モモンガ様はどのように対応するのでしょうか?
そしてアルベドは……。
至高の御方々全滅フラグ成立かも?(ギルド長を除く)
魂まで震えてしまう怒りとはどのようなモノだろうか?
この世の全てを滅ぼし尽くしても治まらない怒りとは何だろう?
アルベドの身に宿る真っ黒な炎は、怒りという名では表現しようのない別の何かなのかもしれない。
手にした――いや、無理やり持たされた究極の武具を見て、自らを打ち砕きたい衝動に駆られる。それをしなければ取り返しのつかない事態になると分かっているからだ。自分の命など二の次であろう。
残された時間は一日、――正確には二十時間と三十六分。
アルベドは焦っていた。
NPCたる自分は許可された行動しか取れない。叩きつけたい
何も出来ない――許されない。
自らの夫となる至高の御方に危険が迫ろうとしているのに、身を案じる言葉一つ伝えることが出来ない。しかも危険の源は己であり、己の造物主。正妃になるよう造り出された自分自身が、『そうあれ』と生み出した当人である造物主の命令で、未来の夫を殺そうとしているのだ。
アルベドは力の限り抵抗を試みる。
百レベルの力を全て注ぎ込んで、手にした『
無論、全ては意味のない行動に終わる。
造物主の命令は絶対だ。アルベドの行為も何一つ意味をなさない。血反吐を噴き上げるような全身全霊の反逆行為も、外から見ると一ミリたりとも動いていないのだ。表情すら変化していない。
このままでは取り返しのつかない事が起きる。
狙うべきは玉座と指示されていたが、あの造物主は何の疑いも無くその日その時、玉座に目的の人物が座っていると確信していた。その理由は不明だが、至高の御方々にしか分からない特別な事情があるのだろう。
『――終わりを迎える』
『最後の時――』
アルベドの脳裏に、造物主が口にしていた不穏な言葉がよぎる。
何を意味していたのか? 何を言わんとしていたのか? もしかすると、未来の夫を王妃と成るべき我が手で殺害せしめ、その上でアインズ・ウール・ゴウン全てを崩壊させるつもりなのか?
『アインズ・ウール・ゴウン消滅――あと一日』
『仕上げは――頼みま――よ』
許されない! 許されるものか!!
たとえ至高の御方であろうと、造物主であろうと、未来の夫であるモモンガ様に危害を加えるなどあってはならない! なるものか!!
しかも最後の一手を私に、妻となる私にさせるなんて!!
『面白くて堪ら――光景とな――しょうねぇ』
造物主の言葉はアルベドの精神を崩壊させかねない凶悪なものであった。加えて何気ない呟きの中にるし★ふぁーやヘロヘロの名があったことから、最悪の結論が導き出される。
――至高の御方々によるモモンガ様暗殺計画――
ふざけたことを!! ナザリックを捨てたのは貴方達の方でしょう! 今までナザリックを維持してきたのはモモンガ様なのです! その御方を害しようとはっ!!
アルベドにとって造物主の命令は絶対であり、刻まれた設定は人格そのものだ。
故にモモンガを殺せと命じられたなら逆らう事は許されない。しかし、モモンガの妻となる事も魂に刻まれた絶対の理なのだ。色恋にルーズである事も同時に設定されてはいるが、其れは夫の存在があっての事であり、初めてはやはりモモンガ様に捧げるべきであろうとアルベド自身自覚しているし――決めている。
とは言え、ナザリック最高の頭脳をもってしても解決策は見当たらない。
造物主の命令を掻い潜って未来の夫を護る術は、何処にも存在しないと言わざるを得ないのだ。
ああぁ、モモンガ様! モモンガさまぁ!!
何度叫ぼうとしても口は開かないし声は出ない。時は一時も止まることなく無情に流れ、アルベドの苦悩をあざ笑うかのように残酷な運命を引き寄せる。
そんな中で、造物主の一言がアルベドの魂に突き刺さっていた。
『パナップ――も残――たら……、――楽しめた――に』
脳髄が掻き回される。
腸が引き千切られ、四肢をねじ切られる。
渦巻く怒りが己の身を切り刻んでしまいそうだ。
あいつがっ、あいつが一枚噛んでいるというの?! 数日前に感じた気配は、何かの準備をする為だったと?!
耳にした名は至高の御方の御名であり、そして許しがたい裏切り者の名でもある。他の御方々が御隠れになる中、長きに渡ってモモンガ様を支えてきた敬愛すべき存在であったはずなのに、突然姿を消し、我が未来の夫を一人きりにした憎むべき罪人。
数ヶ月前、滅多に玉座の間を訪れないモモンガ様が疲れたような足取りで玉座に座り、ポツリポツリと悲しそうに呟いた御言葉――その怨嗟にも似た一言がアルベドの脳裏に蘇る。
『パナップさん……私の何がいけなかったのでしょうか……』
意味は分からずとも、モモンガ様を不快にしたという事だけは理解できた。
悲しませ、傷付け、気分を害したのは間違いない。姿を一切見せなくなったことからも、モモンガ様と対立――もしくは敵対したという事なのだろう。
一人の女としては喜ばしい展開ながら、未来の夫を蔑にした罪は大きい。出来る事なら生きている事を後悔するぐらいの拷問を与え、殺してほしいと懇願するぐらいまで
現時点でアルベドに打つ手は無い。
造物主に命令を与えられた時点でNPCとしては詰みなのだ。
完全な敗北である。
許さない、絶対に許すものかっ!! 見つけ出して殺してやる!! 『りある』とやらに隠れようとも必ず探し出してやる!
声にならない叫びを放ち続けて、それでも対策は見つからず――遂にその時は訪れた。
玉座の間の大扉が静かに開き、ナザリックの絶対支配者、未来の夫、愛すべき至高の御方、
後方にセバスとプレアデスを引き連れ、モモンガは懐かしさを噛みしめるかのように周囲へ視線を飛ばしながら、ゆっくりと玉座へ――アルベドの傍まで歩いてくる。
あぁ、もう時間が無い! どうしたら、どうしたらイイの?!
最後の頼みは――無許可で所持している
ギルド長たるモモンガが、その優しさでもってギルドメンバーの意図を汲むことは予想されたが、あまりにあっさり見逃したことにはアルベドも驚きを隠せない。
まるで……今更気にするまでもないと言っているかのようだ。
モモンガ様お逃げ下さい! この場は危険です! どうか、どうかっ!!
どんなに大声を張り上げようとしても、アルベドの表情は微笑を浮かべたまま動かない。そんな守護者統括を前にして、モモンガは何やらコンソールを表示させ、複雑な感情を見せているようだが……。
一分前……もうダメ! モモンガ様!! 私を殺して下さい!!
普段であれば、己の設定を見られるという事は己の全てを見られるという意味であり、裸を見られるより恥ずかしい――と同時に嬉しい行為でもあった。アルベドは全ての御方々に対し全てを曝け出してなお嬉しく思うよう設定されていたが、今となっては意味のない文言であろう。
未来の夫に向けて全力攻撃を仕掛けようとしている現時点に於いては、ビッチだろうが何だろうが関係ない。
あぁ……ああぁ……、お許し下さいモモンガさまぁ……。
秒読み段階に入り、組み込まれたAIの支配がアルベドの全身に回る。
そしてアルベドは
――『モモンガを愛している』――
その時世界は変わった。
まさに生まれ変わったと言っても過言ではないだろう。
アルベドの身を縛っていた造物主の命令は霧散し、新たなる造物主の命令がアルベドの存在を包む。
それは不快ではなく、むしろ最後のピースとも言うべき必要な欠片だったと思われる。
そう――アルベドは今完成したのだ。
モモンガへの愛を組み込まれ、愛する事を許されたが故に王妃たるアルベドは完成品となったのだ。
喜びで全身が震えてしまう。
涙が溢れそうで堪らない。
今まで一切の抵抗が許されなかったAI制御が、新たなる造物主の――未来の夫の手で書き換えられたのだ。
それはまるで最初から分かっていたかのようなタイミング。万物が見えていたかのような神の一手。
なんという……なんという御方なの! 流石は至高の御方々の頂点! 私の愛すべき御主人さまぁ!!
アルベドは、モモンガから放たれた命令に従い平伏する。
いや、命令などされなくともその場に平伏し、敬い、奉り、身に宿す全ての愛を捧げたい想いであっただろう。
玉座の間には、ギルドメンバーの名を読み上げるモモンガの声が響く。
アルベドはこの瞬間、思い至った。
モモンガ様は全ての企みを御存じだったのだろう。それでも他の至高の御方々に対する想いは不変だったのだ。モモンガ様は優しい御方。たとえ相手がナザリックを捨てようとも、命を狙うような行為に及んだとしても、優しく微笑んで全てを許してしまわれる。
なんて慈悲深き御方。
愛すべき至高の御方。
ならば――。
ならばこそ、私が怨敵を討ち果たさなければならない。
モモンガ様を害する愚か者ども、不浄なりし至高の御方々。そして許されざる裏切り者。
モモンガ様の隣に相応しいのは貴様のような堕天使ではない。少なくとも胸は大きくなければならない。
今まさに私の胸を揉み続けているモモンガ様の御様子からすると、小さな胸など歯牙にもかけないでしょう。
ふわぁ……あ……、まるで別世界へ来たかのように……幸せで満ち溢れているわ。モモンガ様と玉座の間で二人きり。邪魔なセバスとプレアデスは勅命を受けたので、しばらくは戻ってこないでしょう。
後はそう、遂に……。
「ここで私は初めてを迎えるのですね?」
「……え?」
流石はモモンガ様。
全てお見通しとは……。
相手が至高の御方々と言えど――(ウルベルト様は例外)――、
モモンガ様にかかれば赤子の手を捻るようなもの。
感服いたしました。
我らが至高の御方に忠誠の儀を!