彼ノ英霊ニ捧グ唄   作:MaLiN

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紫陽花傘

 「紫陽花ってなー、毒あるんやって。あないに綺麗なんに。罪や思わん?」

 「何、皮肉?それならお生憎様、私はあんた以外を一番にしないしする気もないから。それより私は、あんたが誰かにとられる方が心配よ」

 「ち、ちがっ………!!?」

 

 なら何で顔を真っ赤にしているんですか、黒潮、とは、心の内に留めておきましょう。薮をつついて蛇を出すつもりもありませんし。

 

 ただ、乳繰り合うのは2人の時にしてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 「うわっ、また雨降ってるじゃない!今日傘持ってきてないのに、どうやって帰るのよ」

 「うちも持ってきてへんなぁ」

 「不知火も持ってきてませんね」

 

 どうしましょうか、という呟きは雨音の中に紛れて消えていった。

 刻々と、窓に打ち付ける雨の音も大きくなっているように感じる。これが、俗に言うゲリラ豪雨、というものだろうか。まさにバケツをひっくり返したような、という例えがぴったり当てはまるような天気に辟易してくる。雨自体は、梅雨だから仕方なしと思っていいるが、ここまでひどいのを雨と言っていいのか疑問に思う。最早これは台風と変わらないように感じるものだが。それとも今年の台風はこれ以上だとでも言うのか。だとしたら夕張さんあたりは涙目物だろう。あの人、重度の偏頭痛持ちだから。

 

 「それで、どうやって帰るつもりですか?」

 「もうやめてよ不知火。折角いい感じに現実逃避できてたのに」

 「逃避なんてしないで解決策を考えてください」

 「まぁまぁ2人とも、喧嘩せんといてや」

 

 雨は一向に、止む気配を見せない。

 やっぱり傘を持ってきておけば、なんて後悔も今はするだけ無駄な話である。ただ帰るだけならば、雨の中を走り抜けていけば済む話だが、できれば今日は雨に濡れたくはない。今日濡れて、明日の遠征に響いたら妹に負担をかけることになるから、陽炎も黒潮も、それはなるべく避けておきたい選択肢だろう。だとすると必然的に、雨が止むのを待つことになるのだが、今のところ一向に止む気配がない。となると後は、近くを通る誰かに一緒に入れてもらうことになるが、生憎今日は、鎮守府の業務自体があまりないから、こっちに出てきてる人も少ないだろうし、他のところへ行っていたとしても、少し離れたここを通る人なんて本当にいないし、もうどうしようもないとしか言いようがない。正に踏んだり蹴ったり、といった感じである。

 陽炎も黒潮も大方同じ結論になるだろう。

 

 本当に、ついてない。

 

 

 

 

 

 

 雨音に紛れて、見知った声が聞こえた。元気が取り柄のダンス好きな18番艦の声。続けて聞こえた12番艦と13番艦の声。確かめるように、近くの窓から見てみると、少し離れたところを、楽しそうに話しながらこっちに歩いてきている色取り取りの傘が14ほど。おそらくは、舞風あたりが外にいるのを迎えに行こう、と言ったんだろう。

 色取り取りの傘が14ほど集まっているのを遠目から見ると、梅雨に咲く紫陽花のようにも見える。これが所謂、紫陽花傘というものだろうか。髪の色と合わせているから、誰が誰だかすぐに見分けがつく。不知火の傘を持っているのは、きっとあの子だろう。そこまで考えて、ふと。

 

 あぁ、なるほど。

 

 だから、紫陽花は毒を持っているのですか。

 

 あんなにも美しく、尊いからこそ。

 

 他人に手折られぬよう、毒を持つのですね。

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