彼ノ英霊ニ捧グ唄   作:MaLiN

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我が名に懸けて

 「のわきってね!たいふうのむかしのなまえなんだって!つよそうでかっこいい!!」

 

 そう言って、昔舞風がはしゃいでいた。一緒に磯風姉さんはしゃいでたけど。

 それを聞いた私は幼ながらに、大きくなると戦艦や空母の人たちみたいに、みんなを守れるようになると思っていた。

 けれど、実際は大きくなっても駆逐艦のままで、みんなを守れるような力もなかった。

 

 だけど、

 

 だけど、この人だけは。天津風姉さんだけは、私が守ろうと。

 私が、守って見せようと。

 

 そう、幼心に誓ったから。

 

 

 

 

 

 

 「野分が貴女のためって色々しようとしてるみたいだけど、そこのところお姉ちゃんとしてどうなのよ?」

 

 全く、いつもいつも、どこから聞きつけてくるのやら。

 そんな溜め息を吐きながら、隣に立つ1番艦様を横目で見る。陽炎が知っているということは、少なくとも上の姉達には知られているということになる。

 私の可愛い野分が、あの手この手を使って隠そうとしていたのに、もうバレてしまっている。あと1週間もしない内に、姉妹のほとんどから温かい目で見られることなると簡単に予想できる。いくら言葉で誤魔化そうとしても、姉妹の目は誤魔化し切れないだろう。

 ついでに言うと、『あの』野分のことだから、訓練つけてもらっているのも初風浜風あたりでしょうし。

 

 「今度2人には訓練の時の様子でも聴こうかしら、ってことでも考えた?」

 「………よくわかったわね」

 「伊達に何年も陽炎型の長女やってないわよ〜。これだけの人数の妹見るの中々に大変なのよ?可愛いからいいけど」

 

 長女は長女で色々と大変らしいことは大体理解したけど、そういうのは黒潮にしてあげたらいいのに。黒潮も黒潮で、どうでもいいようなことで拗ねたり嫉妬してたりするんだから。

 前に初風とこの話をした時に出た結論が、『血』ってだけでも、もう十分なのに。

 

 海上に小さくみえる影が、忙しなく動いている。相手をしている方は、それ程動くこともなく、かなりの余裕を持って対処しているようだ。

 あれを見て、懐かしいと感じる私も、やはりどこか懐かしいものを見る目をしている陽炎と、同じ血が流れているのだろう。

 悪い気など、するはずがない。するわけがない。何故ならこの血は、私達の誇りだから。

 

 だから、

 

 「貴女の名前と、その身に流れる血を誇りに思いなさい、野分」

 

 その呟きは、海上から響いた轟音に掻き消されて、陽炎の耳には入らなかったらしい。

 

 海上に立っているのは、空に溶けそうな髪の少女。倒れている銀髪の娘に手を差し伸べている少女の左肩の方から、小さく黒煙がプスプスと上がっていた。

 

 「野分もやるようになったわね〜。まだ小さい子供だと思ってたんだけど」

 「そう言ってるとおばあちゃんみたいよ」

 「なっ!?そんなことないでしょ!!見なさいこの贅肉のないピッチピチの体を!!」

 「立派な脂肪もないけどね」

 「ウグッ!?」

 

 ………まあ、それは私もなんだけどね。これブーメランになるから、今度から使わないようにしましょ。

 

 「それより陽炎、こんなところで油売ってていいの?さっき間宮で黒潮が1人で抹茶アイスつついてたわよ」

「ちょっ………!それ早く言いなさいよ天津風!」

 

 3番艦の姉も、相変わらず愛されてるみたいで。

 それでもこっちのフォローを忘れないあたり、流石ネームシップだと感心する。

 

 何かあったら私に言いなさいよ、って。

 陽炎にとっては、私もまだ子供なのかもしれない。

 

 「正に、おばあちゃんの心境ってやつね」

 

 ………ほんの少し、寒気がしたのは、気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 初めて、当てる事が出来た。

 手加減されていたとはいえ、初風姉さんに。

 

 嬉しかった。どうしようもないほど、嬉しかった。

 早く天津風姉さんに会いたい。会って話がしたい。

 気持ちばかりが先走って、初風姉さんの話も、ほとんど聞き取れていない。いつもなら怒られる事だけど、溜め息をついて呆れたような表情をしていた。

 

 じゃあ今日はこれで終わりね、天津風に自慢してきなさい、って笑いながら言われたことに、威勢よく返事をして戻ってきたけど、後になって恥ずかしいことをしていたと分かった。その時はそんなことまで考えが回らなかったから。

 けれど、いざ話そうとすると言いたいことが多すぎてまとまらず、結局支離滅裂に話してしまっていた。

 

 ただ、これだけは絶対に。ちゃんと天津風姉さんに伝えようと。

 

 昔立てた誓いを、守るために。

 

 「天津風姉さん、野分、大きくなりました。初風姉さんにも砲撃を当てれるようになりました。でも、まだ演習にも出撃にも出たことはありません。

 けど、出撃できるようになったら、野分が天津風姉さんをお守りします!!」

 

 ーーー野分の、名前に懸けて!!

 

 

 

 純粋な好意が、これほど恐ろしくも尊いと感じたことも珍しい。

 その好意を、私が受け取っていいものか悩む余地すらないこともだが。

 

 「そう。なら野分のことは私が守ってあげあげるわ」

 

 ーーーこれで、対等でしょ?

 

 私が守られているだけなんて、柄じゃないもの。

 

 知ってるでしょ?野分。私にも、貴女と同じ血が流れているのよ。

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