戦慄さんの幼馴染   作:ちょもらんま

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第1話

朝起きて自分の姿を鏡で見た瞬間、見知らぬ誰かと見つめあっていた。いい加減目を逸らしたいが、その相手は目を見開いて凝視するのを止めない。

 

え、これ、え…まじすか。

 

見慣れている寝ぼけ眼の自分を見て、あぁ今日も締まらない顔をしてるなと思ったことはあるが、鏡に映った姿がまるで見覚えのない人物だったらどうだろう。突然虫になってしまった男の話を昔読んだことがあるが、彼もきっと自分と同じくあり得ない現実に心が凍えたに違いない。

 

 

なにしろそこに映った自分と思わしき人物は、全くの別人だったのだ。

幸いなことに虫ではない。見惚れるほど顔立ちの整った金髪碧眼の子供。それが今の僕…なのだろう。いや、本当に意味が分からなかった。

 

 

はて、ここは……と考えるが、もやがかかり浮かんでこない。僕は誰だ? なんでここにいる? とめどなく疑問が溢れてくるが、回答はない。ただただ言いしれない違和感と広大な海辺に放り出されたようなふらふらした浮遊感を感じ、なんだか不愉快だった。

 

 

一体どのくらいの間、自分の姿を凝視し続けただろう。いつしか驚きは深い吐き出すような溜息とともに薄まっていった。

 

 

もうこれは夢だ。ならばもう一度寝れば……ようやく自分が真っ白い部屋にいることに気付いた。洗面台と鏡が付いているだけの味気ない部屋だ。

まるでマウスの実験施設のようだ。部屋に充満する空気も、消毒剤の独特な臭みがある。

 

 

「ここは……」

 

 

「目が覚めたか。○○」

 

 

唐突に部屋に響いてきたのは、低い男の声だった。

 

 

この声は僕を驚かせるよりも先に、不快な気分にさせた。だが、僕の表情にはなんら変化がない。眉を寄せるくらいの反応は無意識にしてしまいそうなものだが、こんな無表情な人間だっただろうか。自分で自分が分からないのは、本当に気持ちが悪い。

 

 

僕は返事もせずに、ただ無表情のまま呆けていた。

 

 

「実験の時間だ。早く準備したまえ」

 

 

男からの指示が聞こえてくる。すると、今まで体験したことのない憤りが胸の奥に疼いてきた。

 

 

どうやら僕を使って何かの実験をしようとしているらしい。突然記憶をなくし、見知らぬ子供になって実験マウスのような物言いをされ……冷たい氷が胸の中に重石のように沈んでいった。

 

 

僕は憤然として文句をいってやりたかった。表情は無表情のままだが。この声に従って実験を受けるなんて冗談じゃない。不愉快だ。こっちは実験なんてしている場合ではない。

 

 

「……早くしろ。○○」

 

 

だがここは落ち着くべきだ。

 

 

「うるせぇんだよこのぼけ!」と文句を言ったところで、どういう扱いを受けるか分からない。下手をすれば電気椅子やら薬物やらの拷問じみた目に合うかもしれない。痛いのはごめんだ。

 

 

なので、情けないが仮病を使うことにした。

 

 

「……お腹痛い」

 

 

「………は?」

 

 

声の主である男は戸惑っているようだ。すかさずたたみかける。

 

 

「頭痛い。熱がある。昨日から風邪気味。家に帰りたい」

 

 

「……お前も我々に逆らうというのか」

 

 

小学生の頃、こんな感じの仮病の言い訳をしたことがある気がする。それがこの場で通じるかは分からないが、唯々諾々とこいつの指示に従うつもりはない。それに、相手の反応で僕がどのくらいこの場において重要なのかを知ることができる。仮病くらいなら可愛いものだと思うんだが、実際のところどうだろう。

 

 

「…………もういい。お前も独房行きだ。非常用のスぺアが生意気な。大した力も持たないくせに」

 

 

「……やってしまった」

 

 

どうやら思った以上に僕はどうでもいい子みたいだった。

 

 

試しに仮病を使ってみたら、いらない子発言をされ暗い地下室に連行された。

なんてかわいそうな子供なんだろう。そう自分を慰めてみるも、情けなくて泣きたくなる。無表情で。

ここは監獄といった表現がぴったしの場所だ。暗く、寒風が吹く窓一つない檻の中。

唯一さっきよりマシなのは空気が消毒液臭くないこと。その分冷たいけど。

 

 

おかげで眠気が覚めてしまった。二度寝しようと思っていたのに。お腹も空いてきたし、眠れそうにない。さっきの声に歯向かわなければよかったかな。色々と考えているうちに、落ち着かない不安が傷口のようにじわじわと胸の内から滲みだした。

 

 

「あ~あ。本当にもう……夢なら覚めてくれないかな」

 

 

壁にむかってつい独り言を呟いてしまう。自分が誰かも分からない中で、これらか監禁生活を送ると思うと、気が滅入るどころの話ではない。虚しさで一人取り残されたような気持になる。

 

 

「誰よあんた? ここにいるってことは、あんたも超能力者なわけ?」

 

 

「思い出せるのは……確か近くの高校を卒業して大学入って……あれ、親っていたっけ……いたんだろうなぁ。バイトもなにかしてたきがするし」

 

 

「ちょっと………!!」

 

 

「………」

 

 

なんだろう。壁がこっちに話しかけているような気がする。え、何。壁って喋るの? 

常識だったりするの?

 

 

「無視する気!?」

 

 

ふと視線を横に向けると、向かい側の檻の扉から目を怒らしてこっちを睨みつける緑色の女の子がいた。

壁が話すわけないよね……名状しがたい恥ずかしさに僕は襲われる羽目になってしまった。

独り言もばっちし聞かれただろうし、恥ずかしさで頬が赤くなる。ここが暗くてよかった。

 

 

「こ、こんにちわ」

 

 

「なによ。話せるならさっさとしなさいよ」

 

 

「……ごめん」

 

 

なんだこの子。超偉そうなんだけど。つい謝ってしまったけど、この子は僕より年下だろう。こんなちっちゃい子を独房に監禁するだなんて……非人道的な実験でもしているのだろうか。あの声の主め。もし会うことがあれば殴ってやる。

 

 

「きみも監禁されてるの?」

 

 

「……そうよ。あんたは……大した力もなさそうね。なんでこんなとこにいんのよ?」

 

 

「仮病を使ったら連行された」

 

 

「馬鹿じゃないの?」

 

 

……なんだと。少しむっとした。初対面の相手に馬鹿と言われるのは誰だって面白いものではない。しかも相手は明らかに自分より年下だ。つい言い返してしまう。

 

 

「馬鹿っていう方が馬鹿」

 

 

「なんですって!? もう一度言ってみなさいよ。このチビ!」

 

 

「そっちのほうがちっちゃい」

 

 

「言ったわね! このドチビ! 金髪! 不良!」

 

 

「この緑! つり目! ぐるぐる!」

 

 

この子供丸出しの醜い口喧嘩が、後に戦慄のタツマキと呼ばれ恐れられるS級ヒーローとの出会いだった。

 

 

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