堕天使のちょこっとした冒険   作:コトリュウ

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冒険者活動がんばるぞい!

森の魔獣を従え、
街の危機を救い、
ほにょぺにょこをぶっ倒す!

目指せアダマンタイト!
『美姫』の名は私のものだー!


異世界-7

 エ・レエブルの冒険者ギルドは、王都とエ・ランテルに次いで設立された比較的古い組織であった。

 とは言っても王都ほどの仕事がある訳でも無い為、所属している冒険者の総数は少なく、実力もあまり高くない。最高峰のアダマンタイト級は当然存在せず、オリハルコン級もエ・レエブル出身者が所属しているという王都登録チームが、月に一度程度顔を見せに来るだけだ。ミスリル級は二チーム、白金(プラチナ)級は五チーム――いや、最近四チームになったそうだが……。

 

 冒険者はモンスター退治専門の傭兵集団――なんて言われ方が一般的だが、噂ほど粗野な集団ではない。必要な知識や経験は幅広く、実力だけで上位にのし上がれるほど簡単なものではないのだ。

 依頼を途中で投げ出さず完遂できるか。

 依頼人と話し合い、適切な対応を取れるか。

 仕事の内容に不備は無いか、誤魔化してはいないか。

 冒険者ギルドとの信頼関係はどうか、無茶な要求を吹っかけていないか等々。

 多くの依頼をこなし、ギルドや依頼人と信頼関係を結び、街の住人とも友好的に過ごせているかが重要なのだ。特に――依頼を受けず報酬を貰っていない状況で、武力や魔法を行使していないかが問われる。

 それは絶対にやってはいけない冒険者の禁止事項だ。

 冒険者は大きな力を持っているが故に勝手な行動は許されない。可哀そうだから助ける、気に食わないから殺す。そんな事がまかり通ったら世の秩序は崩壊してしまうだろう。だからこそ冒険者は管理され、戦争への参加も許されない。

 そう――目の前で幼い姉妹が何処かの騎士に殺されそうになったからと言っても、助けに入ってはいけないのだ。ましてや治癒のポーションなんか与えてはいけない。そんな事をしたら莫大な報酬を相手に要求する事になるだろう。それはもう命を天秤にかけさせ、無理やり借金を背負わせる非道行為そのものだ。相手は断ることも出来ず、払い切れない借金の形に自らを奴隷とするしかない。それはまさしく骸骨魔王の残虐愚劣な所業であり、決して正義の行いではないのだ。

 ちなみによく勘違いされるのだが、無償で助ければいいと言うものでもない。

 無償行為は格差を生み、妬み嫉みの温床となる。無償の恩恵に恵まれた者達は(うらや)まれ、他で行われている有償の提供者は理不尽にも憎まれ(さげす)まれる。

 自分たちも同じように無償で治療を受けられないのか、そうすれば私達の子供は助かったのに――そんな叫びが聞こえてきそうだ。

 このような地域は近い将来、血を血で洗う闘争の只中へ放り込まれる事だろう。我先に無償の恩恵を独占しようとして……。

 

 さて、そんな冒険者だが最初に行う作業は登録だ。

 自分の名前はもちろん、何が出来て何が出来ないか、登録魔獣は居ないか、仲間は居るのか、居るのであればチーム名は――などなど。

 他には犯罪歴なども聞かれるが、真実を話すものなどいないので形式的なものに過ぎない。名前だって偽っている可能性があるのだから、深いところまで踏み込んで追及されたりはしないのだ。新米冒険者はどうせ――直ぐに死ぬか、田舎に舞い戻るかがほとんどなのだから……。何か身辺調査をしたいのであれば、その者の名が広まってからで十分であろう。

 

 ラキュース達は酔っぱらったガガーランと付き添いのティナを宿へ戻し、パナップを含めた四人で冒険者ギルドの受付へと足を運んでいた。

 途中、首に下げている御揃いのプレートが冒険者の目印だったのね~とか、今頃気付いたんだけど私ってまったく文字が読めないのよね~とか、パナップの世間知らずぶりに加えて駄目っぷりが判明したものの、比較的平和に偽名『パナ』の登録が終了すると思われた……のだが。

 何やらおかしな展開が幕を開けそうだ。

 

「――そうですね、プレートは白金(プラチナ)でお願いします」

 

 ラキュースは当たり前と言わんばかりに受付嬢へ申請した。

 なにせ『ぷれいやー』が登録するのだから低いランクは有り得ない。本当ならアダマンタイトプレートを申請したいところなのだが、流石に許可されないはずだ。ならば最低でも白金(プラチナ)かミスリルにしておくべきだろう。

 ラキュースの頭の中は恐らくそのような考えであったと思われる。今までの常識は何処かへ置き去り、憧れていた英雄の実力に相応しい――いや、隠れ潜む仮の身分なのだから若干抑え気味のプレートが相応しいかもしれない――との判断を下してしまったようだ。

 それがギルド内にたむろし、『蒼の薔薇』を物珍しげに見つめていた冒険者達の反感を買うものであるとも気付かず……。

 

「この馬鹿! 何言ってんだラキュース! お前がそんなこと言ったら――」

「え? あっ、ご、ごめんなさい!」

 

 イビルアイからの警鐘に、はっ――と口を抑えるも、怒りに満ちた視線がラキュースに集まる。

 冒険者の最高峰たるアダマンタイト級が、田舎娘のような新人を連れてきたかと思えば、いきなり白金(プラチナ)にしろと言い始めたのだ。先輩冒険者としては、面白くない事この上ない。

 今までどれほどの苦難を乗り越え、上位のプレートを手にしてきたと思っているのだ。逃げ出した者も居ただろう、死亡した者も居ただろう。そんな厳しい状況の中で留まり続け、必死に生き抜いてきたのだ。その経験をアダマンタイトの一声で追い抜いていくなど、馬鹿にするのもいい加減にしろと言いたい。

 

「あらら、騒動ですかぁ? 止めてくださいよ~、アダマンタイト級が暴れたらギルドの建物が壊れちゃいますって。そんなに予算無いんですから苛めないで下さいね」

 

 二階から降りてきた男は、中年と言うにはまだ若さを残すひょろ長い人物であった。

 

「ごめんなさい、私ったらちょっと興奮しちゃってて……」

 

「はいはい、分かりましたから詳しい話は二階でしましょ。其方の御嬢さんも御一緒にね」

 

 開いているのか閉じているのか分からない細目でパナップを見つめたその男は、ラキュース達を二階へと誘う。どうやらこのままだとよからぬ騒動に発展しそうだと判断し、ラキュース達を隔離しようとしているのだろう。

 その男の身分――ギルド長としては当然の行動だ。

 

 二階の部屋は結構広く、大きなテーブルやソファーが複数あっても狭く感じない。其処へ五人の人間(?)――変身堕天使及び仮面の吸血姫含む――が入っても同様である。

 

「さて途中からしか聞いていませんが、其方の女性の冒険者登録ですか?」

 

「はい、そうなのですが……。無理な要求をしてしまい申し訳ありません」

 

「ははは、アインドラさんの推薦なら白金(プラチナ)と言いたくなるのも分かりますがね。それでも最初は皆(カッパー)からとなります、……御了承を」

 

 恐縮して身を小さくするラキュースの前で、ギルド長は少しも躊躇せず断言した。相手が国に二チームしかいないアダマンタイト級冒険者であっても特別扱いはしない。その様は流石に組織の長と言えるものであった。

 

「――なんて言いたいところだったのですが、此方に協力して頂ければ(アイアン)(シルバー)程度ならねじ込みますよ~」

 

「おいおい、ギルド長が何を言って――。下の階の冒険者どもが聞いたら暴動を起こすぞ」

「同意、頭大丈夫?」

 

「ちょっと二人とも失礼よ」

 

 ギルド長の威厳など何処へ行ったのやら……。

 呆れかえるイビルアイとティアを前にして、その男は言葉を続ける。

 

「まぁまぁ、聞いて下さいよ。此処から東へ馬で数日行くとトブの大森林北部ですが……、其処へ薬草採取に向かった者が居るのですよ。その者は白金(プラチナ)級冒険者を雇っていた所為で気が大きくなっていたのでしょう、必要以上に奥まで入り込んでトラブルに出会ったようです。一人を残して冒険者チームは壊滅、という訳でして」

 

「その出会ったトラブルについて私達に調査を依頼する――そういう事ですね」

 

 冒険者が依頼の途中で死傷するのは世の常だ。本来なら気にするまでもない出来事だが、白金(プラチナ)級冒険者が全滅したとなると、そう簡単に見過ごすわけにもいかない。それ程の被害を出した元凶となる存在が森から出てきて、街へ被害を及ぼす可能性も考えなくてはならないのだ。

 故にまずは調査を行う。

 街を護るギルドとして、目の前に適任となる冒険者が居るのなら迷う必要もない。普通なら支払える額ではないアダマンタイト級への報酬も、(シルバー)プレート程度で代用できるのなら安いものだ。

 

「仰りたい事は理解しましたが……申し訳ありません。私達は最低でも明日には王都へ帰らなければならないのです。トブの大森林へは急いでも数日……。とても無理です」

 

「あっ、ラキュースさんは何か急ぎの用事があったの? ……御免なさい。私に出会っちゃったから帰れなかったんだね」

 

「気にするな、急ぎと言ってもただの情報収集だ。まぁ、予定は過ぎてしまっているが……。お蔭でお前に会えたのだから問題ない」

 

「イビルアイ、珍しく優しい。嫉妬してイイ?」

 

「お前は少し黙れ」

 

 抱き付こうとしているティアを押しのけつつ、イビルアイは『蒼の薔薇』が本来辿ったであろうスケジュールをパナップに教え、その上で問題ないと語った。

 麻薬を栽培している村々の情報は確かに重要でパナップにも言えない機密だが、『ぷれいやー』かもしれない人物の価値には比べようもない。依頼人のラナーだって、ちゃんと説明すれば理解してくれるだろう。だからこそ、出来る限り速やかにパナップを連れて帰還したいのだが……。

 

「では其方の御嬢さんはどうですか? アダマンタイト級のあなた方が推薦するくらいなのですから調査ぐらいお手の物では? あっと、私はエ・レエブルの冒険者ギルド長ロズメットという者です。今後とも宜しく」

 

「あ、はい。私はパナッ……ぐふっ、……パナと言います。宜しくお願いします」

 

 人間に変身している時は偽名を使うと決めていたのに、パナップの頭からは抜け落ちていたようだ。途中で何とかごまかしたものの、不自然な感じは否めない。

 

「え~っと……調査の件、私だけでも大丈夫ですよ。パッパッと済ませるから、ラキュースさん達は先に王都へ向かって頂戴。道順さえ教えてくれたら後から追い掛けるよ。私としてもラキュースさん達には色々聞きたい事が残っているし」

 

「あらら、出来れば活動拠点はエ・レエブルに置いてほしかったのですが、仕方ありませんね~。はぁ~、王都への人材流出を何とかしたいものです」

 

 ギルド長の立場としては、アダマンタイトが推薦する人材をむざむざ流出させたくはない。多少の優遇措置を施してでも街へ留めたいところだ。たとえ見た目が弱そうな田舎娘であったとしても……。

 

「ちょっと待って下さいパナ……さん。貴方を置いて私達だけ王都に帰るなんて――(そういう訳にはいきません。絶対に目を離す訳にはいかないのですよ!)」

 

 ラキュースとしては、別行動をとれない理由をこの場で口にする訳にはいかない。『ぷれいやー』の情報はそれほどに重要で繊細だ。扱いを誤った瞬間、国を揺るがす大事に発展しかねない――だからこそ主張したい想いをぐっと堪えていた。

 しかし親友から依頼された内容も無視できるものではない。ギルドを通していない依頼なのだから、他の誰かに情報を運んでもらう訳にもいかず、どうすればイイのかと思い悩むばかりである。

 

(麻薬村の位置を割り出すための情報を早くラナーに見てもらわないと、対策が後手に回ってしまう。……ここは身分証代わりの(カッパー)プレートで良しとして、パナップさんと一緒に王都へ向かうべきね。だけど白金(プラチナ)級冒険者でも対処できない危険が森にあるのなら無視する訳にも……)

 

 自分から言い出した事だが、ラキュースはもう上位のプレートに拘るつもりは無かった。故にギルド長の提案に乗る必要は無い。明日の朝、仕上がった(カッパー)プレートをパナップに与え、その足で王都ヘ向かえば良いだけだ。それだけでパナップを王都へ繋ぎとめるという第一手は意味を成す。

 ただ、この地で合流したい人も居たので後ろ髪を引かれる思いだが、イビルアイの伝言(メッセージ)が繋がらないのではどうしようもない。王都での合流に希望を繋げるしかないだろう。とは言え、トブの大森林で発生した問題については初耳であり、簡単に行動を起こす訳にもいかない。

 目の前の危機的案件を放り出した結果、多くの犠牲が出てしまったら、アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』の名が廃る。

 

「困りましたね……。王都に向かうべきか、トブの大森林へ向かうべきか……」

 

「アインドラさん、今はまだ結論を出さなくてもいいでしょう。明日の朝、またこの場所に集まって決めるという事で。それまでにギルドとしても情報を集めておきます。もしかしたらトブの大森林の方は、それほど大事にならないかもしれませんし……」

 

 細目のギルド長が語る内容は気休めにしか過ぎないであろう。白金(プラチナ)級冒険者が何人も殺されたのは事実であり、それを成した何者かがトブの大森林に未だ健在なのは確実なのだから。

 

「そうだなラキュース、今日のところは宿へ戻ろう。――っと、聞くのを忘れていたがギルド長、白金(プラチナ)級冒険者を襲った敵の情報は何かあるのか?」

 

 ソファーから立ち上がっても座ったままのギルド長と目の高さが合ってしまうイビルアイは、小さくて可愛い――とパナップがニマニマしているのにも気付かず、トブの大森林に居るであろう敵について問いただしていた。

 

「……そうですね。唯一人の生き残りが言うには、襲ってきた相手の姿は見えなかったものの『魔法のようなもの』を使って来たと言っていました」

 

「魔法のようなもの? 可笑しな表現だな、見た事のない魔法だったのか?」

白金(プラチナ)級が知らない魔法、不可思議」

「そうね、そんなことあるのかしら……」

 

「私も現場に居た訳では無いので何とも……、ただ、魔法の矢(マジック・アロー)に似ていたそうですよ」

 

 ギルド長の言葉に『蒼の薔薇』は首を傾げ、今までの経験から謎の敵を想像するも――上手く行かない。しかしパナップは感心するかのように頷いていた。

 後でイビルアイが確認したところ――やっぱり普通の冒険者でも位階魔法を使うんだね~、聞いた事のある魔法の名称が出てきたからビックリしたと言うか納得したと言うか――なんて事を口にしていたようだ。




街の安全を考えると、優秀な冒険者を抱え込んでおきたいもの。
でも安全だと仕事が無いから他へ流出してしまう。

まさに矛盾。
こうなると上位冒険者には女をあてがってでも街へ縛り付けておきたいところだが、
女性ばかりのチームとか、骸骨魔王が相手だとどうしよう。
この世界には男娼とかいるのかな?
骸骨魔王様はナザリックと仲間さえ褒めとけば大丈夫、チョロいし……。

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