺がなんだって?」

「やあ、アーノルド。今からワトソンが検死をするから、下がっていてもらえるかな?小遣いをやるからカプチーノでも飲んでくるといい」

 明らかに馬鹿にした発言に、アーノルドのこめかみに血管が浮き出る。

「アレクサンダー、やめろ。挑発するな。アーノルドも下がれ」

 盛り上がりかけた現場をレストレード警部が抑える。

 大きく舌打ちをして、アーノルドは去っていった。

「もう少し仲良くしようとは思わんのか?」

「向こうにその気がないのなら、そんな気遣いは意味がない。さぁ、ワトソン、頼む」

「あ、ああ」

 ボクは遺体のそばにかがんで、体に触れる、筋肉の死後硬直、瞳、口内などを隅々まで見ていく。

「死後一時間ってところだと思う。死因は、まあ、見たとおり額に銃で一発。38口径、9mm弾だね。額に焦げ跡が有るから、近い距離から撃ってる」

「グラハム。第一発見者は誰だ?」

「あー、匿名の電話だ。言うことだけ言って切られてる」

「ふむ、それならおそらく犯人だろうな」

 アレクサンダーの発言に、レストレード警部の顔が変わる。

「どういうことだ?」

「通報を受けてから平均到着時間の十分で現場に着いたとして、現場の保存に十分。研究室からここに来るまで二十分程かかったから、グラハムが私のところに来るまでの時間も二十分。合計一時間だ。非常に過密なスケジュールとなっている。ということは、彼女を殺してすぐに、遺体の隣で通報をしたんだろう」

 時間的余裕は殆どない。

 どうやら犯人は完璧主義のようだ。

「最低限の情報を言って切るのもおかしい。この通報がロンドン市民のものであるなら、匿名などにせず、事細かに詳細を説明するだろう。自分の住んでいる場所の近くに殺人犯が居てはたまったものではないからな。

 そして、この場所を選んだということは、犯人はこのあたりの事情に非常に詳しいはずだ」

 話の途中から、彼の話を手元のメモ帳に書き記していたレストレード警部が、顔を上げる。

「何でそんなこと分かる?」

「銃を使ってるんだ。消音器を使っても限度がある。こんな地下の空間なら、音が反響して、地上よりはるかに銃声が響いているはずだ。なら、近くで銃声が聞こえた、と通報が何件か入るのが自然だろう」

 なるほど。

 すぐ近くには住宅地もある。

 銃声が聞こえたら気が気じゃないだろう。

 あたり一面パニックになっていてもおかしくない。

「それがない、ということは、このあたりに人がいない時間を知っていたということだ。遺体の人物の身元確認が先だな。それと彼女の関係者で、このあたりの地理に詳しい人を探せ」

「分かった!」

 レストレード警部はメモ帳を閉じると、勢いよく外に飛び出していった。

 周囲に遺留品がないか探している警官と、壁や手すりから指紋を探している鑑識、そして、アレクサンダーとボクが現場に残った。

「アレクサンダー、これを見て欲しい」

 ワトソンがそう言って、遺体の手の平を差し出す。

「指紋を、焼いてるのか」

「ライターか何かだと思う」

 かすかにオイルの臭いもしたし。

 左右の手の指の平。

 指紋があるあたりが真っ黒に焦げ付き、爛れている。

 それを見たアレクサンダーの表情が一気に硬くなった。

「どうしたんだい?」

「……これはかなり面倒なことになりそうだぞワトソン。なぜ犯人は指紋を焼いたんだと思う?」

 そんなもの、決まっている。

「指紋が犯人に繋がるからだろう?」

 すると、アレクサンダーは両手を肩まで上げ、溜息を吐きながら首を振った。

 やれやれ、と。

 まるで調子の良い三枚目の黒人のようだ。

 そのわざとらしい身振りに、少しイラっとした。

「もっと冷静に、一つ一つ丁寧に考えてみるんだワトソン。犯人にたどり着くまでの間の段階こそが重要なのだ」

 じっくりと地面に倒れている彼女の体を上から下まで見る。

「指紋を焼いたのは、彼女の身元を隠そうと思ったからだ。服を脱がせたのも、服から指紋を採取されないようにしたのだろう。だが、普通身元を隠したいのならまず顔を潰さないかい?」

「あ、そうか」

「人の身元を探るには顔写真や聞き込みによるモンタージュからスタートするのは当たり前だ。ドラマでもやっている。だが、犯人は顔は放っておいた。ということはだ。顔を探しても犯人には繋がらないということだ」

「それじゃあ、まんまと誘導されたと?」

「その通りだ。だが犯人は決定的なミスを犯した」

「ミス?」

「指紋しか処理しなかったこと」

「えっと、つまり、どういうことだい?申し訳ないんだけど、ボクには分からない」

「指紋しか消してないから気づくことができた。顔を探す意味が無いのは、顔を変えているから。だが整形で顔を変えれても指紋自体は変えられない。そして普通に生活している人なら指紋を取られることはない。なら、指紋を記録されるのはいつなのか」

「……犯罪記録かい?」

「そう。例えばだが、集団で強盗などを働き、彼女が他の仲間の取り分をかすめ取って逃げた。整形で顔を変えてだ。それならば、つじつまが合う。彼女の顔で戸籍を調べれば、誰かに成り代わっていたり、戸籍自体無かったりするだろう。この場合捜査は多少手こずるが、とっかかりは掴める。スコットランドヤードに任せて、私達はお茶でも飲んでゆっくりとできる」

「ふむ」

「だが、もし私が考える最悪のケースであるならば、戸籍に怪しい点は何一つ無いだろうね。杞憂で済めばいいんだが……」

 アレクサンダーはそう言うと、身を翻し、地上への階段を登っていく。

「最悪のケースって?」

「人前で話すことではないよ。研究室へ戻ろう」

 レストレード警部は捜査に出ているため、帰りは大通りまで行って、タクシーを捕まえる。

 メガネをかけた老人の運転はとても丁寧で、振動もなくボク達を運んでいく。

 日はすでに陰り始めており、ロンドンをオレンジ色に染めていく。

 夕方になり気温も落ちてきたようで、道行く人々は手に息をかけていたりと寒そうにしている。

「最近、ワトソン家は立場を悪くしていると聞いたが、ほんとか?」

「まあね。と言っても、初代ワトソン、ボクのひいお爺様以降緩やかに下降し続けているよ。最近は設備の整った大学病院が台頭していてね」

 そこでアレクサンダーはおや?という顔をした。

「そういえば、主語を忘れていたな、すまない。医師会ではなく、リバティー・メイソンの話だ」

「!?」

 ワトソン家はとある秘密結社の一員となっている。

 リバティー・メイソン。

 世界中のあらゆる国家、組織にまで広がる秘密結社だ。

 国家元首がメンバーであることも少なくないという時点で、組織の強さが分かるだろう。

 過去のジョン・ヘイミッシュ・ワトソン、いわゆる初代ワトソンが武偵の始祖、シャーロック・ホームズとコンビを組み、数々の難事件を解決してきたという実績により貴族としての力を手に入れ、貴族として、医者として、そしてリバティー・メイソンの幹部として、地位を保ってきた。

「ホームズ卿以降は医師の一族としてしか活動してないからな。世界情勢に関わる事が無ければ、必然、他との差が生まれてしまうだろうね」

「なぜ、ワトソン家の内情や、リバティー・メイソンのことを知っているんだ?」

 すぐさま全身に隠した刃を出せるようにする。

 全身武器(プレンティ)の二つ名は伊達ではない。

 いくら狭い車内とはいえ、自分は小柄だし、近距離戦闘は得意だ。

「……世間話程度に殺気を混ぜないでくれたまえよワトソン。私はジーニアス・アレクサンダーだ。大概の組織の名は頭に入っているよ」

 まだ、分からない。

 確かに彼は天才の名を欲しいままにした最高の頭脳を持った武偵だ。

 探偵科、Sランクの名は尋常ではない。

 だが、だからと言って信用は出来ない。

 出会ってわずか数時間しか立っていない人を信用なんて出来るはずがない。

「ふむ、どうやら話題の選択を誤ったようだ。本当に世間話のつもりだったのだが……」

 それ以降、武偵高前で別れるまで一切の会話が無かった。

 

 

 




感想いただけると嬉しいです。

あと、必ず突っ込まれると思いますが、SHERLOCK大好きなので、それっぽい要素がいっぱい入ってると思います。

でもロバートさんのもジェレミーさんのも好きよ。

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