彼ノ英霊ニ捧グ唄   作:MaLiN

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2作目です。

よろしくお願いします。


つかまえた

 

 

 「貴女には勇まし過ぎるわ、その名前」

 まぁ、嵐も似たようなものだけれど。

 

 そう言って、私の6つ上の天津風姉さんは小さく笑った。その顔を見て、私はむくれていたのだろう。確かに私は駆逐艦だから、戦艦の人達のような力も装甲もないけれど、そんな風に笑わなくともいいでしょうに。

 そんな思いをも見透かしたように、目を細めてふんわりと天津風姉さんは笑った。

 

 心底、愛おしそうに。

 

 ………私は、それに気付かなかったけれど。

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

 拗ねちゃったのかしら、なんて。

 そんなの、少し前を歩く妹を見ると、すぐ分かることじゃない。

 私の6つ下の妹、15番艦野分は、拗ねると少しだけ歩幅が大きくなる。そのことを私だけが知っていたなら嬉しかったのだけれど、少なくとも、私の姉達は皆知っているでしょうね。今だって、初風と黒潮が苦笑いしながら歩いていったもの。

 2人とも、野分が拗ねるとどうなるかを知っているからこその『苦笑い』でしょうね。別に私は、野分の機嫌を取ること苦痛になんて思ってないのに。

 

 野分は、普段はしっかりした、しっかりし過ぎた子だけれど、拗ねると少しだけ子供になる。子供になる、と言っても、それは昔に戻るという意味ではなく、子供っぽくなる、ということ。いつもだらしないところを見せないように、きっちりぴっちりしている妹が、この時だけは我儘になる。お姉ちゃんとしてはいつもそれでも構わないけれど、それだと周りの人達にツケが回ってくるからそうとも言えないし。言えたとしても、その当人の野分は首を縦に振らないでしょうね。どこまでも優しい、出来すぎた子だもの。

 

 それでもお姉ちゃんからのお願いって言ったら、1日に1回は我儘言ってくれるかしら。でも、それだと野分が困っちゃいそうね。我儘ってどんなことを言えばいいのでしょうかって。そんな難しく考えなくていいのに。それとも我儘って言うのがいけないのかしら。直球に甘えてって言えば………野分の顔が真っ赤になる未来しか予想できないわ。まぁ、それはそれで可愛いからありかもしれないわね。

 

 それよりも、とずいぶんと大きくなった前を行く妹の背中を見つめる。ご機嫌取りの方法をどうしようか、と少しだけ考え、いいネタがあった、と妹の背に声を掛ける。

 

 「ねぇ、野分」

 

 ピクリ、と肩が動いたけど、足は止まらなかった。今日はいつもより拗ねているらしく、名前を笑ったからかな、と思い至る。

 

 「野分。ねぇ、野分ってば」

 

 足は未だ止まらない。どうやら少し意固地になっているよう。

 

 「ぅ………もぅ。野分が返事してくれないなら、浦風に手伝って貰おうかしら。今日は午後から非番だから、皆の分のチーズケーキ作るの手伝って貰おうと思ってたのに」

 

 ピタリ。足が止まって肩がプルプル震えている。そんな小さなことでも可愛いと思えてしまう。

 

 「ねぇ、野分。手伝ってくれる?」

 

 「…………ぃます」

 

 「んー、じゃあ浦風n」

 

 「てつだいます!」

 

 変に意固地になるから、なんて思って、その原因は私だと思い直す。

 

 「じゃあ野分、手伝ってくれる?」

 

 「………はい!!」

 

 その声を聞いて、微笑みが溢れる。小さく声も溢れてしまった。

 

 それもこれも、野分のせいよ。貴女がそんなにも可愛いから。

 

 談話室に併設してあるキッチンに歩き出した妹の背に近付き、抱き締めて耳元でそっと囁く。

 

 「つかまえた」

 

 パッ、と放して顔を見ると、真っ赤にして金魚みたいに口をパクパクさせていたから。

 やり過ぎたかしら、なんて。

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

 チーズケーキを作る、と言っても陽炎型だけでも16人分。同じ寮で生活している夕雲型、秋月型、島風も匂いに釣られてくるでしょうから、合わせると27人分用意しないといけないから、それ相応に時間も体力も取られて、全部焼き終えたのは6時を越えた頃になってから。浦風ならもっと手際良くできるのでしょうけど、手間取りながらも一緒に作るのも料理の醍醐味でしょうし。

 

 

 夕飯もお風呂も済ませた後で、皆さんに談話室に集まって貰って、天津風姉さんと作ったチーズケーキを振る舞うと、皆さん美味しそうに食べてくれました。今日は8等分のケーキを4ホール作りましたから。もう少ししたらケーキ争奪戦が始まるわね、と天津風姉さんが笑っていました。その後、野分もいってきなさい、勝ったらちょっと頂戴ね、なんて言われて真っ赤になったのを笑われたりもしましたけど。

 

 

 片付けはあたし達でやっとくわ、との長女の言葉に甘えて、談話室のソファーで寛いでいた時に、ふと思い出したように野分が尋ねてきた。

 

 「あの、天津風姉さん。廊下で言った『つかまえた』ってなんだったんですか?」

 

 野分としては、気になったから聞いた、程度のことでしょうね。そこにどんな思いがあるのかなんて、この子は知らないのでしょう。

 

 「ヒミツ、よ、野分。気になるなら調べてみるといいわ」

 

 まぁ、当分分からないでしょうけど、という言葉は言わないでおこう。その方が可愛いもの。

 

 それに、私も恥ずかしいのよ。

 

 『つかまえた。もう放さないわ、私の天女さん』

 

 

 

 天つ風

  雲の通ひ路

     吹き閉ぢよ

   乙女の姿

      しばしとどめむ

 

 




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読了ありがとうございました。
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