彼ノ英霊ニ捧グ唄   作:MaLiN

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波高ク、風強シ

 夢を、見た。

 動悸が収まらない。冷汗が止まらない。寒気がする。

 そんなことは起こり得ない。起こる筈がない。起こさせない。そう頭では理解していても、体の震えは収まらない。

 夢 の内容がフラッシュバックする。

 何故今になって。今更思い出してしまうのか。

 

 忌々しい、と思う。

 

 ずっと見続けている、夢。

 いや、正確には夢とも言えない。これは言わば、記憶。私を形作る、根底の記憶。後悔、というもの。

 未だに、あの日のことを悔やんでいる。夢に見てしまう程に。

 朝から寝る前まで、毎日付かず離れず一緒にいて、あの日の埋め合わせをしている。している、つもりなのに。それでも夜になると、記憶に、後悔に塗り替えられている。

 再び会えたことには、心の底から感謝している。感極まって泣いてしまう程に。

 

 

 

 

 

 

 「ねえ浦風。今朝浜風が特訓付けて下さいってお願いしに来たんだけど、何か知らない?」

 「うちも、知らんよ」

 「そう、ならいいわ。あんたが知らないんじゃ、どうしようもないからね」

 

 嘘を、吐いた。あまりにも白々しい、嘘。陽炎も嘘だと分かっていて、あのように答えたのだろう。

 

 浜風が、大切な妹が、何に苦しんでいるのかを知っている。それが一番、恐れていたものだったから。胸が苦しい。締め付けられているように感じる。

 けれど、手を貸すことは、頼らせることは、してはいけない。それは、あの子のためにもならないから。

 何より、それは誰もが通る道でもある。頼ってくるまで手は貸してはいけない、という暗黙のルールもあるから。

 別に、それはいじめているという訳ではなく、純粋に過去を分化させるために始めたこと。今感じている後悔は過去のものだ、と理解させるための苦肉の策。妹思いの姉達が、私達の幸せを思ってやっていること。

 出来るのならば、思い切り抱きしめてあげたい。あの子が苦しんでいるのは、私の所為だから。

 それがいけないことだと分かっていても、手を貸したくなってしまう。うちも通った道じゃ、といくら言い聞かせても、心の内に蔓延るモヤモヤは一向に晴れてくれない。

 陽炎も意地悪をする。今思うと、あの時陽炎は釘を刺しにも来ていたのだろう。あの子のためを思うなら、今は見守っていてあげなさい、とかそんな風に。

 要は、後悔を過去として呑み込めるようになったらいいということ。後悔を糧に、今を生きて欲しいという、私を含めた姉達の総意なのだ。

 あの子は強い子だ、それは分かっている。陽炎に特訓をつけて貰いに行ったのも、強くなって守り抜こうと考えているからだろうし、実際強くなって帰ってくるだろう。

 ならば私は、浜風が後悔を過去に変えた時のために、紅茶に合う美味しいお菓子の作り方でも調べて、浜風を待っていよう。

 

 なにより、

 

 「うちは、浜風のお姉ちゃんじゃけえね」

 

 

 

 

 

 

 夢だと、昔の記憶だと分かっていても、あの蒼い髪が海色に溶けていく様を見るのは恐ろしい。昔ほど見なくなったと言えど、たまに見ては同じベットで寝ている浦風姉さんを見つけないと、安心することができないほど。

 こんなに恵まれていていいのか、度々不安になる。その度に「浜風は頑張ったけぇね。神様がご褒美くれたんよ」なんて茶化すけど、私が貴女に会う事ができて、どれほど救われたのか貴女は知らないのだろう。

 貴女がいるだけで、世界に色が1つ増えるのだ。それほど大きな存在だというのに、貴女はいつも、浜風はすごいねぇ、と言って微笑うから。

 私は、貴女のためにあるのに。貴女のために頑張れるのに。

 そんな言葉をいくつ重ねても、貴女は微笑むばかりだから。

 

 だから、もっと強くなろうと決めたのだ。

 

 今度は、守りきる事が出来るように。

 

 今度こそ、守り抜く事が出来るように。

 

 そして、幸せにする事が出来るように。

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