彼ノ英霊ニ捧グ唄   作:MaLiN

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これより数話まとめて投稿されます。
書き溜めしていたものです。


またしばらく投稿期間が空きますが、ご容赦ください。


桃色トリップ

 「なんや麻薬吸うとるみたいやなぁ」

 私はその時、その言葉の真意を掴めなかった。

 

 

 一昨日の朝は、暖冬と言われている今年の冬の中でもダントツに暖かい朝だった。

 だから、だと思う。

 冬は全く部屋から出たがらない私が、間宮に行こう、だなんて。黒潮を誘ったら、ひどく驚かれた。いや、驚かれた、よりも心配された、の方かしら。

 どないしたん、熱でもあるん?お姉ちゃんに言うてみ?って。子供じゃないんだから、と言おうとして、ふと誘われることはあっても誘うことはなかったと思い直す。なおも迫ってくる黒潮を見やり、溜め息を1つ。これは取り成すのに少し時間が掛かりそうね。

 

 

 

 

 

 

 「何もあんなに心配しなくともいいでしょうに」

 「そうは言うても、いっつも冬は炬燵から動かへんのが、間宮行こう言うんやで?そら心配もするやろ」

 暗にヌシと言われたと思ったのか、小声でブツブツと呟き始めた初風。まぁ、ヌシ言うよりか四天王の1人なんやけどなぁ、とは心の内に留めておく。また時間潰す訳にもいかへんし。

 そう思いつつ前を向いた時に見えたものに、苦笑いをこぼす。隣の初風も気がついたらしく苦笑を浮かべている。

 野分の歩幅が少しだけ大きくなっていて、天津風が早足でついていっていた。また天津風が何かを言って、野分が拗ねたのだろう。

 拗ねると可愛いのよ、なん言うてたけど、わざわざせんともええやろうに。それとも、これが恋心言うやつなんやろか。

 

    まぁ、ウチには分からへんのやけど。

 

 

 

    ほんとそれ好きよね。私には分からないわ。

 

    そう言った私を心底不思議そうな顔で見ながら黒潮はスプーンを口に咥えたまま、コテンと首を傾げた。

 

    可愛いからやめてくれないかしら。そういうのは陽炎にしてあげなさいよ。多分悶絶して抱き締めるわよ。

    まぁ、当の本人はおいしいんよ?なんて言って食べ続けてるんだけど。

    マイペースよねぇ。それとも天然なのかしら。

 

    何となく恥ずかしくなって、視線を窓の外へと移した。

 時刻はお昼時を過ぎた頃。燦々と照っている太陽は、まだ冬だと言うのに春の陽気という言葉が一番しっくりくる程。

 

 遠征当番の陽炎は、さぞ不機嫌でしょうね。同じ班の不知火姉さんの苦労が容易に想像できるわ。

 まぁもうそろそろ帰って来る頃だし、陽炎の方は大丈夫でしょ。

 

 ほら、噂をすれば。

 

 

 陽炎と不知火が埠頭の方から歩いて来るのが窓から見えた。陽炎は遠目に見ても分かる程に不機嫌で、愚痴られ続けていた不知火も、少しだけぐったりしているように見えた。いつも仕事をしていない表情筋が少し弛んでいる。場違いにも、不知火姉さんもあんな顔するのね、なんて。

 

 思い起こされるのは随分昔の記憶。私がまだ小さい頃、よく面倒を見てくれた桃色の髪。出撃や演習、遠征の時以外はいつでも一緒にいてくれた不器用に笑う姉さん。ふと思い返してみても、私はふにゃりと笑う姉の顔しか記憶に無く。いまさら、ホント、今更ながらに。

 

 「愛されてるなぁ」

 

 溢れ落ちた呟きは、幸い誰にも聞こえていなかったけど、無性に恥ずかしくなって。

 

 目が合った桃色が、仄かな赤みを帯びていく様を見て。

 

 あぁ。

 

 私はあの色に酔っているのね。

 

 あの色に魅せられて、惹き付けられて。

 

 一寸先には闇が広がっていて危うかろうと、退くに退けないじゃない。不器用で、無愛想で、それでいて妹想いの私の大好きな姉さんだもの。

 

 不知火姉さんが手を小さく振るのに返しながら、今日は昔みたいに甘えてみよう、なんて、ね。

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