戦慄さんの幼馴染   作:ちょもらんま

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第3話

監禁生活10日目~

 

 

本当にやることがない。食べては寝ての繰り返し。気になるのが、緑の子と喧嘩していつの間にか気を失うことが多くなったことだ。この身体はもしかしたらそうとう軟弱なのかもしれない。筋トレでもしよう。明日から。

 

 

今は最近恒例となりつつある、お昼のしりとり勝負の最中だ。

 

 

「ウーパールーパー」

 

 

「またパ? その前に、なによそのうーぱーって? 本当にいるんでしょうね?」

 

 

「昔……飼ってた……かな? 凄い愛くるしくて可愛いよ。(頭のくるくるしてるとこと、ルーパーのえらが)なんとなくきみに似てる」

 

 

「ふ、ふん! 馬っ鹿じゃないの? 本当、馬鹿ね!」

 

 

「分かったから、ほら、パのつく動物は?」

 

 

「……パンダしか知らないわよ」

 

 

「……(くるくる)ぱぁ」

 

 

「あーーー! あんた、今私のこと馬鹿にしたでしょ!」

 

 

「ごめんね。あまりに弱くて」

 

 

「生意気よ!!!不愉快!!!」

 

 

「じゃあもう一回やる?」

 

 

「……やるわ」

 

 

このしりとり勝負を始めてから、だいぶ彼女の性格を掴んだ気がする。短気でわがまま、まさに傲岸不遜を地で行く子だけど、根は結構優しい。地雷さえ踏まなければちゃんとコミュニケーションを取ることができる。それと、怒ったり苛立つと緑色に全身がうっすら光るから、それを見極めるのが大事。

 

 

この日は僕がギブアップするまでしりとり勝負は続くのだった。

覚えておこう。この緑の子は、めちゃくちゃ負けず嫌いだ。あと、しりとり弱い。

 

 

監禁生活11日目~

 

 

腕立て100回。

上体起こし100回。

腹筋100回。

 

 

このメニューをこなすことを目標にした。三日坊主になりそうだが、なにせしりとりくらいしかやることがない。暇ならやるだろう。

 

 

まずは腕立て100回だ。

 

 

20回しか腕が曲がらなかった……うん。もういいや。疲れた。

そんな僕を観察していた緑の子が話しかけてきた。

 

 

「あんた。なにやんってんのよ?」

 

 

「筋トレ」

 

 

「はぁ? そんな意味わかんないことやるくらいなら、自分の能力強くすること考えなさいよ」

 

 

無茶言うな。黙って光合成してればいいのに。

 

 

「……瞑想とか?」

 

 

「知らないわよ!!」

 

 

逆切れ!? まったく、日光が足りないからイライラしてるんだな。

それはそうと、瞑想っていいかもしれない。筋トレと並行してやってみよう。

 

 

馬鹿にされて悔しかったので、なんとか筋トレメニューをこなし、瞑想に集中していたら眠ってしまった。しりとり勝負をすっぽかしたことを、緑の子は地味に怒っていた。目覚めると視界に映る緑色の光は、本当に心臓に悪い。

 

 

監禁生活30日目~

 

 

今日は朝から外が騒がしい。

何かあったんだろうか。どうにも胸騒ぎというか……心臓をちりちりとやかれるような気がして落ち着かない。こういう時の勘は、だいたい当たる。

 

 

これは何か嫌なことが

 

 

「うわぁぁぁーーー! 合成獣のサンプルが暴走を始めた!!」

 

 

「逃げろ!!!!!」

 

 

起こってしまった。え、これ放置される流れだ。

 

 

警報が鳴り響いている。今まで身の危険を感じるような災

 

 

災厄の主がこちらに近づいてくる。

 

 

このまま黙って化け物に食べられるのを待つしかないのか?

 

 

そう自分に問いかけると、答えは自然と身体の内側から湧き上がってきた。

冗談じゃない。このまま殺されるなんて、まるで化け物に殺されるために子供として生まれてきたようなものではないか。まだ自分のことも何も分からない。まだ何も……ふて寝としりとりは飽きるほどしたけど。

あの声に感じた怒りがふつふつと湧いてくる。

 

 

やりきれない、やりきれない、惨めすぎて涙がでる。

 

 

しかしこのままだと、間違いなく自分は死ぬ。食い殺される。それはもう避けられない運命のように感じられた。

 

 

ならせめて……せめて目の前の緑の子ぐらいは守ってあげたい。まだ彼女は小さすぎる。無残にも食べられるなんて、かわいそうだ。どっちかが死ぬしかないとしたら、前世がある分長く生きたぼくの方だろう。

 

 

だがあの化け物を殺す力は僕にはない。せめてもの抵抗とばかりに、震える身体に活を入れて、射殺さんばかりに睨みつける。

 

 

といっても傍から見れば、無表情に化け物を眺めているようにしか見えないだろうけど。

本当、ロボットにでもなった気分だ。

 

 

ロボットならロボットらしく、目からビームくらい出してみろ! 

そう思い、舌なめずりをしながら近づいてくる化け物をひたすら睨み続ける。

 

 

無論、目からビームが出る気配は全くない。

 

 

「はぁ……ねぇちょっとあんた……こっち向きなさいよ」

 

 

「……」

 

 

無視だ。ごめんねぐるぐる。これはせめてもの抵抗なんだ。僕は睨むのをやめない。せめてこの扉が開けばなんとか逃げる術があると思うんだけど。鍵がかかっているのは先刻承知だが……駄目元で扉の取手に触れた。

 

 

せめてここが開けば、僕が囮になれるかもしれない。

 

 

「もういいわ。私があれ、どっか追い払う「やっぱりあかないや」って言ってんのよ!? 本当に人の話聞かないわね!」

 

 

お前に言われたくはない。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

タツマキの世界は狭い。

 

 

幼い頃義理の養父に金で研究所に売られ、それからはずっと大きな四角い施設の研究室の中で超能力の実験。実験。実験。その繰り返しだ。

最初は不満なんてなかった。いい結果を出せば周りの研究者達はこぞって彼女を褒め称え、欲しいものがあればなんだって買ってくれた。

彼女の希望はなんだって叶う。美味しい食べ物、高級なお菓子、可愛いおもちゃ、全て手に入る。

 

 

そんな生活を3年程過ごした彼女は、ふと真っ白な天井を見上げて思った。

 

 

―――外に出てみたい。

 

 

思えば雲ひとつない青空も真っ赤な夕焼けも薄暗い曇天の日であっても、一面空で覆われた外で見ることが出来ないのだ。最後に見たのは何時だろう。外で遊んだのは……可愛い妹と最後に遊んだのは何時だろう。

 

 

遠い昔の記憶のように感じた。

 

 

タツマキは早速研究者達に向かって外に出たいと伝えた。当然のように外に出してもらえると思っていた。彼女の願いが聞き入れられなかったことなんて「外に出たいだと? 出てどうする。お前の帰る場所はどこにもないぞ」なかった筈なのに。

 

 

研究者の口調は冷たく、その目に映っているのは彼女自身ではないように感じられた。私を映していない。彼らが見ているのは、タツマキではなく、超能力が使える実験○○。

 

 

超能力も相まって、彼女の鋭い直感は明確にそれら全てを感じ取った。「もうここへ来て3年経つんだ。慣れただろう。我慢しなさい」最後にそう言い放つと、研究者の視線は実験データの方へ移り、タツマキを見ることはなかった。

 

 

「我慢しなさい」

 

 

その言葉が重くのしかかる。いつしか、実験が億劫になっていった。今まで意図的に気付かないようにしていたが、一旦気付いてしまうと素知らぬ顔して実験に進んで協力するのは、彼女には出来なかった。

 

 

―――実験○○でしかない私。

 

 

《我慢しなさい》心の中に、その棘のような言葉が刺さったまま、抜くことが出来なかった。私はこの人たちにとって何なのか……聞くことも考えることも、嫌だった。

 

 

「なに!? 超能力が使えなくなっただって!?」

 

 

コクリと首を縦に振る。

これは自由を得られない彼女の初めての抵抗だった。超能力が使えるタツマキではなくて、ただのタツマキを見て欲しかった。

 

 

生まれて初めてつく嘘。これがきっかけとなり、彼女は独房に入れられることになったが、そこで運命の相手と出会うことになる。

 

 

☆☆☆

 

 

警報音に雑じって甲高い声の悲鳴と獣の唸り声が聞こえてくる。

恐らく、先ほど暴走したという合成獣が研究員を襲っているのだろう。自業自得とも思うが、対岸の火事では済まされない状況に僕はいる。他人事のように静観してもいられない。

 

 

相変わらず悲鳴は聞こえてくるし、この施設全体を揺らすような足音もどんどん近づいてきている気がする。

 

 

誰か助けに来てくれないだろうか。このままでは合成獣の餌食になる未来しか見えなかった。無論、都合よくヒーローが現れて合成獣を倒してくれるなんてことはあり得ない。

 

 

僕は当然捨てられるとして、あの緑の子を助けに来てくれてもいいと思うんだが。当の本人は外の様子が気になるのか、檻を両手でつかみ、眉間に皺を寄せながらじっと階段方向を凝視していた。短い付き合いだが、いつも強気な彼女の余裕のない不安気な姿をみるのは初めてだった。

 

 

人を襲う合成獣か……ふと、合成獣ってなんだ? と疑問の念が湧き上がってきた。僕が覚えている世界では、合成獣なんて聞いたことがない。その分野で覚えているのは、せいぜい人のクローンに成功したか否かという人道的分野の問題だ。ライオンと熊でも合成したのか。それなら巨大な肉食獣で研究員を襲うのは理解できる。

 

 

だとしたら、この監禁状態は僕たちを守る盾として機能する。ここにいた方が安全かもしれない。この厚さ数ミリはある頑丈な鉄製の扉を破れる生物なんて、それこそ体長2メートルを超すグリズリーにだって無理だ。

 

 

そう考えると、少し余裕を取り戻せた気がする。それでも依然として警報は鳴り巨大な足音が響いてくるが、そもそも出られないのだから僕にできることはないのだ。そのうち専門部隊的な人たちが麻酔銃で暴れている生物を鎮圧してくれると思いたい。

 

 

「……ねぇ」

 

 

僕は気を紛らわそうと彼女に話しかけた。

 

 

「……」

 

 

無視された。おいこら、パンダしか知らないちびっこ。

 

 

こういう時こそ落ち着いた会話が大事なんだ。彼女の視線をこちらに向けようと名前を……あれ。そういえば、本当に今更だが、僕は彼女の名前を知らなかった。妹のフブキちゃんは知っているのに、おかしな話だ。いつもあんたとか金髪って呼ばれるからこっちもムキになって名前を呼ぼうと思わなかったのだ。

 

 

今思うとなんで僕は彼女の名前を知らないのか不思議に感じる。この身体で目が覚めてから、一番関わっているのが目の前の少女だというのに。

 

 

「名前」

 

 

「……はあ?」

 

 

嫌そうにこっちを向く緑の子。もう喧嘩腰である。

つい癖で買ってしまった。

 

 

「ぐるぐるの名前は?」

 

 

「殺すわよ!? 誰がぐるぐるよ!! このちび! たまご!」

 

 

「あれ……そう言えば、僕の名前は?」

 

 

「知るわけないでしょ!!!」

 

 

……僕は自分の名前も知らなかった……どんだけ図太くてお気楽なんだ。馬鹿なのかも知れない。連日のしりとりの前に自分の名前を思い出す努力とか、名前を考えるなりすれば良かった。本当にもう、今更だけど。

 

 

こっちを睨みつてけていた彼女は、僕が無表情のままだが呆けているに気づき、口の端を少し釣り上げたかと思うとため息をついた。

 

 

「(こっちは置いていかれるかもってそれどころじゃないのに)ほんと、馬鹿ね」

 

 

「ナナシってどうかな?」

 

 

「適当すぎんのよ!」

 

 

速攻で却下された。やばい。うっすら緑色に光り始めた。これ以上イラつかせると不味いと僕の直感が告げている。というか、これ超能力だと思うんだが違うんだろうか。

 

 

僕も金色に光れないかな。あの戦闘民族みたいに。とアホなことを考えていると、

 

 

「ぐるるるるうるうるるるるるうるるるうるうる」

 

 

ーー恐怖で全身に鳥肌が立った。

 

 

思わず息を飲む。もともと冷たい牢獄ではあるが、急激に充満するむせかえるような濃い血の匂いと死の気配に震えが止まらなかった。異様に寒くて仕方がない。

 

 

僕はゆっくりと緑の子の視線の先を見る。

 

 

そして後悔した。

 

 

なんだあれは。不気味な眼光が6つ。こちらを見据えていた。ピラニアのようなギザギザの無数の牙は血で濡れ、こちらを歩む4つの足は丸太を何本も重ねたかのように太い。

 

 

なんだこいつは。化け物だ。ライオンと熊の合成獣なんかではない。何をどう組み合わせたらこんな醜悪な化け物ができるんだ。僕を守る鉄扉も、ひと噛みでくい千切ってしまいそうだ。

 

 

僕は立ちすくむことしか出来ない。

 

 

そんな僕を、緑の子は不満そうに見つめていた。

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